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アベノミクスにおける労働市場改革

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アベノミクスにおける労働市場改革については官邸のホームページで1枚の紙に簡潔にまとめられています(『こちら』)。

キーワードは3つ

A. 多様で柔軟な働き方

B. 女性の活躍推進

C. 外国人材の受入れ促進

この1枚紙ではA~Cについて、各々の項目に関し法案提出がなされていることなども明記されています。

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しかしそのどれを取っても(着実に前進はしているのでしょうが)海外との差は依然として開いたままです。

一例として「A. 多様で柔軟な働き方」について、いったい何が不足しているのかを簡単に見てみましょう。

少し長くなりますが、以下、拙著「不透明な10年後を見据えて、それでも投資する人が手に入れるもの」から引用します。

* * *

『日本企業においては、今でも新卒一括採用という世界的にも類を見ない人事制度が取られている。

これが何を意味するのか。

日本の会社制度はそもそも出発点から「同調」が重視されているのだ。

もう少し詳しく説明しよう。

日本の会社においては、舛岡富士雄(NAND型フラッシュメモリを発明)や中村修二(青色LED)のような画期的なイノベーションを起すような才能を持った「出木杉くん」(ドラえもんに出てくる)は、天才肌で扱いにくいので敬遠されかねない。

求められるのは、組織の中で協調して働いていける「そこそこ優秀な人たち」だ。

しかしこれは経済学者の岩井克人がいう資本主義の第2段階「産業資本主義」で頭角を現す人たちである。

彼らは実を言うと、イノベーションの時代には不向きなのである。

日本の大企業経営者は、表向きには独自性とか社員の個性といった言葉を強調する。

しかし実際の人事考課には「協調性」といった項目がちゃんとあって、これが結構重視される。

工場で日曜日にソフトボール大会があるときに社員寮の部屋にこもって自分が興味をもっている分野の研究をするような人物は好まれない。

重用されるのは、1年上の先輩を単に自分より先に入社したというだけで絶対的に敬い、休みだろうとなんだろうと、会社行事には積極的に参加し、団体行動と規律を重視する「体育会系」だ。

何よりも経営者自身がサラリーマン経営者であって、協調性があり、そつがなく、気配りができることで選ばれ登用されてきた人たちだ。

当然のことながら、自分とはまったく異質の人間を理解できない。

ほぼ同じ年齢の新卒者が、同じタイミングで入社し、同じような給料をもらって、会社組織のなかでの階段を一段、一段、毎年時間をかけて徐々に上がっていく。

海外の企業でも新卒者を採用するけれども、ここまで画一的ではない。

海外企業では新卒で採用される人の年齢もバックグラウンドも区々で、給与も同一ではないことが多い。

そもそも随時に採用される中途入社の社員の比率が日本企業に比べて圧倒的に高い。

日本型システムの問題点は、若い人の立場に立ってみると、もっと鮮明に浮かび上がってくる。

新卒で入社した先が「ブラック企業」だったり、経営破綻してしまったりすると、再び正規社員として別の会社に入社するのが極端に難しくなる。

最初から失敗が許されないシステムになっているのだ。

それだけではない。

中途で別の会社へ正規社員で転職することが難しいので、若い人たちは組織内でどうしても保守的になる。

最初の職場で疑問に感じることがあっても声すら上げない。

リスクを取った結果、「はみ出し者」扱いにされると村八分。

こうなっては惨めなので、最初から組織に盲従するようになる。

こういったシステムが取られているところでは、イノベーションは起きにくい』 (引用終わり)

* * *

実は、日本の新卒定期採用制度というのは、第一次世界大戦直後にまで遡ることが出来ます(濱口桂一郎『若者と労働』62頁)。

第二次大戦下では国家総動員法が制定され、1941年には国民労務手帳法、労務調整令が出され採用規制が強化されていきます。

これが戦後の学校と企業とが直結した「学校経由の就職」へと結びついていくのです(濱口、前掲書66頁)。

賃金が生活給の色合いが濃く年功賃金制になっているのも、第二次大戦下における戦時賃金統制にまで遡れます(濱口、前掲書87-88頁)。

こうした旧来型の慣行が現在まで引き継がれているのは世界的にも珍しく、結果として一部の正社員は守られますが、能力的に高い社員は正当に遇されず、非正規社員は差別に苦しむといった状況が生じています。

アベノミクスが謳う『A. 多様で柔軟な働き方』のところでは、本来は

①正社員の解雇ルールの明確化

②ホワイトカラー・エグゼンプションの導入

といった労働市場の流動化、労働生産性向上のための施策が必要なのだと思います。

そうすれば

(1)企業が正規社員を雇うことに躊躇しなくなる(結果として正規社員の割合が増える)

(2)正社員の方も会社が合わないと感じれば、いったん辞めて別の会社に正社員で移りやすくなる

といった状況になることが期待されます。

厚労省が2015年11月に公表した「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、

全労働者に占める非正規労働者の割合は実に約40%に達します(『こちら』)。

この40%の人たちが、結婚して家庭を持つことを決断しにくいというのであれば、

人口問題は解決せず、

政府や中央銀行が財政政策や金融政策を総動員しても、

彼ら非正規社員の消費水準はなかなか上がっていきません。

労働市場に対してもっと切り込んだ改革がなされていくことを期待します。

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