アジアに展開する物流業

1
Shares
Pinterest Google+

空運業の発達によって到着地から更に国内流通へと手を広げているのが各国の大手航空会社だ。これに世界の大手海運会社とか倉庫業者、更にはイオンなどの流通業、NEC/三菱電機など電機メーカーに従来からの各国の物流業者も加わって大競争を行いつつある。
彼らの主戦場は目下のところアジア全域だ。本論に入る前に最近の海運業界での話題に触れてみよう。

#海運業界で中国のdouble standardが問題に
日本の大手海運会社はそれぞれ船舶の大型化による海上運賃下落に対し省エネ化などの対策を講じている。川崎汽船も大型船の保有では大手だが一方で中国とタイ、マレーシア、ベトナム、シンガポールなどを結ぶfeeder boat serviceに着手している。元々東南アジアでは大型港と各地のlocal港を結ぶ中小型船に対する需要が多くSwireなどがかなり前から運行していた。本稿でも前に触れたが船舶の大型化はスエズ・パナマ運河などを避け、例えばアフリカ大陸南岸のケープタウンを回るケープサイズの超大型船の出現によってもたらされた。一方中国は経済成長に資するとして中国各地に採算を無視して大型港を開発し、これに世界的海運会社も超大型船を配して対抗。結局海上運賃の下落(海運不況)につながった。いうなれば中国発のデフレの一つでもある。世界の海運業界は寡占化が進んでおり各種タイプの船腹保有量からみるとMaersk,日本のNYK,三井OSK等が最大手だが、container船で見るとデンマークのMaersk, スイスのMediterranean Shipping Company,フランスのCMA CGMなどが最大手となる。最近話題となったのは中国政府主導で国有の2大海運会社、中国遠洋運輸集団と中国海運集団を合併させると発表があった。鉄道、原子力、資源などに続く国営企業の大型合併で無駄な国内競争を排除し海外に打って出ようとの作戦だ。上述の中国2社は世界の海運会社の寡占化により国内外で激しい競争に晒され中国勢同士で安値受注を奪い合う状況となっていた。但し、ここで問題となったのは2014年にMaerskが欧州2社と提携の企画が出たとたん中国当局が異を唱え、この提携はご破算となった経緯がある。自国企業には独占を強要し、海外勢には異議を唱えるdouble standardには先進国も手を焼いている。
話は本論と逸れるが、南仏の空港の民営化のため株式の一部を中国の鉄道会社などが組むコンソーシアムに売却することとなった。この報道で現地側は反発している。フランス当局側は空港内施設、滑走路などの資産は譲渡対象ではない、国の権限によって譲渡さき企業の行為を監督できると説明している。同じような問題が日本の新聞でも提起されている。中国はsea laneの確保に躍起となっているが上述の中国遠洋運輸集団(コスコ)がギリシャのPiraeus港の国営運営会社の51%の株式を買収すると報じられている。ギリシャの経済危機に端を発し、国営企業を中心に次々と売却しているがこれの買い手となって表れたのがコスコだ。一帯一路戦略上も欧州とアフリカに通じる海上物流の要衝ともいえるPiraeusは中国としては是非とも欲しい港だ。一般的には港湾運営会社は国のPort Authorityの指揮下に入るが、ギリシャの場合、何しろカネが必要なのですでに中国海軍の艦船が寄港したように、地中海に中国の海軍基地ができるかもしれない。但し、最近のイランとサウジの断交といった問題もあり中国の思い通りに行くとは思えない。
豪州のダーウイン港の経営権が中国企業に渡ったのは問題だとする論調の新聞もあるが港湾運営の権益を株式会社化したケースも多い(shipping terminal development)。一般的には先進国ではPort Authorityが絶対的権限を持っており、港湾運営企業が勝手にいろいろ決めることは不可能だ。また、港湾運営だけで利益を上げるのは難しく各地の港湾運営を請け負って多角的機能を持って初めて利益が出る。次に港湾運営企業について触れてみよう。

#李嘉誠傘下のハチソンが港湾運営会社の株式を売却
香港財閥の李嘉誠が中国での不動産事業などから手を引きつつあることは既に報じられているが、欧州・オセアニアなどを中心に手広く事業を拡大していたshipping terminal development事業からも手を引きつつある。旧聞に属するが2014年に港湾運営会社のハチソン・ポートホルディングスは香港のコンテナーターミナルCT8Wの権益の60%を中国最大海運会社のコスコ(40%)と中国海運集団の子会社(20%)に売却したとされている。一般には李嘉誠も中国事業からの撤退かと騒がれていたが、中国政府の一帯一路戦略とか大国営企業の合併といった戦略をも絡めた方策ともとれる。実際に中国は真珠の首飾り作戦で中国から欧州に至る港湾での権益獲得を狙っており、各地の港湾運営に長年の経験のあるハチソンから権益を譲り受けるほうが確実と見たのかもしれない。いずれにしてもこの辺りは中国の最もわかりにくい部分だ。

#同業でも増益を続けるKerry Group
香港の物流部門では李嘉誠のハチソングループに対抗してRobert Kuok傘下のKerry Groupが健闘している。Kerry Logistic Networkの決算では総合物流部門の利益は11.5%増の12億7,190万HKドルでこのうち物流業務が14.6%,香港の倉庫業務が6%の伸びとなっている。これは東南アジア向けの伸びによるもので、国際貨物輸送部門は利益が9.4%増となっている。(この部門はEC物流が今後重要な役割を担うとみられている)。Kerry Groupの場合ハチソン同様海外でのshipping terminal 事業も展開していたが、各地での労賃の値上げなどもあり、事業展開に不確定要素も増えたため、むしろ本来の物流業に特化しようとする傾向があった。アジア各地に物流網を築こうとしている。ミャンマーには日本企業も進出しつつあるが、軍事政権下時代に中国と急接近したのでいまだに中国企業が各地で根を張っている。Kerry Groupもこれに着目し鉄道遊休地の開発権を取得、ここに中国からの貨物の保管、積み替えなどを行う物流基地を建てるとの発表があった。余談だが、香港では墓地の不足が深刻で香港紙の報道ではKerry Groupの保有する柴湾の15階建ての倉庫を改装して明るい近代的墓地とする計画があるとしている。場所は工業用地となっており物流倉庫用地の用途変更の許可が必要なのでKerry側は本件に一切コメントしていないが、面白い企画だ。

#中国鉄道企業の動き
高速鉄道に対する中国政府の投資は毎年約6,000億元(約10兆円)と巨額だが、ここ数年は中西部中心に鉄道開発が進んでいる。更に東南アジア各地に中国政府主導で鉄道網整備が進んでいる。日本側からみれば新幹線の知財権の問題とか、インドネシアで日本の入札内容がすべて中国側に渡っていたとか色々議論はあるが、何しろ低価格で攻めるので日本側に勝ち目はない。更に陸続きで現地の鉄道と結ぶので中国勢が有利なのは致し方ない。(インドネシア高速鉄道について1月28日の香港紙South China Morning Postによるとネシ現地紙の報道では落札に伴う書類の不備で議会の承認が得られていないので着工は遅れるとのとのこと)問題はその先だが鉄道網ができても物流網がうまくできるとは限らない。アジアに安定なしといわれるくらいアジア各国の政情は不安定だ。さらに、中国の鉄道事業は大国営企業の合併により成り立っているが、鉄道建設投資は別の政府会計から出ている。かつての日本国鉄と同様いつの日か鉄道事業の大赤字が問題となるであろう。中国政府発表では2015年末中国鉄道の営業距離は1万9千キロで世界最長という。香港紙では鉄道敷設を行う中国鉄路工程総公司の下請けへの未払金が資金不足により2,500億元(約4.6兆円)に上ると伝えている。財政的には問題だが中国政府は一帯一路政策を掲げており鉄道網は必要なので採算は無視しても高速鉄道拡張は最優先事項となっている。

#物流とのドッキング
アジア各地に工業団地ができているが、そこへ部品などを供給したり製品を各地に運ぶなど物流サービスも多角化している。ドイツのDHL Global Forwardingはいくつもの地域に展開する企業は小ロットの荷物を頻繁に運ぶ需要が急増するとして、混載型のトラックの物流サービスを始めた。Singapore, Penang, Bangkok, Hanoi,深センを結ぶとしている。空輸より陸上輸送は安く、海上輸送より早い。

#アマゾンは物流業に進出するのか
通販の問題点は「再配達の負担減」「過疎地での配送網の構築」にある。このためライバルであっても手を握ることが起こる。ヤマトはフランス郵便機器会社ネオポストと合弁会社を設立した。ネオポストはフランスで250ヶ所のオープン型ロッカーを運営している。このknow-howを利用して日本国内に宅配ロッカーを設置しようとの目論見であろう。もちろんこのロッカーは佐川急便や日本郵便も利用可能だ。受け取り手不在の再配達は宅配業者の業績圧迫要因だ。ヤマトとLineの提携も同じ発想だし、佐川も同じことを実験中だが、ローソンと組んでコンビニ商品を佐川の宅配便とともに配送しようとしている、これに日本郵便も相乗りを狙っている。この流れの一環として日本国内の駅舎に宅配ロッカーを配備しようとの動きもある。
一方アマゾンは長距離の物流網、すなわち米中間の長距離輸送を自前で行うのではないかとの推測が流れている。中国商品が競争力のあるうちはよいがすでに多くの商品はアジア各地に製造拠点を移しつつあるのでこれもしばらく見守る必要がある。

#日本物流業の活躍は?
最近は物流関係のnewsが次々と新聞などを賑わせているが従来このようなことはあまりなかった。アマゾンの「プライムナウ」サービスが出ると楽天が「楽ビン」を出すと言った具合だ。何れも2時間以内とか最短では20分で届けるとしている。
これらの実現のためには物流倉庫、施設関連が必須となるが、大和ハウス、ビックカメラ、スタートトゥデイ、アマゾン、楽天と一斉にこの業界に参入し日本国内の物流施設はほとんどフル稼働といわれている。物流業はコストの大半は人件費で労働集約型でもあり物流業そのものの利益は極めて少ない。この中で各社とも知恵を絞ってアジア展開を進めている。
ヤマトの場合、沖縄に企業間物流拠点を設置し、アジア各国に翌日配送を狙っている。
楽天は楽天ボックスを全国に配備、荷物をそこで引き取れるようにしている。更にコンビニもこの業界に目をつけアマゾンとローソンが組みコンビニで再配達しないで取り置きサービスを開始した。いずれドローンの活用も実現するであろう。昨年末のアメリカでの商戦ではネット通販の客数が実在店舗の客数を上回ったという。そこで日本の物流業者のきめ細かいサービスがアジアでも期待される。
台湾からアジア各地に宅配サービスを展開してきたヤマトはマレーシアで同地の宅配2位のGD Expressと資本・業務提携を発表したが、佐川急便はベトナム南東部で大型物流施設を立ち上げるなど活発に動いている。更にヤマトはLineと提携し宅配便の配達予定を事前に知らせるとか荷物の受け取り時間とか場所を変更可能にするといった配達オペレーションの効率化にまで踏み込んでいる。
日本の物流会社の驚くべききめの細かさがアジアでどこまで生かせるか、中国流のfamily businessからアジア各地の華僑網を組み込んだ配送業との競争がこれから続く。

Previous post

いま、世界経済はニュー・アブノーマル

Next post

成長戦略を活かす「リスク・マネジメントと保険の手配」(その11) 海外債権保全対策