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「消費税増収分を活用した新たな基金」の問題1

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民から奪い、支配に使う

●控除対象外消費税問題
医療機関の控除対象外消費税問題が長年議論になってきた。問題を簡略化して説明する。
社会保険診療に消費税は課されていない。しかし、施設設備を含めて、医療機関が購入したものには、消費税が課される。この消費税を医療機関が負担している。日本医師会の調査では、控除対象外消費税は社会保険診療報酬の2.2%になるとされる(1)。
国は、控除対象外消費税分は診療報酬に上乗せされているとしている。消費税導入時に医療費が0.76%、消費税率引き上げ時に0.77%引き上げられた。 これが上乗せ分だとすれば、上乗せ分は、5%の消費税に対し、合計1.53%である。日本医師会は、上乗せが不十分だった上に、マイナス改定、包括化、項 目そのものの廃止などで、上乗せ分が大幅に目減りしている主張している。消費税率が5%から8%に引き上げられることが決まっている中、2014年度改定 で、診療報酬は0.1%の微増に留まった。消費税引き上げが医療機関に重くのしかかる。厚労省は、消費税引き上げ対応分として+1.36%を確保したとし ているが、公正な議論の基礎となる客観的数字は存在しない。「医療保険制度の財政構造表」によると、2010年度の公的医療保険による医療費は総額35兆円だった。高齢化による自然増を年間3.2%とすると、 2014年には総額40兆円になる。消費税率5%での控除対象外消費税の割合を2.2%とすれば、控除対象外消費税は総額9000億円、消費税が10%に 引き上げられると1兆8000億円になる。2.2%が適切かどうかは別にして、巨額であることは間違いない。官僚の裁量に委ねてよい額ではない。
本来、消費税は、個々の医療機関に還付すべきものであって、診療報酬に上乗せすべきものではない。医療機関ごとに支払った消費税が大きく異なる。活発で積 極的な病院ほど、投資額が大きいため負担が重くなる。個々の医療機関の控除対象外消費税は、購入伝票を集計することで正確に算出できる。厚労省は、数字で 正確に扱えるものを、強引にあいまいにしたままにしようとしている。この問題を利用して、支配を強めようとしているとしか思えない。
今後、消費税率が段階的に引き上げられる。病院の利益率は小さいので、民間医療機関の経営が危うくなる。個々の病院は、投資を拡大すると損失が大きくなるので、投資しにくくなる。全体として投資が抑制されると、日本の医療の発展が阻害される。
消費税のデータに基づく還付は、他の業種では実施されている。技術的に無理だということではない。輸出されている製品については、消費税は課されない。このため、輸出業者に対し、仕入れに要した消費税が還付されている。

●「消費税増収分を活用した新たな基金」
医療法と関連法改定のための行政の文書に「消費税増収分を活用した新たな基金を都道府県に設置」という文言が記載されていた。これは社会保障制度改革国民 会議報告書の中で、「医療・介護サービスの提供体制改革の推進のための財政支援」として言及されていた制度である。以下、分かりやすい率直な表現に書きな おしてみた。

1)財政赤字、高齢者の増加のため、負担増、給付削減、サービスの効率化が必要である。
2)「地域包括ケア」を実現するには、医療・介護サービス提供体制改革を推進しなければならない。
3)将来、診療報酬・介護報酬の体系的見直しを行うので、医療・介護施設が財政的に苦しくなる。改革するには、診療報酬・介護報酬以外の財源が必要である。
4)消費税増収分を使って基金の創設を検討すべきである。

基金を作るとなれば、財源が必要である。財源がなければ、財務省は基金の創設を認めない。当然、医療機関の控除対象外消費税の増収分が財源となる。すなわ ち、この基金は、医療機関から不当に搾取した金を、担当官の裁量で医療機関にばらまき、行政に従わせようとする制度だということになる。

●基金は民間病院の経営判断を奪い、日本の医療を危うくする
私は、「社会保障制度改革国民会議報告書を読む(3)医療・介護分野(下)」(2)で、基金について批判した。

「医療提供体制整備のために、基金による補助金を活用することが提案されている。税金の投入、すなわち、補助金や負担金、交付金に安易に頼ることが公的病 院の退廃の原因である。2013年8月29日の朝日新聞の報道によれば、銚子市は2017年度に財政再建団体に転落する可能性があるという。市立病院の破 綻が原因とされる。
病院への安易な税金の投入が銚子市の危機を招いた。病院の施設や設備の整備はできるだけ診療報酬で賄うようにするのが望ましい。現代の病院運営は多額の費 用を要する。大規模基幹病院の予算規模は中規模の市に匹敵する。地方公共団体には、病院を経営する能力を期待できない。補助金の安易な投入で、経営の不在 を補うようなことを続けていくと、地方公共団体の存続を脅かしかねない。補助金については、できるだけ縮小し、官民格差をなくす必要がある。財政支援を行 うとすれば、診療報酬が使いにくい人材養成に限定すべきである」。

この文章を書いたときには、医療機関に還付すべき消費税を使って基金を作る制度だということまで頭の中に描き切れていなかった。
基幹病院は黒字だったとしても、利益率は極めてわずかである。わずかな利益をどう上手に再投資に使うのかが、経営判断になる。基金は、再投資の判断を経営者から都道府県の役人が奪い取るものである。
亀田総合病院を経営する医療法人鉄蕉会は、看護師養成のために、資金をグループの学校法人が運営する専門学校と大学に寄付している(3)。自前で看護師を 養成しているのは、以下の3つの理由による。1)千葉県は極端な看護師不足の状態にある 2)千葉県の単位人口当たりの看護師養成数は日本最低水準である  3)看護師を確保できなければ亀田総合病院は存続できない。
2011年11月の「千葉県地域医療再生計画」は、課題の筆頭に医療人材の不足を挙げている。「今後の急速な高齢化に伴って増大する医療需要に対し、単な る現場での努力や現状の医療人材提供体制では、対応が困難であることが予想される」と高齢化への対応の見通しが立っていないことが示されている。こうした 状況があるにもかかわらず、2009年、千葉県は、県立教育機関による看護師養成数を、それまでの1学年240人から80人に削減した。2009年当時、 千葉県は看護師不足を正しく認識していたとは思えない。明らかな行政のミスである。
行政は認識能力を欠くだけではない。行政が直接サービスを提供すると、サービス向上が望めないばかりか、費用がかさむ。権力を持つが故に、自らを甘やかす からである。千葉県の平成24年度病院事業会計の決算見込みによると、病院事業全体で、収益440億円、費用427億円で13億円の黒字だとしている (http://www.pref.chiba.lg.jp/byouin/press/2013/24jigyoukessan.html)。しかし、 収益の内106億円は負担金・交付金すなわち税金であり、民間と同じ言語を使うとすれば、93億円の赤字となる。民間病院なら1年持たずに倒産する。これ を黒字と説明している限り、事実の認識に基づいて改善努力を続けるなどできるはずがない。
日本の医療は私的セクターの関与が大きいが故に、比較的小さい費用でサービスが供給されている。行政が病院を経営すると、膨大な赤字を生む。医療機関の再投資の判断を、私的セクターの経営者に代わって、都道府県の役人が下すことになれば、医療を壊しかねない。

●補助金は有効に使えない
還付される金は病院の正当な収入なので自由に使えるが、補助金は行政から目的を指定されて与えられるものなので自由には使えない。使い方のルールの基本原 理は、資金を効率的に使うこと、すなわち、医療サービスの向上ではなく、官僚の責任回避と権限強化にある。しばしば用途が細かく指定される。建築費だけに しか使えなかったり、建築費には使えず物しか購入できなかったりする。物品は購入できるが、人件費には使えなかったりする。このため、使いにくく、無駄が 多くなる。「坊や、100円の豆腐1丁買ってきて」という子どものお使い方式が、補助金による金の使い方である。使う側の状況判断が許されず、有効な使い 方ができない。こうした原始的な金の使い方は、民間の経済活動で見られることはほとんどない。投資ファンドは、契約で相応の自由度を得て、資金を動かす。 株の売買を、複雑な数式によってコンピューターが管理している。企業の経営判断は、将来の見通しが大きな判断要素になる。常に状況を再評価し、状況が変化 すれば、金の使い方も変更される。
補助金の実態を見るために、千葉県の2009年度の地域医療再生臨時特例交付金事業の中間報告に対する論評を紹介する。

「中間報告には、2011年度までの事業実績が記載されている。そこから分かるのは、事業費の多くは、病院の施設・備品代、情報システム整備代、イベント 代、講座代にあてられたということである。補助がなくても診療報酬で対応できるものや、切実性の低いものばかりであった。開設準備中の東千葉メディカルセ ンターに対する補助が目立ったが、極度の医師・看護師不足の中で本当に開設できるのか、開設しても維持できるのか危ぶまれているところである。また、医 師・看護師の確保事業は、公費を使って他から連れてこようというもの、あるいはキャリアアップを支援しようというものであり、医師・看護師を養成しようと いうものではなかった。結局、50億円もの交付金は、医師・看護師の養成にはまったく使われなかった。
千葉県における医療供給の阻害要因は、極度の医師・看護師不足である。事態を改善するには、医師・看護師の養成数を増やすしかない。養成数を増やさず に、公費を使って無理に特定の病院で医師・看護師を確保しようとすれば、他の病院の医師・看護師が奪われ、あるいは他の病院の医師・看護師を確保するため の費用が押し上げられる。結果として病院の経営環境が悪化し、医療崩壊が進むことになる。現行制度上、医師の養成数を増やすのが難しいとすれば、交付金 50億円は、看護師の養成に振り向けられるべきであった」(4)。

無駄使いは、担当者の能力の問題ではなく、行政の仕組みに由来する。行政は、壊れたロボットのようなぎこちない的外れの乱暴な動きしかできない。企業な ら、すぐに倒産してしまうような金の使い方しかできない。基金への搾取が増加すると、亀田総合病院は、看護師養成に資金を投入できなくなる。そうなれば、 学校も病院も存続できない。

<文献>
1.日本医師会:今こそ考えよう 医療のおける消費税問題 -第2版-. 2012年12月.
2.小松秀樹:社会保障制度改革国民会議報告書を読む, (3)医療介護分野(下)・完. 厚生福祉, 6024号, 2-6, 2013年12月27日.
3.小松秀樹:病床規制の問題3:誘発された看護師引き抜き合戦. MRIC by 医療ガバナンス学会. メールマガジン; Vol.566, 2012年8月9日. http://medg.jp/mt/2012/08/vol5663.html#more
4.小松俊平:看護師養成の背景、意義および主体-千葉県の状況から考える(下). 厚生福祉, 5957, 2-5, 2012年12月28日.

2014年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会

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