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安倍政治の3年を質す -日本の戦後民主主義の変質と官製経済の限界

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はじめに:アベ政治の3年に思うこと

安倍晋三政権は昨年12月26日で4年目に入りました。そして、今年、2016年1月4日でアベノミクスも4年目に入ったのです。 処で、昨年1年間の安倍政治の来し方を顧みるとき、問題の一つと映るのが、民主主義政治のひび割れ、つまり‘代表民主制’と‘民意’とのズレが鮮明となった事でした。それは、民主主義の在り方を問う1年だったとも言える処です。
そうしたギャップを抱えながらも、国民が安倍政権に対してイエスではないまでもノーを出さなかった理由として挙げられるのが、前政権の民主党政治よりはましだ、と言うこの一言にあったと言うものです。それこそが、安倍政権に対する信頼が乏しいままに、しかし‘安倍一強’と言われる政治構造を齎した現実であり、いつしか戦後日本の民主政治の逆走すら思わせる処です。

もう一つは、デフレからの脱却を合言葉に華々しくスタートしたアベノミクスですが、途中で安倍首相は自らの政治資源の全てを、安保関連法制に向けていった結果、折角上向きだした経済は頓挫し、今なお経済回復への自信を持つことなく迷走状況にある処です。この間、政府が日本経済の底上げの為、市場主義経済の原則を否定するかのように、アベノミクスの目標達成の為にと、‘民’に圧力をかけ官民癒着構造を定着させてきたことでした。 言うまでもなく市場主義経済とは民主主義こそがその前提ですが、上述、政治事情と併せみるとき、アベ政治における民主主義とは?という命題が急速に浮上してきた1年だったと言うものでした。

そこで、下記プロットに即し、安倍政治が映す戦後日本民主主義の変質と、アベノミクスのリアルについてレビューし、日本経済の持続的成長の視点について考察したいと思います。

1.安倍政治と民主主義
(1)アベ政治が映す民主主義のリアル
・チャーチル英元首相と民主主義
(2)アベノミクス機能不全のリアル
・そもそもアベノミクスとは
・有識者と言われる経済人に求められる矜持
2.日本経済 持続的成長への視点
(1)Larry Summers 元米財務長官のアドバイス
(2)求められる‘静かな有事’への戦略対応
おわりに: 再び‘変化する者だけが生き残る’を

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1.安倍政治 と民主主義

(1) アベ政治が映す民主主義のリアル
2015年9月19日、安倍政府は日本の安全保障政策を大きく変える安保法制関連2法案を「違憲」批判を始め、噴出する様々の問題を押し切って、成立させました。具体的には、こうです。2014年の衆院選では自公で定数の4分の3、但し得票率は5割未満。有権者が重視したのは経済政策でした。安保法案は終始、反対が5割を超え、賛成を上回り続けたのです。 勿論、安倍晋三首相にすれば、選挙で国民から選ばれたから、現政権は民意を得たものとして、多くの有権者が反対する集団的自衛権行使に係る安保法案を強引ながらも通した、と言うものです。

選挙で選ばれた多数が物事を決めるのが民主主義― 多数決が民意の反映とする民主主義の原理ですから間違いではありません。とは言え民主主義に於ける多数決は多数派の意見を擬制として、全体の意思と見なすことに特徴がある処、それを保障するために、多数決は少数派の権利の尊重と組み合わされる必要がある筈ですし、その為の方法原理は討論と説得、参加と抵抗にあるのです。にも拘わらず、安保法制のような国の在り方を規定するような重要事項について、数だけを以って手続きを進め、決定していくという現下にみる政治(国会)の意思決定の在り方に大いなる疑問を禁じ得ないのです。

更に、政治の役割は、これまでの 成長時代の「利益の配分」から「負担の配分」に移ってきた事、そしてその結果、コンセンサスを待つのではなく、自らが意思決定しなければならない場面が多くなってきていると言われています。それだけに政治の効率追求が云々される処と言うものですが、それでも安保法案のような国の方向を規定するような案件までもスピーディにやればいいと言うものでもない筈です。では民意が十分に反映できる政治システムとはどうあるべきなのか、政治の現実を見るに代表民主制はもはや機能しなくなってきたという思いを深くする処です。

こうした事への自戒もあってか、今夏の参院選に臨むにあたって安倍首相が憲法改正発議のできる大勝をと、発言したことに与党内でも単に員数の問題ではない、少なくとも野党、民主党との合意を取り付けるべきだとの声も出てきていると伝えられていますが、少なくとも、改憲といった問題については、もっと国民の意見、民意、が反映しうる仕組みを考えられてしかるべきと思う処です。

もう一つ、デモやその他、市民団体の活動に参加する人が増えてきていると言われていますが、昨年の夏、安保法制を巡る国会周辺デモは、まさにそうした直接的な行動をもって民意を示そうとする動きでした。その国会前での抗議活動には若いママ達もベビーカーを押して参加するなどで、選挙ではない形での民主主義の意思表示を行っていましたが、久々に国民がNOの声をあげた年だったと言うものです。その点、多数派が少数派の意見をくみ取り、より多くの人が納得のいく結論に持って行く、そういった考え方の可能性を感じさせられる瞬間でした。

かくして2015年は、日本の政治文化が変容した1年と、筆者は総括するのです。

・チャーチル英元首相と民主主義
民主主義というシステムを健全に動かし続けるには、このシステムへの不断の手入れが欠かせないと言う事なのでしょうが、まさに、英国の元首相、チャーチルが言った「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに試みられてきた他のあらゆる政治形態を除けば」との言葉を反芻するばかりです。 さて、今年から有権者は18歳からとなりました。上述環境の中、7月予定の参院選は、どのような展開を辿る事になるのか、興味は深々とする処です。

(2)アベノミクス機能不全のリアル
では日本経済はどうだったのか。言うまでもなく、それは、二つのアベノミクスを映して動く経済のリアルを問うと言うものです。

2013年1月4日より始まった第1次アベノミクスという経済政策では、第1の矢、第2の矢を以って景気浮揚の目的を果たしました。ただ、それを持続させていくための第3の矢とされた成長戦略(構造改革を主とするもの)は、前述した事情から言うなれば手つかずのままに置かれたことで回復に向かいだした経済は頓挫、経済の先行きに確信がもてないことから企業の設備投資も依然、高まる事のないままに推移し、国民の気持ちも安倍政治から離れていったのです。

2015年9月24日には安倍内閣は第アベノミクス・ステージ2を打ち出しました。それは、再び経済中心の姿勢を打ち出すことで国民の安倍内閣への支持を取り戻さんとするものだったと評されています。その内容は、周知の通り、2020年、GDP目標を600兆円とし、その目標達成の為にと、冒頭指摘の通り、企業の経営に介入する如くに、設備投資の促進、そして消費活動の活性化の為に賃上げをと、企業に要請する一方、「一億総活躍社会」を目指すとして、女性、高齢者の積極労働市場への参画促進、その為の各種対策を打ち出すとするものです。そしてこれら政策を通じて、成長と分配の好循環を狙うと、安倍首相は言うのです。

であればその基本は、長期的視点にたった経済成長と財政の健全化の両立を目指すことにある筈ですが、語られる内容の実際は、各省庁の従来施策を寄せ集めと言う印象にあるのです。そもそも、日本経済の基本問題は潜在成長率の低下にあり、現状は0.5%前後に留まると言われていますが、その結果として、いまや、市場や海外経済が混乱すると途端にマイナス成長に陥る体質にあるのです。そこで、潜在成長率を高め、日本経済の足腰を強くすることが必須とされる処です。

その潜在成長率ですが、それを決定する3要素(資本、労働、生産性)の内、日本経済の実状からは、重要な問題要素は「労働」にあり、それは労働力人口の減少問題に収斂する処と思料するのですが、まずは労働市場改革などを進め経済の基礎を強くすることが欠かせない筈です。
然し、目の当たりとする政策行動はと言えば、それは、いまや7月の参院選対策としか映らず、真剣な議論の見えないことに大いなる不満を覚えると言うものです。

予て筆者は日本経済の基本問題については、恒常化する人口減少にありとし、いまやそれは「絶対的人口減」現象ですが、従ってそれにフォーカスした対応のない事が問題としてきました。偶々1月12日のFinancial Timesで、元米財務長官のサマーズ氏がアベノミクスを評する中で日本経済が抱える問題として同様指摘していたのです。そこでこの問題について、彼の見立てをフォローしながら以下の第2項において、改めて考察することとしたいと思います。

・そもそもアベノミクスとは、
そもそもアベノミクスとは、20年来、不振を託ってきた日本経済を、バイタリティを取戻し、一歩でも、二歩でも前進させん事を狙う戦略であった筈ですし、国民の多くはそれを期待してきたと言うものです。それは、まず己の姿(注)を知る事から始まると言う事で、その結果として何が日本経済のダイナミズムを減退させ、何が日本経済を苦しめてきているのか、それを正しく特定し、対応していくべき筈ですが、それがないままに、都度のキャッチフレーズはともかく、行政レベルの政策対応で遣り過ごしてきたことに何とも言いようのない不満を残す処となっているのです。言い換えれば、問題の本質を捉えることなく、政治の思惑だけで動いてきたことが、もはやアベノミクスへの不信感を強める処となってきたと思料するのです。

(注)日本の一人当名目GDP(2014)はOECD統計によると36,230ドルで世界の20位。日本は96年に3位だったが、21世紀に入ってからは下がり続けています。

それにしても‘一億総活躍社会’とは一体どういった姿を描くのでしょうか、 安倍晋三首相は22日の施政方針演説で、再び一億総活躍社会の実現を、と叫んでいましたが・・・。

・有識者と言われる経済人に求められる矜持
こうして考えていく時、不満を禁じ得ないのが、自分でリテラシーを持たず、価値判断のできない、しかし有識者と呼ばれる安倍首相の取り巻きともいわれる経済人の存在です。

元旦、1月1日の日経紙上対談で、政権と「近すぎるのでは」との質問に答えて、榊原経団連会長は「極めて、不本意だ。・・・今は平時ではなく戦時だ。当然、政治と経済が一緒になって危機から立ち直る時期だ」と反論していたのです。勿論政府に協力する事を否定するものではありません。然し、そこには経済人、トップとして、現状克服に向けた戦略思考など全く感じさせることもなく、ただただ、お上にフォローすれば由とする姿は、何ら経済人としての魅力を感じさせる事などありません。 更にメデイアは、11月の経済財政諮問会議での民間議員として参加しているサントリーの新浪社長が「賃金、投資は民が決める事であり、政官にとやかく言われたくない、という方々は経済界に多い。だがそれはノーマルな経済で言える事」と発言したことに、それでいいの?と語るのです。  UNIQLOの柳井社長などは政府の要求について「やかましいよね・・・」(日経ビジネス1月11日号)とバッサリです。

榊原経団連会長といい、新浪サントリー社長といい、共に‘有事’を云々しながらも特段の危機感を語る事もなく、ただただ、イエスマンですが、彼らには経済人としての感性をもって政府に対し建設的なアドバイスをしていく義務がある筈です。 仮に、日本経済のダイナミズムをどのように回復させるか、そしてそれに国民が積極的に参画できるようにするか、これが喫緊の課題と見るならば、例えば、2020年にはオリンピックという大きな国家プロジェクトを戴いているわけですから、経済人の感性として、これをテークチャンスし、日本経済の活性化にどう活かしていくべきか、提言していく事などあって然る可ではないのかと思うのです。

周知の通り、今から52年前の1964年、東京オリンピックを契機として日本は高成長の道を歩みだしました。そして、世界の中の日本をアピールすることで、国民は大いに自信を持ったものです。勿論、今さら2020年オリンピックを前回オリンピック同様に、‘高成長いま再び’、と言うことにはなり得ませんが、再び多くの人々が日本を訪れ、日本を知り、一方、国内にあっては、それらを受け入れる為の‘器’を作り変え、色々の‘場’で、言うならば新たなイノベーションが促されていく機会となる筈です。それはいわゆるレガシー創りとも言え、新しい日本を作っていく色々な改革のモメンタムの高まりを期待させる処ですし、同時に国民が相応の自信を回復させていく機会となる筈です。
もはや、‘アベノミクス超え’として、東京オリンピックをこの際は、日本再生へのモメンタムを高めるチャンスとして、経済はもとより、文化をも含め、レガシーに繋がるようなダイナミズムを政治も、経済もそれぞれの‘分’において打ち込むべきではと、強く思うのです。

もう一つ、政府の賃上げ要請で「官製春闘」の呼び名が生まれて今年で3年目です。この際は、労使で持続的な賃上げ環境を整えるとして、具体的行動を起すこともあってもいいのではと思料するのです。官民癒着を思わせるような論理の呪縛から一刻も解放され、企業人として発想の転換を求めたいと思うばかりです。

かくして「企業への圧力」等、官製経済を図る行動様式はアベノミクスの限界を語るものと、思えてならないのです。最早、賞味期限が来たと言うことでしょうか。

2. 日本経済 持続的成長への視点

(1)Larry Summers, 元米財務長官 のアドバイス
Financial Times、Jan.12 は,同社編集長Lionel Barber氏 が、暮に行った米元財務長官Larry Summers氏との‘アベノミクスを巡っての電話インタービュー’概要を伝えています。(日本語訳は1月12日付日経に掲載) それは日本経済の持続的成長へのアドバイスというものでしたが、以下、その際のポイントを紹介したいと思います。

まずその中で、サマーズ氏はアベノミクスについて`Incomplete’(未完成)と評しながら、こう指摘します。「日本の状況が改善した事に疑問の余地はないが、着実で適切、且つインフレを齎す成長がしっかり根付いたと確信する根拠はない」と。 併せて、Ageing population is a significant factor in reducing the dynamism of the Japanese economy as a whole.と、日本経済の懸念は、日本の人口動態、高齢化にありと言うのです。

つまり、それは、設備投資や住宅投資が停滞するだけでなく、日本経済全体のダイナミズムを減退させる「重要な」要因と言うのです。そして更に、日本が家電産業や自動車産業で競争力を失った経緯は、人口高齢化と全く無縁ではなかったとし、同時に、`The more Japan ages, the more important it’s to find ways to be open’ つまり、高齢化が進むほど、解放的になる筋道を見つけることが重要と、ずばり、その活路は「解放」にありと指摘するのでした。そして、人材の確保、つまり外国労働者の活用がカギと言うのです。

つまり、彼は、日本には外国労働者受け入れに躊躇する土壌のある事を承知の上で、外国労働者が、― それが比較的賃金の低い国からくる労働者であれ、一時的に日本で働く外国労働者であれ―、日本経済にダイナミズムを齎すと言う事については、疑問の余地はないと言い、今のままの孤立した状況では、日本は一段と後れを取ってしまう、`An isolated Japan is going to be a Japan that falls further behind’ と、警鐘を鳴らすものでした。

これまで、日本は外国労働者移入について極めて閉鎖的にあった事は周知の処です。サマーズ氏はそれを承知の上で、これからの日本経済について、グローバル化を通じて新たな成長モデルを作り上げて行く事になるだろうが、その際は外国労働者をどのように組み込んでいくか、言い換えれば戦略的に取り組む事が不可避と、アドバイスするのでした。筆者は前月号論考では1億総活躍もいいが、この際は1億を世界の70億に置き換え、ダイナミックな活躍を目指すべきとしましたが、その思いは彼の思考様式と軌道を同じくする処です。

現在アベノミクスでは、前述の通り少子高齢化の進むなか、労働力の確保の視点から、女性や高齢者の労働市場への参加を促進すべく色々手を打ち始めています。しかし、女性や高齢者の労働参加率を高めても労働者人口の穴は埋められない、いうなれば日本経済は‘絶対的人口減経済’の道を進みだしているのです。その点では、サマーズ氏のような学識深い、グローバル感性豊かな仁の、外から見た冷静な指摘は謙虚に受け止められていくべきものと思料する処です。

因みに、2050年における日本の人口は、現状比、およそ3千万の減少が想定されています。生産年齢人口(15~64歳)で見ると2035年までの20年間で約17%減る見通しにありますが、そうした数字は、欧州の一国が消えてしまう事と同義というものです。とすれば、現在の生活水準を下げることなく、経済を持続的なものとしていく為には、1億2千万人口を前提として出来上がっている現在の経済行動様式を引きずっていては、回っていかなくなると言う事、従って、これまでの行動様式を‘変えていく事’がmustと、なってきているのです。
つまり、‘人口減’こそは、日本経済にとってfatalな問題であること、従って今後の日本経済を考えていく上で、この点を抑えていく事が絶対的不可欠とされる点なのです。(注)

(注)日本の絶対的人口減経済と少子高齢化:日本の場合、人口減は少子化の進行に負うもの、一方、生産年齢人口はその結果として減少してきたと言う事です、高齢化(65歳以上)とは、人口が減る中で、健康管理の進化で寿命の長寿化が進んできた結果、相対的に人口の高齢化が進んできたと言うもので、この二つの現象を合わせて少子高齢化経済と言うのですが、基本的には、次元を異にする現象です。前者は、生産力の減退云々にかかる問題、後者は社会保障と国家財政に繋がる問題です。尚、労働力不足を補い、社会保障制度を支える働き手を確保するためにも、女性と並んで高齢者の就労を促すことは重要な政策テーマです。

(2)求められる‘静かな有事’への戦略対応
労働力人口の減少問題への対応として、これまでも外国労働者移入の必要性について指摘する向きはありました。ただ、問題が長期に及ぶと言う点で‘静かな`有事’と言われ、それだけにあまり注目される事もなく、政治も社会もこの外国労働者問題には及び腰の対応で済ませてきたと言うのが現実です。

然し、急速に進む人口減のトレンドを前にして、いまやどんな人材を求めるのか、日本で働く外国人が社会に溶け込める仕組みをどうつくるか、受け入れの拡大へ向けた新たな戦略を練るべき時が来たと、思料されるのです。もとより、外国労働者受け入れの在り方を考えていくにあたっては、何としても政府が自ら嵌めてきた制約を一旦取り除く事、そして、これからの日本に相応しい仕組みを一から検討し直す事、が不可避であり、その上で外国労働者受け入れ拡大に向けた戦略が問われると言うものです。

例えば、政府が積極的に受け入れるとしている専門能力を持つ人材の受け入れ状況を見ても、思う程、増えてはいません。どうすれば来てもらえるかですが、やはり優秀な人材を引き入れるためには魅力ある仕組み作りに尽きると言うものです。その点で、永住許可の申請条件の緩和、起業家向けの在留資格を特別に作るなど、制度面での是正についても積極的にアピールしていく事も必要ですし、外国人がビジネスや研究、生活がし易い環境を整備することも急務と思料される処です。

偶々、1月20日のダボス会議に先立ち発表された2015~16年版「世界人材競争力指数」では、日本は「外国労働者」の受け入れについて対象国109か国中、75位となっています。つまりは、日本は人材を引き寄せる魅力に乏しい国と言う事です。 安倍首相は既に海外企業にとっても働きやすい環境作りを目指すと宣言しています。 外国人子弟の学びの環境作り、つまり教育環境の整備も絶対的に必要です。最先端の教育を提供する環境があれば、日本で働きたいと考える外国の高度人材も増えていくでしょう。この点、政府も規制改革などで支援していくべきと思料するのです。
因みに、英FT紙が纏めた世界のビジネス・スクール100校のランキングではトップがINSEADでしたが、もともとフランスが発祥ですが、近時シンガポールのINSEADが当該ステータスをあげたことに負うもので、またアジア勢では、香港を含め、中国の7校が含まれている状況です。

人口減少、高齢化の進行で懸念される日本経済の活路はと言えば、やはりサマーズの言ではありませんが「解放」であり、良質な外国労働者の移入促進にあると言うものです。つまりガラパゴス流は自滅への道、との視点を確実とし前進すべきこと、同時に外国人を労働力としてだけではなく同じ生活者として捉える姿勢が不可欠と、そうした我々自身の意識改革こそが共生への出発点になる処と思料するのです。
おわりに:再び‘変化する者だけが生き残る’を
さて、目を外に向けると、周知のとおり、年初に起きた中東2大国、サウジとイランの国交断絶、アジアでは北朝鮮による核実験の実施、ISテロの拡散、とうグローバル・リスクが高まる一方、主要国では夫々内向きとならざるを得ない事情を抱え、即ち米国は11月の大統領選挙を控え、中国では過剰設備の調整等、構造改革等で経済の後退が鮮明となってきた事、欧州ではテロ対策や難民問題で身動きのならない状況が続く、等、これら昨年来の不安な様相を更に強める様相にある処です。

[(注)IMFは1月19日2016年の世界の成長率を3.4 %と、昨年10月時点での予測から0.2ポイントの下方修正をしています。]

そうした世界の年明けでしたが今年は、日本にとって出番の多い年となる処です。まず、5月には日本が議長国となって三重県伊勢志摩でG7首脳会議、伊勢志摩サミットが開催されます。そこでは上述問題が議題となっていくことでしょうし、安倍首相は1月4日の記者会見では「グローバルな視点に立って適切な道筋を示し、世界をリードしたい」と意気軒高です。
また、日本はこの1月より、2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国となりましたが、既に、今回の北朝鮮の核実験を巡って5か国協議など、安保理の場を活かした日本外交が進みだしていますし、この夏にはTPPの批准が予定されており、日本が本格的にアジア太平洋経済圏で主導的な役割を果たす機会を迎えると言うものです。
近時、外交は経済のグローバル化の延長線に於いて展開されるようになってきており、また外交成果が国内経済にそのまま反映される環境にある処です。従って‘世界の日本’を示していく為にも、改めて、2016年は‘活力ある日本経済構築’が問われる年と思料するのです

偶々、昨年12月の始め米政治評論家、イアン・ブレマーの講演を聴く機会がありました。その際、彼は米国の力の減退で世界の統治機能が失われてきていること、そして、米国は自身のことだけに注力することになるであろうこと、またそうすべきと思うとしながら、それだけに、世界を纏め上げる力を持った国が出てこない、つまりGゼロの状況が続く結果、世界は当分の間、迷走することになると改めて断言していたのです。 ただ、そのGゼロ現象が最大の影響を及ぼす地域はアジア(地政学的hot spot )であり、その中に位置する日本が果たす役割は大きいと、よいしょ、するのでした。

では、ブレマーが言う日本が果たすべき役割はどういったことか、ですが、やはり各国との経済的な結びつきを強めていく事に尽きると思料するのです。そして国際的なパワーシフトが起きる中、今後とも日本の外交にとってはダイバーシテイ(多様性)とインクルージョン(包摂)がキーワードになっていくものと思料しますが、そうしたコンテクストにあってTPPこそは、そのキーワードを体現していく機会と言え、それを枠組みに周辺諸国との関係強化を進めていくべき折角の機会と思料するのです。 加えて、文化外交を日本の安全保障の最前線に置いた対応も必要ではと思料するのです。つまり、日本には小惑星探査機「はやぶさ」や金星探査「あかつき」に象徴されるような高度な科学技術があります。こうした技術文化をベースとして宇宙空間も含めた安全保障の議論を主導していくことも不可欠な事では、とも思料するのです。

さて、中国の習近平主席は「中華民族の偉大な復興」をと、叫びます。ロシアのプーチン大統領は「ソ連の復活」を目指すとも言っています。こういった過去の幻想にしがみついていては誰も未来を見通せません。世界情勢は今、大変動が予想される状況にあり、冒頭発言に見る通り、安倍首相の外交手腕が一層問われる1年となりそうです。・・・尤も、彼も「美しい日本、強い日本を、取り戻す」と叫んでいるのですが。
いま「新たな‘追いつき追い越せ’の時代がやってきている」(1月1日付日経、社説)と云います。そこでは、発想の転換を図り、新しい日本モデル構築への行動が求められていく処です。
再び‘変化する者だけが生き残る’を自覚させられる処です 。
以上

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