Brexit 雑感

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英国のEUからの離脱が日本でもマスコミを賑わせている。英保守党のキャメロン首相の退陣に伴う新首相はメイ氏にすんなりと決まった。早速新首相はドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領などと会談し、離脱の正式通告は年明けとなることを確認した。従って2017年から2年間がEUとの正式交渉期間となる。

目下のところ離脱による英国経済、世界経済への悪影響が盛んに報じられているがどのような決着になるにせよ暫くは英/EU間の交渉に一喜一憂の状態が続くであろう。英国内の報道でもメイ内閣は離脱派の3名を閣僚に起用したが、3閣僚の間でも綱引きが始まっていると報じている。

今回は英国側の事情を中心にBrexitを見てみたい。

 

♯英国の階級制度

日本では戦後、平等とか弱者保護が前面に打ち出されてきたが、英国社会では階級制度が当たり前となっている。

筆者は1970年代後半から80年代後半までLondonにいたが、子供の学校のことも調べずに近所のタダの小学校に入れた。生まれたのはNew Yorkであったがnursery schoolだけで3/4歳で帰国したので外人との接触には問題はなかったが、英語を学ぶため現地の小学校に入れた。ところが11歳になるとeleven-plusという試験があり、更に大学に行く高等教育のコースに進むか、職業学校などを経て実社会に出るか決めなければならない。筆者の場合、急いで私立学校に入れたが、大半の生徒はそのまま実社会に出たものと思う。その後大学の数も増え、中学高校に相当する学校も増えたので大学への進学も急激に増えたと思われる。わずか3/40年前の話だが、そのころの小学生が今や高齢者層となって今回のEU離脱投票に臨んだわけだ。(The Sunday Timesによると65歳以上が60%,55~64歳57%,と高齢者の離脱支持が多かった)

筆者は或いは離脱にyesとなるのではと思っていたが、彼らはFinancial Times など読むわけもないし(おそらくSunとか大衆紙は読むであろうが)日ごろからブラッセルの高給取官僚の悪口は聞いているし、東欧からの移民に職を取られていることも知っているので(東欧からの移民は世界的に見てもレベルが高く、特に金融業界などでは大きな勢力となっている)。

余談だが、大学出が会社に入るようになったのは30年ほど前で日本の商社など見向きもされなかった。相場商品で現物と先物取引の経験が積めることを知り大卒もかなり入るようになった。ただし、経験を積むとjob-hoppingで別の会社に流れて行った。

一方、上流階級の子弟はpublic schoolに行くのが通常のコースであった。(12/13歳から18/19歳の学生を対象に大学教育の基礎作りを行う)Eton, Harrow, Rugbyなどが有名でここからCambridge, Oxford などの大学に進む。ただしその後このコースは特権階級のもので保守的、封建的だとして大学の増設と共に進学コースも大幅に拡大された。

 

#国の形

4年に一度行われるスポーツ大会、Commonwealth Gameの各国代表の行進を見るとEngland, Scotland, Wales, Northern Irelandまでは分るがマン島とか独立予備軍のような地域も続く、更にいわゆる英連邦諸国となるとEUどころではなく世界の大半の地域となる。

一方通貨は英国内どこでもBank of Englandのポンドが使えるが、

Scotland Pound とかマン島などは独自に通貨を発行している。勿論Bank of Englandの監督下で発行しているのだろうが。

憲法はないが、宗教は女王陛下をトップとするAnglican Church(英国国教会)が主体だが各地にはキリスト教でローマ法王をトップとしたいろいろな宗派がある。

何れにしても日本から見ると実に多種多様だがこれが本来の国の形かもしれない。

 

#二大政党

英国とか米国では従来から二大政党が交互に政権を取ってきたがこれが理想の形とて日本でも二大政党が良いと考えている人が多い。実際に日本ではなかなか実現しない。嘗て筆者も香港の海運王Peter Wooと議論したことがある。彼もアングロサクソン以外ではこの形態は無理と言っていたが、筆者も彼の意見に賛成だ。最近の米国でのトランプ旋風とか英米でもポピュリスト的な政策が一般受けするようになったのは従来の二大政党による運営が厳しくなっているとみることもできる。

 

♯英国とEUの歴史的経緯

EUの前身、EECの設立は1957年で60年代に何度か英国は加盟を申請したがフランスが拒否権を行使し実現しなかった。最終的に加盟が実現したのは73年で、その2年後国民投票によって加盟が実現した。元々英国人はドイツもフランスも嫌いで大陸には入らないという原則があり、米国も同じ考えであった。チャーチルも大陸には深入りすべきでないと警告していた。当時のECはフランスが主導していたようで、本来、鉄鋼・石炭から話が始まったが60年代は共通農業政策(酪農中心の農業が多いが)も重要案件となった。英国は何年にもわたり小農は大規模農家に吸収され農業は大農経営となっている。この点がフランスなどと根本的に違う点だが60年代はフランス出身のBrussel官僚が酪農価格を自らに都合のよいように決めていた。筆者も新入社員のころは乳製品の輸入をやっていたが(農林省は現在に至るまでNatural Cheese以外の乳製品は一切輸入禁止としている)、例外として東南アジア向け育児用粉乳の輸出の見返りに粉乳の輸入が認められていた。EC域内で各国それぞれ週ごとに粉乳価格が決まる。当時は欧州が一番安いのでEC内の最安値を狙う。ところが蓋を開けるとカナダのQuebec産が最安値となる。Quebec はカナダといっても仏領のごときものだから当然だがここでも仏官僚にしてやられた。

 

#黄昏のロンドン

1980年ころ日本で黄昏のロンドンという本が良く売れた。労働党政権下で英国病ともいわれていたが、庶民が実に我慢強いのに驚いた。

日本は高度成長期でもあり日本から見ると英国は黄昏と見えるであろうがどこまでも広がる緑と過去の蓄積を見ると黄昏どころではない。確かにサッチャー政権に代わり英国は復活した。

今回のBrexitの動きを見ながら黄昏のロンドンを思い出した。確かに交渉の段階では英国経済に打撃を与えるであろうが上述の国の形からみても実にタフだ。Scotland独立を問題視する意見もあるが英国全体におけるScotlandのshareは小さく、英国内では昔から独立しているようなもので大きな影響はないであろう。

 

#日本のマスコミ

今回の英国のEU離脱で想像以上に騒いだのが日本のマスコミだ。

株式市場の動きが少なく証券会社も困っているところにこのnewsが入ったのでこれをネタに証券会社も動いたのであろう。日経などもいろいろな有識者の意見を1面に並べていたが、ウイスキー会社の経営者迄出てきたのには驚いた。原酒の輸入は知っているのだろうが離脱問題で深い知識があるとは到底思えない。世界経済や日本経済についての識者の見解は悲観的なものがほとんどだ。国際政治や外交面での影響は出るであろうが世界経済への影響はある程度限られたものとなろう。それにしても金融市場は「リーマンショックに匹敵する危機」などと大騒ぎだ。識者に聞けば当然悲観論を展開する。悲観論を言うほうが正論とみられることに問題がある。問題は、EUは英国にどれだけのメリットを齎していたかということだが、嘗て英国が加盟したとき経済面で劇的なメリットがあったとは思えない。為替の変動は当然あるだろうが企業によって打撃となるか、メリットとなるか企業の業務内容次第だ。

 

#金融機関はロンドンから出てゆくのか

HSBCはEU離脱の直前に本部機能をロンドンにするか香港にするか大きな議論となった。結論は今年の2月14日本社を引き続きロンドンに置くと発表した。(拙稿 2016/05/01 HSBCは香港を見限ったのか)要は香港の場合中国ビジネスに精通した人材も多いが、金融取引全体で見るとロンドンでの人材の層の厚さには及ばないということだ。大手金融機関のトップは「英国外に行くことも選択肢の一つ」としているがEUとの交渉次第で決めるということであろう。確かにEUROでの証券決済などは出来なくなるかもしれないが、金融機関が一斉に大陸に行くという可能性は低いとみる。普通の銀行間の取引以外にプロジェクトの場合、法律事務所、会計事務所,保険、先物取引、海運なども関わるがロイズの保険市場とかBaltic Indexで有名な海運市場などは簡単に他国で構築は困難であろう。更に英国に拠店を置く海外企業はEUのみならず中東、アフリカもカバーしているのでこの点は英国の絶対的強みだ。英国はドイツ・フランスと比べると外人にとってははるかに住みやすい。英語という国際共通語で仕事も生活もでき、特にロンドンはコスモポリタンな街で

外人には過ごしやすい。この点では今後もロンドンに人材が集まると思われる。

 

#当面の交渉の相手はフランスの元外務大臣バルニエ氏

以上は英国側から見た状況だがまずBrusselの高給取り官僚は既得権益の侵害となるので過酷な条件を次々と出してくることは予想される。またEUとしても他の加盟国が離脱しないように厳しい条件を付けることは予想される。但し英国はNATOの主要なメンバーでもあり対ロシアという問題もある。英国もEU各国も政治家としての国際交渉はお手の物で議論を尽くして妥協点を見出すと思う。問題は最近のロシアと中国のように勝手に国境を線引きしてしまうような高圧的態度だ。中国は南シナ海仲裁裁判の判決とか、EUは中国をWTO協定上の「市場経済国」と認定しないといった習政権の外交上の失敗もあるが国際政治や外交上の問題を除くと世界経済への影響はそれほど大きいとは思えない。

EUにしてもドイツとフランスが協調しているのは現状維持のためで外部から見るともともと仲の悪い両国が協調すること自体が不自然だ。日本ではとなり(隣国)とは仲良くということが強調されるが世界的に見て隣国同士で仲が良いという例はほとんどない。ここは暫く欧州のベテラン政治家の動きを見てみたい。

 

 

 

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