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取締役の責任について ~東芝の教訓から~

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東芝の粉飾決算事件を教訓として、もう一度、取締役の責任とは何かを考えてみたいと思います。「取締役は、違法行為が社内で行われないよう内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである」という神戸製鋼所総会屋事件に関する神戸裁判所の見解(平成14年4月)は、取締役の責任としてそっくりそのまま東芝の粉飾決算事件に当てはまります。

 

9月30日の東芝の臨時株主総会を報道する同日の日経電子版の記事は、「室町社長は『第三者委員会の調査では不適切会計への関与は(室町氏自身は)ないと認定された』と強調」と述べています。
この室町社長の言葉は、彼が取締役の責任とはなにかという問題を全く理解していないことを示しています。ここでもう一度、取締役の責任とは何かを考えてみたいと思います。
そもそも東芝の第三者委員会の調査と調査結果はその委員会の構成、調査に要した時間、調査結果の内容などの点において極めて不十分なものであることは、企業法務に詳しい久保利英明弁護士(http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/072300045/)と内部統制に詳しい八田進二教授(青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科)をはじめとして多くの人が指摘しています(http://diamond.jp/articles/-/75932)。
 さらに、委員会の構成では4名のうち2名が東芝グループと利害関係のあったものであるとされています。具体的には、公認会計士の福留聡事務所によると、「伊藤大義会計士は有限責任監査法人トーマツ時代に東芝のグループ会社と監査以外(税務やコンサル)の業務で取引関係が存在しており、また丸の内総合法律事務所の松井秀樹弁護士は直前まで東芝連結子会社の顧問をしており、またこの法律事務所自体が東芝の訴訟代理人を努めたことがあり、また補助者であるデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、丸の内総合法律事務所はそれぞれ伊藤会計士、松井弁護士の元所属先、現所属先であり、利害関係がある、あった先であり、これでまともな調査は期待できない」としています(http://ameblo.jp/satoshifukudome/entry-12030328130.html)。
 極めつけは、この調査報告書の冒頭部分で、「本委員会の調査及び調査の結果は、東芝からの委嘱を受けて東芝のためだけに行われたものである。このため本員会の調査の結果は、第三者に依拠されることを予定しておらず、いかなる意味においても、本委員会は第三者に対して責任を負わない。」と断っていることです。
このような極めて不十分な東芝内部向けの調査で「不適切会計の関与はないと認定された」として取締役としての責任がないと思っている人が、どうして東芝の経営刷新を担うことができるのでしょうか。
仮に、第三者委員会の調査が十分で独立性のある東芝以外の第三者に対して責任をもってなされたものであっても、「不適切会計への関与はない」ということをもって取締役の責任を免れるものではないということは過去の企業不祥事件に関する裁判所の判断事例が示しています。
一例をあげると、神戸製鋼所事件です(神戸地裁平成14年4月5日和解・商事1626号52頁)。これは、取締役側が「敗訴的和解」をした事例で判決ではありませんが、和解に先立って神戸地裁が所見を示しています。
これは、神戸製鋼所の専務取締役が与党総会屋に対して金銭で謝礼を払った事件です。この件で、社長が、有効な内部統制システムを構築していなかったことについて責任を問われました。
これに関し、裁判所は、専務取締役の善管注意義務違反は明らかであるとした上で、「神戸製鋼所のような大企業の場合, 職務の分担が進んでいるため、他の取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実上不可能であるから、取締役は、違法行為が社内で行われないよう内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである。代表取締役社長は、トップとしての地位にありながら、このような内部統制システムの構築等を行わないで放置しており,社内においてなされた違法行為についてこれを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れることは相当でない」という意見を述べています。
これに対し、代表取締役は、内部統制システムを構築した旨主張しましたが, 裁判所は,「総会屋に対する利益供与が長期間にわたって継続され, 相当数の取締役・従業員が関与していたことから判断すると、内部統制システムが十分に機能していなかったものと言わざるをえない」と述べています
ここで重要な点は、「取締役は、違法行為が社内で行われないよう内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである」として、善管注意義務違反を認めた専務取締役以外の取締役一般の責任を指摘している点です。
「粉飾決算が長期間にわたって継続され、相当数の取締役・従業員が関与していたことから判断すると、内部統制システムが十分に機能していなかったものと言わざるをえない」と言いかえると、これはもうそっくりそのまま東芝の粉飾決算事件に当てはまる例です。従って、粉飾決算に直接関与しているか否かに拘わらず、粉飾決算を行っていた時期に取締役であった者はすべて責任を取って退くということが、東芝の経営刷新に必要不可欠であったはずです。
ここで書いていることは、室町社長にたいする個人批判ではありません。社会の公器としての会社に対する取締役の役割と責任についてその任にあるものが肝に銘じておくべきことを述べているだけです。東芝は優秀な技術とそれを支える技術者、従業員を持っております。その会社の価値を回復させ日本の社会経済に貢献するための責任は重大です。この責任を理解している者こそが経営刷新の要を担うべきであると思います。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより転載)
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