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27%が背中を押すアメリカ移民法改革

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かなり以前からアメリカの移民法改革の鍵を握るのは、ヒスパニック系の動向次第と観測してきた。これまで、多くの会合や出版物でその実態と論理を説明してきたが、半信半疑の人もいたようだ。

しかし、このたびの大統領選挙の結果は、ヒスパニック系がキャスティングボートを握ることの意味を歴然と示した。2008年の大統領選挙の時は選挙有権者の9%がヒスパニック系だった。ところが、今回は選挙有権者の10%になっていた。わすか1%の増加とあなどると、大きな失敗を生む。限界的部分での1%はきわめて大きな意味があった。

27%の衝撃
選挙キャンペーン中におけるロムニー候補の不法滞在者についての不用意な発言なども影響して、ロムニー候補はヒスパニック系有権者の27%しか得票できなかった。他方、オバマ大統領は71%の得票を得た。この数値はかなり頑迷な保守党のヒスパニック観を改めさせるほどの衝撃だった。保守党のヒスパニック嫌いはかなり根強く、そう簡単には解消しないのだが。”27%”のトラウマはそれでもかなりの衝撃的効果を生んでいる。共和党員ながら、民主党に近い移民法改革案を共有していたマッケイン上院議員は、最近の共和党の変化について、一言、”選挙”electionが原因であることを認めている。共和党のヒスパニック観が大きく変化しないかぎり、共和党大統領の時代は来ないのだ。

任期前半の4年間にオバマ大統領は、移民法改革には、ほとんどさしたる政策を打ち出し得なかった。しかし、リンカーン大統領を尊敬するオバマ大統領としては、なんとか意義ある実績を残して任期を全うしたいようだ。最初の選挙キャンペーンの時から実施を公言してきた移民法改革にも積極的な動きが見えてきた。

この大統領の動きに先手をとられまいと保守党議員が動きだし、1月28日には、超党派の上院議員からなる検討委員会が、相次いで包括的移民改革についての試案を提示した。特に、アメリカ国内に居住する不法移民への対応が重点になっている。プレス発表には、ニュージャージー州選出の民主党のロバート・メレンディス議員、フロリダ州選出のティーパーティの立役者マルコ・ルビオ共和党議員が現れ、スペイン語で趣旨説明を行った。

ルビオ議員は国内に入国に必要な書類を保持することなくこの国に居住している1100万人ともいわれる不法移民について、「自分たちの親や祖父母たちのように」、より良い生活を求めてきた人たちが大部分であり、彼らには”責任を自覚してもらう”とともに”人間的な”対応が必要だと強調した。これまでの共和党の強硬な考えと比較すると、大きく変化している。オバマ大統領の明らかにしている包括的移民法改革の内容と、かなり重なるようになった。

こうした変化の中で、移民制度改革の輪郭が再びクローズアップされてきた。ボールはすでにオバマ大統領側から投げられている。ブッシュ政権末期からたびたび議会を揺り動かしてきた議論と、骨格部分はあまり変わらない。今月、オバマ大統領が明らかにした改革は、包括的な移民制度改革といわれるいくつかの政策の集合から成るものだが、これまで折に触れ議論されてきた路線とほとんど変わりがない。主として共和党右派の体質がその実現を拒んできた。オバマ大統領が考える改革の輪郭はほぼ次のようだ。

改革案の骨格
第一に、国境管理を厳格にする。特に南部のアメリカ・メキシコ国境については、出入国管理体制をさらに整備する。それによって、従来最大の変動を生み出してきた地域の秩序を回復し、不法移民のこれ以上の増加を阻止することが目的である。不法移民の雇用を減少させるために、使用者に連邦のデータベースとの照合を求める。

第二に、アメリカ市民を家族に持つ不法移民を対象とするルール改正を図る。アメリカ国内には、約1100万人の不法滞在者がいるが、これまでの犯罪歴、学歴、英語力、罰金、租税公課などの支払い結果などに配慮した上で、アメリカ市民権申請の列に並ぶようにする。

昨年、オバマ大統領は子供の時に親に連れられた不法入国した若者については、教育歴などを考慮した上で、「特別コース」fast trackでの合法化措置を適用するにした。この政策は移民政策としては部分的ではあったが、ヒスパニック系選挙民には好評だった。

大方の点ではきわめて歩み寄った大統領案と上院議員案だが、微妙に異なる点も残っている。そのひとつは、農業労働者やその他の低熟練労働者について、上院議員案はゲスト・ワーカー・システムを提案しているが、オバマ大統領は、低熟練労働者については明確な路線を示していない。もうひとつは、高度な技能・熟練を持った技術者の受け容れ方である。

安定期に入った移民の流出入
最近のアメリカ・メキシコ国境の出入りをみる限りでは、アメリカ側からの出国者が入国者を上回り、純減状況を示しているが、これにはアメリカ国内の雇用低迷などが反映していると思われる。アメリカ国内に良好な雇用の機会が少なくなっている。国境の出入数については、今のところ確たる方向性は現れていない。移民法改革には格好の時といえる。個別の州や地域では、連邦レベルで話題になっている移民法改革、とりわけ不法移民の段階的合法化は受け容れられないとする考えも強い。しかし、連邦レヴェルの改革が再び座礁する可能性は少なくなっている。

これからの時代、期待される国境とは、入国者、出国者の(市場の調整機能を反映した)自然な流れを基本としながら、その過程における不法入国、国境犯罪などのマイナスの要素をできるかぎり排除してゆくことにあると思われる。その存在が通常は意識されないような国境の姿、それが来たるべき時代の国境のイメージではないか。しかし、実現への道は依然として遠く厳しく、紆余曲折は避けがたい。苦難の試行錯誤はまだまだ続く。

 

Reference
”Washington learns a new language” The Economist, February 2nd 2013

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