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Donald Trump政権2か月 、そして日米新対話

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はじめに  GEORGE ORWELL と DONALD TRUMP

(1) George Orwell (1903-1950)

英国作家、G.オーウェル が凡そ70年前に著した2つの作品、「動物農場」と「1984年」が、今再び脚光を浴びています。いずれもスターリン体制下のソビエト連邦の全体主義、スターリン主義を強烈に風刺、批判する内容ですが、中でも「1984年」で描かれる主人公、ビッグ・ブラザーが敷く、管理社会の様相が、現下のトランプ氏のそれに映るとして関心を呼ぶ処です。

つまり「1984年」で描かれる舞台は、イングソック(イギリス社会主義)を掲げる独裁者、ビッグ・ブラザー(スターリンをイメージ)が圧政をしくオセアニア国で、人々はテレスクリーン(双方向のテレビ)で監視され、情報は真理省(Ministry of True) が改ざんする、こうした状況に疑問を抱く男の物語で、言うなれば情報管理社会を痛烈に批判するものですが、その姿が現下のトランプ政治に映るというのものです。
因みに、大統領就任式の観客数を巡って、オバマ前大統領の就任式より少ないとしたマスコ報道に対して、大統領側は「オルタナティブ・ファクト」と強弁したり、自分に都合の悪い報道についてはfake 情報と退けてしまうなど、事実を都合よく変える様が1984年で描かれるビッグ・ブラザーの姿に擬するというものです。 要は、愚かな革命はかえって独裁的な政治体制を生む原因となる事を示唆する処、その証左として、権力を獲得し維持する為独裁制はスパイ行為を奨励し、報道・娯楽の統制等、ありとあらゆる手段を駆使し、真実をゆがめ、隠蔽し、抹殺するなど、そうした様相を描き、今言う情報管理社会を批判するものだったのです。(注:‘84’には特別な意味はなく、執筆時の48年を単純に置き換えたanagram )

その4年前に出された「動物農場」も、1917年の2月革命に始まり、1943年11月のテヘラン会談(米英ソの三首脳初会談)に至るまでのソビエト連邦の歴史、つまりスターリン体制下のソビエトの全体主義、スターリン主義を強烈に風刺したもので、農場に囲われた動物(庶民に見立て)が為政者たる農場主が彼らの利益を搾取しているとして起こす反乱・革命の顛末を描いた、ロシア革命の憂鬱な末路を題材としたわかりやすい寓話です。次元も、環境も全く異なる中、現下で進むトランプショックに通じるものを感じさせられる処です。 (概要は下記注照)

尚、1984年は文字通り「国際オーウェル年」と云った観にあった由で、その年「1984年」がまず取り上げられ、それに付随して「動物農場」が取り上げられていたというものでしたが、訳者、高畠文夫氏(巻末解説)は、1983年12月30日付日経新聞の「春秋」欄で「・・・いよいよ1984年がくる。オーウェルが「1984年」で予言した年だ。・・・実はその前編に当る「動物農場」の方が面白い。・・・」としていたと紹介しています。上述したように全体主義社会を痛烈に批判する「動物農場」は、まさに西側自由主義国も情報過剰や科学技術の異常な発達などの為に将来行き着くはずの逆ユートピア的管理社会の未来像という点で、より面白いと、いうのですが、筆者も実に同感とする処です。

(注)「動物農場、1945」 (Animal Farm)概要:
1917年のロシア革命イメージしながら、20世紀前半に台頭した全体主義やスターリン主義への痛烈な批判を寓話的に描いたもの。あら筋は、人間の農場主が動物たちの利益を搾取していることに気づいた「荘園農場」の動物達が、偶発的に起きた革命で人間を追い出し、ナポレオンと称する「豚」―ヨシフ・スターリンを意味する―の指揮の下に「動物主義」に基づく「動物農場」を作りあげ、動物達の仲間社会は安定を得たが、時間の経過の中、不和や争いが絶えず、最後は理解できない混乱と恐怖に陥っていき、結果的には支配者が入れ替わっただけで、人間が支配していた時より、圧倒的で過酷な農場となったというもの。そして最後は動物が人間と握手し、どたばたパーテイーに。1917年の2月革命に始まるスターリン体制下のソビエトの歴史に対する風刺。

作家オーウェルは1936年の暮れ、当時のスペイン市民戦争取材の為、バルセロナに向かっていますが、その際、POUM(マルクス主義統一労働党)に加わり、ナチス・ドイツやファシスト・イタリアの援助の下に内乱を起こしたフランコ将軍のファシスト軍との戦いにPOUM市民軍の一員となって従軍しています。その際の経験がこれら2冊の背景となっているのです。つまり共産主義者、ことにスターリン独裁体制下のソビエト連邦のやり口に、深い疑惑と反感を抱き共産主義は決して社会主義ではなく、社会主義という仮面こそかぶっているが、その実態はまさしくファシズムに他ならないとして、うわべは旧来の支配者を打倒し民衆を援助するように見せかけながら、結局は、自分たちは支配者の後釜にまんまと収まらんとする様に強い疑問を持ったという事で、その思いが「動物農場」に、そして「1984年」に映ると云うものですが、低所得者の不満を受け止めて大統領になったトランプ氏、彼は実に1%クラス、いや0.1%クラスにある大富豪ですが、真に彼らの不満を受け止め、その意向に応えていけるものなのか、今疑心暗鬼が生まれんとする処です。

(2) Donald Trump

さて、「動物農場」、「1984年」が再び注目された事情は前述の通りで、トランプと云う極めて特異なキャラクターの持ち主が大統領として登場したことにあるのですが、その彼は、彼の支持基盤とも目される低所得者の不満に応えるためとして、所得格差につながる現行システム、つまりこれまでの世界秩序となってきた自由通商、グローバル化を否定し、米国流のシステムの導入を図るべく、まさに傍若無人な振る舞いを以って政治を行いだしています。

・トランプはサイコパス
そうしたトランプ氏を、東大名誉教授佐々木健一氏は中央公論(2月号)で「最後のアバンギャルド」(前衛)と呼び、結局はアジテーターであり、危機感を引き出すアーティストに留まる存在と分析していた事、先月論考で紹介しましたが、更に脳科学者の中野信子氏は、彼こそはサイコパスな男(注)と精神病理学から分析し、サイコパスには飽きっぽい人が多く、長期的な人間関係を築くのができない、また、利害のみが物事の判断基準となっている為、大統領職が「自分の価値を発揮できない」、「メリットがない」と判断すれば、躊躇なく辞任するのではと観測するのです。
(注)psychopathy (精神病質)の特徴 [ 中野信子著「サイコパス」文春新書]
・外見や語りが過剰に魅力的で、ナルシステイック
・恐怖や不安、緊張感を感じにくく、大舞台でも堂々として見える。
・多くの人が倫理的理由でためらいを感じたり危険に思ってやらなかったりすることを平然と行う為挑戦的で勇気があるように見える
・常習的にウソをつき、話を盛る。自分をよく見せようと、主張をコロコロと変える
・傲慢で尊大であり、批判されても折れない、懲りない。等々

一方、米国を拠点とする論壇World’s Opinion Page ― Project Syndicate の論客は同氏を巡っての批判を高める処にあります。因みに米コロンビア大のJeffrey Sachs 氏はThe Tree Trump (Mar.1,2017)と題し、トランプにはfriend of Putin, wealth maximizer, and demagogueの三つの顔があり、それが一つとなって動く姿に危機感を禁じ得ないというのです。 トランプ氏はプーチン氏を尊敬しており、それは彼の強い指導力にあると言われていますが、実は彼の経営破たんを救ってくれたのはロシア財閥に負うとも云われており、ロシアン・マネーとの結びつきが強い事、ビジネス人としてとにかくgreedyな人間と言われている事、更に、彼のデマゴギーの背景には大統領首席戦略補佐官として強烈な右翼思想の持主Stephen Bannon氏(注)の存在があり、その彼に操られているとし、それら三つ要素を抱えた存在だけに、その言動を危険視するのです。

(注)バノン首席戦略補佐官(The Great Manipulator, Steve Bannon
― The second most powerful man in the world? Time Feb.13)
・彼は戦後の世界は、西洋文明の盟主である米国と西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グローバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏などからからの移民の流入でテロの脅威が膨らみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止め、米西欧主導の世界を再建しなければならないとする。
・つまり、グローバル化の流れをせき止め、薄まった米国と西欧諸国のアイデンティティーを取り戻そうというもの。その為には国連や国際機関の弱体化も辞さないという、革命に近い発想の持ち主。 -トランプ氏も概ねこの思想を共有し,だからこそ、メキシコとの「壁」に拘り、NAFTA、TPP、そして移民にも敵意を燃やす。理由は何も貿易赤字だけではないというもの。

さて、そんなトランプ氏に対する支持率ですが、就任直後(1月22日)は(米調査会社ギャラップ)45%、これは1953年以来の最低という事でしたが、直近(3月16日)では41%と更に低下、不支持率は54%と高い水準となっています。(日経3月20日) このギャラップ調査の結果は、就任直後から始まったトランプ政権の政策の混乱を映すものと云え、その様相は前月論考でも紹介したように ‘An insurgent in the White House’(The Economist Feb.4)と称せられる処です。

この実態は、大統領就任100日のハネムーン期間中に実績作りと、ダッシュし大統領令を連発してきた行動経緯に映る処です。つまり2度も執行停止を受けたイスラム圏からの入国を制限する大統領令発令に典型を見るように政策決定のProcessの軽視、またロシアへのスタンスを巡り露呈した政権内側近や閣僚間のズレ、つまり大統領としてのマネジメントシップの欠如、更には政策の優先順位、Priorityのなさ、に求められるというものです。今なお政権スタッフが整備されていない状況をも併せ見るとき、こうした状態はしばらく続くことになりそうです。

かかる政権事情にある中、2月28日、トランプ氏による初の議会演説、大統領施政方針演説が行われました。その内容は、これまでの発言の繰り返しという事で正直、新鮮味に乏しく、食傷気味というものでした。ただ一つ違った事はこれまでの攻撃的な口調を抑えたものであった事で、その点では米国内では一安心と云った評価の声も上がったようでした。尤も、これで国民に安心感を与えたというものではないのですが。
そしてもう一つ、この報告の中で注目されたのが、トランプ氏としては初めてcitizenという言葉を擁して、America first ではなく「citizen first」と呼びかけた事でした。
― America must put its own citizens first, because only then , can we truly MAKE AMERICA GREAT AGAIN. —–
そこで、施政方針を読み直し、改めてそこに見る問題の検証を行うと共に、4月に始まるとされている日米経済対話について目指すべき方向につき考察していきたいと思います。(2017/3/26)
目   次

1.トランプ米大統領の施政方針     ・・・・P.5

(1)大統領施政方針演説を読むー 国際ルールの変更
・2017年米通商政策と世界通商秩序(WTO)
・国境調整措置税
(2)G20会議とトランプ政権

2. 日米経済関係の新展開         ・・・・P.9

(1)トランプ政権の対日批判と日米経済協議
・過去の日米経済協議
(2)日米新対話に求められる発想の転換
・日米新対話のテーマ
・日米FTA交渉は新たな発想で

おわりに : いまそこにある政治資源     ・・・・P.11

・国粋の枢軸
・いまそこにある政治資源の活用を

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