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 ‘America First’ と `American Retreat’ に揺れた世界、この1年     

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はじめに トランプ現象

今から20年前、米国の代表的哲学者Richard Rorty (1931~2007)が著した「Archieving our Country,- Leftist thought in twentieth century America,1998」は現下のトランプ現象を理解する上で示唆的と云うので、先般、新装の日本語版「アメリカ未完のプロジェクト ー 20世紀アメリカにおける左翼思想」(小澤照彦訳、晃洋書房)を読んでみました。それは3部構成(「アメリカ国家の誇り」、「改良主義左翼の衰退」、「文化左翼」)で、‘現代’アメリカが抱える深い闇(差別、暴動、偏見)をnew left思想からその現実を解析するものでしたが、今日のトランプ現象を予測したかのようで極めて興味深いものでした。

要は、雇用が奪われ、最低賃金も上がらない、ミドルクラスが縮小した社会において、ある日、反エスタブリッシュメントを自負する政治家が現れて、「労働者が報われないのはお金持ちのせいだ、lobbyistのせいだ、政治家、media、intellectualのせいだ」と糾弾する。そして「自分が指導者になったら、それを叩きつぶしてやる」と豪語する。その人物は熱狂を以って迎えられるが、やがてアメリカ社会がそれまで勝ちとってきたマイノリテイや女性の権利が後退するようになる、・・・という趣旨のことを記すものですが、けだし慧眼と云うものです。

ミドルクラスが縮小してくると社会全体としての余裕がなくなってくる為、どうしても排外的となり、国際的な課題に関与するより、自国第一主義のような考え方が出てくると云う事ですが、その面でトランプ現象というのはミドルクラスが縮小したアメリカにおいて生まれるべくして生まれた現象と言え、仮にトランプが当選していなくても、第二、第三のトランプが生まれる素地はあったのではと思うのです。その点では、トランプ現象はアメリカだけに留まらず、ミドルクラスが先細りしつつある先進国に共通してみられる現象と、思料する処です。
そして、先の大統領予備選で自ら社会主義民主党員と名乗って若者の人気を一身に集めた上院議員のBurnie Sanders氏 を想起させるのですが、実はRichard Rortyも自らを、米国に夢としての民主主義を追求する「左翼」と任じる仁でした。因みに彼が日本語版宛てに寄せた2000年1月21日付序文で「・・・自分の関心はアメリカや日本のような民主主義国家に革命的変化を起こす事ではなく、そうした国々の有権者の想像力を捉えて、その票を獲得していく左翼的な社会政策を考案することにある。」と記しているのですが、興味深いところです。

さて、そうした論理を実証するが如くに登場したトランプ米大統領のこの1年は、彼が主張する米国第一主義、America Firstを基本軸に、これまでの米国そして世界と共に創りあげてきた生業を否定する如くに、「迷走する世界」を演出する1年だったと云える処です

そんな折、示唆に富む二つの文献に遭遇したのです。一つは米MIT名誉教授、ジョン・W・ダワー氏の新著「アメリカ 暴力の世紀」(田中利幸訳、岩波書店、2017/11)、もう一つは、阪大名誉教授、猪木武徳氏の論考「歴史から学べるのか、歴史は繰り返すだけなのかー経済学から見たトランプ氏の通商政策」(中央公論、12月号)です。いずれも著名な歴史学者であり、経済学者です。前者は、戦後から今日に至る米国の姿を米国が関与してきた国際事件を通して今日を照射するものであり、後者はトランプ米国の今、そしてその可能性を、経済学的論理を以って問うていくというもので、いずれも示唆に富むものでした。

そこで今回論考では、第1章として、この二つの文献を下敷きとして、トランプ氏が主張するAmerica Firstの1年を総括方レビューすることとし、新年に備えることとしたいと思います。
そして第2章では、先のトランプ大統領アジア歴訪中、日本がinitiateした、そしてトランプ氏も取りあえず同意したとされる「自由で開かれたインド太平洋戦略」、そのproject の可能性を握るのがインドと見られる処、 Foreign Affairs, Nov./Dec. 2017.(P.83~92)が掲載するAlyssa Ayres 氏、Senior Fellow for India and South Asia at the Council on Foreign Relation ,の論文「Will India Start Acting Like a Global Power ? ―New Delhi’s New Role 」はglobal power たらんことを目指すインドの現実の姿を描くもので、それは新年の可能性を占う上で有為の材料と映るものでした。そこでこの際は、その概要を紹介しておきたいと思います。

処で、12月6日、米トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定すると共に米大使館を現在のテルアビブから移転すことを発表しました。この決定は「米国の国益」だとも発言、再び「アメリカ・ファースト」です。勿論、このトランプ認定にアラブ諸国は猛反発、世界の主要国からも一斉に反対の意見が伝えられる等、中東情勢は緊迫の度を増す処です。そうした新たな問題を抱えたまま、世界は新年を迎えるのですが、では世界経済はいかなる推移を辿ることになるのか。そこで ‘おわりに’ として、NYU Stern School of Business 教授でノーベル経済学賞のMichael Spence氏が米論壇Project Syndicateに投稿したessay、The Global Econmy in 2018, Nov.28にも照らしながら、日本経済のあるべき論に触れ、今年の締めとしたいと思います。
(2017/12/25)

目  次

第1章 この1年、Trump’s America First は何をもたらしたか —- P.4

1. Trump’s America First
・世界の潮流 / ダワー氏VSトランプ氏

2.検証:トランプ通商政策の合理性と、WTO対応
(1)米中二国間貿易インバランスの是正と 保護主義政策の帰結
・保護主義政策の帰結/ Trump’s next trade target
(2) 米国の世界覇権からのretreat
- トランプの「国家安全保障戦略」と日本の対応

第2章 「自由で開かれたインド太平洋戦略」        ——P.8

1.「インド太平洋戦略」構想は、Trump’s gift to Japan

2.世界の「グローバル・パワー」を目指す新生インド
― Will India Start Acting Like a Global Power
(1)インド経済とNew Delhi’s New Role
・インドの外交姿勢
(2)米印関係の強化
・インド経済のグローバル化と安全保障対応

おわりに The Global Economy in 2018、そして日本は —— P.11
・TheGlobal Economy in 2018 /日本経済のこれからを考える

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