部門別損益
「アップルは、半ば独立した部門の集合体という形になっていない。
ジョブズがすべての部門をコントロールしているため、全体がまとまり、損益計算書がひとつの柔軟な会社となっている。
『アップルには、損益計算書を持つ「部門」はありません。会社全体で損益を考えるのです』
とティム・クックも語っている」
以上は、ウォルター・アイザックソン著「スティーブ・ジョブズⅡ」192頁からの引用です。
さすがに時価総額世界1位(注:現在グーグルを抜いて再び世界1位)となった今では、「アップルはある程度の部門別損益を把握し、なおかつ公表しているのでは」と思って、2015年度10-K(年次報告書)を見てみました(『こちら』)。
すると地域ごとに損益は把握されているのですが、それ以上の部門別損益はありません。
売上高は製品ごとに分けて計上されています(以下、数字は全て2015年9月までの通年;アップルは9月決算の会社です)。
iPhone 1550億ドル(66%)
iPad 232億ドル(10%)
Mac 255億ドル(11%)
Services 199億ドル(9%)
Other Products 101億ドル(4%)
全体 2337億ドル
しかし製品部門ごとに損益を出すことはしていないのです。
なお地域ごとの売上高と損益は10-Kの67頁(PDFファイルで69頁)に載っていて、まず売上高は:
Americas 939億ドル(40%)
Europe 503億ドル(22%)
Greater China 587億ドル(25%)
Japan 157億ドル(7%)
Rest of Asia Pacific 151億ドル(6%)
全体 2337億ドル
ここで、地域は単なるアップルによる区分けであって、Europeには中近東、インド、アフリカを、Greater Chinaには中国、香港、台湾を、そしてRest of Asia Pacificには豪州、東南アジアなどを含む、としています。
次に地域ごとの Operating Incomeは:
Americas 312億ドル(44%)
Europe 165億ドル(23%)
Greater China 230億ドル(32%)
Japan 76億ドル(11%)
Rest of Asia Pacific 55億ドル(8%)
全体のR&D ▲81億ドル(▲11%)
本部経費 ▲46億ドル(▲6%)
全体 712億ドル
* * * *
日本の会社では各部門に権限を与え、損益責任を持たせる、そして部門同士で競争させることが多いようです。
たとえば東芝。
『佐々木氏は中間決算の最終月末にあたる12年9月27日の社内会議で、パソコン事業部に「残り3日で120億円の営業利益の改善を強く求めた」』(日経新聞2015年7月21日)。
一方、アップルのジョブズが注力したのは、社内の部門間で競争させるよりも『社内の各部門は並行して走りながら協力する』(上掲書122頁)ようにするということ。
ジョブズの言葉によれば『Deep Collaboration』と『Concurrent Engineering』(上掲書122頁)です。
我々はもう少しアップルのやり方を勉強してみる必要がありそうです。
なおジョブズがアップルを半独立的な部門に分けようとしなかったことは、ジリアン・テット著『サイロ・エフェクト』(89-90頁)でも言及されていいます。