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混迷深める英国メイ政治とBREXIT、そして統合欧州再生を叫ぶ仏マクロン大統領

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目次

はじめに  ホンダの「脱英国」宣言と、BREXITの行方 —–P.3

(1)ホンダの「脱英国」宣言
・サッチャー・レガシー
(2)BREXIT問題、迷走するメイ政権
・決められないメイ政治が映すこと
・本稿のシナリオ

第1章  なぜ英国は「EU離脱」に向かったか ——- P.7

1. 英国が「脱EU」に動いた背景
(1)2016年の英国民投票
・国民投票向けのキャンペーンと投票結果
(2)欧州統合プロジェクトと英国の方向

2. サッチャリズムの光と陰
― The road from Thatcherism
(1)サッチャーのネオリベラリズム政治
・サッチャー政権(在任:1979~1990)
・サッチャーの政策アドバイザー
・TINA:サッチャーの行動様式
・サッチャー金融規制緩和の帰結

(2)Thatcherism Global Legacy
・サッチャリズムの光と陰
・Neo-democracy 革命の対抗

第2章 統合ヨーロッパ再生 ———— P.13

1.独仏新友好条約―アーヘン条約

2.マクロン仏大統領の「統合欧州再生論」
-Renewing Europe
・マクロン宣言vs The Economist,Mar.9th

おわりに 景気の転換点で考える    ———— P.15
・今、経済指標が語ること
・実感伴わぬ景気拡大
・生産函数で考える

————————————————————
はじめに  ホンダの「脱英国」宣言と、BREXITの行方

(1)ホンダの「脱英国」宣言

2月19日、ホンダは2021年中に欧州唯一の四輪車の生産拠点である英スウインドン工場(1985年設立)での生産を終了すると発表しました。ホンダの2018年の欧州販売台数は約14万台。米国や中国の1割程度、全体で3%にとどまる状況で、欧州域内のシェアーは1%未満、収益も低迷にあり、生産体制の見直しが不可避とされていました。

周知の通りディーゼル車が中心だった欧州の業界では、電動化や自動運転などの対応が急務で、研究開発も含む環境にある処、中堅規模のホンダにとっては、まだコストの高い電動車を現地生産するには非効率という事もこれありで、そこで次世代の競争軸、電動化時代を見据え、世界規模で生産再編を図り、生き残ろうというものと思料するのです。

都内本社でホンダの英国生産からの撤退決定を公表したその日、記者会見で八郷隆弘社長は今次の決定はBREXIT問題とは関係なく、ホンダ固有の事情によるものと、「配慮」を示していましたが、そうは額面通りには受け止め難いもののある処でした。

つまり、英政府とEUとの間に合意がないままに、離脱するとなると、英国製のホンダ製品が欧州に輸出されるとなると関税が課せられ、その分競争力を失う事になるのですが、2月1日からスタートした日本EU経済連携協定(EPA)に従えばそのリスクは消えるため、ホンダのreshoringとして極めて合理的意思決定ということと云える処です。つまりBREXITに備えた戦略に他ならないと云うものでしょう。

今次のホンダの決定で、直接的には同工場に働く従業員3,500人は失職することになるのでしょうが加えて、部品を治めるサプライヤーも英国内の生産拠点の閉鎖や他の販路開拓が迫られえる状況がと、その連鎖が報じられる処です。
そもそも、英国のEU離脱を主張していたのは地方の有権者だったわけで、地方で工場の閉鎖などが相次ぎ雇用が失われる皮肉な結果を生む処とですが、彼らには、そこまで思いは及ばなかったという事なのでしょう。既に、EU離脱を前にして日産が英工場で予定していた主力車の生産計画を撤回したほか、外国企業の間では拠点を英国から欧州大陸に移す動きが相次いで起こってきていること周知の処です。果たせるかなトヨタも3月6日、英国の欧州離脱が「合意なき離脱」の場合、2023年以降に英国の生産から撤退する可能性を明らかとしたのです。

メイ英首相は、ホンダに対して失望の念を表明したという事の由ですが、失望するのはむしろメイ政権の迷走です。2月20日付、Financial Times社説で、`Honda sounds a further Brexit warning to Britain ‘として、ホンダの決定は英国にとって、BREXITへの更なる警鐘をならすもので、英国のEU離脱は無責任な行為と激しく批判を向けていたのです。そして、翌2月21日付けFinancial Timesでは同紙コメンテーターのJohn Gapper氏は ‘ Brexit betrays Thatcher’s car industry legacy ’と題して、BREXITはサッチャー元首相が残した英国自動車産業の再興という功績に背を向けるもので、ホンダの決定こそは日本の自動車会社の存在感の大きさに気が付かせたようだが、それはもう手遅れとなったと語る処です。そこで序でながら、同氏のコメント(概要)を紹介しておきたいと思います。

― 「1980年代、EU単一市場へのアクセスのしやすさを掲げ日本企業を誘致した故サッチャー元首相なら、どう思っただろうかと、言葉はややさみしく響く処です。そして前述、ほんだの八郷社長が記者会見で、この決定は英国のEU離脱とは関係ないと「配慮」を見せたがスウインドン工場は1993年の単一市場発足の直前に操業を始めたが、「離脱」まで6週間を切る中での発表が何を物語るかは明らかだ、というのです。そして、外国企業の力で自国自動車産業を復活したのに、それが無に帰すのは悲劇をスローモーションで見る様だ」と。そして、
―「日本の自動車各社は英国が欧州事業の安定拠点になると信じてサッチャー元首相の政策を強力に後押しし、英自動車産業を生き返らせた。その結果、業界全体で17年には生産台数が170万台、エンジンは270万基に達し、直接・間接の雇用者は85万人となったと、云うのです。そして、この恩恵を受けたのがスウインドンだったが、国民投票では離脱支持が54.7%と過半数を占めていたが、住民は経済の構造転換に成功したこの地をホンダが離れるなど夢にも思わなかったのだろうと彼らの行動にがっかりするのでした。そしてスウイドンだけでなく自動車産業で働く多くの英国人が離脱派に丸め込まれて投票し、自らの首を絞める結果になったのはなんと残酷な話ではと、まさに cruelest aspect だ」と締めるのでしたが、国民投票という民主主義の現実を改めて感じさせられる処です・・・

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