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効き始めたスチュワードシップ・コード ~ファナックの株主還元策~

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ファナックは新設した対話窓口を通じ19の機関投資家の声を聞き、資本効率を重視した経営にかじを切ったと4月28日の日経朝刊が報じています。じわじわとスチュワードシップ・コードが効き始めたと感じられる事例だと思います。具体的には大胆な株主還元策をとるということですが、株主還元された資金がより効率の高い投資に回されることによって日本企業の企業価値全体の向上とひいては3本目の矢を引く強い力に貢献することを願います。

 

4月28日の日経朝刊の「ファナック、利益の最大8割 株主へ 配当性向2倍に」という記事に目がとまりました。記事によりますと、「連結の配当性向を現在の30%から60%へと2倍に引き上げるほか、機動的に自社株買いを実施。2015年3月期から5年間の平均で、配当と自社株買いを合わせ利益の最大80%を株主に回す。過剰な資金を抱えることに株主の目が厳しくなるなかで、資本効率を重視した経営にかじを切る」ということです。
ファナックの平成27年3月期の決算短信によりますと、自己資本比率86%のもとでROE16.3%(株主資本は平均残高ベース)と伊藤レポートが日本企業の目標とした8%の2倍を超える水準を達成しているにも拘わらず株主の要求はこれでは満たされていないことを物語っています。記事によると、「物言う株主で知られる米投資ファンドのサード・ポイントが資金の有効活用策として自社株買いを要求。ファナックは新設した対話窓口を通じ19の機関投資家の声を聞き、今回の措置を決めた」ということです。
この理由は、平成27年3月末でファナックの連結貸借対照表には現金及び預金の残高が8,712億円あることです。これは総資産1兆6、116億円の54%を占める途方もないお金が眠っていることを示しています。多額の資金が企業に現金及び預金として保有され銀行に預けられた預金の多くは国債に投資されている日本の現状を典型的に示している例です。現金及び預金の26年3月期末と27年3月期末の平均残高8,474億円に対する平成27年3月期中の受取利息は26億円でその比率は0.31%となっています。これはファナックの現金及び預金の収益力を示す正確な数字ではないと思いますが、おおよその収益力を示していると思います。
この事実を念頭にROE16.3%という数字を見てみると面白い事実に気づきます。それは、ROE16.3%は現金及び預金の収益率0.31%によって薄められているということです。そこで、分母の株主資本から現金及び預金を差引き(平均残高ベース)、純利益から税金を考慮した受取利息を差引いた純粋に事業に投資された株主資本と事業からの純粋な純利益という要素でROEを計算すると48.3%という驚異的な数字が見えてきます。機関投資家は、これがファナックの事業の実力、すなわち稼ぐ力であると見ているのでしょう。従って、期間投資家は、現金及び預金勘定に眠っている資金の収益力が1%をはるかに下回るものであるという現実を見たとき、「本来この資金は株主のものであるから返して欲しい、そうすればその資金をもっと収益性の高い投資に向けることができる」という主張をするでしょうし、現実にサード・ポイントはそういう主張をしたということでしょう。
ここで、注目したいのは、ファナックが機関投資家との対話窓口をつくったという事実とその窓口を通じて19の期間投資家と対話し余剰資金の株主還元の方向にかじを切ったという事実です。じわじわとスチュワードシップ・コードが効き始めたと感じられる事例だと思います。株主還元された資金がより効率の高い投資に回されることによって日本企業の企業価値全体の向上とひいては3本目の矢を引く強い力に貢献することを願います。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより)
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