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中国海軍近代化の方針とその現状(後半)

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前号に引き続き、中国海軍の近代化の現状について説明したい。なお、前号では中国海軍は、①戦闘艦の戦闘能力のマルチ化の促進、②遠距離洋上の情報能力の強化、③潜水艦戦力の強化、④哨戒艇戦力の強化、⑤機雷・魚雷戦力の強化、に注力していることを説明した。

空母戦力の構築
中国が、外洋に目を向け始めた明白な証拠は、空母戦力の構築だ。中国は、ソ連で設計された空母ヴァリャーグの未完成艦体を入手し、改修工事を実施し、2012年9月、大連の港で中国海軍に引き渡す式典が行われ、遼寧(艦番号は16)と命名された。“中国海軍の父”劉清華が夢にまで見た空母構想が実現した瞬間だった。2013年2月末、青島の軍港に移動した。遼寧は、就役後、航海訓練を継続し、同年末には殲−15(J-15)による離着艦試験に成功した由(新華社通信)。当面の間、訓練・評価用のプラットフォームとして活用する予定と見られる。
遼寧の艦載機には、殲−15(J-15)攻撃機24~ 36機、Y-7またはYak-44をベースにした早期警戒機4機、Ka-28PL対潜ヘリコプター6~ 8機、Ka-28PS対潜ヘリコプター2機など計50~55機を統一配備するとされる。しかし、現実には、これら艦載機を搭載して運用できる目途は立っていない。最低水準の空母――遼寧――を中核とした戦闘能力を発揮できるようになるのは、楽観的に見て2015年以降になる見通しだ。
遼寧は、スキージャンプ台方式で、離陸重量を減らせば発艦そのものは、それほど難しくはないが、着艦は大問題。十数トンにも及ぶJ-15戦闘機が時速250kmのスピードで着艦するのを僅か20m程で止めるためには極めて強靭なアレスティング・ワイヤーが必要となる。しかもこのワイヤーは連続で、一日に何百回と使用できる耐久性も必要となる。このワイヤーの製造技術はアメリカとロシアにしかない。中国は、外国の技術を窃盗し、遼寧を使って戦闘機の離・着艦技術の開発を行うだろう。
中国海軍が、遼寧に続いて国産空母の建造を長期的・段階的に計画しているのはまちがいない。中国海軍は、今後10年の間に複数の母艦およびそれに関連する支援艦を建造し、空母戦闘群を形成し、東シナ海と南シナ海に配備する計画と見られる。
空母戦力の建設において、中国海軍が解決すべき問題は山積しており、2030年までに必要な空母作戦能力を形成することができるかどうか楽観を許さない。今後建造する国産空母は、遼寧(スキージャンプ甲板)とは異なり、艦載機の作戦能力を高めるカタパルトを搭載すると見られる。複雑な仕組みの電磁式カタパルトになる可能性もある。カタパルトは莫大なエネルギーを消費するため、中国は今後建造される空母に原子炉を搭載する可能性がある。また、将来艦載機には無人機を搭載する方向で研究開発を行っている。

水上戦闘艦艇戦力の強化
海軍は、近代的な、国産水上戦闘艦艇を調達している。その中には、国産HHQ-9長距離艦対空ミサイル(SAM)装備の、少なくとも2隻の旅洋(ルヤン)II型(052C型)誘導ミサイル駆逐艦(追加船体が現在建設中)、ロシア製SA-N-20長距離SAM(射程150キロメートル)とフェーズドアレイレーダーが装備された2隻の旅洲(ルージョウ)型(051C型)駆逐艦、および中距離射程のHHQ-16垂直発射型艦対空ミサイル装備の少なくとも9隻の江凱(ジャンカイ)II型(054A型)誘導ミサイルフリゲート艦が含まれる。なお、さらに江凱(ジャンカイ)IIの改良型である054B型の建造も進めている。これらの艦艇は、海軍の領空防衛能力を大幅に強化することになる。これら艦艇防空能力の向上は、人民解放軍海軍が、その作戦行動を、沿岸部(陸上)を基盤とした防空の範囲を第一列島線や第二列島線内の海域にまで拡大する上で、極めて重要だ。

戦力投射能力(パワー・プロジェクション)
中国海軍は、2015年ころまでには、あまり大きくない規模の戦力――おそらくは数個大隊の陸上戦力または最大12 隻の規模の海軍小艦隊――を本土から遠方での低強度作戦に投射し維持することができると見られる。こうした能力の向上は、より広範な一連の地域的・世界的な目標を達成できる戦力の基盤を構築するものとなる。しかし、2020 年以前に中国が大規模な戦力を自国から遠方での高強度戦闘作戦に投射し、その戦力を現地で維持できるようになる見通しはまだ立っていない。このことを具体的に言えば、沖縄を含む南西諸島に侵攻し、自衛隊・米軍と戦闘し、万一これを撃破できた場合でも、同諸島を占領確保できる能力は不十分だといえよう。

海南島に海軍戦略戦力用基地を建設
海軍は、海軍戦略戦力用の基地を海南島最南端の亜龍に建設を完了した。亜龍基地は、南シナ海全体を制する要点であり、しかも海南島周辺は水深が深く潜水艦の展開に適している。南シナ海は、米海軍の主舞台である西太平洋とインド洋(ペルシャ湾を含む)の中継海域、ないしは「海の回廊」とも呼ばれる海域であり、マハン時代に注目されたパナマ運河――太平洋と大西洋の“回廊”――の機能に似ている。亜龍基地は、攻撃型原子力潜水艦(SSN)、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)、および空母を含む戦略戦力レベルの水上戦闘艦艇を同時に停泊できる十分な広さを有する。また、亜龍基地には、弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦や最新鋭戦闘艦を数隻収容できる規模の海底トンネル施設がある。これを使用すれば、直接潜水して展開でき、米海軍に察知されない。かつて冷戦時代にソ連が対米核戦力の一翼として、バレンツ海やオホーツク海に弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を展開したように、中国海軍は、“虎の子”の晋級SSBN21を南シナ海に展開する計画である。そのためには、南シナ海を「聖域化」する必要がある。

(おやばと連載記事)

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