習政権のスタート

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3月から中国で新政権がスタートした。話題を呼んでいるのが、節約令と習夫妻の外遊だ。

1. 節約令

三公消費(公費での飲食、公用車の私用、公費旅行などが2012年の財政収入の10%に当たる)節約だが、公用車の私用や公費旅行はそんなに簡単には節約できないであろう。目下騒がれているのは公費での飲食だ。「公務は事務所で行い、レストランで公務を行う習慣を改めよう」として節約の励行と浪費の排除を謳っていたが、中国商務部とか国家旅遊局は中国式宴会での食べ残しを改めようと少し主旨が変わりつつある。実際に北京では一人当たり5・6万円はかかる豪華な宴会が行われていたようで、すべての人民が貧乏な時代は役人の特権として見られていたが、人民が少し豊かになると明らかに度を越えた浪費として糾弾されるようになったのだろう。2月の段階で習近平は公費による浪費を排除すべきと指示していたが、盛大な宴会の続く春節の時期に北京、上海等大都会の高級中華料理店が節約令によって大打撃を受け売上は20%減とも報じられている。(北京ダックの有名店、全聚徳は今年1~6月の純益は前年同期比10~40%減と発表している。客数減は接待以外に鳥インフルエンザの影響もあると思われる)更に高級食材、高級酒なども売れず困っているようだ。公費での飲食が如何に多いかと驚く前に、浪費による内需にメスを入れ、“水増しのない確実な成長を”と政府も軌道修正に躍起となっている。中国全体で食品廃棄物は年間5千万トン、年間穀物生産量の10%にも上るとして、豪華宴会でなく普通宴会に、宴会での食べ残しは持ち帰るように、などと指示している。ところが従来から役人の役得であった宴会がそう簡単に消えるわけもない。最初は高級酒を避けていたが、特例でワインは良いとの噂で面会が難しかった政府関係者もランチやディナーに出てくるようになり、北京等で各地方政府が持っている住居地区にある接待所は連日満員とのことだ。更に地方政府は政府庁舎の中に豪華な宴会場を造りそこで宴会を行いだしたという。三公消費抑制は簡単には実現できない。(中国財政部発表の今年度の中央本級(中央各部門)の三公経費予算は約80億元、公務出張費は21億3600万元=前年比2900万元減少、公用車購入・運用費は43億9900万元=前年比3300万元減、公務接待費14億3400万元=前年比6400万元減となっており前年から1億2600万元の減少としており、公務接待費縮小が世論の高い評価を受けているとしているが、この程度の削減でお茶を濁すつもりと見える)一方、公用車については従来から軍の車が交通ルール無視とかトールチャージを払わないといった横暴ぶりが問題となっていたが香港紙によると中央軍事委員会はベンツなどの高級車に軍のナンバープレートを付けることを禁止、新たに偽造防止策を施したナンバープレートを交付すると報じられているがいかにも姑息だ。

2. 習夫妻の外遊

習政権発足後、初の海外訪問はRussiaから始まりTanzania、South Africa、Congoと続いた。中国内メデイアは外遊の成果を中国の世界的地位の向上として連日報道した。特にアフリカの資源と引き換えに中国製の衣料、家電製品などの新市場としての期待を報道した(海外では好意的な見方は少なく、資源と引き換えに安い製品の輸出先の開拓と過剰な資金援助を問題としている。ナイジェリアの中央銀行のサヌシ総裁は中国の過剰な輸出がアフリカの現地での産業育成を阻んでいる。中国は一次産品をとり、工業製品を売るという植民地主義の本質を実行していると英紙に憤懣を語っている。香港紙South China Morning Postでは外遊の成果とともに北京政府をneo-colonialistと批判する見方も紹介している。)
更に、夫人についても過熱気味だが詳細に報道した。従来の首席夫人はいかにも人民服の似合いそうな中国共産党の申し子のようないでたちであったのに比べれば、確かに中国有数のかつ国内で知名度抜群の芸能人なので中国人にしてみればわが人民の誇りと考えることもうなずける。また夫人のcoats, scarf更にhandbagなどすべて中国製で中国のファション産業も大いに自信を持つべきだとメデイアも興奮気味だ。どこの製品で既にすべて売り切れたと言った記事がでた為か上海の株式市場でもアパレル銘柄が一斉に値上がりした。蒋介石夫人の宋美齢以来の中国を代表する主席夫人だと持ち上げているが、共産党と敵対した国民党のトップと比較されるのも不思議な話だ。
実際に夫人は習近平より国内では有名人だ。ソプラノ歌手ではあるが人民解放軍総政治部歌舞団所属の芸術学院院長であり解放軍の少将でもある。この点が中国の面白いところだが中国の芸能人はすべて解放軍に属している。公務員芸人は共産党のプロパガンダが主たる目的で各地で活躍している。写真で見る習夫人はすらりとした体型だが目つきは確かに軍人のように鋭い。
外交面では北京でフランスのHollande大統領と仏企業代表団と会談し、Airbusなどの大型商談をまとめた。先進国側の初めての代表団だが、いかに仏社会党出身の大統領と言えダライラマと会談したイギリス首相へのあてつけのような気がする。イギリス首相は結局訪中を取りやめたようだ。メデイアはすべて共産党の指導に従って記事を書いているが、面白いのはHollande大統領と夫人のValerie Trierweilerさんが北京到着時の時だ。習夫妻が出迎え最高の儀礼で迎えた。中央テレビ(CCTV)はTrierweilerと名前だけで夫人とかタイトルを付けずに報道したようだ。その後も盛んに仏/中の戦略的友好関係を報じたがHollandeの名前ばかりで夫人には一切触れていないようであった。実際には正式に結婚はしていないが既に実質夫人なので夫人とするのが中国以外では当然なのだろうが、細かく規定するのが如何にも共産党らしい。早速internetでも大騒ぎになったようだ。(China Dailyはpartner Valerie Trierweilerとしたが、いかにも共産党方式だ)

3. 先送りされた難題に挑む習政権

いくつもの難題があることは皆が認めるところだが海外では特に環境問題・格差問題が指摘される。何れも先送りされてきた問題だが、国民は金儲け第一でいずれの問題も最優先課題とは考えていないようだ。政府にappealしても強力な公安に押さえつけられてしまう。従ってトップは問題点の指摘だけで任期を終わってしまうであろう。かくしてその他の難題もあと10年先送りと見るべきであろう。香港紙の大公報(中国系で北京政府の宣伝活動を行っている)が4月18日付けの記事で習近平が北京でタクシーに乗り運転手と北京の大気汚染について話をし、下りる際に揮ごうまでしたという。この記事は大反響を呼んだが、その後一転して大公報は誤報であると説明した。共産党直轄の新華社も一旦報道は事実であると発表しその後、虚偽の報道と訂正した。大公報も新華社の命令には従わざるを得ないので誤報となったが、
おそらく共産党もあまりの騒ぎに強権をふるったのであろう。但し共産党のトップは習近平なのでどうも腑に落ちない。(香港紙では未だに真偽について議論されている)いずれにしても巨大な党組織と強大な官僚組織がある限り難題は永久に先送りとなろう。全国での地方・中央政府に対する不満はブログなどで全国に広がるので習政権は一方で綱紀粛清を謳うが、他方で既得権益集団たる富裕層、役人などの抵抗もあり問題の解決は簡単ではない。すべて先送りと見るべきであろう。

以上

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