働き方改革と「脱時間賃金」論争考 (改)
はじめに 「1 億総活躍社会」と「働き方改革」政策の沿革
「働き方」の定義
政府主導の「働き方改革」の議論が盛んであるが、これまでの政策当局や労働審議会の議論においては、その定義が必ずしも明確でない。立法政策を論ずるには、まずその定義を明確にしておく必要がある。
私見によれば、「働き方」とは、三つの基本的生産要素(土地、労働、資本)の組み合わせ方を労働の側面からとらえたものである。それぞれの社会には、生産要素の固有の組み合わせ方があり、それは時代に応じて変化してゆくが、組み合わせ方を変えるのは容易ではない。これまでの論議では、「働き方」や労働時間と土地との関係が無視されている。
「働き方」(労働=所得選好)は「生き方」(余暇=余暇選好)の裏面である。「生き方」はその国の気候、風土、文化的伝統、宗教、習慣、制度、産業構造などによって形成される「生活様式」を反映する。戦災による住宅の消失・国土の破壊、飢餓からの脱出、戦後改革(とくに農地改革、家族制度の改革)、賃貸住宅の激減・持ち家志向の増大、戦後復興による急速な都市化と地価の上昇、通勤時間の延長などによって、生活様式は大きく変った。それに伴って、「働き方」も変わった。とくに、戦後復興に次ぐ高度経済成長、家庭電
化、モータリゼーションなどは、物質的生活水準の向上を優先させ、「猛烈社員」ムードを強め、終戦直後の飢餓状態を脱した後もなお残業時間・残業収入の拡大を織り込んだ「働き方」を定着させた。しかも、その傾向はブルーカラーのみならず、ホワイトカラー全体にも及んだ。その傾向は、ホワイトカラーが就業者の過半数を超えても変わらなかった。*
ここに、わが国の労働時間問題(とりわけ残業規制)問題解決の難しさがある…