下流中年
スタートアップ企業への投資の仕事をしている関係上、毎週のようにベンチャー起業家と会います。
半分くらいは私の会社に訪れてくる人たち。
逆にこちらから訪問するケースも多くあります(むしろ訪問したくなるような会社の方が有望な先が多いような気がします)。
なぜ起業することにしたのですか、という定番の質問をすると実にいろいろな答えが返ってきます。
これまでにいちばん印象に残った答えは
「たくさんの人を正規社員で雇って少しでも社会貢献したい」(A社長)。
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「下流老人」ということが言われて久しいですが、最近では 「下流中年」 がもっと大きな問題なのだとか・・・。
たまたま先日、出版社の方がまさにどんぴしゃりの タイトルの本 を送ってくれました。
こうした本に対しては必ずと言っていいほど「下流中年になってしまうのは自己責任でしょ」といった批判的な書評が寄せられます。
しかし48歳の正規で働いていた人が老親に介護が必要になり、いったん会社を辞めるというのは自己責任でしょうか。
老親も息子もそれまでじゅうぶんにお金を稼ぎ、結構手厚い保護を受けられる民間の介護付き老人ホームに入れれば、確かに息子の方は会社を辞めて介護にあたる必要はないかもしれません。
しかし、別の例ですが、自分が働いていた会社が不幸にして倒産してしまったら・・・。
あるいは新しくやってきた社長がきわめて理不尽な人で、ブラック企業的にあなたを追い詰めたら・・・。
本書(123頁)にあるようにセクハラ、マタハラなど「いじめによる自主退職が転落の最初の要因になる」ことも少なくありません。
本書の最終章(137~237頁)には12人の人たちの例が出てきますが、これを読んで無縁と言えるかどうか・・。
厚労省が2015年11月に公表した「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、全労働者に占める非正規労働者の割合は約40%に達します(本書138頁;オリジナルデータは『こちら』)。
ポイントはこの約40%の非正規で働く人たちの生活が多くの場合、いつ転落してもおかしくないというギリギリの水準にあることです。
40代でいったん会社を辞めたら、次は正規ではなかなか雇ってもらえないというおかしな状況が日本にはあるのです。
また一方で年金をもらう世帯は給与所得者に比べ税制的に優遇されるケースが多いとか、世代間の不公平さの現実もあります。
以下は本書52頁に出てくる萱野稔人氏の発言。
(萱野)
「今の日本では、特別会計も含めれば社会保障費のうち100兆円が高齢者福祉に費やされています。
ところが、同じその日本で、預金総額が毎年30兆円ずつ増加しているという現実もある。
・・なぜこんなに増えているのかといえば、年金を貰っても使わない高齢者がたくさんいるからです。
今の日本には・・老後も毎月40万円以上の年金を貰えるような高齢者がいます。
・・結果的に年金は使われず、貯蓄に回されています」
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冒頭ご紹介したA社長が経営するような会社が競争社会を勝ち進み、たくさんの正規社員を雇ってくれるようになるのを期待したいところです。
(と同時に何か社会の仕組みを改善しないといけないところまで来ているような気もします)。