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扉を閉ざす国々:移民受け入れの限度を計る

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老々介護の行く末
高齢者が高齢者を介護(老々介護)することが、日常の光景となった日本だが、いつまでこの状態も維持できるだろうか。破綻した悲惨な事例をすでに多数、見聞きしてきた。高齢化に関連する看護・介護の劣化は、全国いたるところで陰鬱に進行している。高齢者の多い地域の実態を体験してみると、明日は今日よりは良くならないことを肌身で感じる。デイケア・センターなどの建物は出来ても、介護に当たる人が集まらない、人材の定着が期待できないなどの話もよく聞く。それでも都市の施設はなんとかやっているが、地方へ行くほど実態は厳しい。

当選した東京都知事が、自ら母親の介護をした経験を選挙戦での武器としてきたが、国全体としてどこまでやっていけるのだろうか。人口自体が減少する過程で、高齢化はとどまることなく進行する。急速に高齢化する団塊の世代を誰が介護するのだろうか。そこに明るいイメージを描くことはきわめて難しい。

景気が上向き、有効求人倍率が上がっているということが報じられているが、手放しで喜べない。需要があっても人材の供給ができず、人手不足になっているだけの分野も多い。仕事はあっても、労働条件が厳しく、劣悪で応募者がいない。

すでに遅きに失したが、近未来の人材バランスのあり方を現実的に再設計する必要がある。最近の雇用制度をめぐる論議は、破綻を繕う程度にとどまっている。以前より状況が改善されるとはとても考えられない。

生きる喜びを感じうる社会は?
広く深いヴィジョンが政策立案者にないと、激動の未来を生き抜く構想は生まれない。医学や生命科学の進歩で、寿命だけが伸びても、人が生きる喜びを感じられない社会であってはならないはずだ。科学のあり方も問われている。これからの時代には、先を見通す洞察力と今までとは異なった視野が求められる。

問題の深刻化に伴い、医療、介護の一体改革、年金制度の再設計、外国人の受け入れ拡大など、いまさらのようなフレーズがメディアに上っているが、ここまできた以上、問題の本質を見据えた、そして少なくも次世代までは土台を変えないですむ制度設計が必要ではないか。外国人の受け入れ拡大についても、これまで成功しているとはいえないだけに、急速に変化しつつある世界の動向を見定めての慎重な検討が必要だ。

今回取り上げるのは、グローバル化と言われる時代にあって、まさに国境の扉を閉ざそうとするいくつかの国のいわばスナップショットである。日本はそこからなにを学ぶことができるだろうか。

影響大きいスイスの決定
ヨーロッパのほぼ中心に位置するスイスでは、2月9日、国が受け入れる移民数を制限するかを問う国民投票が実施された。結果は制限に賛成が50.3%と、わずかに反対を上回って可決された。およそ49.7%が反対投票した。スイスはEUにもEEAにも加盟していない。しかし、労働力の自由な移動を認める協定をEUと結んでいる。EU諸国の間ではシェンゲン協定というほぼ同様な取り決めがある。100を越えるEUや国別の協定を結び、なんとか財、サーヴィス、人、資本の移動に関して、EUの単一市場の方向をフォローしている。今回の国民投票は右派の国民党Swiss People’s Party が主導したものだが、国民投票の結果を受け、政府には3年以内に移民制限を法制化する義務が生じている。

スイスの人の動きを制限する動きには、EUは強い反対の意を表明しており、なんらかの対抗措置に出る可能性もある。スイス建国にまつわる伝説の英雄ウィリアム・テルがオーストリアの悪代官にとらえられ、息子の頭上に置かれた林檎を射落ぬくことを命じられ、見事に射抜いて悪代官に勝ったように、今回の国民投票は、図らずもEU本部を射抜いてしまったところがある。人の移動の自由化を高く掲げてきたEU本部にとっては、足下が揺らぎ始めた思いだろう。


スイスの人口は800万人、年間の純受け入れ移民はおよそ7万人である。人口に占める外国人比率は23%と、ヨーロッパではルクセンブルグに次ぐ高さである。スイス国内では近年移民の増加によって、家賃の上昇や交通渋滞、犯罪増加などがもたらされたとの反対が強まっていた。

スイスの経済は好調で、労働力不足が生じ、国外から精密工学など高度な技能を持つ労働者やスイス国民が働きたがらない土木、介護などの分野で働く労働者が増えていた。スイス人の仕事が外国人に取って代わられているとの指摘もある。スイスにある国際的企業は、外国人がいなかったら経営ができないと国外移転をほのめかし、外国人受け入れ反対派を牽制してきた。しかし、受け入れ反対派が急速に増えたのは、大量移民によってスイスとしての国のアイデンティティが失われるを怖れる人たちが増えたことが原因とされる。

今回の国民投票の結果はスイスのみならず、EU諸国へも影響を与えている。イギリス、フランスなどの移民反対を掲げる右翼政党は、スイスの結果を評価する声明を出している。移民受け入れ反対派は、かなり支持者を増やした。今後の動きには、十分な注意が必要だ。

不法移民を雇っていたイギリス移民担当相
スイスのこの動きと前後して、イギリスでは2月8日、移民担当相マーク・ハーパー氏が辞任した。イギリスではキャメロン首相が、同国はこれ以上移民を受け入れることはできないと、再三表明してきた。皮肉なことにハーパー氏は自宅で、不法移民をお手伝いに雇っていたということだった。内務大臣テレサ・メイは、ハーパー氏が閣内から去るのは残念だが「マーク(ハーパー)は素晴らしい閣僚でイギリスへの移民を大きく減らしたことは賞賛に値する」と、同僚を支持している。

ブログに記したこともあるが、ハーパー氏は昨年移民の多い地区で、不法滞在者に向けて「国へ帰れ、さもないと逮捕される」 ‘go home or face arrest’ という看板を掲げた車を走らせ、物議を醸した人物である。彼は労働者や使用人の採用に際しては、不法移民でないことを書類で十分チェックするようにと述べていただけに、「上手の手から水が漏れた」というべきだろうか。

同じような出来事は、これまでアメリカやイギリスでは、ローカル・レヴェルではたびたび起きており、そのつど当事者が釈明や辞任に追い込まれていた。こうした出来事は、不法滞在者を判別することがいかに難しいかということを示している。不法移民の側も、書類偽造、手術による指紋抹消、出身地など本人に関わる証拠を一切抹消してしまうなど、さまざまな対抗手段をとる。かつてアメリカ・メキシコ国境を越えて、入国した者の多くは、入国に必要な書類のみならず、自分や家族にかかわる公的書類などを一切保持していなかった。

手詰まりのオバマ移民対策
アメリカでは移民法改革が滞る中で、明らかになったことはオバマ政権の下では、不法移民の強制送還がきわめて多いというやや意外な事実である。昨年アメリカは入国に必要な書類を所持していない移民、369千人を強制送還したが、その数は20年前の数字の9倍にあたる。オバマ政権になってから、およそ200万人が強制送還された。昨年強制送還された者のおよそ3分の2は国境で摘発された者で、残りは国内で不法滞在者として摘発された者といわれる。こうした事実を反映してか、アメリカに不法入国を試みる者の数は減少している

人権擁護、民主化などの旗を高く掲げて当選したオバマ大統領だが、移民政策についてみると、共和党の反対でほとんど進行していない。とりわけ、国内に居住する1,170万人ともいわれる不法滞在者については、ほとんど対応できていない。共和党の強い反対もある。残された手段として、国境付近での取り締まりを強化し、不法入国を試みた者を次々と強制送還するということになっている。正確な統計数値がないが、不法移民が話題にされるようになってから、初めて流入が流出を下回った。

オバマ政権下で送還された不法移民の数は、政権発足以来すでに200万人近くに達していることが明らかにされている。農業、ホテル、レストランなどは、こうした不法移民の存在で支えられてきた。以前は国境パトロールは、ただパトロールするだけと揶揄されてきたこともあったが、最近では不法入国者を積極的に摘発し、強制送還するようになった。アメリカに両親に連れられ、不法入国した子供が成人して故国メキシコの親戚などに会いに出かけたが、アメリカへの再入国はできなくなったなどの例が多数報じられている。こうなると、人道的観点から寛容に扱われてきた家族の結合どころか切断になってしまう。

大統領が強制送還を決めているのではないかとの記者団の質問に、オバマ大統領は「自分はできない」と苦しい答弁を強いられている。
拘留センターのベッド数に比例?
オバマ政権が特に国境付近での不法移民の強制送還に重点を置きだしたのは、さまざまな理由がある。そのひとつに、不法に入国してきた外国人を一時拘留する施設 detention center が満杯で、収容する余裕がなくなったことも挙げられている。こうして拘留されている者の中には、犯罪者や母国を立証する資料がなにもなく、審査も送還も出来ないという者も多い。

アメリカでは、こうした拘留施設の一部を民間の経営に任せているが、その運営予算も限度があり、強制送還が増加しているのは、収容センターの状況を反映しているともいわれている。拘留センターは刑務所並みとはいわないまでも、高い塀と有刺鉄線などで拘留者が逃亡できないようになっている。

他方、野党の共和党は相変わらず国内に居住する1200万人ともいわれる不法移民への市民権付与には反対しており、オバマ政権は当初大きな公約としていた移民法改革を未だに実現できずにいる。

日本の選択は
さて、再び日本に戻る。中国、韓国など近隣諸国との関係が緊迫度を増し、最近では「鮫に囲まれた国」とまでいわれるようになった。難しい状況で国境管理は格段に厳しさを求められている。今の段階で国境の扉を開く政策はとりにくい。

他方、中国、韓国など周辺諸国では、人口圧力は高まり、大気汚染や格差拡大など生活環境も急速に悪化している。生活水準が相対的に高く、住みやすいといわれる日本に居住先を求める者も増えている。中国などの富裕者の資本逃避先にもなりつつあり、オリンピックを当て込んでの不動産投資なども増えてきたようだ。中国国内で巨富を蓄積するのは危ういとなれば、反日の国でも投資するというしたたかさだ。

他方、高齢化の加速で看護・介護などの人材への需要は高まるばかりだ。国内で充足できない以上、外国からの受け入れ拡大は選択肢としてあっても、現在の状況では欧米諸国とは違った意味で、国境管理は難しい課題を抱える。受け入れる対象国も厳しく限定される。やれることはなんでもやるというのは、政治家の決まり文句だが、国境管理の成否は、国の盛衰に関わる。移民受け入れをめぐる国民的議論を極力回避してきた日本だが、そのツケを払う時が近づいている。

References

“Europe watches Swiss immigration vote.” BBC News, 8 February 2014.

’Immigration minister resigns for employing illegal immigrant’ The Guardian February 8 2014.

’Barack Obama, deproter-in-chief’ , ‘The great expulsion’ The Ecomonist February 8 2014.

 

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