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終わりの始まり(3):EU難民問題の行方

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今回の国連総会は、世界が次第に多くの面で、復元不可能な荒廃する局面へと移行していることを思わせる問題を提起したようだ。国連は持続可能な世界の構想を提示しているが、現実は違った方向に進んで行きそうだ。その象徴的問題は、いうまでもなくシリア難民に代表される難民問題である。国連総会の開催中に事態は急速に深刻化した。

EUなどに脱出したシリア難民はその数およそ400万人ともいわれるが、国内にとどまる難民は800万人に達しているとも推定されている(戦争前の人口は国連によると約2050万人)。世界で難民が生まれる原因はさまざまだが、近年の問題は、大量難民の発生である。原因はシリア、アフガニスタンなどにみられる内戦の激化に端を発する場合が多くなった。国内の対立勢力に事態を抑止、沈静化する能力が欠如してくると、国外の勢力がすかさず入り込む。

崩壊する国家と大国の責任
シリアの場合も、アメリカ、ロシアなどの大国が介入し、覇権を争う修羅場と化した。大変不幸なことは、シリア国民にはもはや自らの力で自国の戦火を鎮圧、復元する力がないことだ。国連はまったく無力に近く、きわめて憂慮すべき事態に陥っている。こうした当事者能力が欠如した状況では、軍事力の強大さが支配してしまうことが多い。

ウクライナに続き、強力な軍事力をもって領土を拡大しようと企てるプーチンのロシアは、過激派組織ISの制圧を理由に、アサド政権を支援し、ISの支配領域を空爆などで叩くと主張。他方、アメリカのオバマ大統領は国内の反政府勢力を支援し、アサド政権とISの双方を叩くことが必要だと主張してきた。地政学的状況から有利な立場に立つプーチンはアメリカを圧倒している。先日の両首脳会談でもロシアのプーチン首相はウクライナ紛争に続き、強弁をもって押し通し、対するオバマ大統領はかつて見せたことのないほどの苦渋の表情であった。シリア、アフガニスタンなどでの大国の戦争介入をめぐって、「プーチンの厚かましさ、オバマのうろたえ」と評する記事もある(‘Putin dares, Obama dithers’The Economist October 3rd 2015)。

なにより不幸なことは、精確さを究めたと豪語する大国の近代兵器が、絶えず誤爆を引き起こし、多数の市民や支援に当たる医療関係者などが犠牲になることだ。見るに堪えない無残な光景だ。あの世界の涙を誘ったアラン・クルディの幼い遺体がトルコの海岸に流れ着いた写真を見て、多くの人々がこれまでとは違った衝撃を受けた。これをただ傍観しているのは、政治家以前に人間性を問われる。閉ざされていた難民・移民への扉は、わずかながら開かれた。しかし、難民を生みだす発生源では、悲惨な光景が日夜続いている。こうした映像に人々は慣れてしまったのだろうか。

難民問題の「包括的解決条件」とは
近年、あまり例を見ない大量難民の実態について、これまで巧みな外交手腕でEUの難題を抑えこんできたドイツのアンゲラ・メルケル首相も、今回は事態の展開を読み違えたかもしれない。ドイツは、過去70年間、その過去を償うために多くのことをなしてきた。今回も普通のドイツ人が政治家に代わってシリア難民を歓迎する主導の役割を果している。すでに過去70年間、EUにやってくる難民の40%を受け入れている。今年は約80万人が庇護申請をすると考えられている。9月7日には、難民を受け入れてくれるドイツ人にメルケル首相は感謝の言葉を送っている。しかし、その後急増したドイツへの難民流入はメルケル首相の想定外だった。折しも今年は東西ドイツ統一25周年、首相を含めてドイツ国民の心情は複雑だろう。

こうした中で、メルケル首相は「加盟国間に障壁を張り巡らすことは解決ではない」と述べる一方、「包括的解決の条件はまだ整っていない」とも発言している。彼女のイメージする「包括的解決の条件」とはいかなる状況なのだろうか。

時間との競争
ヨーロッパに難民危機をもたらしているのは、EUの意志決定よりはるかに早く難民が移動してくることだ。トルコから南ドイツまではおよそ10日間で到着するといわれる。メルケル首相はトルコが事態緩和のひとつの拠点とみているようだ。資金をここに投入し、難民の収容施設、雇用機会などを生みだそうと考えているのだろう。しかし、トルコから戻ったばかりのトゥスクEU大統領(Donald Tusk, the president of the European council)は、「資金は大きな問題ではない。事態はわれわれが予想したほどたやすくない」と述べている。

EUの難民問題は、時間との勝負でもある。加盟国の政治家たちがそれぞれに自己主張を続けている間に、難民・移民は大挙して東から西へと移動している。あふれ出た流浪の民はどこへ向かうか。人道上の寛容さをもって、EU加盟国の信頼をつなぎ止めてきたメルケルのドイツも、このままではいられない。次の手をどこに打つか。残された時間は少ない。
References
”Germany ! Germany ! The Economist 12th 2015

“EU refugee summit in disarray as Tusk warns‘greatest tide yet to come’The Guardian September 24, 2015

A new spectacle for the masses. The Economist October 3rd 2015

★アジアの主要国は総じてEUの難民問題には関心度が低い。ロシアを別にすると、日本、中国、韓国、シンガポールはシリア難民受け入れに積極的発言をしていない。日本のように、資金は出しても、難民は厳しく制限して受け入れないという政策はいつまで続くだろうか。EUのトゥスク大統領の「資金は大きな問題ではない」との言葉の意味を良く考える必要がある。

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