路地裏の経済学者
「路地裏の経済学」の著者、竹内宏さんが亡くなられた(4月30日)。
1979年の本なので、私が読んだのは興銀に入って間もなくの頃だったと思う。
統計数字だけでなく、実際に商店街に行き、店主の話を聞くとか、「自分の目や耳で確かめろ」といったことが書いてあったように記憶している(かなり前の話なので間違っているかもしれません)。
私も心がけていることが一つだけある。
タクシーに乗るたびに「景気はどうですか」と聞くことだ。
ここ数年は、「アベノミクスで少しは良くなったのか」と聞いている。
答えは「さっぱりだね」とか、意外にも「むしろ悪いよ」といったものが多い。
統計数字の方を見てみよう。
内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部が今年3月に発表した数字である(『こちら』)
実質GDPの対前年(暦年ベース)成長率は:
2010年 +4.7%
2011年 ▲0.5%
2012年 +1.7%
2013年 +1.4%
2014年 ▲0.0%
2015年 +0.5%
(以上、上記資料の25頁)
ここで念のために付け加えておくとアベノミクスの第一の矢(大胆な金融政策)、いわゆる「黒田バズーカ第一号」が放たれたのが、2013年4月4日である。
実質GDPの対前年成長率は、「アベノミクス開始後」よりも「アベノミクス開始前」の方が良かったのだ(もちろん「アベノミクス開始後」の数字は消費税増税というハードルを越えた上での数字なので表面的な数字以上に高く評価できるという見方もある)。
GDPだけでなく民間の消費支出も見てみよう。
アベノミクスが始まる前の民間最終消費支出(2012年暦年)308,072.2(十億円)
昨年1年間の民間最終消費支出(2015年暦年)306,483.3(十億円)
(以上、上記資料の24頁)
民間の消費支出も、「アベノミクス開始後」よりも「アベノミクス開始前」の方が良かった。
* * *
たしかにアベノミクスによって円安となり株価は上がった。雇用も改善した。
しかし統計数字を見れば分かるように、GDP成長率は、アベノミクスが始まる前の方がむしろ高かった。
民間部門の消費支出の水準も、2012年暦年の水準の方が、昨年1年間の数字より高かった。
最近は日経新聞でも「デフレ銘柄に資金流入」といった記事が目につくようになった(たとえば『こちら』)。
タクシー運転手の声が聞こえてきそうだ。
「難しいことは分からんけれど、長いこと運転手やっている我々がいちばん分かるからね」