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習近平政権の安全保障戦略   ― 「一帯一路」と近海防御戦略 ―

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平成27年11月27日1400-1600

中国は一帯一路政策を掲げる一方で、南シナ海や東シナ海では、国際ルールを無視した一方的な領域拡張の動きを強引に進めている。このような中国の動きの背景には、どのような安全保障戦略があるのだろうか。

それを解明する一助として、公表された中国側の文献で述べられている内容について分析する。ただし、中国側の秘密とされる内部文書とは異なり、検閲を経た内容である。何らかの事実の歪曲や虚偽、隠ぺいが含まれているのは間違いない。

また、中国人民解放軍がその通り行動する、あるいは行動できることを保証するものでもない。しかし、公表された資料である以上、中国の一般国民にも周知することを前提としており、真実も含まれているであろう。そのような前提で、分析を進める。

 

1 中国人民解放軍の全般戦略配置と近年の動き

(1) 中国の全般戦略配置とその歴史的背景

中国は歴史的に、大陸国として、騎馬隊を阻止できる有力な地形障害の無い、北方平原からの騎馬遊牧民族の侵略に絶えず曝されてきた。歴史が下るほど、遊牧民族の王朝権力が優勢になり、遊牧民王朝の方が統治能力も高かった。特に清朝は遊牧諸民族の連合体が漢族を服属させ、中国史上最大の版図を築くことに成功した。

近現代の中国は、辛亥革命以降、清帝国を漢族が支配する国家に逆転することによって、遊牧民族の領土を植民地として支配する漢族中心の国家となった、現代中国の領土は、960万平方kmと、ほぼ米国と並ぶ、中国史上最大の版図となっている。

しかし、甘粛・四川・雲南の一部を含むチベット、青海省、新疆ウィグル自治区、内モンゴル自治区、東北地区など、領土の約3分の2は、人口の約7%しかいない少数民族の土地である。少数民族の土地に漢族の流入が激増し、中国政府は同化政策を強行している。このため、満族は同化されて約1千万人が全土に散在し、満語は死語となった。内モンゴルではモンゴル語は通じず、新疆ウィグルでは8割近くが漢族となり、チベットのラサでも青蔵鉄道開通以降漢族の流入が急増している。

半面、東トルキスタン独立運動のように、現代の人民中国にとり、少数民族問題、特にテロ対策と辺境国境地帯の防衛警備は重要な安全保障上の課題となっている。辺境地区に配置された瀋陽、蘭州、成都、広州の各軍区と人民武装警察は、特に少数民族地域対策のため、重点配置されており、対テロ、国境警備は人民武装警察と人民解放軍にとって重要な任務となっている。

このことは、2013年4月に発表された中国の『国防白書: 中国の武装力の多様な運用』でも、「3つの脅威」として、テロリズム、分裂主義、過激主義を挙げ、陸軍や公安国境警備部隊の任務として、国境警備・保安、テロ組織による破壊活動防止が列挙されていることでもうかがわれる。治安維持のための予算は国防予算よりも多いとも言われており、国内の治安維持問題の深刻さがうかがわれる。

八路軍を発祥とする人民解放軍は党の軍隊であり、「銃口から政権が生まれた」ため、党に対する軍の地位は伝統的に高い。軍種内では、陸軍が中心であり、各軍区は地上軍の組織である。

中国は、本質的には大陸国家だが、近代以降海洋国家としての性格がより重要性を増している。地政学的には、北アジア、中央アジア、南アジア、東南アジア、東アジアの5つの戦略正面がある(沈偉烈『地縁政治学概論』(国防大学出版社、二〇〇四年)、388頁)。なお、東アジア正面は海洋に面し、対台湾と対日正面に分かれる。

各戦略正面に応じて、7つの軍区、すなわち①対露・朝鮮半島正面に瀋陽軍区、②対イスラム・中央アジア正面に蘭州軍区、③対インド・チベット正面に成都軍区、④対東南アジア正面に広州軍区、⑤対台湾正面に南京軍区、⑥対日正面に斉南軍区、⑦首都防衛及び総予備として北京軍区が、それぞれ配置されている。

ただし、今年9月3日の「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70年記念式典」の際の、習近平中央軍事委員会主席の重要演説で表明された、30万人の兵力削減に基づき、7個の軍区が近い将来5-4個に統合再編される可能性は高い。その場合、司令部要員の一部は削減対象になるとみられる。

30万人の兵力削減の実態は不明だが、補給部隊など陸軍の一部、海空軍の自動化・無人化の推進などにより削減要員を捻出し、削減された兵員の主力を人民武装警察、海警局などの警備・治安部隊に転用する可能性もある。また、余った人件費を研究開発に投資し、先端的な軍事技術、装備の向上を図るものとみられる。

なお、陸軍は独立した指導組織を持たず、総部(総参謀部、総政治部、総后勤部、総装備部)が直接指導する。総部は陸軍の要員が主であった。しかし近年は、海空軍、第二砲兵(戦略ミサイル部隊、戦略核ミサイルと戦域・戦術通常弾頭ミサイル部隊を統括)の地位が向上し、総部にも陸軍以外の軍種の幹部が増加している。

(2) 近年における各海域の戦略的価値の変化

近代以降中国は、西洋列強による海からの侵略に怯えるようになる。特に、首都北京は海に近く、脆弱である。東海は、黄海・渤海、東シナ海、南シナ海の3海域からなる。それぞれに、北海艦隊、東海艦艇、南海艦隊が配置されている。

従来は、地政学的脆弱性、米韓軍、在日米軍が首都の近隣に展開しており、首都圏防衛の観点から、黄海正面の北海艦隊と、大陸反攻を封じ領土統一を果たすため武力行使も辞さないとしている台湾正面の東海艦隊を重視してきた。南海艦隊は、1970年頃までは、近くに大きな造船所もなく、比較的整備は遅れていた。

しかし1970年代以降、南シナ海でベトナム、その他の東南アジア諸国との島礁の領有をめぐり紛争が起こるようになると南海艦隊も重視されるようになった。特に近年、経済力が増大するとともに、海岸地域の都市部の防衛と、経済発展を支える貿易、特に原油輸入のためのシーレーン防衛の重要性が高まり、マラッカ海峡に通ずる南シナ海の防衛の重要性が相対的に高まっている。

また、海空軍力の増強近代化が進展し、海空軍、第二砲兵主体にシーレーン防衛態勢も強化されている。その表れとして米軍が見ている中国の戦略が、米空母打撃群に対し、中国沿岸から約3千キロ以内で領域支配能力を低下させてその接近を遅らせ、約1千カイリ以内の東シナ海、南シナ海への進出を阻止しようとする、接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area Denial: A2/AD)戦略である。

中国自らは、近海防御戦略と称して、ミサイルと地上配備の戦闘爆撃機などの威力圏を沿岸部に拡大し、その援護下で水上艦艇、潜水艦などのシーレーン防衛態勢を強化しようとしている。このように、中国の海洋戦略は、受動的な沿岸防御戦略から、積極防御思想に基づく近海防御戦略に転換しようとしている。

近海防御戦略では、3海洋正面の中で、中国の海上交易路、シーレーンが集中し、かつ水深が深く原潜の展開が可能で、敵対国が数多くの小国に分断された、南海正面、南海艦隊を重視している模様である。また習近平政権は「一帯一路」政策を掲げており、その海のシルクロードを守る、南シナ海正面は重要性を増している。それが、中国が国連海洋法条約に違反して、南沙諸島での岩礁埋め立て、滑走路増設などの強硬策に出た背景とみられる。

海域としてその次に重視されているとみられるのは、東シナ海正面と見られる。その理由は、①一帯一路の出発点となる後述する港湾群、都市群の翼側を在日米軍から守るため、及び②将来の台湾統一のための武力行使に際しての、武力による威嚇、台湾海峡の海上優勢確保、着上陸作戦支援、米空母の介入阻止などの目的のために、東シナ海が戦略的に重要正面であることにある。

尖閣諸島周辺空域での対日・対米航空先制を容易にするためとみられる、「防空識別圏」の一方的な設定、日中中間線付近での海底ガス田開発のための洋上施設の増設など、一連の中国の東シナ海支配拡大への動きが活発になっているのも、東シナ海重視の表れと言える。

海底ガス田の洋上施設には、対潜用ソナー、対空レーダ、ヘリと無人機の離発着場、通信傍受施設などの、軍事・諜報関連の施設を設置している可能性もある。

黄海正面は、朝鮮半島との連携が不可欠である。北朝鮮の反中姿勢と対露関係の強化への対応、北朝鮮内部の混乱などに備え、瀋陽軍区の地上軍の近代化、特に統合機動作戦能力を強化し、緊急時の迅速な対応、海空軍と連携した長距離機動作戦に備えている。また瀋陽軍区は、対露正面の抑止力としても依然重要である。

 

2 「一帯一路」政策とその隠された狙い

(1) 「一帯一路」政策の概要と中国の狙い

馮并著『”一帯一路”: グローバルな発展のための中国の論理』(中国出版集団、2015年)によれば、初めて「一帯一路」の概念が提唱されたのは、2013年9月の習近平主席のカザフスタン訪問時である。習近平主席は、欧州とアジアを東西に連接し、シルクロードを創ることを提唱した。

その協力内容として挙げられたのは、物流、貿易と投資、金融、エネルギー、食糧安全保障などの分野である。同年10月のインドネシア訪問時には、習近平は21世紀の海上のシルクロードの建設を提唱し、中国は「ASEAN諸国と中国が協力し合い、緊密な運命共同体を建設すること」を望んでいるとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提唱している。

2014年初めの習近平の欧州訪問時には、アジアと欧州の間で一大市場を建設することを目標として、人、企業、資金、技術の交流を深め、中国と欧州が世界経済のけん引役となることを提唱し、同年5月には、中国国内で中国対外友好協会に対し、陸と海のシルクロードの建設への協力を呼び掛けている。

このように、一帯一路は、表向きには、旅行、貿易、金融、エネルギー、食糧など、主に経済面での協力関係の強化が謳われている。その沿線の50カ国以上が参加に応じており、中国と沿線の諸国と地区が共に、共通の地政学的な経済的富裕の発展と、経済のグローバル化の推進に向けて、未だかつてない重大な理論が創造されたとしている。

また、当面の経済のグローバル化と地域経済の一体化が新たな段階に入り、中国の発展も経済が典型的な新常態に入っており、一帯一路をめぐり、中国のすべての新たな視点に立つシルクロード発展戦略学が現れ始め、様々の国内外の発展戦略の中心的な戦略となったと、その意義を述べている。このように一帯一路が、今後の習近平体制下における発展戦略の基本になることが明確にされている。

中国国内では、一帯一路の経路について、いくつも候補が挙げられているが、最も重視されているのは、西部地区、中でも新疆である。

中国国内では2013年末に、国家発展改革委員会と外交部が共同で、シルクロード経済帯と21世紀の海上シルクロードについて、座談会を開催し、その戦略構想に含まれる重大な意義について学習した。その際に、西部の9省市と国家の12部門の責任者が出席し、戦略構想の全般計画と枠組みの制定等の推進について研究を進めることが定義されている。

2014年には甘粛省と外交部が共同で、シルクロード共同事業についてのアジア共同フォーラムを開催し、2012年創設時の参加国33カ国のうち、28カ国が参加した。2014年6月には、「シルクロード国際帯検討会」が新疆のウルムチ市で開催され、その中で、特に新疆が持つ、欧亜を結ぶ陸橋の核心地帯、四大文明の交流点、資源の豊富さ、経済社会の発展の黄金期の利用という、4つの優位性を発揮して、新疆をシルクロード経済帯の地域内の、交通、商業物流、金融、文化と科学技術、医療サービスの中心とすることが提案されている。この検討会には、中、露、インド、カザフスタン、キルギスタン、アフガン、トルコ、米国など20カ国が参加した。

中国国内の一帯一路研究拠点として、中国科学院は「海上シルクロード研究基地」を北京に設立している。その研究者の間では、以下のような見解が出されている。

①一帯一路の構築に当たっては、経済協力と人文交流を主とし、相互交流と貿易投資の促進を優先して、利益共同体にすることを目標とする。そのため、平等の協力関係のもと、順を追い漸進的に基礎を築き、沿線国と共に通商し、共に建設し、共に成果を分かち合い、共に勝利するべきである。

②アジアは複雑多様であり、各国が積極的に参加する貿易自由化と地区経済の一体化の建設のためには、新しい協力の方法を創造的に推進する必要がある。

③今後の一帯一路の建設には、アジア開発投資銀行という基盤の上に、アジア太平洋と欧州を相互に結合し、中国とシルクロード沿線国の積極的参加および欧亜の相互交流を推進し、海上の相互交通と汎用エネルギー源のネットワークを構築する必要がある。そのため、中国の新たな工業化と農業現代化が形成する経済力を最大限に発揮し、対外開放戦略と沿線国家との隣接・拡散効果を拡大し、陸と海のシルクロードを共に建設するべきである。

(2) 関係国の対応

このような中国の積極姿勢に対し、関係国はどのように対応しているのであろうか。中国は、陸上では各正面の諸国と共同博覧会を開催し、貿易、投資などの促進を図っている。

アラブ諸国とは2013年に「中国・アラブ博覧会」が開催された。31個の案件、664.1億元が成約した。中国も30億元の観光協力を締結した。投資問題解決コンサルタント委員会と投資基金の設立も合意された。これは中国にとり初の大規模な金融協力であった。

同年には、「中国・東北アジア博覧会」が開催され、331件の投資契約が成立し、そのうち10億元以上が75件に上った。「中国・欧州博覧会」も開催され、2013年に成約したのは対外貿易額56億ドル、対外経済技術協力10億ドルに上ったが、2014年は、成約額は2000億ドルを超えた。

中国と東南アジアの間では、2012年に雲南省とASEAN諸国との双方の貿易額は66.8億ドルに達していたが、2014年6月には、中国とASEAN諸国との双方の投資額は1200億ドルを超えている。「中国・ASEAN博覧会」では、南寧、湛江、海口などとの一体化が進められ、ますます活気づいているとしている。

ただし、「中国・南アジア博覧会」については、具体的な成果は紹介されていない。これら5大博覧会の多国間貿易拠点は中国の西部と東北地区に分布し、全国土の80%以上、全人口の62&%を占めている。シルクロード経済帯は、多くの路線が伸び、扇面状に拡大し、国内外の経済協力のための縦横に通ずる、一つの幅広い陸路帯を形成している。

これらの陸路と中国東部の海のシルクロードの沿海都市とは連接され、さらに完全な経済影響圏を形成しており、一帯一路構想全体の中で、それぞれの機能を発揮し、中国の西、北、東、南の全方位において、新しく発展する地政学的な経済的原動力をもたらしているとしている。

国際的な一帯一路に対する反響も大きいと、前掲書『”一帯一路”: グローバルな発展のための中国の論理』はその成果を称賛している。また、多くの国も共通の認識に立ち、ますます多くの国と地区が吸い寄せられ、発展の効果が強まっているとしている。

ロシアのプーチン大統領は、2014年2月、この中国の提案に積極的に対応するとの意向を示し、「欧州とアジアを結ぶ鉄道と一帯一路はさらなる利益をもたらすであろう」との期待感を示した。中国は、ロシアの極東地区と西シベリアの鉄道は、北方草原のシルクロードに造られるとしている。

また、キルギスタンでの中国、ロシア、モンゴル3首脳の会議では、中国のシルクロードとロシアの欧亜大陸橋とモンゴルの草原の道を互いに連接し、以下の3本の経済回廊を造ることが提起された。すなわち、中国と中央アジアと西欧を結ぶ経済回廊、新欧亜大陸橋の経済回廊及び中国、モンゴル、ロシアを結ぶ経済回廊である。その際に重点とされたのは、道路輸送の利便性向上、路線開放の確保、貿易と投資の一本化、融資保障機構の設立、エネルギー保有国クラブとしての機能の発揮、構成国のエネルギー政策の調和と協力の強化であった。

(3) 一帯一路の具体的なルート

2015年3月に習近平は、「運命共同体に向かい進み、アジアの新未来を創る」ことを呼びかけた。その中で、シルクロードの経済帯として、その重点を、①中国から中央アジア、ロシアを経て欧州に至るルート、②中国から中央アジアを経て、ペルシア湾から地中海に至るルート、③中国から東南アジア、南アジア、インド洋を通過するルートに置くことを表明している。

また、21世紀の海上のシルクロードの重点方向として、①中国沿海部の港湾から南シナ海を経てインドに至る航路を欧州に延伸する航路と、②中国沿海部の港湾から南シナ海を経て南太平洋に至る航路を挙げている。

陸上においては、国際的な幹線道路を利用して、①新しいアジアと欧州を結ぶ大陸橋、②中国、モンゴル、ロシアを結ぶ経済回廊、③中国と中央アジアと西アジアを結ぶ経済回廊、④中国と中央アジアからインド半島を結ぶ経済回廊を共同で建設することを呼びかけた。さらに、⑤中国とパキスタンを結ぶ経済回廊、⑥バングラディシュ、中国、インド、ビルマを結ぶ経済回廊の建設も呼びかけている。また海上では、重点港湾を、安全で高効率な輸送の大回廊の結節点として建設するとしている。

積極的に同じ沿線の諸国が共同し、共に自国の貿易区を建設し、国境を越えてネット事業などの新しい業態を発展させ、旅行者を増やすために協力することも呼びかけている。

さらに、以下の中国国内の重点も、省区と都市にわたり明確に位置が示された。①西北6省区と新疆はシルクロードの経済帯の核心地区に、②陝西省西安市は内陸型の改革開放の新高地になり、③蘭州と西寧は開発と開放を進め、④寧夏では内陸の開放型試験区建設を推進し、⑤内モンゴルはロシアとモンゴルに通ずるという立地の優位性を発揮しなければならないとしている。⑥東北3省は、北への開放の重要な窓口となり、黒竜江省のロシアとの間の鉄道と区域内の鉄道網を完成し、黒竜江省、吉林省、遼寧省とロシアの極東地区との陸海路を連接しなければならない。

⑦西南地区、広西は一帯一路につながった重要な門戸とし、大メコン河区域に次ぐ経済協力の新高地にし、南アジア、東南アジアに対する経済的影響力発散の中心となり、チベットは、国家的な国境貿易と旅行文化の協力を進めねばならない。重慶市の西部開発については、成都、武漢、長沙、南昌、合肥等の内陸の開放型経済の高地となり、欧州に並ぶブランド品を作らねばならない。

沿海部の5省市は、福建の21世紀の海のシルクロードの中核区建設を支持し、上海、天津、寧波・舟山、広州、深圳、湛江、汕頭、青島、烟台、大連、福州、厦門、泉州、海口、三亜等の沿海都市の港湾建設を強化しなければならない。海外同胞華僑の香港、澳門特別行政区の独特の優位性の発揮と、併せて台湾の一帯一路への参加を生み出すように適切に配慮しなければならない。

(4) 一帯一路の狙い

以上が、一帯一路の中国国内との連接に明確に言及した前掲書の記述である。その中で特に注意を要するのは、最後に挙げられた、沿海部の港湾の多くが、海軍の軍港と重なり、内陸の中心都市とされた地区も、少数民族の中心都市が多く、治安維持の要としての軍都、公安の拠点が多いことである。

対外的には、経済面を主にした協力を表に出しているが、国内的には、少数民族の土地を再開発して漢族と外資で支配し、治安を改善するとともに国境警備や辺境防衛の態勢を有利にしようとする意図が垣間見られる。

内陸部の都市についても、蘭州、西寧は新疆ウィグル正面、成都はチベット正面、武漢、長沙、南昌、合肥はいずれも長江流域の戦略的要衝である。長江流域からは台湾、チベット、雲南いずれの正面にも進出が容易である。東北3省は瀋陽などロシアと朝鮮半島に対する軍事的要衝でもある。

これらの戦略的要衝は、前述した7個軍区の5個への再編に当たっても、軍事地政学の見地からも十分に検討され、一帯一路戦略との整合が図られることになるであろう。

また、海上の一帯一路の出発点とも言える、上海、天津、寧波・舟山、青島、烟台、大連はいずれも東海艦隊や北海艦隊の軍港地帯でもあり、しかも在韓、在日米軍、自衛隊などから海空戦力による脅威を受けやすい戦略要域でもある。

東シナ海での一方的な日中中間線付近での海底油田の掘削施設の増設も、防空識別圏の設定も、これら港湾、都市群に対する日米の海空脅威に、できるだけ前方で対処するための措置とみられる。

広州、深圳、湛江、三亜、海口などにも、南海艦隊の根拠地となる海軍基地群が所在する。海のシルクロードはこれらの港湾の重点港湾としての機能強化をうたっており、軍港の機能もそれに伴い強化されるであろう。またシーレーンの航行船舶を多国籍化することにより、中国沿岸部の脆弱なシーレーンへの攻撃に対する抑止力を間接的に強化しようとする狙いもあるとみられる。

前掲書『”一帯一路”: グローバルな発展のための中国の論理』によれば、ロシア、モンゴル、アフガニスタン、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア、インド、サウジアラビア、フランスなどが、賛意を示したとされ、「中国国内でも国際的にも巨大な反響を呼んだ」と自賛している。

しかし、中国が提示した各経済回廊も、見方を変えれば敵対関係になれば軍事的侵略路にもなりかねない。対中警戒心を崩していないとみられる、ロシア、インド、モンゴル、東南アジアなどの周辺国が、中国との開放的な政策を歓迎し、大規模な輸送網建設へのインフラ投資に簡単に乗り出すとは思われない。国内でも、少数民族はむしろ新たな漢族による支配拡大の企みとして警戒を強めるのではないかと思われる。

ロシアは、中央アジア諸国とは旧ソ連時代から武器輸出、エネルギー確保などで緊密な関係を築いてきた。一帯一路戦略が重視する、新疆から中央アジア諸国への陸のシルクロード沿いの中国の進出は、ロシアの影響圏である中央アジアへの、中国の影響力拡大を意味する。また中央アジアは、印露間の武器、エネルギーなどの交易の中継地域としても、戦略上重要な意義を持っている。そのため、中央アジアへの中国の進出に、印露両国は警戒を強めているに違いない。

南アジア正面には地域大国のインドが控え、東南アジア正面では南シナ海で厳しい対立関係にあるベトナムが存在する。このように、中国の一帯一路の陸上正面の進出は、どの正面をとっても周辺大陸国との軋轢を招きかねない。

陸のシルクロードの発展には膨大な資金と高度の技術が必要だが、それ以前に、周辺諸国の対中警戒を解き、領土問題などを再燃させることなく、安定的な関係を築く必要がある。しかし、そのような安定的関係の構築は、どの正面でも容易ではない。

陸のシルクロードの発展があまり期待できないのであれば、それを補うために、安価に大量一括輸送が可能な海上貿易への依存度はいっそう増大することになる。その結果、中国の沿岸部に通じるシーレーンの翼側を守る、東シナ海と南シナ海の防衛警備は、ますます重要になるであろう。

日本や東南アジア諸国に対する中国の海洋正面での力を背景とする現状変更の動きは、一帯一路という美名の陰に隠された戦略的意図を受けた、計算づくの行動と言える。東シナ海、南シナ海における中国の強硬姿勢は、戦術的な一時的緊張緩和はあっても、今後も根本的に緩和されることはないとみるべきであろう。

 

3 習近平指導部の意図と中国の『国防白書』に示された離島作戦に対する国防戦略

(1) 習近平指導部の意図

中国は習近平体制に入り、南シナ海と東シナ海における領域拡張を既成事実化するなどの強引な措置が目立っている。このような行動は、明らかに国連海洋法条約に違反するか、その恐れのある行動であり、日本との取り決めにも反している。既存の国際秩序に対するあからさまな挑戦と言える中国のこのような行動の背景には、どのような軍事的原理・原則があるのかを、中国側から公表された文献に基づき分析する。

習近平総書記は『光明日報』の2013年7月22日第1版に、「党の軍事指導理論の新たな創造の成果」と題して、軍事政策の基本方針を表明している。その中で、「中華民族の偉大なる復興は、中国人民の偉大な夢であり、国防と軍隊の建設はこの最高の利益のための職務に必ず服従しなければならない」との方針を示している。また、「強軍」という目標を提示し、そのために、「軍隊の現代的な戦略配置と路線計画を実現すること」が党の方針として明確にされたとしている。さらに、「強軍の魂」を堅持し、「党の軍隊に対する絶対的な指導を堅持」しつつ、「国家の主権と領土の無欠を守り抜き」、「部隊の情報化条件下での抑止力と実戦能力を絶えず向上すること」を要求している。

なお、2010年3月以来何度か伝えられた非公式発言に続き、2013年4月、中国外務省の副報道局長は記者会見で、「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と表明している。このことは、中国の公式的方針に基づき、「領土の無欠」を守るためには、「核心的利益」である尖閣諸島が日本の施政下にある現状は、軍の任務の一環として、力をもってしても変更しなければならないことを意味している。

(2) 『国防戦略』に見る中国の国防戦略とその狙い

このような習近平指導部の方針のもと、今年4月17日に中国国務院新聞弁公室は『国防白書: 中国の武装力の多様な運用』(『中国的軍事戦略(2015年5月)』)を発表した。その中では、「国際的なパワーバランスは世界の平和維持に有利な方向に向かい、国際情勢は平和、安定という基本的な態勢を保っている」と同時に、「局地的な情勢不安定やホットスポットをめぐる衝突が絶えない」との認識を示している。

また「一部の国はアジア太平洋地域での軍事同盟を深化し、軍事プレゼンスを拡大し、しばしば緊張状態をつくり出している。一部の隣国は、中国の領土主権や海洋権益にかかわる問題で、それを複雑化、拡大する動きに出ており、日本は釣魚島問題で紛争を引き起こしている」として、暗にアジア太平洋へのリバランシング戦略をとる米国に対する警戒感を示すとともに、尖閣問題を持ち出し、日本を名指しで非難している。

軍事戦略の基本方針としては、「積極防御のゆるぎない実行」をあげ、「侵略への備えと反撃の態勢を固め、分裂主義勢力を抑え込み、国境防衛、領海防衛、領空防衛を固め、国家の海洋権益と宇宙空間、サイバー空間の安全と利益を守る」としている。また、「国家主権の護持と領土保全のために、断固としてあらゆる必要な措置とをとる」とも表明している。ここでも、領域護持のためには、「あらゆる措置をとる」との決意を強調し、威嚇を加えている。「あらゆる措置」には核威嚇、軍事力の行使も含まれるとみるべきであろう。

領域確保に関連した各軍種の運用については、陸軍では、全域機動型への転換、海上の島嶼に駐屯し島嶼を守る国境警備・海上防衛部隊などの機動作戦、陸軍航空部隊、特殊作戦能力の向上などがうたわれている。海軍では、遠洋での機動作戦能力、遠洋での非伝統的脅威に協力して対応する能力の向上、戦略的抑止と反撃の能力強化をうたっている。空軍では、攻防兼備、偵察早期警戒、指揮・通信ネットワークの整備、空中攻撃、戦略的投下輸送の構築、遠隔空中攻撃能力の向上を重視している。このように、陸海空軍共に、遠洋での離島に対する統合作戦の実行能力向上に注力している。

公安国境警備部隊は、国境・沿海地域と海上の安全や安定の維持、犯罪の取り締まり、緊急救援、国境警備・保安などの多様な任務を担任している。海の国境を越える漁業活動にメスを入れ、海上の治安を保つためのパトロールや法執行を強化し、海上の違法犯罪活動を厳しく取り締まっているとしている。また、民兵は、国境警備・海上防衛地域の軍隊・警察・民間による合同防衛、国境の防衛・警備に積極的に参加し、年間を通じて国境線や海上境界線でパトロールしているとしている。なお、公安・国境警備の部隊は武装警察の系列に組み込まれており、戦時には人民解放軍に協力して防衛作戦を行うと規定されている。また「国境警備、海上防衛、防空面のパトロール勤務を綿密に計画・実施」し、「常に怠りなく戦闘準備状態を維持する」ことを、各軍種を通じて強調している。

以上から明らかなように、今回の中国の防衛白書は、中国が、尖閣諸島等に対する奇襲的な島嶼占領作戦を可能にする総合的な軍事力・警備力を整備する方針を国際社会に明示したものと解釈できる。

 

4 中国『国防白書』に見る第二砲兵を中核とする「A2/AD戦略」実効態勢作り

(1) 「A2/AD」の中核戦力第二砲兵の軍事戦略

特に、「A2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略」を担う中核戦力の第二砲兵については、注目が必要である。第二砲兵の装備体系としては、「東風」シリーズの弾道ミサイルと「長剣」巡航ミサイルを配備しており、「核兵器・通常兵器を兼ね備えた戦力体系を整え、迅速な反応、効果的な防御兵器、ピンポイント攻撃、総合的な破壊と生存防衛能力の強化」を重視しても整備している。特に、「戦略的抑止と核反撃能力、通常兵力によるピンポイント攻撃能力は着実に向上している」との自信を示している。ここで、ピンポイント攻撃の最大の目標としているのは、米空母打撃群とみられる。

このように、「成熟技術を利用して重点的、選択的に現有装備を改善し、ミサイル兵器の安全性、信頼性、有効性を高め」、A2/AD戦略を実効あるものにするための各種ミサイル戦力の整備が進展している。また第二砲兵の傘下に「大学・研究所」が含まれており、核・通常弾頭の各種の弾道ミサイル、巡航ミサイルの開発のためのイノベーションの担い手として、理系の頭脳集団を全面的に動員する体制がとられていることを示唆している。

第二砲兵については、「随時作戦可能」という原則を踏まえて、「国が核の脅威を受けた際は、中央軍事委員会の命令によって、警戒レベルを高め、核による反撃の準備を整え、敵を威嚇し、中国に対する核兵器の使用を抑止する」。また、「通常ミサイル部隊は平時と戦時の転換を速やかに完成し、通常の中長距離ピンポイント攻撃の任務を遂行することができる」と述べている。

訓練面では第二砲兵は、核・生物・化学兵器による威嚇を受けた場合の安全防護と操作技能の訓練に力を入れ、毎年多種類のミサイル部隊が実弾発射任務を遂行するよう計画しているとしている。また、偵察と対偵察、妨害と妨害対抗、ピンポイント攻撃と防護・反撃という対抗訓練も行っている。これらの記述は、核抑止態勢が常に機能しており核恫喝に屈しないこと、また、通常弾頭による中距離ピンポイント攻撃任務への戦時態勢への切り替え、言い換えれば、A2/AD戦略の発動が随時可能であること示唆している。また米側の反撃、ピンポイント攻撃等に対する防護力、生存力の強化も図っている。

これらの文言は、第二砲兵の即応態勢と残存性の維持強化が、米国のアジア・太平洋域内への介入と核恫喝に対する抑止力及び阻止力の骨幹戦力であることを、中国が十分に認識していることを示している。このような全般的な戦略態勢を前提として、陸海空その他の軍事戦略が組み立てられていると言えよう。逆に言えば、この点にどう対処するかが、対中戦略の最大の課題であると言える。

(2) 「A2/AD」戦略を実効あるものにするため高まる実戦力

今回の白書では、「三. 国の主権、安全、独立を守る」の項目で、「国の主権、安全、領土保全に危害を加えるすべての挑発行為に随時対応し、断固として食い止め、国の核心的利益を断固として守る」としている。先に述べたように、中国は、尖閣諸島を「核心的利益」であると、公式に表明しており、今回の白書の言明に従えば、軍は、尖閣諸島を「断固として守らねばならない」。この任務は、習近平総書記から示された上記の国家戦略を、国防戦略として具現化したものであり、軍にとり至上命令に等しいと解すべきであろう。

この任務を果たすために、現実に中国軍は、上に述べたA2/AD戦略の傘の下で、尖閣諸島などの遠洋の島嶼に対する奇襲的な統合上陸作戦能力を発動できる能力を高めている。国防白書でも述べているように、平時から海上国境地帯では、海上民兵や国境警備を担当する公安国境部隊がパトロールや取り締まりを行っている。尖閣諸島周辺のわが国領海、領空への中国公船等の侵犯事案が急増しているのも、その表れである。この態勢をそのまま利用して、尖閣諸島占拠といった既成事実を創ることは可能であろう。

訓練では、「情報主導、システム対抗、ピンポイント作戦、インテグレーション、共同で勝ちを制するといった情報化条件下での作戦理念を訓練の実践に融け込ませることを重視」している。陸軍は地区にまたがる機動演習を行い、海軍は遠海における侵入阻止、長距離急襲、外洋における対潜哨戒、遠洋での航行護衛などの訓練を行っている。遠海訓練を通じ、島嶼・岩礁への急襲撃破などの実兵による対抗訓練も行っている。特に2007年以来、西太平洋において20回近く、延べ90隻以上にのぼる遠海訓練を行ったとされている。空軍も、複雑な訓練環境下での対抗演習に取り組んでいる。

これらの中国国防白書が述べている訓練の実態は、わが国防衛省が把握している、中国軍の活動状況とも符合しており、中国軍の今回の発表は、訓練の実態をむしろ誇示して、A2/AD戦略実行のための実戦力を高めつつあることを示すことに狙いがあるとみるべきであろう。

 

まとめ: 侵攻シナリオの一例と我が国のとるべき対応

作戦戦略の上では、これらの戦力整備、訓練、作戦教義を踏まえれば、中国軍は、一例として以下のようなシナリオで、尖閣諸島の占領という任務を達成することを追求していると言えるかもしれない。

すなわち、①平時からの各種ミサイル戦力と地上配備爆撃機などの傘の下で、まず、②民兵などが、日本側の警備態勢のすきを突き尖閣諸島などに上陸して既成事実を作る。それに対し、③日本側の海上保安庁などが逮捕その他の対応をとった場合、漁民保護又は日本側の違法行動取り締まりの名目で、公安が進出し、海上保安庁の保安官や艦船を排除する。

日本側の④航空自衛隊機の動きに対しては、防空識別圏を利用して先制をとり、⑤海上自衛隊派遣に対しては、機先を制して中国の海空軍を増派して尖閣周辺海空域の優勢を確保して、尖閣諸島周辺を封鎖する。その間に、⑥大型の輸送機・ヘリも併用して地上軍の増援兵力を尖閣諸島に送り込み、短時間で島嶼に各種のレーダ、ミサイルを展開し、それらを掩護する防御陣地を構築、日本側の奪還を困難にする。⑦日本側の本格的な奪還作戦発動前に、外交的な調停に持ち込み、尖閣諸島占領の既成事実を日本側に受け入れさせる。⑧日本側が応じなければ、ミサイル発射により恫喝をかけるといった手法である。

中国軍にとり、島嶼の占領作戦は国家的な意思に基づいて発動される、何としても達成すべき任務である。ひとたび実行を命じられれば、周到な計画と準備の下に、あらゆる国家資源を動員し、一挙に島嶼を占領する態勢で臨んでくるものと予想される。その侵攻様相は極めて複雑で多段階にわたるが、ひとたび行動に出れば、迅速主導的に行動しようとするであろう。

国家戦略の面では、①まず平時からの三戦(心理戦・輿論戦・法律戦)、サイバー攻撃、特殊部隊・工作員の浸透から始まり、日本国内の世論工作、政治工作を周到に行うとともに、外交、経済面から②米国の対日介入意志の低下、日米の離間を画策するであろう。③これらの準備工作が効を奏し、侵攻の好機が来たと判断すれば、例えば上に述べたようなシナリオの作戦を発動し、日本側が判断と決断に迷い、自衛力行使を発令する理由と時間的余裕を与えないように、巧みな偽装・欺瞞をともなう奇襲侵攻と軍事的な迅速な既成事実化を図るであろう。

④最終的には、日本側の本格反攻作戦、米国の介入に対して、核を含む各種ミサイルの発射による恫喝、攻撃など、A2/AD戦略の発動まで予期して、中国は行動すると思われる。A2/AD戦略の前段階とも言える、相手国近海に対するミサイル発射試験による恫喝という手法は、1995年から96年にかけて台湾総統選挙前に、中国がすでに行使している。

日本としては、次の島嶼侵攻作戦でもミサイル発射による恫喝が行使されることを予期して、備えなければならない。日本の核抑止力とミサイル防衛態勢の信頼性が真に問われる事態が生ずるであろう。中国のミサイル脅威は、北朝鮮のそれの比ではない。それに耐えられる備えと覚悟が日本には求められている。

作戦上も、離島奪還作戦の実施は、海空優勢確保の段階から困難が予想される。奇襲的な中国側の弾道・巡航ミサイルによる海空基地への攻撃、特殊部隊による襲撃、かく乱、心理戦、サイバー戦、電磁波攻撃の併用に対し、まず残存し秩序と防衛警備・政経機能を維持しなければならない。そのためには、①基地その他関連施設の抗堪化、分散、地下化が必要であり、②航空機用ハンガーも増設しなければならない。③住民の退避用シェルターも必要である。

尖閣諸島の占領とその既成事実化を阻止するには、④洋上だけではなく中国沿岸部から内陸に至る情報収集のできるISR網の整備、⑤尖閣を射程内に入れた、即時対応可能な精密な長射程ミサイル火力の配備、⑥離島奪還部隊の洋上機動間の対空掩護、弾道・巡航ミサイル防衛、対潜作戦能力などが不可欠になる。

上陸後も支援を継続するには、⑦長射程ミサイル火力、密度の高い対地航空支援、海域に接近する艦艇に対する洋上封鎖、⑧洋上・航空輸送能力の確保など、大規模な支援態勢の維持が数週間程度は必要になるとみられる。

以上の作戦を可能にする人的・物的基盤を確保するには、⑨必要な装備品、ミサイル、弾薬類、燃料などを、備蓄、追送、現地調達など、あらゆる方法により確保しなければならない。しかし、現在の法制では強制的な徴発、徴用の権限は与えられていない。⑩装備品の整備、部品、ミサイル等の緊急増産も必要になるであろう。⑪そのための予算措置、⑫即応予備自衛官、予備自衛官の防衛招集、自衛官の緊急募集などの人事的措置も迅速にとらねばならない。⑬法制上の不備があれば、それも緊急に立法化する必要が出てくるであろう。

しかし、これらの措置を短時間でとるための体制が、日本に、自治体や民間も含め国家の総力を挙げてできているかといえば、未だに極めて不十分と言わざるをえない。中国側が進めている国家総力を挙げた体制整備と比較した場合、日本も、これらの措置を緊急時に迅速にとれる体制を創らなければ、尖閣諸島の防衛警備任務は達成できないとみるべきであろう。

米国の支援は、期待できないとは言えないが、紛争が奇襲的に生じ、中国軍による尖閣先取といった事態が生じれば、軍事面では、現在の米国のドクトリンなどから見て、装備品・弾薬・ミサイル等の供与、情報の提供、訓練支援、作戦に対する助言等、外交面では、日中紛争の早期仲裁、国際社会、国連での停戦決議などの外交面での支援程度に留まる可能性が高い。中国軍との戦闘に巻き込まれる恐れのある、第一線戦闘部隊、特に地上兵力による直接の軍事介入は期待できないとみるべきであろう。

最大限の米側の支援を、いかに適時にひきだすかは、大きな課題であるが、時の米国側の意思に依存する問題であり、米国民や議会の意向により大きく左右され、不確定な要素が多い。そのため、最悪の事態も予期して日本側としては、特に防衛面では態勢を整えるべきであろう。

特に重要な点は、陸上兵力を敵に先んじて尖閣諸島に上陸させることである。そうすれば、中国側は日本の兵力を排除することを余儀なくされ、戦争を覚悟しなければならなくなり、サラミ戦術や三戦は通じなくなる。米国も、日本側の施政下にある領域に対する侵略となり、日米安保条約第五条の対象事態として、軍事的に支援しなければならなくなる。

事態をエスカレートさせず、しかも敵に先んじて、安全迅速に、いつ陸上兵力を尖閣諸島に派遣するかが、最も重要な対処上の決心事項になる。その際の、派遣のタイミングの見極め、そのための情報収集・分析、及びオスプレイその他確実な輸送手段と航空掩護態勢を確保することが死活的に重要である。

 

(一部JBPRESSからの転載)

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