中国の物流(物流施設も過剰となるか)
元々中国には物流(logistics)という概念はなかった。そこで日本語の物流(ウーリュウ)をそのまま使うこととなった。日本でも物流業は「右から左にものを流す存在」くらいにしか認識されていなかったがここ数十年の物流業界の多角化により業界は「付加価値を持つサービス業」へと転換しつつある。
日本では商品の購入価格の決定の際は物流費込とされていて、メーカーも製品価格を下げるわけにもゆかず、まず物流費を下げるというのが一般的であった。あまり良い表現ではないがメーカーの社内では士農工商logisticsと物流が最下位の部門でもあった。
ところが巨大IT企業で巨大小売り業者でもあるアマゾンの物流業への参画とかネット通販の拡大など、ここにきて物流業も大きな曲がり角に差し掛かっている。
中国では従来型の製造業によるGDPの拡大が望めなくなりサービス業振興を政府は推進しようとしているが、元々物流業などがなくサービスの概念のないところでどのように展開してゆくのか注目したい。今回は中国物流業と通販に焦点を絞って見てみたい。
#まず自由貿易試験区で
広東省深セン市前海地区には自由貿易試験区があるが最近倉庫の需要が高いという。輸入商品を扱う「クロスボーダー直販店」が4軒あり低価格の輸入商品が購入できるといわれ多くの中国本土人が店を訪れるとのこと。これらの店の商品は保税区から出されることで関税は免除される。今年になって倉庫需要が急に増え現在では各倉庫とも満杯の由。保税区では倉庫施設の拡充に乗り出すとしているがこの保税区の総面積は狭く、倉庫施設はできても商品選別、配送などの倉庫機能は不完全とみられている。因みにこの地区に進出した企業は2万5,673社で金融業が大半だが、物流14.5%、情報サービス11.8%、ハイテク17.2%と地区政府は発表している。中央の動きに合わせた宣伝かもしれないがアリババの子会社も進出し前海地区でE-Commerce関連企業、物流企業の登記が増えているという。
#物流センターブーム
日本の総合物流大手の山九は北京、大連などいくつかの都市で物流センターを運営しているが昨年度は安徽省合肥市に次いで重慶市でも日系化学メーカーの配送センターの他、貨物の集荷活動も行うとしている。但し主として日系企業対象のようだ。
中国企業もこの分野に目をつけ、深センの華鵬飛現代物流は種々の家電製品をオンラインでつなげる事業を主体とする北京の博韓偉業の全株式を買収すると発表した。同社が長年培ってきたknow-howを活用しようとのことだろうが中国の場合1社がうまくゆくと全員参加となるのでいずれ物流センターの過剰も問題となるであろう。
当面は倉庫の建築・設営がいたるところで起こるとみられるが問題は、倉庫機能は日本でもどんどん発展しており、中国側がこれをcatch-upできるか否かが問題となろう。
#中国でも食品低温物流に
日本の乳業メーカーなどが長年アイスクリームの販売などで苦戦を余儀なくされていたのは食品の低温物流施設が中国になかったことだ。
日本の総合物流大手のセンコーが中国内での低温物流に乗り出すと手を挙げた。中国では沿海部の一部都市にしか低温物流網はなく、驚くべきことに生鮮食品も常温で運んでいる。正確な統計はないが野菜などの廃棄は20%以上と言われ、全体の廃棄量は1千万トン以上とされている。センコーの場合国有物流大手のシノトランス(中国外運、航空物流会社のシノトランスエアーが実際の合弁相手)と合弁し10年かけて上海空港に隣接した倉庫を建て同時に北京、成都、深センなどにも倉庫を持ち中国の主要都市を結ぶ低温物流網を築くとしている。かなり堅実な計画だが日本側は種々の温度管理法とか輸送車両の設計とかいろいろなknow-howの提供が必要となるが果たして中国側が受け入れるかどうかに問題がある。
一方中国政府も物流の中長期発展計画を決めたが、この背景は中国の物流コストが日米欧に比べ2倍以上との話もあり物流の効率化が必要となっている。そこで物流機能の高度化とか不足している物流施設の増設が必要で日本などの各社が施設開発に動いている。実際に三菱地所と三井物産が北京市政府の出資している北京建設と提携して物流施設開発事業に参画するとしている。
#中国通販事情
最近中国政府は国内消費が伸びていることを盛んに宣伝する。一方日本国内などでのいわゆる爆買いはいつまで続くのか議論が分かれている。アリババの馬会長は中間層=富裕層は3億人と言い出したのでこれが定説となりつつある。実際に貧富の格差の幅が日本では想像もつかない程大きいので共産党員の数から類推するより他ないが、8千8百万人以上の党員は確実に富裕層とみてよい。これを夫婦単位とすると1億8千万は富裕層とみなしてよいであろう。更に親類縁者もコネによって良い職が得られるので2億人以上の富裕層がいるとみてよいであろう。この中で上級幹部は最上級富裕層となっている。習政権は汚職退治を進めて居り「虎も蠅も叩く」としているが、これによって上級幹部の士気が低下していることも事実のようだ。むしろ窓口業務などの下層はchanceとばかり副収入稼ぎに励んでいるとも聞く。膨大な許認可の書類が動かなくなる怖れもあり、業者は若干の手数料と思って付け届けを払う。幹部も書類が動かないと困るので黙認するといった事態のようだ。一方、政府関係者とか国営企業職員は職場で住宅を割り当てられ、しかも市の中心部の好立地なので不動産のまた貸しによる収入とか上述の職権による副収入もあるので想像以上に富裕とみてよい。北京市発表の2014年の平均年収は10万3千元とのことだが、彼らが海外旅行に走り爆買いするのは当たり前のことであろう。爆買いについては内容をいまさら説明する必要はないであろうが、国産品は品質が悪く、海外製品は高品質という事情も知る必要がある。かつてアメリカでもimportedとした商品のほうが売れ行は良かったが、中国の場合確かに海外品のほうがはるかに高品質という感覚がしみわたっている。問題は長年にわたり中国は輸出中心経済で国内市場は高い関税障壁で守ってきた。中国人が海外で大量に買うのは元々親類縁者に配る(一種のミエでもあるが)習慣があることと、個人の輸入には関税がかからないことによる。(簡単に言えば転売により利益が出る)この点は政府も公式に認めているわけではないが税関職員の数からみても徴税は不可能であろう。
誰でもインターネットを通じて、あらゆる商品の情報が入るようになったので一挙に通販時代が到来したのが中国だ。政府は国内産業の保護に走るが、食品の例でも国産品の危険な事例も多く、民衆はやはり海外製品に目を向けることとなる。爆買いは「よいものが安く、偽物の心配もない」ということに尽きる。アリババが始めた通販は主要都市から農村に至る各地に根を張ったが、同時にこのアイデアをそっくり真似した通販が続々と登場している。いかにも中国らしいが競争の結果どうなるのか注目に値する。
#日本の流通業にchanceがあるのか
過去半世紀にわたり世界の物流で最大の変化は航空貨物の大幅な伸びによる物流業の革新であろう。現在世界の物流の大手は米UPS、米フェデックス、独ドイツポスト、オランダTNTなどが突出しているが彼らは国際宅配便の集配業務から中国事業に参入したと思われる。ところがヤマト運輸とか佐川急便も上記4強とは全く異なる方式で健闘している。この背景には台湾での成功例があるのではないかと思われる。実際に台湾ではクロネコやペリカン便の車が多い。台湾の物流も中国同様遅れていたのであろうが、自動仕分け機、バーコード、低温設備などを次々と入れて低温輸送網も作った。台湾の場合、日本の技術のcatch-upが実に早くこの点で中国への参入も台湾方式が参考になったのではないかと思う。
ヤマト運輸は宅急便の国際化を目指し中国ではまず上海地区から北京などを目指し、さらにインドなどアジア全域を目指すとしている。
一方佐川急便は中国国営の物流業者、日本商社などと組みヤマトより前に上海地区で宅配を展開、長い間の苦戦から一応上海地区では宅配事業の見通しが立った段階のようだ。
但しこの2社とも少額のlicense料、技術指導料では日本からの人員派遣によって赤字となってしまう。長い間苦戦が続いたものと思う。
佐川の場合、上海に次いで北京で北京住商佐川急便物流を設立したがベースカーゴとなるものがなく撤退したこともある。日本の大手スーパーなどは卸売業者やメーカーなどに受注後数時間で納品を確約させる。そこで大量の製品のピッキングを高速化する方法とか厳しい取引条件、仕入れ価格は物流費込でといった商習慣がコストを無視した過剰な物流サービス生んでいるともいえる。製造業の労働生産性は高いのに日本の労働生産性の低さは卸・小売り・物流などサービス業の低い生産性が問題だとされるが、配送単位の小口化、在庫の圧縮、商品の多様化の中で発注ロットは更に小口化し発注頻度が増えている中では日本式の過剰な物流サービスが脚光を浴びているとの見方もできよう。冗長となるが、過剰な物流サービスは日本独特の卸商の発明でもある。中間卸排除で卸は不要となりつつあったが米国流の倉庫の自動化、食品配送センターの構築、小口仕分けなどスーパーの要求を飲み込みいまや物流業となっている。
中国の場合、通販がいよいよ拡大しつつある中で、世界の大物流業者と更には日本の大手物流と対抗してどのような策を打つのかこれからが見ものだ。あらゆる物流業が参入してアジアに展開している。次稿でこれに触れてみたい。