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矛盾だらけの中国の食糧政策

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鉱山・油田等世界中の資源を中国は求めているが、これに最近は食糧も加わりM&Aなどを世界中で加速させている。世界最大の人口国で建国以来自給自足を高らかに謳っていたが、今世紀に入り、食糧の大輸入国に転じつつある。世界人口の21%を占めるが、耕地面積は9%程度で水不足、過剰な施肥による公害などで最早自給の道は閉ざされたと見てよい。

#世界中で食糧資源を求めるが

麦・ビーフ等中国は世界の半分の必要量を求めて過去10年だけでも123億USドルの投資を食糧、飲料、一般農産物の分野で行ってきた。主なものは
*米国最大の養豚業Smith Fieldを71億USドル(現金47億ドル+負債24億ドル)で買収
*中国国営大手の糧油食品(Petro-China同様、この会社が中国の小麦輸入の90%をコントロールしている)がオランダのGrain商、NIDERA社とNoble Groupを買収(NobleからArgentineの大型elevator、Brazilのsugar-millなどを取得)
*中央ヨーロッパで製粉会社を買収
*南アフリカ、ウクライナでひまわりの種の加工工場を買収
*ウクライナで300万ヘクタールの農地を26億ドルで借り受け
など連日中国の海外食品基地・農場の買収が報じられている。但しこれらの買収などから分かるように、国家資本主義で国の一貫した政策のもとに資源を求めているようだが、実際には中身は全く関連性が無く売り物件が出ればすべて手を出すと言った一貫性のない投資のようにも見える。最近の報道では広州の大手developer 恒大地産集団はミネラルウォーター事業に注目し英仏など欧州13ヶ国の販売代理店43社と欧州でのミネラルウォーターの販売協定に調印すべく北京の人民大会堂で調印式を派手に行ったという。同社のトップは売り上げが今年は100億元、来年度は200億元、2016年には300億元に達すると予測している。唯でさえニセのミネラルウォーターが氾濫している中国でどこに水源を求めるのだろうか。不動産developerもここ数年で巨額の利益を得たと思われるが、一般的には各企業ともうまい投資案件がないものかと、新しい分野への投資に重大な関心があり食料分野もこの最大のtargetとなっているのかも知れない。

#食の安全

マクドナルド、KFCなどが米国最大手の素材供給業者の子会社から腐った肉とか賞味期限切れの素材を供給されていたとして事件となった。上海から始まり、全国に影響が広がっている。我々から見ると中国で成功した外資へのバッシングか供給業者も米国資本ということで北京政府の何らかの意図を感じられるが、中国市民の反響は意外に落ち着いていることに驚かされる。一般には、又か、とか外資系の業者の工場が実に綺麗で国内業者の工場とは比べ物にならないとか、諦めというよりこれによって食の安全が今後確保されるとは全く考えていないように見える
実際に、ヨーグルトに毒を入れられ児童が19人入院とか、嘗てメラミン入りミルクで大騒ぎになったが、再びヨーグルトにメラミンを使用とか、ネズミ、キツネ、ミンクの肉が羊肉として売られているとかこの種の話はいくらでもあるので一般市民は食の安全については諦めているのだろう。羊肉については中国で砂漠化が進み単位面積当たりの羊の飼育頭数に制限を設けるという政策が発表されるや羊肉以外の肉を混ぜたものが市場に出回り混乱しているとの報道があった。ミルクでも国産奨励なのか、外資を含めた一部企業にのみ国内での牛乳生産を認めたが、品質の向上までには手が回らず各地で問題を起こしているようだ。このあおりで香港では外国産育児用ミルクの国境を越えた運び屋の活動が引き続き問題となっている。

#遺伝子組み換え玉蜀黍

所謂ジェネリック種(以下GM)、遺伝子組み換え種の問題だが、かなり前に米国以外で騒がれた。飼料用として家畜に使うことは止むを得ないと言うことで各国ともこの種の輸入を行っている。ところが昨年末中国の検疫所が突然未承認のGM種があるとして545,000トンの米国産cornの11/12月渡しをrejectした。この種はMIR162で2年以上中国側は承認していない。別に学術的根拠があるわけでもなく、単に放置または嫌がらせであろうが、corn priceが下がっている時期だけにいろいろな憶測を呼んでいる。中国政府の説明では安いcornが輸入されれば国内産cornの価格に重大な影響が出るとして傘下の国営企業が契約をして置きながら陸揚げを拒否し、更に地方の各港にMIR162の混入がないかをチェックするよう通達した。まるで中国側の一方的なゲームのようでその後本件に対する情報は一切閉ざされている。
一方、中国の2014年夏の穀物生産量は1憶3,600万トンと従来の生産量を上回る記録的生産量と発表された。10年来毎年増産が発表されるが問題は肥料も3倍も施され公害問題が深刻となっている。1億3,600万トンの大半は小麦だが前年比3.6%増と統計局は発表している。ヘクタールあたりの生産量は前年比3.5%増としているが米国と比べると米国の5%の生産性しかなく、このため米国の3倍の肥料を投入している。要するに小規模農家が中心なので生産性が低くコストが高い構造となっている。農地は東北など水資源のない所が多く、irrigationが未発達で肥料、農薬の投入に頼るためコストも高くなる。中国全体で5800万トンの肥料を年間で使用しており、他のどの国よりも肥料を使っているという数字もある。(国際肥料工業会の数字では世界で1億7600万トンの肥料消費があると報告されているが中国の使用量が如何に多いかこれでも分かる。更に農薬は180万トン使用との数字もある。年々の増産は政府が非主要食糧(たとえば豆類等)を主要食糧に切り替えるよう指導したことにもよる。問題は年々増産しても需要に追い付けなくなり輸入に頼らざるを得ない状況となっていることにある。(増産しても備蓄時に大量に不良品となってしまうことにもある)また、主要食糧の価格は政府がコントロールしてきたが、次第にコントロール出来ないようになりつつあることも問題だ。

#米国で中国人による種子の窃盗事件多発

従来から中国人が米国で種子を盗み中国に運んでいることは知られていたが最近では米化学会社Du Pontの発明した酸化チタン関連の技術を盗み中国国営の鉄鋼企業に売り渡したとして在米中国人が禁固15年と罰金を課せられたとの報道があった。特殊技術の盗難は企業内に入り込んだ中国人技術者などの手によるものも多いがcornなどの種子が盗まれることも多発している。日本のこしひかりとか秋田こまちなどの日本米、リンゴの富士、イチゴの栃おとめなど中国で堂々と栽培されている。最近の種子は一代限りなので日本側の体制の不備に乗じて中国人か日本人が日本から種子を運んでいるものと思われる。一方アメリカでも近年中国人が種子の密輸出を図ったとして次々と逮捕されている。アイオア州のDu Pontの研究農場でcornは4/5月に種をまくのでこの種を盗るべく、研究農場に這いつくばって種子を集めていた中国系が二人発見され逃亡していたがFBIが捜査に乗り出し今年7月に関係者7名が逮捕された。驚くべきことに北京の国営大北農科技集団(大飼料会社で豚用飼料の製造のほか種子、医薬品事業に進出)の国際部門の責任者が米国滞在中に捉まった。この会社は深セン市場でIPOを行い資産百億元とも言われて居り、同社の代表は2013年の中国富豪ランキングで90位(net worth 14億米ドル)となっている。盗んだ種子を基に業容を拡大してきたようだ。通常種子の開発には5~8年かかり、一品種につき開発費は4千万ドルを超えると言われている。今年の7月に同社の会長の妻を含む7名が種子の中国への密輸容疑で逮捕された。
米中間に犯人引き渡し協定が無いのでどうなるか見ものだが、まだ裁判前でもあり詳細は一切不明だが、深セン市場では同社株には売りが殺到したとのこと。

#今年も干ばつ

毎年北は干ばつ、南は洪水で騒ぐが国家洪水・干ばつ対策総指揮部弁公室は自らの存在感を示したいのか毎年洪水・干ばつ情報を出す。今年は河北,河南、遼寧省などから北部全般に干ばつが深刻化していると発表された。特に計画定水位を割り込んだダムが殆どで、中国最大の穀倉地帯だけに秋の収穫が絶望視されている。一方の農業部は毎年増産を謳ってきたが今年の結果が見ものだ。
以上最近の中国で起こっている食の問題について触れたが、気付くのは中央、地方政府内で一貫性のある政策が出されないことだ。農業生産にしても国産増進派(自給体制の確立を前面に出し、毎年の増産を大躍進として喧伝している)と輸入推進派がぶつかり合い、政府の都市化推進政策との調整もできずに既得権益の保守に当たっている。ジェネリック種子のトウモロコシも一方で輸入禁止に動くが実際にはうやむやのまま輸入は増えている。今年の7月までの農産物輸入は749億ドルを超え前年比13%増となっているが、特に大豆の輸入増が大きい。8月には米国産豚肉の飼料添加物の使用禁止措置を出して輸入禁止令を出したが、豚肉が不足すると直ちにインフレ懸念が出るので別の部局は反対に回りこれもうやむやになるであろう。その間に食の安全問題とか種子の窃盗事件などが海外で明るみに出ても効果的な対応策が打ち出せない状況が続いている。
役人の自分の仕事の顕示欲もあるが、国家計画委員会が独禁法を振りかざし外資排斥に走ったように食糧政策でも輸入が急増したり、突然食品安全を前面に打ち出すなど、政策の横ブレが大きい。この記事を書いているときに中国の副首相が穀物輸入管理の強化を打ち出したとのnewsが入ってきた。同じことは前から繰り返されているが輸入時期と国内産の生産時期が重なると一時的に供給過剰となる。
従来から指摘されている食糧備蓄制度が不透明で毎年2~3割の穀物が消えている。国内産を農民から高く買い付ける制度下では安い輸入穀類に業者は当然注目する。いつまでもこの繰り返しをするのだろうか。
以上

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