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危機管理とは何か  ―的確な危機予測のための情報活動を焦点に―

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  1. 危機とは?
    1. 危機の特性: 突発、予想しない様相、致命的損害、迅速な被害拡大。組織存続も危うく
    2. 危機の種類: 自然的危機=災害、人為的危機=非作為的事故、作為的脅威。複合型が多い。
    3. 危機対応の主体: 国家から個人まで各レベル。大半は自助と共助、共同体の絆が重要
    4. 危機の連鎖と相互関連: 災害と脅威(犯罪、暴動、侵略)、国境を越えた危機(気候変動、エネルギー危機、金融危機、国際テロ、サイバー攻撃)の深刻化と国際協力の重要性
  2. 危機管理の意義と効果
    1. 危機管理では、損害期待値=発生確率×予想損害コストの大きな危機を重点管理。ただし、発生確率は低くても致命的損害を与えるおそれのある危機への対策も重要
    2. クライシスとは、平常から「断絶」した、しかし誰もが逃れられない「定め」。
      クライシスは「死」と同じで、誰も逃れられないが、備えれば苦しみは緩和。
    3. 最善は、事前に危機に気付き回避する「未然防止」。次は「被害局限」。次が「早期復旧」。問題解決、「復興」まで危機は続く。自然災害は「予測」し「事前避難」はできるが「未然防止」は困難
    4. 計画があれば慢性的な危機段階の持続期間は2.5分の1に短縮され、どんな危機にも何とか対応できる。計画は簡単なものでも、ないよりははるかにまし。
  3. 危機の段階区分
    1. 危機前の「平時」=「予兆段階」、危機後の「危機ピーク段階」、「危機慢性段階」、「危機収束段階」。「平時」とは何もない段階ではない、常に危機の芽、予兆は潜在している。
      危機対応の段階は様々。『災害対策基本法』では、「災害予防」、「災害応急対応」、「災害復旧」に区分。発災後3日を焦点に「即時救援」、ピーク時の被害拡大を抑え込む段階を「被害局限」とし、「復旧」を「応急復旧」と「本格復興」に区分する考え方もある。
    2. 危機は連鎖的に生ずることが多く、単一の危機が収束に向かう前に、新しい危機が襲うことも多い。特に、人為的危機は弱点を狙い奇襲的連続的に生起。自然災害も連動する。
    3. 「復旧」又は「復興」の後またはそれに並行して次の危機の予兆が始まっている。自然災害も脅威も同じ。危機対応時も、他の新しい危機に備え、平常業務も遂行。予備必要
  4. 重点は「予兆段階」の「予測」と「準備」
    1. 危機は逃れられないが、被害を軽減はできる。危機後の対応の適否でも被害規模は変わるが、多くは予測と準備で決まる。準備は任務分析、見積、方針決定、計画、組織化、訓練からなるが、危機の予測いかんでその方向性は決まる。
    2. 危機には必ず兆候があり、機微な兆候を見抜く「情報活動」が予測を左右
    3. 情報活動は、情報要求の決定、収集、価値づけ・分析・評価、報告と使用のサイクル
    4. 危機時の情報不足や流言、蜚語がパニック生む。ソーシャルメディアの発達は両刃の剣。
      責任ある機関による平時段階での危機予測に関する的確な情報の伝達と説明が重要
  5. 予測情報の収集
    1. 情報要求の決定(運用者側が、守るべき対象を絞り情報の優先順位を明示。資源と均衡)
    2. 情報の収集(できるだけ密度の濃いリアルタイムの正確な情報を各種手段で収集。人と各種センサーで収集し、高度のセキュリティで守られた指揮統制・通信・コンピューター・情報(C4I)ネットワークで伝達、データベースに蓄積。決め手は人の判断力。国民、民間の協力不可欠。収集情報の一元化には情報提供を強制できる権限と集権的組織が必要。緊急対処チームの持続的な情報共有も不可欠)
    3. 収集する情報の種類(「基礎情報」が危機予測時には重要。自然地理と社会の基底にある長期的な不変の要因と傾向を理解。長期の定点観測を継続し、トレンドを把握。長期的要因とトレンドを知ることで、クライシスの原因となる本質的変化を起こす可能性のある要因を察知可能に。なお、危機後の対応段階では、その時々の運用に直接関連する「動態情報」が重要で、時々刻々と変化。それに応じて対応も決まる)
  6. 予測情報の価値づけ・分析・評価
    1. 価値づけ(情報資料が、①報告時期に間に合っているか、②資料源は信頼できるか、③事実関係に明らかな誤りはないか、④論理的な不整合はないかをまずチェック)
    2. 分析(前回の情報収集時から変化した点に焦点を置き、①各収集手段間の情報の照合、②過去の歴史との時間的比較、③他国、他組織等との水平的比較、④変化パターンの照合。変化と差異の原因、影響に焦点。データ処理に統計手法、コンピューター解析活用)
    3. 評価(最も重要な段階。ここで間違えば、それまでの情報収集分析も無駄になり、それ以降の対応も誤る。特に予測は評価が困難。評価を適正に行うには、多くの情報組織の専門家による多角的視点から検討必要。ネットワークを通じ情報コミュニティの各専門家の支援を受けて分析・評価。最終評価の方式には、各情報組織と運用側の代表が一堂に会して協議し合意を形成する方式と、各情報組織トップが個別に最高指導者に直接報告する方式あり。評価結果は、①各予測事象の生起の可能性、②任務達成への影響度、コスト、③利用しうるチャンスにまとめて報告し、緊急対処チームも常に共有)
  7. 予測情報の報告と活用
    1. 最高指導者に直接報告(予測情報の適正な活用には、情報関係者がトップに直接、制約なく、評価結果を報告し説明できる場が必要。情報関係者の長には、中立性を維持できるだけの相応の権限と地位を付与。情報関係者の長の最大の役割はトップの説得)
    2. コストがかかっても、兆候を重大な危機の前兆と見て対処する「牛刀主義」で臨むことが危機管理上は望ましい。危機予防の期待効果と退避等の予防行動に伴う実コストとの比較評価が必要に。特に予算や人の制約がある場合、あるかないかわからない危機に備えてコストをかけることには抵抗がある。しかしクライシスが起これば組織の命取りに
  8. 予測段階で重点管理すべき危機の抽出分類法: 危機評価表の作成と活用策
    1. 予想される危機の烈しさの推定(その危機が、どの程度の烈しさでどのくらい続くか、自らがどの程度の烈しさの危機にどの位の期間耐えられるかを評価。主観で良い)
    2. 危機の社会的影響度の推定(企業ならメディアの注目度、政府の規制強化等の反応、国家なら国際社会の注目度、支持、非難とその反応等について予想)
    3. 正常な活動に対する阻害度の推定(人、物、施設、生産、物流等各種資源と本来の活動への阻害度、悪影響の度合いを推定。本来の活動への時間的阻害度を予想)
    4. 危機に対する社会的責任とその影響の予想(危機の被害者になるか加害者になるかにより、社会全体の自らに対する反応が逆に。危機収束までの社会から得られる協力度が大きく相違。自らの責任で招いた危機はコストが大。努めて社会から良いイメージを確保)
    5. 危機が、守るべき死活的利益に対して及ぼす影響についての評価(各種専門家の協力を得て総合評価。確率は低くても致命的影響を与える危機を見逃さない。物的、経済的被害だけではなく、社会から受ける信頼感、イメージなどソフト面の影響も重視。マイナスイメージは内部的にも、士気と意欲の低下、脱落、募集困難等の悪影響生む。適切に事前評価し対策をとっていれば、危機が防げなくても、被害は致命的ではなくなる。危機管理専門のコミュニケーターを養成しておき危機時の広報、説明責任を担当)
    6. 各危機の危機インパクト評価(以上の5項目をそれぞれ10段階のスケールで危機ごとに評価し、その合計点を集計し、5で割る。その結果、重点管理すべき最悪の危機が判明し、各危機の相対比較も可能になる。また危機管理上の危機レベルの改善目標、代替策の案出も可能に。各10段階評価は主観や仮定でも良い、計数化することが大事)
    7. 各危機の発生確率評価(類似事象の過去のデータなどから推定し、10段階スケールで評価。確率がわからなければ、仮定でも良い。スケール化することが大事)
    8. 危機評価表の作成(危機インパクト評価を縦軸に発生確率評価を横軸にして作成。いずれも高い危機を赤、インパクト高で確率低は黄、インパクト低で確率高は灰、どちらも低は緑に区分。各危機のコストと代替案が判明し、代替案による防止のコストも判明)
    9. 赤の危機対策(インパクトを下げ、かつ確率を下げ、耐えられるレベルの危機に転換。そのためのコストを対策ごとに見積り、比較評価。その際再度①から⑤の要因の低下の可能性を検討)
    10. その他の場合の危機対策(対策がコストを要する場合でも、訓練により、コストをかけなくても危機のインパクトは軽減可能。黄の稀だがインパクトの極めて大きい危機は、それだけで社会特にマスコミの注目を集め、信頼感などソフト面の打撃が大。ソフト面の広報、法務、心理等の対応が重要に。灰のインパクトは小さいが確率の大きい危機は、ハード面のコストが大。平常時からのハード面の施設等の点検、修理、改善などが重要)

まとめ

危機の様相は異なっても共通的な原則はある。原則を踏まえれば、どのような危機にも柔軟に対応可能。予測段階の情報がすべての基礎。危機予測段階での情報活動により、的確な危機予測評価を行い、その結果を広く周知して必要な準備を行って、危機を回避、防止するのが最善の危機管理。予測段階で重点管理すべき危機は、危機評価表等を活用して合理的に抽出分類し、分類に応じた個別対応を採ることが重要

主な参考文献

  1. Steven Fink, Crisis Management: Planning for the Inevitable: iUiverse.com, Inc., Lincoln, NE, 2000
  2. ruce T. Blythe, Blindsided: A Manager’s Guide to Catastrophic Incidents in the Workplace, Penguin Books Ltd, New York, 2002

注:「危機評価表(Crisis Barometer)」とその手法については、①のpp.40-46を参照。②のp. 146にも同様のグリッド(Foreseeable Risk Analysis Grid)が示されている。

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