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いまアメリカは ‘不都合な真実を抱きしめて’

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はじめに:二つのトランプ ‘教書’

・米大統領一般教書と予算教書
1月30日、トランプ米大統領は、自身、初となる「2018年、一般教書(State of the Union Address)」を米議会に送りました。当該教書は、国の現状(State of the Union)について大統領としての意見を述べ、主要な政治課題を説明するもので、慣例として1月最後の火曜日となっています。そうした位置づけを得る教書ですが、今次の‘それ’は聊か様相を異にするものでした。
つまり、今秋の中間選挙を強く意識した、とにかく少ない成果(数字)を誇示するばかりのそれと云え、その姿は一国の大統領と言うよりは、まるで企業の株主総会で業績を報告するCEOの姿と映るものでした。そして、それはこの1年、Snow jobと揶揄されるほどの言動でアメリカ社会を分断し、同時に米国への信頼性を失墜させ ― その点では彼のスピーチの特徴として必ずやbelieve meという言葉を入れていますが ― その結果として「不都合な真実を抱きしめて」暴走せんとするアメリカの姿を浮き彫りする、というものでした。

そして2月12日 年頭教書にフォローする形で議会に提出された予算教書は、景気の底上げを狙った大規模財政の出動を織り込んだーこれも中間選挙狙いですがーまさにトランプ流予算です。もとより、この放漫とも映る財政出動が結果として米経済の運営を困難なものにしていく事になるのではとの懸念を呼ぶ処、以ってトランプ氏は賭けに出たやに映る処です。

・トランプ氏が目指す安全保障戦略
賭けと云えば、今回の教書で多くを割いていたのが安全保障政策でした。今日の北朝鮮状況からは米国として極自然な言及と云う処でしょうが、北朝鮮問題以上に、今回は中国、ロシアを「戦略上の競争相手」と位置づけ、それに向けた米軍の体制強化を訴えるのでしたが、その点では「安全保障環境の急激な変化」を実感させられるというものです。 因みに一般教書と前後して公表された「国家防衛戦略」(1月19日)、そして「核体制の見直し」(2月2日)は、時に「新冷戦体制入り」か、との声も届く処、英誌、エコノミスト(1月27日)はThe Next Warと題した特集を以って、いまや地政学の変化が新たな脅威をもたらしていると、大国間の衝突、次なる戦争の可能性を指摘すると共にそれに備える準備ができていないと警鐘を鳴らしているのです。もとより、こうした動きは日米同盟の在り方の如何を問うていく事にもなる処と思料するのです。

という事で、本稿ではこの2つをテーマに取り挙げ、これが日本のinterestにも重ねながら、当該問題点等、論じてみたいと思います。 尚、折しも米経済学者スティグリッツ氏が公開した、1月下旬、ダボス会議に出席した際の彼の所感を手にしました。それは同会議に出席していた大企業のCEO連中の不甲斐なさを糾弾するものでしたが、極めて示唆深い内容です。そこで本稿の終わりに添え、各位の参考に供したいと思います。(2018/2/26)

目次

第1章 二つの米大統領 ‘教書’ とそのリアル — P.3
―トランプ米国は ‘不都合な真実を抱きしめて

1.トランプ一般教書に映ること
・2019年度予算教書
2.トランプ成長政策のリアル -そこに映る‘不都合な真実’
・問題は放漫財政、経験不足のスタッフ
・パウエルFRB議長の判断

第2章 米国の安全保障戦略、高まる大国間衝突の可能性
— P.6
1.トランプ政権の安全保障戦略の枠組みと日米同盟
(1) トランプ安保戦略の枠組み
ー「米国家安保戦略」と「核体制の見直し」
・核体制の見直し(NPR: National Public Radio)
(2)問われる日米同盟の在り方
2.The next war - 大国同士の紛争勃発の危険性
・朝鮮半島での戦争勃発の可能性
・既存国際秩序に異を唱える中国とロシア
・アメリカと言う名の砦
おわりに:Joseph Stiglitz氏、ダボスに集まるCEOsを叱る— P.11
・Post-Davos Depression
・経団連会長の交代

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