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習近平中国の台頭と、レジーム変転の中の日中関係

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はじめに:Trump’s Abominable Snow Job と習近平中国の台頭

トランプ米大統領はこの1月21日で政権運営,2年目に入りました。さてトランプ政治の1年とは何だったのか。選挙戦で見せつけたあの暴言虚言、それは選挙に勝つ為の方便であり、政権に就けば現実志向になるとよく耳にしたものでした。然し、こうした楽観論は当て外れ。威圧的な政治手法を改める兆しのないまま、America first を以って進める内向きで排他的な政策は、米国民はもとより世界の国々をも右往左往させ、これが齎した重大な事は、これまでの「リベラルな国際秩序」を揺るがし始めた事でした。

America first の下、決定されたTPPやパリ協定からの離脱は,要はアメリカは自国のInterestに見合わない(cost performance)国際的関わりからは身を引く、retreatするというものですが、このAmerican retreatが世界秩序を担保してきた既存システムを壊し出したと云う事です。昨年12月18日、トランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」にしても、本来なら世界秩序の指針たるべき文書とされるものですが、米国第一を繰り返すにとどまるだけのもので、それは「リベラルな国際秩序」の守護者の役割からの降板を映す、「America first」対応の‘極み’と映るものでした。勿論、米国は軍事力だけで世界をleadしてきたわけではありません。人権尊重、民主主義、市場経済等、普遍的価値こそが米国の支配力の源泉だった筈です。然しトランプ氏はそれを手放していったという事で米国の国際的地位の低下を加速させる処です。

つまり2017年は、米国そして世界にとって 米論壇が云うTrump’s Abominable Snow Job (忌まわしいほどにはったりの政治)に振り回された1年であり、トランプ氏の姿はオバマ前大統領を全否定する、言うなれば‘壊し屋’のそれで終始した1年であり、故に米国政治における最大の不確定要素が大統領自身との認識が定着した極めて異常な1年だったと云えそうです。

さて、迎えた新年2018年は、世界的に株式市場への資金流入が加速する様相を以ってスタートを切りました。年初4日のNY市場はダウ平均で2万5000ドル台にのせ、東京市場でも日経平均は連日、昨年来高値を更新しています。これが、米国で大型減税法案の成立(2017/12/22)もあって世界景気が一段と拡大するとの見方が株価をあと押ししていると見られる処です。因みに米国景気の回復はいまや9年にも及ぶ処です。

然し、世界の安全保障環境に目をやると、依然トランプ氏と北朝鮮金委員長との間での挑発合戦は衰えることはなく、1月9日、2年ぶり再開された南北朝鮮閣僚級会談は最大の核開発問題には及ぶこともなく、北への圧力強化で連携を組む日米韓3か国の枠組みが揺らぐのではとの懸念も出るなど、危機感の消えることはありません。 一方、国内では大幅減税が決まったとはいえ、減税による財政赤字の拡大が再び云々され出すなか、大企業や高所得層の税負担は軽減なるものの、オバマケアーの一部廃止等で所得再分配は後退したことから、米世論調査では、今次減税に賛成の有権者は3割に過ぎない状況が伝えられています。そこでトランプ氏は、その対抗として24日、インフラ計画の具体案を30日の年頭教書で言及する旨を明らかにする処です。
そして、ダボス会議出席のため滞在中のスイスで25 日、TPP復帰の可能性を語っていますが、これが国内のTPP復帰を期待する業界の声に応えんとする国内向けactionと云え、要は、秋の中間選挙をにらんだ変心ともされる処です。いずれにせよトランプ氏の行動様式からは、有権者目当ての人気取りで、益々内向きになっていくものと危惧される処です。

・習近平中国の台頭
さて、そうした米国の内向き姿勢が、世界の統治システムに構造的不確実さを齎す中、近時世界が注目するのが‘習近平中国’の台頭です。その中国について12月26日付日経社説は、時代遅れになりがちな中国認識に、以下のように警鐘を鳴らしています。
「世界の人々にとって刻々と変化を遂げる中国を等身大で捉えるのは大変な作業である。ある人は10年前に住んだ経験から、今の中国を語る。また、ある人は5年前に出張した時の見分から中国の現状を分析する。残念ながらいずれも今の中国の実状を捉えることはできない。中国全土に伸びる高速鉄道網や地方都市に広がる地下鉄網は10年前になかった。誰もがスマートフォーンを持ちキャシュレスで生活する「スマホ経済」は5年前には影も形もなかった。・・・」と。確かに2005年頃までは中国のGDPは日本の約半分しかなく、それが2010年には追い抜かれ今は日本の3倍近くとなっています。近く米国すら追い越そうと云われる状況にあって議論の前提が明らかに変わっているという事ですから、昔ながらの感覚で中国に接することは‘危険さ’すら呼び込むことになる、と云うものです。

年明けの1月2日、国際政治学者、Ian Bremmer氏が主宰するユーラシア・グループが発表した2018年世界の「10大リスク」では中国を第1位としていましたが、それは存在感の低下する米国の間隙を突くように台頭する中国の影響力の拡大が齎すリスクを意味するものでした。
その要因として、Bremmer氏は、一つは習近平国家主席が昨年10月の共産党大会で権力基盤を強化し、毛沢東・トウ小平(ドンシャオピン)以来とも言われる近代中国で最も強力な指導者になった事。二つに中国が経済・軍事両面で国力を増している事、そして、米トランプ政権の「米国第一主義」により、中国が世界で重要な役割を果たす機会が増えてきた事, を挙げるのです。

そして、こうした変化を受けて「世界は2018年、中国に注目し、中国と欧米のモデルを比較し、欧米にとってはともかく、他の地域の大多数の国に対しては、中国モデルはもっともらしい、欧米に代わる選択肢を提供することになる処、習氏が選択肢を進んで提供する準備ができていること(注)が最大の地政学リスクだ」(日経2018/1/19)とBremmer氏は断じるのです。もとよりこの変化こそは「戦後レジームの変転」を語る処と云うものです。[(注)昨年の共産党大会での習氏発言をリフアーしたものと思われる]

ではそうした習中国に日本はどのように向き合っていこうとしているのか。今年は日中平和友好条約締結(1978/8/12)40周年を迎えます。昨年来、両国の政界,財界幹部の交流も進み出し、日中関係改善への環境も醸成されつつあるやに見受けられる処、二階自民党幹事長は12月訪中時、「互恵を超え、未来を共に創る‘共創‘の関係に深化させて行きたい」(日経12/28)と発言しています。勿論、日米同盟を基軸に中国との力関係のバランスを図ってきた日本の安全保障戦略にも影響する処、現実の政治はどう動こうとしているのか、気になる処です。

そこで、本年最初の本論考では「中国」を取り挙げ、以下を枠組として論述する事とします。
まず第1章では前述の通り、「10大リスク」のトップに「中国」が挙げられていますが、その背景確認の意味も含め、米論壇、project syndicateに掲載された前世銀のChief economist, Mr. Justin Yifu Linの12月1日付論考` The Economics of China’s New Era‘ を下敷に、中国経済の現状と今後の行くへについて考察し、併せて中国の台頭でレジームの変転の進む中、日中関係の合理的な在り方について考察します。(注:世銀のChief economistには元米財務長官、L.サマーズ氏、ノーベル経済賞のJ.ステイグリッツ氏ら有力economistが務めている.) 次に、第2章では、中国経済の対外拡張路線が齎している問題について、二つのテーマ、その一
つは進出著しいアジア経済での中国化現象について、もう一つは今話題のThe new shape of Chinese Influenceとされ、「Sharp power」(The Economist、2017/12/6)と称される、中国政府
筋による経済活動に係る一種諜報活動まがいの行動について、その現状を把握しその対抗措置について考察します。そして「おわりに」では、5年を終えた安倍政権の政策運営について改めて論評し、新年最初の論考としたいと思います。(2018/1/26)

目 次

第1章 習近平主席と中国経済  ———–P.4

1. The Economics of China’s New Era
― 習氏が目指す中国経済のかたち

(1)中国経済の成長のかたち
・習氏が目指す「復興」に必要なこと
(2) 日本経済の成長様式をフォローする? 中国
2.日中関係再考 -戦後レジームの変転する中で
・習中国との関係を考える基本軸

第2章 アジア経済の中国化と、新たな中国脅威 ——–P.8

1. 中国化が進むアジア経済
2.Sharp power - 新たな中国脅威
-China is manipulating debate in Western democracies
・世界ルールへの中国の不満
・三つの対抗措置

おわりに:年初、気がかりな二題を思う ————-P..11
・改めて問う成長持続への改革
・いま「不愉快」転じて「不気味」強まる

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