中国中に国際金融センター設立の動きがあるが
2013/2/1
香港・深圳(シンセン)の一体化構想はここ数年に亘り次々と発表されている。本稿でも昨年2月に「港湾業の深圳と香港の協力は可能か」として港湾業から見たこの間の事情を解説した。ところが、深圳側は最近のローテク産業の衰退とか、過去30年に亘る、珠江デルタの加工貿易が終焉を迎え、新たな産業への転換を図るためにも香港の協力は絶対必要として、最近は金融業誘致に乗り出した。
(最近の状況説明のために、前述の「港湾業での協力」での説明と一部重複するがお許し願いたい。)
元々は深圳市が「前海深・港現代サービス業合作総合開発計画」とか「香港・深圳 メトロポリス構想」=経済規模でニューヨーク、東京に次ぐ世界第3位の都市を目指す。制度上の垣根を越してヒト・モノの交流を図るとしていたが、更に深圳市は「深・港都市圏構想」=オフショア金融区構想でヒト・モノに加えカネの交流まで行いたいとしている。この計画のために既に着工済みだが、珠江に面した深圳市側の前海湾に15キロ平方の埋め立て地を造りそこに特別区を造ろうというものだ。
いずれにしても党、政府幹部はより巨大な、巨額の資金を要する計画をぶち上げる。今までは中国で最も先進地区として認識されていたので最先端の構想を打ちだすことが、市政府としても必要であったわけだ。これらの計画は実務経験のない政府系シンクタンクとか大学の御用学者が打ち出したものをそのまま計画として発表したもので深圳側が香港側に協力を呼びかけているが、香港としては制度の垣根を越えてと言われても民主社会制度の崩壊につながるとして取り上げには逡巡していた面がある。
一方深圳側としては何としても香港側を早急に計画に巻き込ませたいとの思惑もある。
-
深圳側の思惑
-
産業環境の急激な変化(ローテクの撤退)から産業構造を変えるためにも早期実現を図りたい。但し、産業の高度化・サービス産業への構造転換を謳うが各地で重点産業が重複しているのでおそらく中国中で同じ方向に動くこととなろう。更に党内部の巨大勢力である上海が反対に回れば身動きできなくなるのでこの意味でも早期実現が必要。
-
上海の猛烈な巻き返し 一般に地方政府同士の競争は想像以上に激しいが、特に上海と、香港を隣接地に持つ深圳との競争は激しい。特に上海は金融の中心都市として香港を抜こうとの思惑がある。実際には人民元の国際化が進まない限り無理なのだが。(人民元のハードカレンシー化は金融筋が盛んに喧伝するが実際にはまだまだかなり先の話とされている)
上海は上海浦東自由貿易区(自由貿易パーク)を何とか年内にも稼働させたいとしている。まず上海国際貿易センターを建設し貿易と金融、海上輸送、物流、製造、会議・展示などを融合した自由貿易圏を設置したいというもので、建物も造りたいのだろうがまさに香港そのものだ。各種の展示場のほか、上海デイズニーランドもあり海外からも人を引き入れ免税店なども設置するとしている。深圳としても何とか香港の金融機能を取り込みたいのが本音だと思う。更に広東省としても江蘇省がGDP総額で広東省を抜くといった報道もあり省政府としても早期に香港側の参加を呼び掛けている。 -
2008年、香港紙South China Morning Postは“End of an era for Pearl River Delta” としてローテク産業の撤退について触れていたが注1、中央政府は深圳には更に外国人が視察に訪れるであろうがあまりにも汚いので、外国人の目もあり綺麗にすべしと要請しているとの話も載っていた。確かに筆者など昔の風景を知っていると、いつの間にか超大都会になったが、国際水準から程遠く、他の中国の都市同様ゴミだらけで汚い。緑のないビルだらけの街、そのビルもメインテナンスをしないのですぐ汚くなる。交通渋滞でも人々は信号無視、車と車の間を人と自転車が勝手に通り抜ける。といった状況では、この際、別の場所でビル街を造ろうといった発想になるのもうなずける。過去にも折角作った深圳の駅舎を汚れたままで残し全く別の地域に新駅舎を造るといった壮大なる無駄が続いたが、汚くなった駅舎にはいつの間にか人々が住み着いて荒れ放題となっているところもあり、街全体が汚くなるのはこの辺りにも原因があった。この点からも、前海という新地区に綺麗な街をという構想もうなずける。
-
-
金融街の誘致
深圳市の狙いは香港金融機関の誘致だ。ところが香港の銀行20行は既に進出済みで支店を持っており、支店以外にbackyardと言ってもそれほど広大な面積を必要としない。世界の金融街と言ってもニューヨークにしてもロンドンにしてもビルが幾つかあればそれで十分だ。最近はビルも高層化しているのでいわゆるFinancial Centre Building で殆ど収まる。問題は金融街に群がる外人部隊の住居だ。東京が量的には世界の大金融街たる資格は十分あるが、英語が通じないことと、欧米系が住むにはあまりにも住居費が高すぎることに問題がある。ニューヨーク、ロンドン、香港いずれも居住費は高いが30分くらいの至近距離に住宅を設営できる。本稿の前海は住居地区として最高だろうが、開発当局としては単なるベッドタウンでは商売にならず、何とか金融機関を誘致したいというのが本音だろう。香港側の危惧は珠江デルタだけでも深圳、広州、仏山、東莞(トウガン)、と代表的都市が「金融業の集積・発展を目指す」と同じ目標を掲げ更に、上海、天津その他内陸主要都市も同じ目標を掲げている。(既に空港では関東平野ほどの珠江デルタに香港、マカオ、深圳、珠海、広州とひしめき合っている、港湾でも同じ状況だが)
北京政府は金融、現代型物流、情報サービス、科学技術サービスを今後の4大産業としているがおそらく御用学者が唱えたものだろうが、異なる体制でうまく行くのかという点にある。
深圳側はsmall香港にしよう、法体系、行政も香港並みにしようとの意向だが、そんなに簡単な話ではない。香港の株式市場では前海関連3大地主として招商局国際、中国国際コンテナ、深圳国際の3社が前海に大量の土地を持っているとして株価にも影響を与えていたが今のところ株価も低迷している。
広東省トップの党書記に胡春華(共産主義青年団出身で10年後のポスト習世代の筆頭)、中国駐香港連絡弁公室主任に張暁明=中国政府の香港に対する権限は外交・防衛にとどまらず更に広範に及ぶとの強硬派、さらには香港政府CEOに就任したC.Y.Leung氏も隠れ共産党とも言われているのでどのように推し進めるのか,強行策を用いるのか面白い展開となりそうだ。
以上
編集者注 |
|
注1 |
http://www.scmp.com/article/625736/end-era-pearl-river-delta :最終検索2013年2月1日 |