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北朝鮮の4回目の核実験を受けての緊急提言

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1 初めに

北朝鮮の水爆実験と称する第4回目の核実験の衝撃が世界を駆け巡っている。安保理も新たな決議採択の検討を開始し、日本も独自制裁を考慮中だ。国連憲章7章41条の非軍事的措置の限界が明らかになる中で、新たな戦略が求められている。偏見と独断に満ちた大胆な戦略を提言する。

2 北朝鮮による4回目の核実験と国際社会の反応

北朝鮮は2016年1月6日、事前通告なしに4度目の核実験を行い、「初めての水爆実験が成功裏に実施された」との「特別重大報道」と称する政府声明を発表した。2006年10月以来、この10年間に4回という異常さである。

これまでの核実験は弾道ミサイルやロケットの発射とセットにされ、国際社会から反発を受けた直後に行われていた。多くの専門家の“あり得るとすれば5月の党大会に合わせて行うだろう”との予測を裏切り、全くの不意急襲的であった。北朝鮮の国営メディアは、初めての「水爆実験」が成功したと大々的に伝え、敵対するアメリカに対し対北朝鮮政策を転換するよう要求した。

実際に水爆かどうかは確認できていない。友好国の中国ですら技術的に無理と発言するなど、懐疑的な見方が大勢ではある。

韓国では、軍が核実験を予測できなかったことで批判が起きている。

この核実験を受け、国連安保理は緊急の会合を開き、北朝鮮を強く非難するとともに追加の制裁も視野に新たな決議の検討に入った。また、日米韓の首脳は電話会談を行い連携を確認した。
相変わらずの瀬戸際外交とも、対米関係改善狙い(朝鮮戦争の休戦協定を講和条約にし、米国に自国を認めさせたい。)、或いは国内結束が狙い、否韓国の政策変更強要、核保有国として認知等と北朝鮮の目的・狙いの分析が行われているが、真実は不明だ。

3 北朝鮮核実験に対する安保理決議について

(1)国際社会は、北朝鮮の“核への野望”を抑制すべく、云わば「飴」と「鞭」をもって対応してきたが、その野望を挫くことが出来ず、2006年には豊渓里核実験場でプルトニウム型の核実験を許してしまった。事後、第2回、第3回とミサイル発射や核実験の度に安保理決議を採択して制裁を科してきた。

(2)過去の核実験に対する安保理決議の内容

ア 決議1718(2006年10月14日) (第一回核実験(2006/10/9))

・大量破壊兵器等の武器禁輸

・奢侈品の輸出禁止

・大量破壊兵器関係者の資産凍結

・大量破壊兵器関係者の入国禁止

・貨物検査を含む協力行動

・制裁委員会の設置 等

イ 決議1874 (2009年6月12日) (第2回目核実験2009/5/25)

・すべての武器禁輸(小型武器の輸出を除く)

・詳細な貨物検査制度

・金融資産等の移転防止要請

・国際金融機関等による援助禁止要請

・専門家パネルの設置 等

ウ 決議2094 (2013年3月7日)  (第3回目核実験 2013/2/12)

・禁輸対象品目の追加

・貨物検査制度の強化

・大量破壊兵器等の汎用品禁輸要請

・資産凍結、入国禁止対象者の追加

・金融サービス提供禁止措置の強化

・北朝鮮外交官への警戒要請 等

(3)安保理決議の実効性は?

安保理は、北朝鮮がミサイル発射や核実験を行う度に、国連憲章第7章(39条~51条)「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」に定める非軍事的制裁措置(第41条)を決定し、逐次にその対象を広げ、制裁の度合いを強めてきた。その状況は上述の通りだ。(因みに、第42条は、軍事的措置)

然しながら、国際社会のそれらの制裁にも関わらず、北朝鮮は核やミサイルの開発を中止することはなく、返ってその開発速度を高めてきた感がある。これらから安保理決議の実効性はゼロとは言わないが、相当低いものと思われる。

北朝鮮に対する制裁が功を奏しないのは、中国による非公然の経済支援が行われてきたことによると云えるだろう。鴨緑江に架かる橋を頻繁に往来する中国の貨車やトラックを見れば、それは明らかだ。

(4)中国のジレンマ

北朝鮮に対する最大かつ唯一ともいえる支援国である中国が、その気になって経済制裁を行えば、北朝鮮は二進も三進も行かなくなり崩壊すると思われる。特に石油と食料供給を遮断すればたちどころに崩壊すること必定だ。

しかしながら、中国にはそれができない戦略的理由がある。その第一は、北朝鮮の崩壊即ち韓国による朝鮮半島統一となり、中国は直接米国(軍)と対峙せざるを得なくなる。これは中国にとっては悪夢だ。中国にとっては、北朝鮮という緩衝材の存在が絶対必要であるので、崩壊させる訳にはいかない。

中朝国境から流入する難民も中国によっては頭の痛い問題である。経済が減速しつつある中国にとって、負担であることは事実だ。

今までは、中国の意図に忠実に行動してきた北朝鮮が、次第に独自色を出し、自在にコントロールすることが出来なくなった。従前は、事前に中国に通報があったが、今回はそれもなかった。中国が激怒するのも解らないではない。習近平主席の核実験の中止要請をも無視したのだから、当然だろう。

北朝鮮は、「中国は北を潰せない。」と高を括っているのだろう。正にこれこそが中国のジレンマだ。当然、中国の同意なしに有効な対応策を採り得ない欧米諸国の足元も見透かしている。何とも厄介な存在である。

4 国際社会の今後の方向性等

(1)2013年の決議2094の際には、「4回目の核実験にはさらなる重大な措置を取る」と警告している。また、中国もこの声明に異を唱えなかったし、拒否権を発動することなく、金融制裁を拡大するとの決議を支持している。

(2)ロシアも北朝鮮に関わって国際社会から異端の目で見られるよりも、消極的であっても北朝鮮に対する更なる強硬策の選定には異を唱えないのではなかろうか?朝露の関係も微妙なものになりつつある。

(3)欧米諸国

欧米諸国は、非軍事的措置の限界を感じている筈だし、中国が如何なる対応するかがキーであると認識しているものと考えられる。

(4)日本

日本は安保理決議とは別に独自の制裁を科しているが、更なる制裁の強化を選択するだろうし、それが国民感情でもあろう。拉致問題にも誠実さを微塵も見せない北に苛立っているのは事実だ。

(5)総合的な方向性と課題

過去3回の決議とは違う厳しい措置が取られるものと考えるし、そうでなければならない。非軍事的制裁で有効な対応策が、見いだされないとすれば、国連憲章7章42条に定める軍事的措置を取らざるを得ないだろう。軍事的措置にも色々な段階がある。

軍事的度合いの少ないオプションから順次取られるだろうが、何れにしても中国が納得し同意しなければ実効性がない。

5 中国を納得させる方策を追求すべし!

中国が納得する北朝鮮の将来像とは何だろうか?中国の戦略上の懸念を払拭して、北朝鮮の体制変換を行うことができるような方策はないのか?

中国自壊のシナリオには、ソフトランディング或いはハードランディング共に幾つかあるだろうが、そのような状況を待ってはおられない状況になりつつある。外からの力による体制変革以外には北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることが出来ないのは明々白々である。

中朝同盟を締結し、血の同盟を標榜(かってはそうだったが、今はどうだろうか?)する北朝鮮に対する最大の支援国である中国の力を、借りることが先ず取り得る方策であろう。北朝鮮に対する不信感が芽生え、意のままにならない北朝鮮の現政権を持て余している中国の力を借りるのが最良だ。

即ち、中国による北朝鮮体制変革こそ、当面のベスト・シナリオだ。その為には、中国による強制的な北朝鮮の体制変革を欧米諸国が黙認することが必要だ。力による現状変更であっても、それを認める、少なくとも暗黙の了解を与えねばなるまい。

このベスト・シナリオを実現できるような欧米諸国の大政治家・戦略家は居ないのか。中国とギリギリのタフネゴシエートが出来るような役をこなせる人材は居ないのか。レームダック状態の米国には期待できないか?勿論、日本には荷が重すぎる。韓国でも出来ないだろう。

このシナリオが実現しないとすれば、特別協定を結んだ国連加盟国による軍事的措置の発動となる。それは、中国にとっても望ましいシナリオである筈がない。であれば、中国による中国の望ましき北朝鮮の創造以外に適切な方策はない。そこに活路を見出すべきだろう。

6 終わりに

日本の脇腹に突き付けられた短刀にも似た朝鮮半島の情勢は、日本に多大なる影響を及ぼす。

安保理非常任理事国としての責務を果たしつつ、国家としては、起こり得るあらゆる事態への備えを怠ってはなるまい。グレーゾーン事態も予期すべきだ。欧州以上の難民問題に直面しよう。

(F)

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