【調査報告】監査等委員会設置会社への移行・移行表明企業の状況
安田正敏 2015-08-107月までの株主総会で移行した企業及びその後の総会で移行することを表明した企業は川井総合法律事務所が集計したリストによると8月5日で201社になっています。この201社のうち7月までの株主総会で移行した企業175社について有価証券報告書を調査したところ、多くの監査等委員会設置会社の監査等委員取締役は前任監査役であり、特に社外監査等委員取締役は監査等委員会設置会社の社外取締役の92%を占めています。また、監査等委員会設置会社の40%が従業員500人以下の会社であり、内部統制、内部監査のための人的資源が十分かどうかについて懸念を拭い去ることができません。
【調査概要】
監査等委員会設置会社への移行は、会社法から求められている社外取締役の1名以上の設置や、コーポレートガバナンス・コードで求められている独立社外取締役2名以上の設置について、置いていないことを説明することを避けたい監査役会設置会社が、社外監査役をそのまま(独立)社外取締役として監査等委員会設置会社になることで会社法とコーポレートガバナンス・コードの要件を満たし面倒な説明から逃れる手段となるのではないかということが懸念されていましたが、筆者が上記リストに基づいて7月までに定時株主総会で監査等委員会設置会社に移行した会社について有価証券報告書を調べたところ、そのような傾向が顕著であることがわかりました。
監査等委員会設置会社に7月までの株主総会で移行した企業及びその後の総会で移行することを表明した企業は川井総合法律事務所が集計したリストによると8月5日で201社になっています。
この201社のうち上場市場別の内訳をみると、東証一部が102社(50.7%)とちょうど半分を占めます。東証二部は33社(16.4%)で東証一部、二部の会社が約70%を占めています。東証一部の次に多いのがJASDAQで51社(25.4%)となっています。この3市場で全体の92.5%を占めています。
この201社のうち、175社が7月までの総会ですでに監査等委員会に移行しています。この175社の監査等委員取締役は全体で582名です。このうち前任監査役である者が426名と73%を占めます。社外であるかどうかという点からみると、この監査等委員会設置会社の社外取締役は471名おり、そのうち社外監査等委員取締役は、430名と92%を占めています。
また、また、社外監査等委員取締役430名のうち、前任が社外監査役であった者が73%(311名)を占めています
次に、会社ごとに特徴を分類してみると、監査等委員会設置会社175社のうち、監査等委員以外に社外取締役がいない会社は148社と85%に上っています。
社外監査役からの移行の状況を見ると、社外監査等委員取締役全員が前任社外監査役である会社は90社、監査等委員会設置会社の51%と半数を超えています。また、移行前の監査役会の構成員がそのままそっくり監査等委員会の構成員となって移行した会社(監査役会移行型)は62社あり監査等委員会移行会社の35%と3分の1を超えています。さらに、
監査役が最少3名で構成されていた監査役会の3名がそのまま監査等委員の取締役として監査等委員会に移行した会社は53社あり、監査役会移行型の監査等委員会設置会社の85%を占めています。またこの最少構成3名の監査役会移行型会社は監査等委員会設置会社の30%と約3分の1を占めています。
もう一つの注目点は、また、監査等委員会の取締役すべて社外で占める会社は32社あり、このうち25社は常勤社外取締役をおいていることを特に明記していません。
監査等委員会設置会社は、内部統制が整備され内部監査部門が十分に機能していることにより監査等委員会の監査能力が担保されることを前提とした機関設計です。この点において、このような体勢を保持するのに必要な経営資源が潤沢にあるかどうかということはもっとも懸念されるところです。
この点を検証するために、今年7月までの総会で移行した監査等委員会設置会社のうち3名の最小構成の「監査役会移行型」会社(53社)とそうでない企業(122社)について従業員数の分布を見てみました。
最小構成「監査役会移行型」会社は従業員数500人以下の会社が31社で53社の3分の2近くを占めています。最小構成「監査役会移行型」会社でない会社は、従業員500人以下の会社が41社とこのグループ122社の3分の1を占めています。従業員数500人以下の会社は監査等委員会設置会社全体の175社のうち72社と全体の40%を占めています。
以上をまとめると、監査等委員会設置会社は、監査役会設置会社が社外取締役を新たに置くことを避けたい会社にとって非常に利便性の高いものとして利用された例が多いことがわかります。また、監査等委員会設置会社の40%は従業員数500人以下の会社であり、3名の最少構成監査役会をそっくり監査等委員会に移した監査役会移行型企業の3分の2が従業員数500人以下の会社であることを考えると、これらの会社が内部統制の整備や内部監査に十分な経営資源を割くことができるであろうかという懸念を拭い得ません。
(一般社団法人 実践コーポレートガバナンス研究会ブログより転載)
The Author
安田正敏
一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会 専務理事、(株)FPG常勤監査役
1971年 東京大学経済学部卒業、(株)日立製作所入社、1973年より(株)日立総合研究所。1978年 Institut pour l'Etude des Methodes de Direction de l'Entreprise(IMEDE、現IMD) MBA。1983年よりシティバンク、エヌ・エイ東京支店フィナンシャル・エンジニアリング部長、1988年シティ・コープ・スクリムジャー・ビッカース証券東京支店長、1992年から2001年までキャンター・フィッツジェラルド東京代表。2009年より現職。
著書:「日本版SOX法実践ガイド」日経BP社
「内部統制システム構築マニュアル」(PHP研究所)
「経営リスク管理マニュアル」PHP研究所
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