網羅的だが羅列的 ~コーポレートガバナンス・コードを巡る議論~
安田正敏 2016-02-25コーポレートガバナンス・コード(CGコード)自体がOECDの「コーポレートガバナンス原則」に沿った形で構成されているため、CGコードを巡る議論は、筆者には全体的に「網羅的だが羅列的」と感じられます。実際に会社がCGコードに対応するコーポレートガバナンスを構築していくためには、この「網羅的だが羅列的」なCGコードを自社の考え方に基づいて再構成する必要があります。
金融庁総務企画局企業開示課が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が昨年9月より続いています。今年2月18日にはそれらの議論を踏まえて「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方(案)」(以下「案」といいます)が事務局より公表されました。コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」といいます)自体もOECDの「コーポレートガバナンス原則」に沿った形で構成されているためやむを得ないのかもしれませんが、これらのCGコードを巡る議論は、筆者には全体的に「網羅的だが羅列的」と感じられます。
例えば、案では、4番目に取締役会の実効性の評価について論じていますが、その中の(2)で「取締役会の実効性を適確に評価するためには、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、取締役会が果たすべき役割・責務を明確化することがまずもって求められる」と明記しています。正に、その通りです。であるならば、まず冒頭で「取締役会が果たすべき役割・責務を明確化する」ということを掲げるべきで、この点に関する取締役会の共通の理解が得られていないならば、この案で論じられている、1.最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方、2.取締役会の構成、3.取締役会の運営、4.取締役会の実効性の評価、について具体的に論じることができないと思います。
実際に会社がCGコードに対応するコーポレートガバナンスを構築していくためには、この「網羅的だが羅列的」なCGコードを自社の考え方に基づいて再構成する必要があります。そのときに、重要な点がひとつあります。それは、経営者、取締役が自ら考え直接関与してつくり上げる部分を明確に認識することです。上記の「取締役会が果たすべき役割・責務を明確化する」ということはこれに該当します。それ以外にもこの点に該当する重要な事項があると思います。それ以外の部分は会社の担当組織に案をつくらせたうえで取締役会が議論し決めていくというプロセスで良いと思います。
CGコードを自社の考え方に基づいて再構成する際にもう一つ考慮しなければならない大切な点は、CGコードの原則の間の相互関係を考慮することです。例えば、東京証券取引所に提出するコーポレート・ガバナンス報告書に開示を求められている原則1-4の中の「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである」という点はその他の原則とどのように関連しているかをよく考えることでその意味が理解できてくると思います。
ここで述べたCGコードの再構成についてはまた別の機会に論じたいと思います。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより転載)
The Author
安田正敏
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 専務理事、(株)FPG常勤監査役
1971年 東京大学経済学部卒業、(株)日立製作所入社、1973年より(株)日立総合研究所。1978年 Institut pour l'Etude des Methodes de Direction de l'Entreprise(IMEDE、現IMD) MBA。1983年よりシティバンク、エヌ・エイ東京支店フィナンシャル・エンジニアリング部長、1988年シティ・コープ・スクリムジャー・ビッカース証券東京支店長、1992年から2001年までキャンター・フィッツジェラルド東京代表。2009年より現職。
著書:「日本版SOX法実践ガイド」日経BP社
「内部統制システム構築マニュアル」(PHP研究所)
「経営リスク管理マニュアル」PHP研究所
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