21世紀の黙示録(第4弾) ロボット兵器
総理官邸屋上に「ドローン」落下
4月22日、総理官邸屋上に小型の無人機「ドローン」が落下しているのが見つかった。
これに先立つ1月には、ホワイトハウスの敷地内でも墜落したドローンが見つかっている。日本ではこれまで、ロボットといえば、産業用や介護用などの、“平和目的”以外には余り注目されてこなかったが、今回の「ドローン」事件を契機に、テロや戦闘などにロボット兵器が登場しつつあることを思い知らされるのではないだろうか。本稿では、ロボット兵器が人類の未来を左右する存在になりつつある現状についてレポートしたい。
ヨハネの黙示録が示唆するロボット兵器
新約聖書には27の書が含まれるが、それらはイエス・キリストの生涯と言葉(福音と呼ばれる)、初代教会史の「使徒言行録」及び初代教会の指導者たちによって書かれた書簡に引き続き、ヨハネの黙示録がその最終章を飾っている。
最終章のヨハネの黙示録を除けば、これらの新約聖書の各書には“神の愛と慈しみの言葉”が散りばめられている。ヨハネの黙示録だけは例外的に、人類に対して次々に様々な“災い”が、「これでもか、これでもか」と降りかかってくる様相を描いているのだ。「ヨハネの黙示録をどう受け止めるか」、については、様々な説があるが、筆者は「人類の傲慢さを戒めるもの」だと理解している。
筆者がヨハネの黙示録の中で注目するのは、「悪霊イナゴ」の出現だ。これについて黙示録では次のように書いている。
「第五の御使いがラッパを吹き鳴らした。すると、私(ヨハネ)は一つの星が天から地上に落ちるのを見た。その星には底知れぬ穴を開くかぎが与えられた。その星が、底知れぬ穴を開くと、穴から大きな炉の煙のような煙が立ち上り、太陽も空も、この穴の煙によって暗くなった。その煙の中から、イナゴが地上に出て来た。彼らには、地のさそりの持つような力が与えられた。そして彼らは、地の草やすべての青草や、すべての木には害を加えないで、ただ、額に神の印を押されていない人間にだけ害を加えるように言い渡された。しかし、人間を殺すことは許されず、ただ五か月の間苦しめることだけが許された。その与えた苦痛は、さそりが人を刺したときのような苦痛であった。その期間には、人々は死を求めるが、どうしても見いだせず、死を願うが、死が彼らから逃げて行くのである。そのイナゴの形は、出陣の用意の整った馬に似ていた。頭に金の冠のようなものを着け、顔は人間の顔のようであった。また女の髪のような毛があり、歯は、獅子の歯のようであった。また、鉄の胸当てのような胸当てを着け、その翼の音は、多くの馬に引かれた戦車が、戦いに馳せつけるときの響きのようであった。そのうえ彼らは、サソリのような尾と針とを持っており、尾には、五か月間人間に害を加える力があった。」
筆者は、ヨハネの黙示に登場するこの悪霊イナゴは、なんだか今日急速に“進化”しつつあるロボット兵器のことを啓示・暗示しているように思えてならない。
アシモフ(SFの巨匠)の「ロボット工学の三原則」
アメリカの作家、生化学者であるアイザック・アシモフ(1920年 ~1992年)は、1950年に「わたしはロボット(I, Robot)」というロボットSFの古典的名作を発表した。この本は、アシモフの1939年(17歳)の処女作「ロビー」をはじめロボット物SF数編をまとめた人間とロボットの織りなす物語で、その舞台は、出版の時から100年以上も後の2050年の世界を想定・予測したものだったが、2015年の今日読んでみても、ロボットの“進化”予測がかなり的確であったことが肯ける。
「わたしはロボット」の粗筋はこうだ。
2003年、しゃべる可動ロボットを世に送った人類は、その50年後にはロボットに搭載されたポジトロン(陽電子)頭脳――アシモフが考えた“脳としての機能”を有する架空の技術装置――を持つ新しい読心ロボットを誕生させた。この新型ロボットは、人間自身よりも強くて信頼がおけ、しかも人間に絶対服従するという“すぐれた種族”だった。しかしロボットが人間に近づけば近づくほど、人間は「いつしか世界政治の主役はロボットにとって代わられるのでは?」と、ロボットに危惧の念を抱いていく。
今日の、ロボットの“進化”の様子を見れば、アシモフの危惧は、あながち的外れではないのではないだろうか。創世記によれば、神は御自分にかたどって「人」を創造されたという。神の人間創造を模倣するかのように、人間は自分になぞらえてロボットを作ったが、皮肉にも、人間は自らの科学技術の粋を集めて“創造”したロボットにより、神から与えられたこの「地球上の主役の座」を奪われるかもしれないのだ。
ロボットから世界政治の主役の座を奪われないために、アシモフは、同書の中で、SFの視点から、以下のような「ロボット工学の三原則」をまとめ発表したが、このことをめぐり既に半世紀以上も前から、ロボットと人間の共存に関する論議が出現したのだ。
・ 第一条: ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・ 第二条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・ 第三条: ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
アシモフは、「ロボット工学の三原則」により、技術の粋ともいうべきロボットに厳格な倫理性を与え、あくまでも“人間尊重の技術”であるべきことを宣言した。しかし、今日急速に発展しつつあるロボット兵器は、アシモフの理想を裏切り、人間――ゲリラや敵兵のみならず、民間人までも――をまるで狩猟の獲物のように追い回し、殺戮するようになりつつある。ロボットは、火薬、核兵器に次ぐ第3の軍事革命といわれる。ロボット兵器は今後、我々が予期もできないような空恐ろしい進化・発展を遂げる可能性が高いと思われる。本稿においては、ヨハネの黙示録に登場する悪霊イナゴさながらに、人類に“災い”をもたらす可能性のあるロボット兵器について書いて見たい。
命の価値とロボット兵器
今日、先進国の軍隊では、命の価値がハイパーインフレ状態で高騰しつつある。日本では、第二次世界大戦においては、人命は“赤紙(召集令状)”一枚に等しく、戦争末期においては、多くの若者が文字通り“必死”の覚悟で、様々な特別攻撃隊員として国に殉じた。散華した陸・海軍兵士の数は14,000名以上に上るといわれる。
そんな日本が、敗戦から70年を経た今日では、自衛隊員の命の価値が高騰しているようだ。自民・公明両党は、集団的自衛権の行使を含め、自衛隊の海外での活動を拡大させる新たな安保法制の骨格について論議するなか、公明党は3つの原則の一つとしてわざわざ「自衛隊員の安全確保」求めた。
自衛隊は、1989年の冷戦終結による緊張緩和、及び1991年の初頭に勃発した湾岸戦争などを契機に、それまでの活動の枠を超えた積極的な国際貢献を求められるようになり、後方支援・復興支援、国際連合平和維持活動(PKO)、難民救援、国際緊急援助隊、海賊対処、遺棄化学兵器処理など多岐の任務で海外派遣されているが、戦闘に巻き込まれることもなく、また1人の戦死・殉職者も出していない。この理由は、日本政府が、いわゆる「PKO参加5原則」などに基づき、自衛隊が“危険な地域や任務”を引き受けることを拒否しているからにほかならない。もし、これまでに一人でも犠牲者が出ていたなら、自衛隊の海外派遣には、強いブレーキがかかっていたに違いない。
米兵の命の価値も超高価である。米国がベトナム戦争で敗退したのは、徴兵された兵士が戦死したことにより、米政府に対する反発と厭戦気分が高まったことが大きく作用したものと筆者は思う。
1993年には、ソマリアの内戦にPKO国連ソマリア活動のための多国籍軍として米軍が派遣された。この作戦中、モガディシュの戦闘において、米軍のMH-60 ブラックホークが撃墜されたが、搭乗していた米兵の遺体が裸にされ住民に引きずり回されるという悲惨な映像が米国のニュース番組で放映された。これに衝撃を受けたアメリカ国民の間で、撤退論が高まり、クリントン大統領は1994年にソマリアからの撤兵を決定した。また、クリントンはこの作戦の痛手によって、その後はPKOなどへの地上軍の派遣を渋り、ミサイルや航空機によるハイテク戦争への方向を推し進めることになった。
このように「命」が高騰する中、戦場で兵士の生命を守ることにつながるロボット兵器に注目が集まり、特に先進国の米国・英国などはもとより、「一人っ子政策」を堅持する中国などにおいて、その開発・装備化が“指数関数的”に加速されている。
ロボット兵器の代表例――プレデター
「無人機(UAV)革命」の“優等生”として、現在最も多用され、大きな成果を上げているロボット兵器は米国ジェネラル・アトミックス社製のMQ-1Bプレデター無人航空機(以下「プレデター機」とする)ではないだろうか。そもそも、プレデター(predator)とは生物学用語で、捕食者という意味だ。つまり、動いている生き物を捕まえて殺し、これを食べる生物全てがプレデターなのだ。小鳥やウサギなどを襲う鷹類、ヌーやシマウマを殺すライオン、蝶やセミを食べるカマキリなどがプレデターなのだ。これに対して生きた獲物を捕獲・殺害することなく、遺棄された死肉を食べるトビやハゲワシなどはスカベンジャーと区別される。
これらのプレデター(動物)が獲物を捕食するパターンは、プレデター機と類似しているが、なかでも同じように空を飛翔する鷹の例はこうだ。鷹は、空中を飛びながら鋭い目(視力)で食料となる獲物を捜索する。地上付近のウサギや鳩を発見すれば獲物に悟られないように追随・接近する。そして、射程圏上空に近付くと一気に急降下し、獲物に飛び掛って鋭い爪で捕獲し、匕首のような嘴で急所を噛み切って殺害する。
プレデター機は、自由に飛ぶ鷹とは違い、軍事・情報任務上から予めプログラミングされた経路に従い自動操縦で飛行する。4570メートルの中高度を時速130から165kmでゆっくりと飛翔しながらテロリストなどの目標を捜索する。低速でゆっくり飛べば飛ぶほど、まさに目標の発見・射殺には好都合なのだ。また、低速飛行をすれば、機体にかかる負荷も少なく、損傷の度合いも少ない。そのことが、プレデター機が、他の多くの有人航空機(有人飛行機は低速でも、時速333キロで飛行する必要がある)より、メンテナンスの手間・コストがかからない理由だ。また、他の多くのUAVは、プレデター機よりも低空を飛行しなければならないので、特有の芝刈機や雪上車のような騒音を発し敵に感付かれてしまうが、4570メートルの中高度を飛行するプレデターは、地上の人間には見えも聞こえもしない。鷹の羽音を聞き分けるウサギはいないのと同様だ。
鷹の「目」に当たるのが、機首部分に装備されたマルチ-スペクトラル・ターゲティング・システム(MTS)で、これは、カラーTVカメラ、赤外線カメラ、レーザー指示器などで構成されている。レーザー指示器は他の航空機が使用するレーザー誘導爆弾の誘導やプレデター機が運用するAGM-114ヘルファイア・ミサイルの誘導に使用される。
プレデターの「目」を通して実際にテロリストを捜索しているのは、アフガンやイラクから大西洋を越えて1万数千キロも離れた米本土の基地内の地上誘導ステーションに篭って、欧州経由で海底光ファイバー・ケーブルから人工衛星のパラボラ・アンテナを通じて遠隔操縦しているパイロットと2人のセンサー要員だ。プレデター機は、空中を飛行する無人航空機だが、実際にはサイバースペース(コンピュータやネットワークの中に広がる仮想情報世界)の中を漂う、巨大なシステムの中のごく一部に過ぎない。ちなみに、米空軍のプレデター機は450万ドルで、ステルス戦闘機F22の1機分の金額(約3億5000万ドル)で77機が買える。しかし、プレデター機の運用に関わる世界規模のITインフラをカウントすれば、莫大なコストがかかるのは事実だろう。
目標のテロリストなどを捕捉すれば、鷹の鋭い爪と嘴に相当するAGM-114ヘルファイア(2基)で攻撃する。ミサイルの発射ボタンは米本土の基地から遠隔操縦しているパイロットではなく、作戦戦域内の移動式現地司令センターの要員が押すのが基本である。ごく僅かだが、米本土のモニター画面に映る情報(僅かに遅れる)とプレデター機の位置にずれが生じ、照準が狂い命中精度が落ちる恐れがあるからだ。
プレデター機が米軍やCIAで好評な理由はなんだろうか。①米本土から1万数千キロ隔てて運用できること、②人命が政治を左右する米国で、無人であるため人的被害がないこと、③限りなく高騰する有人戦闘・爆撃機に比べコストが安く、パイロットの養成が比較的容易、④ターゲットの発見に引き続く攻撃がタイムリーに実施でき、その後の逃走が容易であることが挙げられる。④は、CIAが「人の手」により暗殺し、その後に逃走する困難性を考えれば分かりやすい。
一方、問題としては、多数の民間人が巻き添えになって死亡しているほか、人間を殺害する操縦手が心的外傷後ストレス障害を蒙ることが挙げられよう。
ロボット兵器の現状
ロボット兵器の代表例としてプレデターを紹介したが、ここでロボット兵器全般の現状について、簡単に述べる。
今日、米国、中国、ロシアなど覇権を争う国々や人口が少ないイスラエルなどでは、ロボット兵器開発・装備を促進している。特に世論に敏感な政治体制の米国・軍では、人命の損失(戦死)は政府の戦争指導・継続に大きな影響を与えるので、人命の損失を最小限に抑えられるロボット兵器にたいする期待が高まっている。2012年2月9日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、米国防省が保有する従来型の有人航空機は1万767機であるのに対し無人機は7494機で、全機数の約41%を占めるという。2005年にはこの比率が5%だったことを考えれば、ここ数年で急増しつつあることがわかる。以下、「プラットホームで分類したロボット兵器」と「攻撃用ロボット兵器」の順にその概要を紹介する。
☆ プラットホームで分類したロボット兵器の概要
ロボット兵器は、プラットホーム別に①UAV(Unmanned Air Vehicle:無人航空機)、②MAV(Micro Air Vehicle : 超小型無人機 )、③UGV(Unmanned Ground Vehicle:無人陸上車両)及び④UUV(Unmanned Underwater Vehicle:無人潜航艇)に大別される。
以下、米軍を例に取り説明する(「近未来最先端軍事テクノロジー」(http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams04/uav.html)から引用)。
① UAV(無人航空機)
UAVは、遠隔操縦又は高性能コンピュータを搭載し自律飛行を行う無人の航空機で、主に偵察・索敵・目標捜索・攻撃目標の選定・攻撃目標レーザー照射・弾着観測誘導・攻撃損害評価・重要エリアの監視・無線中継・合成開口レーダーによる戦場監視に運用する。国防省防衛高等研究計画局と国防航空偵察局(DARO)は、CIAと共同で空からの偵察任務を有人機に代わって行う無人偵察機の開発・導入を目指した「ティア計画」を推進し、目的別に中高度・高高度用の偵察用UAVを開発している。これらはURAVと呼ばれ、敵の領域を3次元的に偵察出来ることから、空軍のみならず陸軍・海軍・海兵隊でも導入され、世界各国の軍隊でもURAVによる偵察が主流となりつつある。 UAVは有人偵察機とは違い低コストで運用可能で、その特性を活かして長距離・長時間の滞空能力でリアルタイムの偵察活動を行うため、昼間用CCD内臓TVカメラ・FLIR(前方監視用赤外線装置)・TE-SAR(戦術滞空合成開口レーダー)等を搭載し目標領域の偵察監視活動を行う。 グローバル・ホークやプレデターなどが有名。
固定翼型のUAV以外にも垂直離着型の回転翼UAVも注目されている。VT-UAVと呼ばれ、場所を選ばず離着陸できることから、固定翼UAVと違い回収機及び着陸制御装置が必要ないため海軍の艦艇で運用できると期待されている。VT-UAVでは、ヘリコプター型やタグテッド・ファン型が開発されており米海兵隊でも都市型戦闘で運用する想定でVT-UAVを試験的に導入している。ベル社(米国)のイーグル・アイや シコルスキー社(米国)のサイファーⅡ、ドラゴン・ウォーリアなどがある。
② MAV(超小型無人機 )
MAVとは、近年の技術革新で発達が著しいナノテクノロジーと微小機械システムの分野に着目した米国防省防衛高等研究計画局が1990年代より研究を進めている超小型UAVのこと。MAVは、大きさ(翼幅)がおおよそ15~20cm以下、重量が10~100g程度で、滞空時間が1時間前後、飛行距離が約10kmで飛翔速度は秒速20m前後の飛翔体である。現在は研究段階だが、将来的に開発されれば超小型軽量なため個人兵士レベルでの携行が可能となり、極至近距離での偵察・前方監視・市街戦闘時の屋内捜索や迫撃砲等の着弾確認で使用することを想定。 その他の用途としてはNBC(核・生物・化学)兵器の汚染地域の情報収集、通信が困難な場所での無線中継、航空機パイロットの脱出時における救難信号と降下地点の状況把握手段等に用いられる。しかし、動力源の開発とペイロードの確保、天候に影響を受けやすい等の課題が残されている。
③ UGV(無人陸上車両)
UGVは、偵察能力ではUAVに劣るため、極至近距離の偵察にしか活用されないが、有人では危険が伴う地雷原処理作業やNBC汚染地域の情報収集や除去作業等に今後期待がもたれている。 この他にも拠点防衛用の攻撃用UGV等が提案されているが、敵味方識別方法等開発までには課題が多く実現性は低い。
プラットホームが車両ではないが、地上における物資輸送用として、ビッグドッグ(BigDog)という名前の四足歩行ロボットである。四足歩行の為、車輪では走行不能な地形を154kgの荷物を搭載したまま時速5.3kmで走り、35度の傾斜を登ることも出来る。また、駆け足で移動する事も可能。
④ UUV(無人潜航艇)
UUVは、遠隔操縦の有索UUVと高性能コンピュータによってあらかじめプログラミングされた海域及びコースを自律航行する無索UUVに大別出来る。 主に海上・海中の機雷掃海作業や海浜・港湾施設の偵察等に利用される。機雷処理作業には、機雷捜索用のUUVと機雷を処理するUUVの2種が存在し、現有の遠隔操縦の有索UUVとしては、米海軍の機雷偵察システムNMRSが実用化されている。また、次世代機雷偵察システムLMRSは完全な自律航行が可能で、潜水母艦から発進後はあらかじめ指定された海域の機雷捜索を行う。この新システムは現在建造中のヴァージニア級次期攻撃型原子力潜水艦で運用が開始される。
☆ 攻撃用ロボット兵器
今後、ロボット兵器には攻撃能力が付与されるのは当然の流れであろう。2001年のアフガニスタン空爆では米軍とCIAの共同作戦で、ヘルファイア空対地ミサイルで武装したプレデターが投入され、TVカメラで確認できた目標をただちに攻撃した事実は記憶に新しい。ロボット兵器に攻撃能力を付加するメリットは絶大で、将来的には主力兵器となる可能性すらある。 近未来の戦争では、攻撃型ロボット兵器同士の戦闘がメインとなり、人間は補助的な役割を担って、対UAVや対MAV戦闘に主眼が置かれる可能性すら考えられる。プラットホーム別に攻撃用ロボット兵器について述べる。
① UAV(無人航空機)タイプ
UAVの攻撃型は、米国防省防衛高等研究計画局のUCAV(無人戦闘航空機)計画として推進中で、1999年にはボーイング社が選定されている。ボーイング社のX-45A/B はスモールスケールの実験機が初飛行に成功しており、実用化の目途がついた。 米海軍はこれをヒントに独自のUCAV-N計画を推進中で、空母搭載システムの運用を想定しており、ボーイング社のX-46とノースロップ・グラマン社のX-47A ペガサスが候補に上っている。なお、2013年7月には、現在開発中のステルス無人攻撃機 X-47Bが初めて空母 ジョージ・H・W・ブッシュ への着艦に成功した。
② UUV(無人潜航艇)タイプ
米海軍が研究している攻撃型UUVは「MANTA」計画として、扁平な形状をした攻撃型無人潜行艇の開発を目指すものである。この攻撃型UUVは、搭載された潜水母艦から発進した後は、自律航行により目標海域沿岸の浅海・海浜の機雷や障害物を偵察・排除する能力のほか、将来は攻撃型の無人潜航艇が開発される見込みである。この攻撃型UUVは、敵国近くの海域で搭載された潜水母艦から発進・先行し、海底に潜んで敵の水上艦・潜水艦を待ち構えて攻撃する。しかし海底潜伏時の通信手段は海流・海水温に影響されやすく、仮に長大な通信用アンテナを曳航すれば漁網に引っかかる恐れがあり、人口衛星を介したアンテナの搭載が必須となる。また隠密性を第一とする海中戦においては、いかに敵味方の識別を行うかも大きな課題となってくる。攻撃型UUVの本格的な開発は、搭載潜水母艦と同時並行に行う必要があるので、開発完了は早くても2050年頃と見込まれている。
③ MAV(超小型無人機 )タイプ
MAVの開発は米国防省防衛高等研究計画局が中心に行われているが、技術的課題が多いため民間企業や大学の研究機関等も参加している。このプロジェクトの一環として、将来的には攻撃型のMAVの開発も予定されており、その構想も明確になっている。超小型の攻撃型MAVは軽量化こそが最重要課題であるが、これには小動物や昆虫からヒントを得た極めて原始的な手法が採用されている。 また、攻撃型MAVには超小型超軽量のコンピュータを搭載し、蜂や蟻の様な「群知能」を持たせる集団的攻撃戦術も提案されている。いずれにせよ、近未来にMAVが実用化されれば、その攻撃型バージョンのMAVは画期的な武器となるだろう。
ロボット兵器についての未来・課題
人気SF映画シリーズ「ターミネーター」の5作目が7月に公開される。この映画では、人口知能“ジェニシス”の起動が、人類滅亡・「審判の日」と捉えられている。人間の知能をはるかに越える究極の人工知能(Artificial Intelligence :AI)は、人類の運命までも変える可能性があることを、この映画は示唆している。筆者も、ロボット兵器の未来や課題について大胆に論じて見たい。
☆ 人智を凌ぐAIの出現――人類の未来は明るいのか?
旧約聖書の創世記によれば、神は御自分にかたどって人を創造された。その人間が、今度は「人」をかたどってロボットを作った。人は神を越える事は絶対にできないが、ロボットが知識・知能の面で人を超えるのは間違いない事実だと思う。2045年にはAIが知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担う技術的特異点(Technological Singularity)が訪れるとする「2045年問題」を唱える未来研究学者もいる。技術的特異点とは、未来研究において、これまでの人類の技術開発の経験・歴史から正確に予測できる未来のモデルの限界を指す。強力なAIの出現や人間の知能強化が可能となる時が技術的特異点になると考えられている。未来研究学者達は、特異点の後の時代では科学技術の進歩を支配するのは人類ではなく強力なAIや“ポストヒューマン”(仮説上の未来の人種であり、その基本能力は現在の人類に比べて非常に優れていて、現代の感覚ではもはや人間とは呼べないものとされる)となり、従って人類の過去の傾向に基づいた変化の予測モデルは通用しなくなると考えている。コンピュータ技術が、今のペースで発達し続けるとある時点で、人類の知能を超え、強力なAIが誕生するという。そして、そのAIが、更に自分よりも優秀なAIを開発し、更にそのAIがもっと優秀なAIを開発するというスパイラルを繰り返すというのだ。
こんな強力なAIを組み込んだロボット兵器が出現すれば人類世界はどうなるだろうか。
ロボット兵器が核兵器と違うのは、このように人知では計り知れない無限の可能性を持ち、「人」を支配下に置き、さらには“人類滅亡”さえも引き起こす可能性を持っている点だろう。究極のAIが誕生すれば、戦争におけるロボット兵器は言うに及ばず、将軍たちの戦略・戦術の状況判断・指揮はもとより、さらには総理大臣・大統領による開戦可否の判断を含む政治・外交戦略までも“指南する”時代が来るかもしれない。企業の生産現場から戦場、果ては政治・外交までAIロボットがやるようになれば、一体人間は何をやれば良いというのか。2011年には世界の人口は70億人を突破し更に急増を続けている。ロボットに職を奪われ、リストラされた人類の展望を思うと暗澹たる気持ちになる。人間は抜き差しならない大きな問題を突きつけられているのだ。
☆ ロボット兵器の倫理問題
「ロボットが人間の生死を決定する権限を持っていいのか」という問題がある。ロボットが人間を殺すかどうかを決めるのは、倫理問題上許されるのか、という主張がある。やはり「生殺」については、最終的には人間が決心をすべきであるという論である。ロボット兵器の進化は、人間の判断を介さない無秩序な殺りくを引き起こしかねないという懸念が高まっている。
これに対しては、こう反論する向きもある。すなわち、戦争で起こる人殺しそのものが倫理には適わず、不条理なことだ、と。鉄砲で、爆弾で、サリン、原・水爆で「人が人を殺す事」は倫理に適合するはずがない。戦争とはそんな不条理なものなのだ。だから、ロボット兵器による殺傷のみをあげつらう事は意味を成さない。ロボットによる殺人は、人間の意思・判断に基づく「初期設定」が当初なされており、初期の段階で「人間による判断」がインプットされているのだ、と主張する向きもあろう。いずれにせよ、ロボット兵器の倫理問題は、今後その“人類に対する深刻な脅威”が明らかになるにつれ、論議が高まる事は必至だろう。
国際法上のルール作りを急ぐべきだ、との論もあるが、米・中・ロをはじめ、各国はそれぞれの思惑があり簡単には応じないだろう。各国は本来、「力は正義なり」を信奉し、軍事的必要性に従い、財政的な余裕があれば、際限なく軍拡に邁進したいのが本音であり、ルールなどに縛られたくはないはずだ。戦争や武器などに関する国際ルールに賛同するのは、①コスト(金・命)に照らし、得られる効果が釣り合わない場合、②「核拡散防止条約」の例のように既得権益を確保する場合、③ウエストファリア条約のように、実際に戦争を行ってコストを贖い、その“馬鹿さ加減”を痛感し、仕方なく“妥協”する場合、④人権・人道の観点からの“禁じ手”を作ったほうが良いと判断する場合、などが考えられる。このような観点から見て、ロボット兵器の国際ルール作りにはまだしばらく時間がかかると思われる。
☆ 紛争の敷居はどう変わるか
この問題に関しては、①「米国対タリバン」のようにロボット兵器大国とロボット兵器を持たない国の紛争(非対称)モデルと、②「米国対中国」のようにロボット兵器を十分に装備した同士の紛争(対称)モデルの二つのケースが考えられる。
「非対称」モデルでは、紛争の敷居が低下し、前述のようにワンサイドゲームで、「人間狩り」の様相を呈するだろう。その意味で、近く実施される予定の米国主導によるイスラム国攻撃の成り行きが注目される。
「対称」モデルでは、初期のロボット兵器主体の応酬でも、ただちにエスカレートして本格的な全面戦争に至る可能性が高いので、紛争の敷居は変わらない、と思われる。一方では、相互に「ロボット兵器による戦いを“前哨戦”と位置付け、その成り行きで“本格戦争”を実施するかどうかを決める」という“暗黙の了解”が成立するならば、紛争の敷居は下がる可能性もあるだろう。
日本のロボット兵器開発の現状
☆ 戦略的イノベーション創造プログラム(以下SIP)
日本政府の、ロボット関連施策の取組については、日本再興戦略、科学技術イノベーション総合戦略(平成25年閣議決定)に基づき、SIPを創設された。SIPは、総合科学技術・イノベーション会議(以下「イノベ会議」)が司令塔となり、府省の枠を超え、基礎研究から実用化・事業化までをも見据えた研究開発を推進し、イノベーションを実現する。予算としては、内閣府計上の科学技術イノベーション創造推進費を創設し、国家的・経済的重要性等の観点からイノベ会議が課題とPD(プログラムディレクター)を決め、進捗を毎年度評価して機動的に予算を配分する。
☆ SIPが追求する3個の技術課題
SIPとして、決定された3個の技術課題・概要は以下の通り。なお、これらについては軍事・防衛に関わる具体的な記述は一切ない。
① インフラ維持管理・更新・マネジメント技術
本課題では、インフラ老朽化による事故を未然に防ぎ、予防保全によるライフサイクルコストの最小化を実現するために、新技術を活用しシステム化されたインフラマネジメントの実現を目指す。その中で、効率的・効果的な点検・診断を行う維持管理・補修ロボットおよび危険な災害現場においても調査・施工が可能な災害対応ロボットを開発する。
② 次世代海洋資源調査技術
本課題では、海洋資源を高効率に調査する技術を世界に先駆けて確立し、海洋資源調査産業の創出を目指す。その中で、自律型無人探査機(AUV)の複数機同時運用手法、遠隔操作型無人探査機(ROV)の高効率海中作業システム等により、効果的かつ効率的に海洋資源を調査するシステムの開発を実施する。
③ 次世代農林水産業創造技術
本課題では、農政改革と一体的に革新的生産システム、新たな育種・植物保護、新機能開拓を実現し、新規就農者、農業・農村の所得の増大に寄与する。その中で、人工衛星等により得た、気象、作物生育等の情報を基に農作業管理を精密に自動化するスマート農業を実現するための研究開発を行う。
☆ 革新的研究開発推進プログラム(以下ImPACT)
上記の3課題を研究開発するための手法がImPACTと呼ばれる。ImPACTは、米国国防高等研究計画局の仕組みを参考とし、研究者に対してではなく、プロデューサーとして研究開発の企画・遂行・管理等の役割を担うプログラム・マネージャーに予算と権限を与える日本初の方式である。
☆ ロッボット技術研究開発――タフ・ロボティクス・チャレンジ(以下TRC)
ロッボット技術に関しては、イノベ会議が承認したImPACTプログラムとして東北大学大学院情報科学研究科の田所教授をプログラム・マネージャーとするTRCが昨年12月から始動している。内閣府(科学技術・イノベーション担当)によれば、この研究開発プログラムは、「未知で状況が刻一刻と変化する極限災害環境であっても、へこたれず、タフに仕事ができる遠隔自律ロボットの実現を目指して、屋外ロボットのキー基盤技術を競争的環境下で研究開発し、未来の高度な屋外ロボットサービス事業の開拓への礎を築く」としている。ここでも、軍事・国防に関する記述は一切ない。
☆ 軍事・国防用ロボット技術開発――防衛省技術研究本部主導
我が国における、軍事・国防用ロボット技術開発は防衛省技術研究本部(以下技本)が主導している。技本は基本的には、政府レベルの技術開発のTRCで生み出すロボット技術を利用し、①隊員の被害を極力ゼロに抑えるためのゼロカジュアリティ装備品開発、②ソフトウェア技術を活用したロボットの多目的化及び協力化、さらには③モジュール化技術を利用したハードウェアの多機能対応化等の実現を目指している。研究開発が検討されているロボットとしては、①大規模災害が起きた際に水中や空中から長時間監視可能な偵察型無人機、②対テロ、ゲリコマ対処に必要な情報を収集するための中域偵察監視用無人機、③隊員に代わり荷物や装備品を運ぶ多脚型ロボット、そして④隊員に代わり危険な任務を担うヒューマノイド型ロボットなどが計画されている。
また、今後のロボット開発に必要な技術としては、①遠隔操作無しの状況でロボットが稼働可能な自律移動能力技術、②ロボット間での連携強化、ロボットと隊員間の連携強化を図るための群制御技術、さらには③戦車、航空機等のプラットフォームの火器に加え、無人機や偵察衛星等の多様なセンサーとの統合運用が行えるネットワーク化が掲げられている。
むすび――今も続く反戦左翼の残滓
5月8日付SankeiBizは、「軍事研究 曖昧路線続く東大」と題し、次のように報じている。
「安倍晋三政権が軍事研究をめぐる東京大学の迷走に頭を痛めている。政府は大学の軍事研究の有効活用を目指す国家安全保障戦略を閣議決定済みで、毎年800億円規模の交付金を東大に捻出している。このため、東大(当時・浜田純一総長)大学院情報理工学系研究科が昨年、軍事研究を解禁した。ところが、その後、曖昧な姿勢に転じ学内で混乱を引き起こしているのだ。政府予算獲得のため軍事研究に前向きな姿勢を示す一方、学内反対派の顔色も伺う必要性があり板挟みになったとみられる。4月に新総長に就任した五神(ごのかみ)真・前理学部長(57)も沈黙を守っており、東大のカバナンス(統治能力)欠如が浮き彫りになっている」
わが国の最高学府の東大が、戦後70年もこんな調子では、中国などとの熾烈な軍事技術開発において勝てるはずがない。また、同じ記事の中に、こんな気懸かりな記事もある。
「一方で、東大は3月、北京大(中国)、ケンブリッジ大(英国)、オーストラリア国立大の3校と全学規模で交流を深める「戦略的パートナーシップ」協定を相次いで締結。東大はこれまで、プリンストン大(米国)とのみ同様の協定を結んでいた。東大の軍事研究解禁に伴い、中国がデュアル・ユースの最先端技術を自国の軍事技術に利用する可能性もあるわけだ」
さらに、
更に、同じ記事によれば、次のような「頭脳流出」という残念な話まで登場する。
「世界の主要国が産学官軍の協力による安全保障分野の研究開発にしのぎを削る中、日本では国外への「頭脳流出」も目立つ。例えば東大では人型ロボットの開発を進めてきた研究者ら有志が2012年、肌が合わない東大を離れ、ベンチャー企業「シャフト」を立ち上げた。シャフトは13年11月、ロボット事業に意欲を示す米グーグルに買収され、翌12月には米国防総省国防高等研究計画局主催の災害救助ロボットコンテストの予選で、NASAなど強豪15チームを抑えトップの成績を収めた」
日本のロボット技術開発における、一刻も早い“総力体制”が待たれる。
(雑誌「丸」掲載記事)