Home»連 載»やたがらすの眼»中国の南太平洋島嶼国への接近

中国の南太平洋島嶼国への接近

2
Shares
Pinterest Google+

 中国の南太平洋島嶼への接近・工作
中国は、米軍の太平洋正面の包囲環(第一列島線と第二列島線)を打通(突破)する努力と並行して、第一・二列島線の側面・背後に広がる南太平洋の島嶼国家(パラオ、マーシャル諸島、ナウル、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、フィジー、サモア、パプア・ニューギニア、キリバス、バヌアツ、ミクロネシア連邦)に接近・工作している。
中国の南太平洋島嶼への接近・工作の目的は、①米国・米軍の太平洋正面の中国に対する包囲環(第一列島線と第二列島線)の打破、②中国沿岸地帯の経済中枢を防衛するためのバッファーゾーンの拡張、③米国の対中軍事拠点のグアムの無力化、④米国とオーストラリアの分断、および⑤南米航路のシーレーンの防衛などが考えられる。
① と②は説明の要もあるまい。③、④、⑤について簡単に説明しよう。

 米国の対中軍事拠点のグアムの無力化
中国にとっての、南太平洋島嶼の価値は第一にこれらの島嶼が第一・第二列島線の南側面・背後に展開していることだ。第一・第二列島線を巡り中米の角逐が熾烈になれば、その南側面や背後に広がる南太平洋島嶼を中国が支配できれば、中米の戦略体制は中国が圧倒的に有利になる。沖縄の米海兵隊をグアムに移転させるなど、米軍はアジア太平洋重視戦略の中で、グアムを戦略拠点として一層拡充しようとしている。そんななかで、中国がグアムの南のパラオやミクロネシア連邦、さらにはグアムの背後(東側)のマーシャル諸島などを影響下に入れることになれば、グアムは孤立し、その戦略上の価値が失われることになる。

 米国とオーストラリアの分断
米国の対中国軍事戦略上、オーストラリアの戦略的価値が急浮上しつつあり、オバマ政権は、アジア太平洋地域での戦力強化の一環として、海兵隊のオーストラリア駐留を決定し、将来的には約2500人まで拡大する方針。中国が南太平洋島嶼地域を支配すれば米豪間を分断が達成できる。地政学のなせるわざか、はたまた、歴史は繰り返すというべきか、第二次世界大戦時に日本帝国は米豪を分断しオーストラリアを孤立させ、同国をイギリス連邦から脱落させる目的で「FS作戦」を実施しようとした。

 南米航路の防衛
中国海軍が守るべき、シーレーンは、中国を起点として①ユーラシア大陸沿いに北に回る北極海経由のヨーロッパ航路と②ユーラシア大陸を南に回るインド洋経由の中東航路、および③北米航路と④南米航路の4つ。
中国が南米航路を重視する理由は、第一に中南米諸国へのアクセスを確保すること。米国がインドに接近するように、中国は米国の“裏庭”と位置付けられる中南米諸国に接近するのが戦略の常道。また、南米航路の目的地のチリとペルーからは、銅など戦略資源を大量に輸入してる。2012年のチリの銅生産量は543万トンで、全世界の銅生産量の32.7%を占め、ペルー(7.8%)とあわせれば、約40%にも及ぶ。特に、チリは対中関係の発展において常に中南米諸国の先頭を歩んでおり、中国にとっては中南米地域における重要な協力パートナーの1つ。
南米航路は、第二次大戦前までは日本が神戸・横浜から移民輸送を主体に南米の沿岸諸港に向かう定期航路として使用していた。三井客船が所有し運航していた貨客船「あるぜんちな丸」などが、この航路に就航していた。

 南太平洋島嶼諸国をめぐる中台の外交戦
南太平洋島嶼国においては、中国と台湾の外交上の争いが繰り広げられてきた。台湾は、1971年に国連での中国代表の座を共産党政権の中国に奪われるという外交的敗北を喫して以来、自国の独立国としての存在を維持するため、国際政治のアクターになりにくい途上国、新興国、中小国に対して、主として経済的な援助を行うことにより友好関係、外交関係を構築する努力を進めた。現在、南太平洋島嶼国12カ国のうち半分の6カ国(キリバス、ソロモン諸島、ツバル、ナウル、パラオ、マーシャル諸島)が台湾と外交関係を結んでいます。一方の中国は、フィジー、サモア、パプア・ニューギニア、キリバス、バヌアツ、ミクロネシア連邦との外交関係を維持している。
世界の他の地域では大多数の国が中国と国交を結んでいる中、オセアニアでは台湾の健闘が目立っている。その背景には、同じ太平洋の島嶼国であるという地理的な共通要素に加え、マグロ・かつお等の漁業資源の確保といった、現実的な要因も存在するが、最大の要因は、国際社会において、台湾が独立した主権国家としての承認を得るために必要な支持国を必死で確保しようとしているためだ。米国は、台湾を通じて、中国の南太平洋島嶼諸国への勢力拡大を阻止しようとしている可能性がある。

 南太平洋島嶼国家に対する中国の軍事的な関与の現状
中国は西太平洋やオセアニアを巡る米国との覇権争いの一環として、引き続き南太平洋島嶼諸国への外交攻勢・工作を継続・強化する方針のようだが、未だ米軍に脅威を与えられる程の軍事的な基盤はない。現在の軍事的関与の概要は次の通り。
遠望型衛星追跡艦・南極観測支援船などの中国公船や海軍艦艇の南太平洋島嶼への寄港実績が増えている。中国が、南太平洋島嶼諸国で、重視して工作を実施しているのはフィジーだ。フィジーは、中国と南米に至る南米航路のほぼ中間付近にあり、同国とは1970年以来良好な関係を維持している。特に、2006年のクーデター以降は、これを主導したボレンゲ・バイニマラマ国軍司令官の軍事政権との間で、関係が深化しつつある。フィジー軍に対しては、工兵部隊に対して500万米ドルの無償援助を実施したほか、人民解放軍のマニュアルによって将校団の教育・訓練を推進し、フィジー軍の“中国化”が進んでいる。

(おやばと連載記事)

Previous post

10年後 その危機は何か?

Next post

終わりの始まり: EU難民問題の行方(13)