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中国の軍事外交

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  • 砲艦外交から軍事外交の時代へ

マハンは「海洋国家の繁栄は、商品の生産、海運、植民地の連環する3要素によってもたらされ、『海軍力は商業の保護』のために存在する」と主張した。これら3要素のうち、商品のマーケットや資源の調達地としての植民地を有利な条件で利用するための手段として、砲艦外交がある。砲艦外交とは、外交交渉において軍艦などによる威嚇など軍事力の間接的な使用によって相手政府に国家意思を示し、また心理的な圧力をかけることで交渉を有利に進める外交政策をいう。中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入はその好例だろう。

ところで、植民地が消えてしまった今日では、示威的・圧力的な旧来の砲艦外交に代わり軍事外交が広く展開される傾向にある。軍事外交は、平時から軍事力をよりソフト・広範・狡猾に活用する外交手法である。筆者は、マハン時代の砲艦外交の発展形が今日の軍事外交だと理解している。

  • 中国は積極的に軍事外交を推進――その手段とその概要

以下述べるように、マハンの門徒である中国は、軍事外交を積極的に実施している。なかでも、中国海軍は、より先進的な戦力を活用して、軍事外交においても“尖兵”の役割を演じている。本稿では、海軍に留まらず、中国軍全体の軍事外交の取り組みについて紹介する。

① 駐在武官の相互派遣

2010 年時点で、中国は2少なくとも300 人の駐在武官を派遣し、100カ国以上で常駐体制を維持する一方、北京にも102 カ国の武官を受け入れている。

  • 軍事代表団(海軍艦船を含む)の相互訪問

高級軍人の相互訪問は、将校が国際の場に出る機会を増して視野を広め、中国の立場を諸外国に宣伝し、人脈の形成する機会を増やす。このことが外交関係強化につながる。中国海軍のアジア地域内外での寄港も、2002 年以降着実に増加している。

③ 軍部隊・軍事基地・軍事演習の公開

中国は、実戦部隊ではなく、特定の「ショーケース部隊」を活用。中国軍は、近代化が進むにつれ、軍の実力・威信を内外に顕示する方針に変換しつつある。

④ 軍事留学・軍事学術交流

現在、中国では19の軍学校が、米国やロシアなど25カ国の軍学校と交流し、1,000名余りの軍事留学生を派遣。解放軍内の軍学校の研修員が、卒業前に外国に研修旅行に出る機会も増大しており、2004年には、100名近い師団・旅団の主管級幹部が、初めて4グループに分かれてアルゼンチンとベネズエラ、スイスなど8カ国に研修旅行のためそれぞれ派遣された。また同年には、国防大学戦略課程、南京・西安政治学院、空軍指揮学院軍政指導班などの研修員600名近くが、オーストラリア、フランス、日本、韓国、英国、米国などに研修に派遣されている。

  • 連合演習の実施

人民解放軍が参加する、対テロリズム、機動作戦、兵站等の分野での二国間・多国間軍

事演習の数が増加している。中国はこれまでに、ロシア、インド、パキスタン、タイ、シンガポール、オーストラリアとの間で二国間演習を、また上海協力機構との間およびパキスタン主催の演習「アマン」への参加諸国との間で多国間演習を実施した。海軍は、オーストラリア、英国、インド、パキスタン、日本、ニュージーランド、ロシア、ベトナムなどの海軍との間で日常的に捜索救難演習を実施している。中国海軍は2014年6月30日~8月1日の間、米海軍が主催してハワイ沖で行っている環太平洋合同演習(リムパック)に初めて参加した。

  •  平和維持活動(PKO)などの実施

2012年4月末現在2,006名のPKO要員を世界各地に派遣しており、その数は116ヶ国中で16位となっている。これは、国連安全保障理事会の常任理事国5か国の中では、最多。また、2014年国連平和維持活動(PKO)予算分担率は6.6%(日本は10.8%)。

中国が2000年代に入ってから積極的にPKOを推進するようになった背景は、中国が常任理事国として影響を行使できる国連主導のPKOが、米国主導のNATOなどの多国籍軍による紛争解決方法に取って替わられる可能性に危機感を抱いたからだ。また、目覚ましい経済成長を遂げている中国が、“大国”としての責任を果たすことにより、国際社会でより確固たる地位を確保したい、という意図もある。とりわけ、胡錦涛主席が2004 年に「新しい歴史的使命」を宣言してから、PKOへの積極参加方針が確定した。

  • 人道支援・災害救援活動の実施

中国の国際人道支援・災害救援への関与の目的は、PKO と同様に、中国の軍事的発展・近代化が建設的な側面を持つと同時に、責任あるグローバルな大国としてのイメージを世界に印象付けることだ。人民解放軍は、過去10 年にわたり国際人道支援・災害救援ミッションへの参加を着実に増やしてきた。大型水陸両用船、新たな病院船、長距離輸送機、兵站への投資が、このミッションを可能にした。2002 年以来、中国軍は、中国直近地域の14 の国と2010 年1 月の地震後のハイチで少なくとも13 の緊急救助活動に貢献した。

  • 武器供与・売却

中国は、外交関係を強化しかつ外貨を稼ぐために、武器売却を実施している。米国やロシアなどに比べ、小型武器と弾薬の比重がより大きいものの、先進的兵器システムの共同開発や譲渡も含まれる。発展途上故国にとって、中国の武器は安価で、また米国などと比べて政治的制約が少ないのが魅力で、主たる顧客になっている。中国は、2005~2010年に、約110億ドル相当の通常兵器を世界全体で売却した。パキスタンは、依然として中国の通常兵器の第一の“お得意さん”。

 

(おやばとより)

 

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