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右脳インタビュー 大森義夫

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片岡:  今月の右脳インタビューは、元 内閣情報調査室長(現 日本文化大学学長)の大森義夫さんです。まずは安倍首相の先日の靖国参拝についてお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。

大森:  櫻井よしこさんは「米国の対応は情けない」と明快ですが、私は彼女ほど割り切れない。考えてしまう。国内的には期待している勢力が多く、絶対にやった方がいい。しかしパーカッションはどうか。中国が反発する、韓国が反発することはわかっていた。それはいい。だが米国の反応が予想以上に強かった。

片岡:  米国には事前に打診していたはずですから、それは分かっていたのでは?

大森:  ある程度、分かっていたでしょう。衛藤晟一議員が11月に訪米していましたが、持ち帰った反応も良くなかったようです。それでも米国の反応は予想以上に速く、そして”disappointed”というのは強かった。勿論、安倍政権も緻密な計算をしたのだとは思いますが…。

片岡:  各国はこれをどう利用してくるのでしょうか。

大森:  オバマ政権にとっては、日本も中国も、良いお客さんですから、「この際、少し日本の頭を押さえておけ」という計算も当然働くでしょう。また戦後体制のリビジョニスト、修正は許せない。中国は当然、過去の仇という、そういう意識でしょう。問題は韓国です。フロントで中国と対峙する韓国の問題を考えると、日本は無用なことをしている。つまり、韓国に、より中国に近づく、丁度良い口実を与えてしまった。米国の戦略に大きな影響を与えます。尤も、そうなると、今度は北朝鮮が米国と手を握るかもしれない。十分あり得る。オセロゲームです。
中国や韓国、北朝鮮との関係もありますが、やはりキーとなるのが米国との関係です。矛盾するようですが、日本は日米安保を強化しながら、自立の道を模索することが必要です。今の日本は米国と協調するのがいいことであって、つまり協調という名の従属です。官僚も政治家も素直なものです。当たり前のようなことですが、日本では米国のスパイが一人も捕まっていません。そもそも捕まるはずがない。そういうオペレーションの対象ではないのですから。

片岡:  追いかけると、強いプレッシャーがかかるのでしょうか。

大森: そういうことすらやったことがないでしょう。大きなタブーです。同盟国といいながら、米国はやりたい放題に国益を追求している。米国から自立するには、まず一度でいいから、「知っているぞ」ということを認識させる…。勿論、中国へ近づきすぎるのは危険です。

片岡:  中国では、大規模な反日デモでは大変な数の邦人が脅威にさらされました。国際間では、在外邦人が何かの時にターゲットにされる可能性を考慮するのは当然です。グローバル化を推進し、アジアの時代と持て囃す一方、それを放置しているのは…。

大森:  まさに国家なき国家です。

片岡:  日本版NSC(国家安全保障会議)に続き特定秘密保護法が成立しました。しかし、対となるべき情報開示や公文書管理制度がしっかりと整備がなされていない等、歪な状態でもありますが、それでも自立の第一歩になるとお考えでしょうか。

大森:  私はそう思います。不完全、歪ですが、そもそも国民も為政者も国家機密なんてまともに認識していなかった…。いずれにしても、今後、日本の情報組織をどうやって作っていくか、そこは頭が痛い問題です。

片岡:  どれくらいの組織でスタートさせるのが良いのでしょうか。

大森:  新しい組織は100人くらいからと思います。人がいないですから。

片岡:  嘗てカーター政権下で情報機関の職員を公募した結果、問題ある人物が多数潜り込んだといわれています。100人程度であれば、そういうことを、ある程度排除できるのでしょうか。

大森:  そこは難しいでしょう。リクルーティングの手法も、今のままではほぼ普通の役所と同じ、浄化能力がない…。例えば、スノーデン問題のようなことが必ず起きます。特に日本はチェック機能がない。これからだんだんと出来てくると思いますが…。分かりやすいテストは偽情報を流して尾行することなのですが、それすらやっていないのではないでしょうか。

片岡:  そういう状態で国の重要機関をどう運営しているのでしょうか。

大森:  幹部は2,3年で変わりますから、「自分の代に問題が起きないように」という人が多いのでしょう。

片岡:  漏れているという前提で運営していくということでしょうか。

大森:  そういうシビアさが必要だと思うのですが、それもできていないでしょう。日本の国民性として、基本的に裏切り者がゼロではないが少ない。情報を取って来いというのはあっても、味方を監視するという文化は薄かった。日本人というのは、日本人の顔をして、日本語をしゃべると皆信用してしまうところがあります。

片岡:  米国はヒューミントはあまり得意でないといいますが、それでも物凄い数の人員を投入し、またエシュロンに代表されるように、技術に莫大な資金を投入してインテリジェンスの技術も発達させてきました。

大森:  国民性からいうと、英国や中国に比べると、米国はインテリジェンスに向いていない、日本人もそうです。米国には相手に対する寛容さや、相手の立場になって考えることが足りません。勿論、中国も強引だと思いますが、彼らはスパンが長い。米国の短期で答えを求める姿勢はインテリジェンスには向きません。しかし、米国には、テロ対策等のような、いたちごっこでも、あきらめずに国民を守るという強い安全保障意識があります。

片岡:  さて、米国の情報組織は直接的に利益も上げています。そういう組織と、コスト要因としてだけあるものでは、当然、予算の意味も規模も、民間との協力体制も違ってきます。例えば、情報機関関連のベンチャー・キャピタルが、出資していた企業をグーグルに売却したり、グーグルともにベンチャー企業に出資したり注1、資本主義を徹底的に利用しています。

大森:  彼らは稼いでいるでしょうね…。でも日本の役所、治安関係、防衛にはそれがありません。ある意味で公明正大なのですが、その予算もないし、やる度胸がある官僚もいないということでしょう。

片岡:  スノーデン問題で報道されていたように、米国の情報機関は民間企業にも協力を求めています。協力の見かえりに、例えば情報を渡す。ライバル会社の動向、犯罪、汚点、或は政策、為替…。

大森:  実際、そうしたことがありうると思います。尤も、多くの日本人は、こうした現状は、あまり分からないのではないでしょうか。何をどう盗られているか、知らないし、知ろうとしないのですから。NECにいた頃、関本さん注2から、「ロシア等から光ファイバーを請け負った時に、米国がかなりプレッシャーをかけてきた」と聞きました。要するに光ファイバーにすると盗聴できなくなる。それまではアナログですから、やりたい放題でした。日本人は盗聴というと、すぐ電話だと思ってしまいます。

片岡:  政治家や財界人は会食の場所がある程度決まっているのに、盗聴器の探索などをあまりしませんね。

大森:  殆どしないでしょう。欧米であれば自宅やゴルフ場なども使う。でも日本では自宅に招待できる人は殆どいない。そういう意味では料亭は比較的安全、良き時代はそうだった。今はホテルを使ったりしますが…。

片岡:  また日本では、お店の女の人の前でも、あまり気にせず密談をすることがまだあります。

大森:  そういう女性も、例えば特定の宗教団体等に属していることが多いといわれているのですが…。

片岡:  今回の特定秘密保護法は、政治家等にも、実質的な抑止力がキチンと期待できるのでしょうか。

大森:  実際はなかなか立証できないですからね。総理大臣や官房長官、国会議員が米国に行ってしゃべってしまうとどうしようもない。本当に素直にしゃべってしまうのですから…。

片岡:  無防備であったり、或は弱みを握られて…、そうした人たちは膨大なファイルが蓄積されているのでしょうから。一方、日本の情報機関が外国の要人を抑えたという話は聞きません。

大森:  日本から沢山のお金を取っている米国の大物政治家、或は規制緩和の名のもとに米国に協力した日本の政治家を問題にできれば…。

片岡:  大義名分をゴリゴリ押す背後で大いに儲け、意を通していく…。

大森:  親米と呼ばれる人には、やはり抵抗できないのが実情ではないでしょうか。日本の国の仕組みが…。

片岡:  米国の国益に通じる仕組みが日本のOSに組み込まれている。これを無理に変えようとすると…。

大森:  日本は重要ですから。所謂、経済外支配というものに出てくるシナリオも否定できない。皆、分かっているのでしょうが…。日本は本当に崖っぷちだと思います。もう落ちて転がっているかもしれない。どこかで対米自立をしなければいけない。日本はその痛みに耐えられるのか? まだ大丈夫だと思っています。

片岡:  まず痛むのは?

大森:  自衛隊だと思います。独立・分離はなかなかできないでしょう。中国があり、北朝鮮があり、また武器を米国から買っている。例えばペルーは米国から武器を買っていて、米国に勉強しに来ていて、下士官までも米国に靡いた。武器を売るのが一番いい。だからかえていこうとするフジモリ大統領を米国は嫌いました。日本は武器も政治も人脈も差し出し、魂まで吸い取られている…。
それでも対米戦略は徐々に進んでいるとは思います。米国はお金がなくなってきていて、一方、日本はまずまずの貯蓄がある。力関係で、相対的な対米独立に向かっているのかもしれません。でもその力を使い切っていません。結局、度胸がない…。さりとて、まず安定があって初めて影響力も出てくるわけですから、やはり大事、大事に行かなければならない。

片岡:  「巨大組織を改革するには、本流の異端であることだ。だから絶対に本流から外れてはいけない、何としてもしがみ付け」というあるバンカーの言があります。

大森:  至言ですね。私は一民間人となりましたが、まだまだやっていきたいと思うことがあります。

片岡:  貴重なお話を有難うございました。

~完~

インタビュー後記

日本のテロ対策・危機管理については「日本は起ってみないとやらないところがあります。また起こってからも、対応はしても根本的な対策はとらず、アングロサクソン的に色々悪いケースを想定して周到に準備し…とはならない。良いとは思わないが、日本人はそういう思考様式。結局、日本では日本的な対策しか取れないし、必ずしもそれを変えたからといっていいわけではない。勿論、日本人も例えば大地震など怖がっているのですが、どこかに、来たらしょうがないという思いがある」そうです。被害に苦しむ人々を目の当たりにしながらも、冷徹な分析と信念に従う。自ら血を吐くような思いで国家の危機を見守ってきたことでしょう。

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を開設。

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