明治・大正期日本の満韓政策といわゆる「歴史認識」問題の省察
はじめに
今年の春、安倍首相が夏に戦後 70 周年記念の談話を出すことが報じられ、大変気になったので、手当たり次第に、関連文献を読んでみた。
安倍談話に先立って、8 月 6 日には、その基になる「有識者懇談会」報告書が公表された。
北岡伸一氏など著名な国際関係史、政治史の専門家多数を含むこの報告書は、日本の「侵略」を満州事変以後に限っている。これは、日本の近現代史の理解として正しいか?
北岡教授の教え子である細谷雄一・慶応大学法学部教授は、私と同じように、「有識者懇談会」の発足(本年 2 月 25 日)を契機に、今年の春から 7 月にかけて、急遽『歴史認識とは何か~日露戦争からアジア太平洋戦争まで~』(新潮選書、2015 年 7 月)を執筆した。
なかなかの好著だが、副題に偽りあり。本書の対象は、第一次大戦期から太平洋戦争に至るまでの日本の外交、軍事政策の批判である。氏は、第一次大戦後の日本の政治家・軍部指導者が、国際的平和主義への潮流を見逃したことが、その後の失敗の原因だと指摘する:
「第 1 次大戦後の日本にとって大きな問題であったのは、何よりも国際情勢の急速な変化や、国際体制の構造的変化に十分についていけなかったことである。」(p.269)。氏はまた「あとがき」で「本書の主たる目的」は、「すでにいくつもある近現代史の通史に新しい一冊を加えることではなく、あくまでも日本人が抱える歴史認識をめぐる問題の泉源を探ること」だったと述べている…