フィンテックと中国

0
Shares
Pinterest Google+

2013年頃から米国を中心にITを駆使した特殊な金融サービスを提供する新興企業が次々と誕生。我が国では当初はFinanceとTechnologyの合体などと観念的に捕らえられていたが2015年には新聞、雑誌、書籍などでブームのように取り上げられシンクタンク、弁護士なども交えセミナーが頻繁に開催されるようになった。また最近でもマスコミ中心に連日のようにフィンテックが取り上げられている。
さらに通常は表に出ない金融庁、経産省、日銀なども将来の縄張りのこともあるのだろうが会議などでいろいろ発言するようになった。筆者のような金融の門外漢でもフィンテックに関心を持つに至った理由は英国のマスコミと英国自身のフィンテックへの投資動向であった。英国ではcashless化が70%にも及びcashより電子決済と思われるが同時に高齢者のcash paymentも増えているという。
この背景にあるものはスマホ、クラウド、ビッグデータ、AI,IOTなどテクノロジーの進歩とそれを使いこなす若い世代の台頭もある。特にリーマンショック後の既存の金融サービスへの不満も大きい。(貸し渋り、送金時のコスト、所要時間、営業時間など)この時点では大手銀行・地方銀行、証券会社などはいずれ淘汰されるとまでいわれていた。

#フィンテックとの協働を謳う金融業界
一方この動きに対し、特に証券会社などが先頭に立ってフィンテックとの共存を宣伝している。実際に日本戦略研究所社長の藤田勉氏はフィンテック時代を迎え今度は「貯蓄から投資へ」の時代がやってきそうだと予想する。金融機関が店頭で販売する投資信託や保険の手数料が日本の場合は高く、投資家が儲からない要因となっていた。しかしAIなどを駆使するフィンテックの時代となると手数料などは大幅に下がり投資収益の向上が見込まれる。投資家が潤えば預金などに偏っていた個人金融資産が株式市場に流入し「日本株の復活につながる」とみる。このような状況下、野村・大和などの証券会社、三菱UFJ,みずほ、三井住友など大手銀行などもセミナーなどで企業向けの領域は個人向けと異なり信頼性や信用力、資本力で高い水準を求められるが、フィンテック企業は創業間もないところが大半で金融機関との協働が必要としている。そこに新たなビジネスチャンスが生まれるとしている。

#フィンテックが注目されている理由
(新しいサービス、担い手はベンチャー企業)
決済、資金管理、資金仲介など(ただし巨大金融機関とは当然競合する)既存の金融機関の経営、業界区分、規制に変容が生じる可能性がある。フィンテック企業に収益機会が脅かされるのか、または新たな収益機会が生まれるのか といった問題もある。
(新産業の育成、成長戦略)
成長産業となるのではないか?但し、いくつかの疑問点もある。
仮想通貨は持続可能か
仮想通貨は既存の送金の仕組みを淘汰できるのか
マネーロンダリングや脱税などの犯罪に利用される危険がある
既存の規制や制度の見直し,すなわち法整備が必要。
(すでに弁護士からは現在政府が進めている国民背番号制と矛盾するとの指摘もある)いずれにせよ既存の規制や制度の見直し更には法整備も必要となろう。

#フィンテックの事例
(決済・送金サービス)
この分野では米国のPaypal, Square社、英国Transfer Wize, M-Pesashaなどが先行している。Credit Card支払いとか送金サービスを行っている。
(投資、融資仲介サービス)
米 Lending Club(NY上場)、On Deck社などがサービスを行っているが日本でもインターネット通販業社は融資を行っている。
(個人資産管理サービス)
金融機関と連携してサービスを提供
(個人資産運用サービス)
米・英企業が先行しているが日本でもスマホによる米国株式の購入を行う業者がいる。これらは安い手数料、または無料で顧客を増やしている。
(業務支援サービス)
米国では銀行口座、credit cardなどから会計情報を取得し基本的な会計帳簿を自動作成するサービスもあるが日本でもソニー損保が自動車に計測器を取り付け安全運転の度合いに応じた保険料を設定するといった損害保険を売り出している。

#国際金融センター間での競争 香港とアジア・中国
すでにロンドン、ルクセンブルグなどがフィンテック企業の誘致につとめフィンテック事業を次の柱にしようとしている。
アジアでは香港が「アジア経済のハブ」として種々のセミナーなどを行っている。先日も香港貿易発展局主催のセミナーが東京であった。講師は日銀、野村総研、三菱UFJなどの専門家だが特に三菱UFJは来年秋にはビットコインを発行するといわれているが、銀行内でも業務部門から独立した組織を作り情報通信技術とビジネスの現場をつなぐ部門を目指すとしている。
質疑応答で全員が問題点として指摘しているのが中国発のmoneyの動向だ。昨年度は人民元の大幅な下落があったがこれに伴い、大幅な資本流出が続いている。人々はなんとか資産を海外に移そうと人民元のまま海外に移動をはかっている。元々人民元の国際化は進まず厳しい政府の管理下で無数のヤミの金融機関が活動している国だけにフィンテック企業と彼らが結託することは容易に想像がつく。この点は香港の金融機関も頭の痛いところだ。香港金融市場は今や中国本土にとって最大の資金の流出窓口となっているが中国同様にアジアでも金融インフラが未整備で株式投資などは香港経由が注目されている。携帯電話の普及がこれを支えている。フィンテックの利用は中国でアリババとかテンセントなどがすでにいろいろな形で入っている。一説では世界のフィンテック業ランクで上位50社中7社は中国企業とも言われている。但し問題も多い。上海ではネットで高利回りを保証と呼びかけ投資家が資金提供をしたが幹部が詐欺容疑で逮捕されたとかこの種の話は絶えない。香港でもビットコイン取引所で顧客の口座から約65億円が盗まれたという。いずれにせよ無数のヤミの金融機関を抱えている中国のこと故これからもこの種の事故は避けられないであろう。

#フィンテックの行方
目下のところ一種のブームだが当然淘汰もあるだろう。最後には強力な企業が生まれる可能性もある。
ビットコインの場合は有力銀行発行のコインは信用力があるので生き残ると思われる。
証券業界においても個人の投資を促すきっかけとなり得ると思う。何れにしてもフィンテック事業がいろいろな形で次の産業を生むと思われる。但し、中国の例のごとく過剰な債務を抱えている地方政府、国営企業、民間の動向には細心の注意を払う必要がある。

Previous post

名取 はにわ 日本BPW連合会理事長、元内閣府男女共同参画局長

Next post

高まる ‘反・新自由主義’の潮流と、日本経済の可能性