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トランプ米国の対中制裁行動と習中国の構え、 そして日本は

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hayashikawa20180726のサムネイル

目  次

はじめに  米安全保障政策文書「NSC-68」    —- P. 2

・「NSC-68」とトランプ大統領
・米中関税報復合戦

1. トランプ政権の対中制裁行動 — P.4

(1)トランプ大統領の思考様式
・保護主義関税は自傷行為
(2)トランプ政権が中国を標的とする事情

2. 習近平中国の国家戦略 —- P.8

(1) 習近平主席の構え
(2) 習中国の目指す外交戦略

3. American Retreat と日本の戦略 —- P.10

(1)日本はLiberal International Orderの再生を目指す
(2)保護主義の対抗軸

おわりに : Barry Eichengreen氏の証言       — P.12
―この夏、民主主義を思う

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はじめに : 米安全保障政策文書「NSC-68」

・「NSC-68」とトランプ大統領
1950年にトルーマン米大統領の為に書かれたと云う文書がいま改めて関心を呼ぶ処です。その文書とは国家安全保障会議、NSCで準備された「NSC-68」と呼ばれる文書です。(1975年、機密指定を解除されている。) その中核にあるのは米ソ冷戦期にあって、米国の国益は国際的なリーダーシップを通じて追及するのが一番だと云う信念だとされるものですが、この土台石を、トランプ大統領はタタキ壊そうとしていると云うのは、ColumnistのPhillip Stephens氏です。(Trump has sounded US global retreat: Financial Times、2018/7/6 )

同氏によると、その文書には「現時点における我々の全体的な政策は、米国の体制が存続し、繁栄できる国際環境を育むよう設計された政策と表現できるかもしれない。このため政策は孤立の概念を拒絶し、国際社会に前向きに参加する必要性を是認する」とあるのです。そしてこれが、冷戦を超えて続き、われわれがいう西側諸国に米国を織り込ませた戦略だった、と云うのです。然し、トランプ氏の言動が鮮明としている事は、世界的なリーダーシップ、同盟関係、国際機関についてNSC-68の執筆者たちが立てた前提を受け入れないということで、彼の本能は、むしろ、米国は世界最強国として、相手が同盟国であれ敵国であれ、独自に2国間の条件を定めた方が良いと告げている事、だと云うのです。

このレンズを通して見ると、プーチン氏に対してトランプ氏が抱く敬意は容易に説明できると。つまり2人とも、強い指導者を自認していること。そして貴重なものは、強者が手に入れるべきであり、多国間の機関と規則は自分達を罠にかけるよう計算されており、それに「彼らが道徳主義と呼ぶものは国家観の関係には入り込む余地はないとする見方を共有していて、弱者については知った事ではない」との考にあると云うのです。

こうした考え方からは、イラン合意の破棄も、プーチン氏の言い分にも一理ある処、マクロン仏大統領には米国とのFTA協定のためにEU離脱を進言し、習近平氏から貿易問題で譲歩を引き出す見返りに、東アジアに対する米国の安全保障の確約を捨ててもいいと示唆するまでになっていると指摘するのです。そして、トランプ氏の向かう行き着く先は、西側の概念の喪失だと云うのです。そこで欧州のみならずアジアでも、米国の同盟国は自国の安全を守る方法を見つけねばならないとアドバイスするのです。

更に、かかる環境にあって大きな利益を得る勝者は、勿論、プーチン氏と習氏で、両者が共有する戦略的目標は予てトルーマン元大統領が描いた米国主導の秩序に終止符を打つことだったが、二人とも米国の大統領がこれほど貴重なものを米国自ら渡してくれる事になるとは絶対、想像できなかったはずだ、と断じるのです。因みに、トランプ大統領は7月16日、ヘルシンキでプーチン大統領と会談、米ロ関係の改善を演出しています。そもそも通商、安保政策を巡り、NATO首脳会議(7月11/12日)では欧州の同盟国と亀裂を広げている中での米ロ接近です。これがロシアを利し、世界を一段と不安に追い立てる処と、友人から届いたJ.McCAIN米上院議員の米ロ首脳会談へのコメントは、‘悲惨なもの、tragic mistake’と、同じ共和党員乍らの酷評です・・・・

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