政府に国家戦略室(局)があるのに 国家戦略がないのはなぜか ― 国家戦略構築の処方箋 ―
2011年1月31日
○ はじめに 民主党が政権に就いて、一昨年(2009年)9月18日、総理直属の機関として内 閣官房に国家戦略担当大臣(国務大臣)が統括する「国家戦略室」が設置された。この 国家戦略室は、今後、政府の政策決定過程における政治主導の確立のために、「国家戦略 局」に格上げされる予定である。 昨年9月7日、わが国固有の領土である尖閣諸島の周辺で、中国漁船による警戒中の 海上保安庁・巡視船に対する体当たり衝突事案が発生し、これに端を発する一連の事態 が生起した。中国から仕掛けられたわが国の領海(領土)・主権に対する極めて意図的か つ野蛮な挑戦に対して、国民は、わが国政府による危機管理の成り行きを固唾を呑んで 見守った。しかしながら、結果は、国益を大きく損ない、国民の失望と怒りを買って、「外 交上の歴史的敗北」や「外交史に長く残る汚点」との批判を招いた。民主党政権は、政 治主導を高々と掲げながら、国家戦略を持ち合わせておらず、戦略的な問題解決の準備 ができていない、と断言せざるを得ない惨状を露呈したのである。 政権交代とともに、国家戦略室(局)を設置したものの、国家戦略がないのはなぜか ―、この問いは多くの国民が抱いた素朴な疑問に違いない。そして、わが国の戦略性を 高めるには一体どうしたらよいのか―、これもまた大きな課題として国民の意識を覚醒 させたのではなかろうか。