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中国習近平の「次期5か年計画」と外交戦略

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目   次

はじめに:‘新常態’のなか、中国次期5か年計画は生まれた

第 1 章 中国人民元の国際化戦略
1.SDR構成通貨入りを目指した人民元
2.人民元が国際通貨になると言うこと

第 2 章 習近平主席の訪英、そして英中関係の新展開
1.英中関係は `golden era’ を迎えた?
2. キャメロン政権と新たな英中関係

おわりに:来年G20の議長を務めるのは習近平主席

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はじめに: ‘新常態’のなか、中国次期5か年計画は生まれた

・中国経済は新常態

周知の通り、これまで新興国は、世界経済の成長センターとして日米欧などから幅広いマネーを誘引することで高成長を続けてきました。とりわけ中国は、2008年のリーマンショック後、積極的金融緩和を進め、先進国経済の減速を補う役目を果たしてきました。因みに中国のGDPは2009年に、日本を僅差で抑え第2位となっていますが、2010年には大きく水を開け、名実共に世界第2の経済大国として世界経済でのインボルメントを高めてきました。然し、近時その勢いに急ブレーキがかかる状況となってきています。

10月19日、中国国家統計局が発表した2015年7~9月期のGDP(実質)は前年同期比6.9%で、成長率は前期の7%より0.1ポイントの鈍化、リーマンショック後の景気が鈍化した09年1~3期以来、6年振り、7%を切ったと言うものです。因みに、内需の状況を示す輸入額は、昨年11月からマイナスに転じており、この9月は20.4%の減、10月も18.8%の減少と、2割近い減少が続いており、内需が急激に委縮してきている事を語る処です。

こうした‘変調’は、過剰投資が露となってきた一方、これまで中国経済を牽引してきた重厚長大の製造業の不振を映すものですが、同時に進みだした経済のサービス化と相まって経済の構造変化が進んできたことが、その要因と指摘される処です。加えて、これまで経済成長を支えてきた農村部から大都市への人口移動が減少してきた事(「9月号論考」参照)、と同時に、「一人っ子政策」の影響による生産年齢人口が減少してきたこと、つまり労働力の供給制約が顕在化してきたことで、低成長を余儀なくされる状況になってきたと言う事です。

いま中国で言われる「新常態」(New normal )とは、こうした構造変化が齎す経済の‘低成長化’状態を指すもので、その姿は、かつての年率10%を超えるような高成長の時代は終わった事を告げると言うものです。但し、急激に景気が悪化すれば、失業が増え、共産党支配体制に動揺が生じかねません。同時に、中国経済の規模が世界第2位までに膨らんできた結果、その変調は世界経済を揺らすリスク要因と映る処です。従って中国には今、新たな環境に対応したカジ取りが求められる状況にあるところです。

・習近平の行動様式を映す次期「5か年計画」

こうした環境下、10月26日、北京で開かれた共産党第5中全会議(10/26~29)は、こうした構造変化に対峙し、持続可能な成長を目指す「第13次5カ年計画」(2016~20年)を取り纏め、世界に公表したのです。この計画は、習近平が国家主席に就任して以来の、初となるもので、国家主席としての今後の国家運営に係る行動様式を伝えると言うものです。

伝えられる計画の概要は下記(注)の通りで、詳細の計画については来年3月の全人代で決定される由ですが、成長の穏やかな鈍化という新常態を前提に、経済の安定を最優先課題に据え、今後、2016年から始まる5年間について、年6%台後半から7%台程度の「中高速成長を保つ」事を目標とするものとなっています。

つまりは、経済成長の鈍化や人口動態など社会の変化を意識したと言うもので、従って、その計画に埋め込まれた思考様式は、対内的には国内経済の課題を克服し、競争力を高めていく、そして対外的には、大国としての地位を誇示していくべく、世界に於ける中国のexposureを高め、究極の大国像を実現していく事にあると、するものですが、新たに打ち出された(国際秩序作りで)‘制度的発言権’を高める、とする言質(概念)こそは、それを示唆する処であり、習近平の政治姿勢を強く映すものである事は言うまでもありません。

11月6日付Financial Timesは、習近平主席について、かれが前任者達と違うのは、
`his determination at once to concentrate his personal authority – the old collective leadership has been dismantled – and project power abroad’  つまり、国内では自らに権威を集中させ、それは旧来の集団指導体制を解体させ、同時に、国外に自らの力を投射する決意を固めていることだ、と評するのですが、であれば、この制度的発言権を高める云々とは、まさに彼の行動様式を映す処と言うものです。とすれば、彼が残された任期5年間、この計画をシナリオとして内外政策を推進していく事でしょうから、今後、中国(習近平主席)の行動を測っていく上では、今回の「5か年計画」の内容を理解していく事が不可欠と言うものです。

そこで、当該計画には色々テーマがありますが、この際は、中国が世界経済にあって、その主導権の確保を目指さんとする「制度的な発言権を高める」との言葉に照準を合わせ、具体的には人民元の国際化、また10月の習近平国家主席の訪英で新たな展開を示した英中関係等、国際関係構図の変化の実状に絞り、考察する事としたいと思います。

・その前に「一人っ子政策廃止」について一言

尚、紙数の関係で詳細コメントは省きますが、今回の政策決定の中で、世界を驚かせたものがありました。言うまでもなく中国が、1979年に導入して以来、今日にわたって続けてきた一人っ子政策を廃止した事、そして今後、全ての夫婦は二人目の子供を持てるとした事でした。今回の決定は、人口推移のバランスをとり、高齢化問題に取り組むため、と中国政府は説明していますが、要は中国経済にとって基本問題とされる労働力人口の確保にあると言う事でしょう。
勿論、この方針転換の政治的メッセージは大きいものがある処です。

然し、現実は、一人っ子政策を完全撤廃したからと言って今、中国でベビーブームが起こる可能性など低いものと思われます。と言うのも根本的な問題として指摘されるのが、中国政府の姿勢と言う事より、社会の変化にあると言う事です。
つまり、都会的な生活を送るようになり、教育レベルの高い市民は概して大家族を作りたいとは思わなくなっていると言う事です。更に中国の出生率です。2013年では1.67人と低く、一人っ子政策が廃止されても解消されることはないと予想されているのです。又、多くの中国女性は出産すれば、必至で手にしたキャリアーを棒に振ることになると考えているといわれており、従って、働きやすい環境をどう構築していくかが課題と言う処です。そうしたことで今回の決定に係る反響は今一と言うものであり、人口統計学的に見て大きな影響を齎しそうにはないのではと、指摘される処です。

それより重要な事は、中国政府が引き続き家族計画に介入し続けると言う事です。言い換えれば、それは国民に家族計画の自由を与えたわけではないと言う事です。つまりは一人っ子が、二人っ子になっただけで、少子化の流れはなかなか止まりにくいのではと見るのですが、中国政府はその現実をどのように認識し、対応していくのか、注視していきたいと思う次第です。

(注)中国の「第13次5か年計画(2016~20年)」(草案)要旨 (日経、2015/11/4)

・目標:2020年のGDPと所得水準を10年比で倍増させる。最低6.5%成長。
(参)第12次(11~15年):年平均成長率(想定)は7%、実際 は8%
第11次(2006~10年)年平均(想定)は7.5%、実際は11%
・イノベーションと発展:「インターネット・プラス」計画でネットと経済社会を融合発展、農業の現代化促進、製造強国計画「中国製造2025」の実施、国有企業の改革
・調和のとれた発展:戸籍制度の改革深化
・生態環境の改善:風力、太陽光、地熱、原子力による発電の発展
・対外開放:(国際秩序作りで)制度的な発言権を高める。人民元のSDRへの採用を促進。「一帯一路」の推進。AIIB、BRICS銀行参加で金融協力のプラットフォームを。
・人民の福祉:公平で持続可能な社会保障制度の構築。全ての夫婦が第2子を持てる政策
・共産党の指導強化
第1章 中国人民元の国際化戦略

1.SDR構成通貨入りを目指した人民元

今回の5か年計画で注目される対外戦略の一つとして挙げられているのが、人民元の国際化です。
中国は、2008年のリーマンショック以降、米国の政策に自国経済が左右される事を嫌い、国際的な貿易や投資で元の利用を促してき入るのですが、言うなれば「人民元の国際化」と言う脱ドル依存路線を進めてきており、海外決済での元の使用は徐々に高まってきています。(注)

(注)海外決済での元の使用は、スイフト(国際銀行間通信協会)によると、今年8月の通貨別の決済シェアで元は2.79%で、日本円(2.76%)を初めて上回り、ドル、ユーロ、英ポンドに次ぐ「第4の国際通貨」に、日本円は5位に転落しでいます。今後、民間企業の元建決済も増える可能性があり、むしろ、日本は同じアジア通貨として円の魅力をどう高めるかが課題となってきたと言う処です。

そうした状況に照らし、中国政府は世界貿易における存在を高めるための戦略として、元をドルやユーロ並みの国際通貨としてのポジションの確保をめざし、近時、人民元のSDR構成通貨に採用されるよう働いてきたのです。 ただ、中国は元相場の安定の為として、外貨との交換を制限しています。そこで、この規制を残しつつ、元を「国際通貨」に押し上げる機会を探っていたと言う事ですが、SDRへの採用こそがその機会と見たて、実は 今年は5年に一度のSDRの構成通貨の見直しの年と言う事で、採用に向けた条件整備を進めてきたのです。

因みに、この8月11日、世界を驚かせた突然の元の切り下げも、実は、その一週間前の8月4日に出されたIMFレポートで、人民元をSDRに加えるための条件として‘為替レート決定に市場実勢を反映させること’と、指摘された事から、そのアドバイスに応えて基準値の「市場化」を目指したというものでした。果たせるかな、8月11日、人民元を切り下げた際、IMFは、「歓迎すべき第一歩」と、声明を出しています。後述するこの秋の習近平主席の訪英時には、人民元建ての国債をロンドンで発行することになったのですが、これなどはSDR採用に向け、英国の支持を固める思惑があっての行動と言うものでした。

加えて、10月23日には、中国人民銀は、24日より、追加金融緩和(銀行の貸出と預金の基準金利の引き下げ、および預金準備率の引き下げ)と同時に、銀行が預金金利を決める際の上限規制を撤廃し、銀行金利の原則、自由化を決定したのです。この金融緩和は8月25日以来のことで、利下げは昨年11月以降で6回目となるものですが、言うまでもなく減速感を深めている国内経済を刺激するための景気対策ですが、金利の自由化は、人民元の国際化を前提とした措置とされ、今後市場金利を重視する金融政策に徐々に移行することを示すもので、上述、元切り下げ行動とも併せ、中国の金融改革が大きな節目を迎えたことを意味する処です。

序でながら、これまで中国では上限規制で、預金金利が市場実勢より低く、預金者にとって不利な金利設定となっており、これがマネーの流れをゆがめ、不動産や株式、理財商品など中国で常に金融バブルが生まれる大きな要因となっていたと言われていました。その点、預金金利の原則自由化をきっかけに預金金利の引き上げが相次ぐ可能性があり、それは銀行にとっては調達コストの増加を意味し、収益を圧迫することも予想されると言う事ですが、成長減速で不良債権処理コストが増える中、中国が銀行システムの安定をどう確保するかが今後の課題となる処です。

もとより、SDRはIMF加盟国間で通貨を交換できるように割り振る合成通貨にすぎません。
しかし、習政権としてはSDRに元が加わることで元の国際通貨としてのお墨付きを得ようというもので、習近平主席にとって、来年の20か国・地域(G20)首脳会議の主催国として国際金融の場でも自らを真の大国と認めさせる上で、重要なステップと位置付けていると伝えられているのです。
[(注)現在のSDR構成比(%): 米ドル:41.9、ユーロ:37.4、英ポンド:11.3、
日本円:9.4 (出所:IMF)]

さて人民元のIMF構成通貨採用については、二つの採用基準があるのですが、元はそのいずれもの条件を満たしてきており、従って問題は、いつ採用するかだと、されていました。
その基準の一つは、輸出額の大きさで、この点はOKと言うものです。そしてもう一つは、人民元が自由に取引できると言う事ですが、人民元建て貿易決済が大幅に増えてきており(前出P.4注)、外国からの投資にも門戸を開き始めていると評価されているのです。

さて、問題は、実質拒否権を持つ立場にある米国次第と見られ、なかなか微妙な様相にありましたが、IMFは11月13日「人民元はSDR入りの条件を満たしている」と結論し、加盟国に元の採用につき正式提案を行いました。これで11月30日の理事会で決定の見込み(注)となっています。
(注)SDRの見直しは議決権の7割の賛成で決まるが、米国の議決権は2割に満たず、日本と組んでも否決できない。欧州勢に加え、ブラジル等、新興国も雪崩を打って賛意を示しており、外堀は埋まってきたと言うもので、南シナ海で対立する米国ですが、容認の構えにあるという処。この結果、国際通貨としての相対的な地位を脅かされるのは日本円ではと、囁かれるのです。

2.人民元が国際通貨になると言うこと

では、人民元が国際通貨として認められれば、どうなるのか、ですが、勿論、世界経済の中で中国は象徴的な意味で超大国の地位に上りつめたと言う事になるというものです。そして、とりわけアジア域内での中国の影響力が増すことが想定されると言うものです。となれば、これが米国のアジア政策に相応のインパクトをもたらすことも十分に想定できる処です。

一方、中国自身の問題としては、金融政策にかかる規制の透明性の向上等、一層の自由化が必要とされていく事になる処です。つまり、中国のシステム内部の自由化の力と、中国を世界経済の統治構造への統合に向かわせる力を高めることになったと言うものです。 具体的には、中国は、どう人民元の自由化と国際化を進め、国際通貨制度における責任をどう果たそうとするのかが、問われていく事になるということですが、実は、日米欧の既存メンバーも、それにどう応えていくのかが問われることにもなるのです。つまり、どんな国際通貨も単独で世界経済を支える事は出来ません。国際通貨の最も欠かせない条件は、発行国が他国との間で、協調と相互信頼をどれだけ引き出せるか、そういった‘力’ではと、思料するのです。

さて、人民元の国際化を巡る現実はどうかですが、今や、相応の進展を予想させる処です。
つまり、中国が進める一帯一路戦略は、中央アジア、東南アジア、そして欧州をもその経済圏に置くことで通貨元の出番は多くなっていく事でしょう。今年末には、AIIBという‘機関車’も動き出します。問題は依然、元による資本取引は制限されたままにあり、その状況は日本が円の国際化を進めていた80~ 90年代と同様な段階にある処ですが、その経験から言える事は、海外マネーに翻弄されることを恐れていては、元の国際化は道半ばで終わる事になりかねないということです。が、いずれにせよ、今回のSDR入りで中国は世界の金融システムの当事者として、制度的発言権を高める取っ掛りを確保したことになったと言うものです。

・バリー・アイケングリーン教授

尚、世界的権威の米カリフォルニア大学のバリー・アイケングリーン教授は10月10日号の東洋経済の誌上インタービュ「ドル・ユーロ・元の明日」で、中国は人民元の国際化より、国内改革が不可欠であり、それをまず急ぐべしと以下の如く、強く指摘するのでした。

つまり、ドル一極体制はいずれ終わり、複数の基軸通貨が併存する時代が来ると見ていた。 真の国際通貨(基軸通貨)には、規模と安定性と流動性が必要だが、例えば、円の国際化がうまくいかなかったのは、90年代に金融システムが不安定となったり、更に現在では急激な円安や円高をくりかえしたりで安定性に疑問があるためだ。 中国の場合、金融市場が未発達な状態にあり、資本取引を自由化すると大規模な資本流入・流出にさらされる。これを避けるには資本取引の自由化の前に国内の金融市場と規制をさらに改革すべきであり、資本取引自由化や人民元国際化を利用して国内改革をテコ入れしようとするのは危険なこととし、やるべきは、シャドーバンキングの実態を明るみに出し、国有銀行を民営化し、株式市場をより透明化し、適切に社債市場を立ち上げ、それら全てが済んでから資本取引を自由化すべし、と。実は、米政府の姿勢はこれに沿うものだったのです。(前出 P.6(注)参照)
第2章 習近平主席の訪英、そして英中関係の新展開

1. 英中関係は `golden era’ を迎えた?

本年最大のイベントと言われたのが、この秋の習近平中国国家主席の訪英でした。彼は10月19日~23日、英国の国賓として英国を訪問、これに英国は異例とも云う厚遇で迎えたことで、まさに世界的な話題となりました。

この一大政治イベントについてFinancial Times, (24,Oct / 25, Oct , 2015) は、中国の国家主席が前回ロンドンを公式訪問した2005年と比較し、当時の英国の規模は、中国より大きい存在だったが、2015年の今、中国のGDPは英国の4倍近くに達するとし、こうした状況の変化を背に、キャメロン首相そしてオズボーン財務相の率いる現政権は英国経済の運命を中国と結びつけ、英中関係の「黄金時代」に向けた地盤を築くと言う決断を下したと、その対応の様子を` The pomp and the circumstance ‘と題し、重厚な報道を行っていました。そこで、それを下敷きに以下では英中関係の新展開について考察したいと思います。

・The pomp and the circumstance  (華麗な歓迎と、その事情)

習近平主席は19日にロンドン到着。その翌日に始まった歓迎行事の様子をメデイアは次のように報じていました。
20日、習主席はチャールズ皇太子らに迎えられ、エリザベス女王とフィリップ殿下による歓迎式典に出席。その後女王と共に白馬が引く黄金の馬車に乗り、宿泊するバッキンガム宮殿に移動。TV中継されたこの様子について、` The Mall to Buckingham Palace are exactly what the authoritarian party and Mr. Xi want the Chinese people to see ‘ と、これこそが独裁政権を握る中国共産党と習主席が中国人民に見せたいと望んだ映像だったと伝えたのです。午後には、英国議会で上下両院議員を前に中国国家主席として初のスピーチを行ったのです。それは多少トゲのある「古代の中国人は、いかなる国も永遠に強国であり続ける、或いは弱小国であり続ける事はないと考えていた」と話したのです。それはまさに世界に台頭してきた中国の今を語る自信に満ちたものと伝えられたのです。そして宮殿での公式晩さん会にはウイリアム王子、キャサリン妃夫妻も出席、まさにpompな、華麗な宴だったと言うのでした。

一方、そうしたもてなしの見返りと言う訳ではないのでしょうが、英国は、およそ総額400億ポンド(約7兆円)にも上る経済協力 (下記)―「協力」というのですが実際は、チャイナ・マネーが英政府の投資を肩代わりする支援色の強いものですが ― つまり、チャイナ・マネーを獲得するなどで、一気にgolden era 、英中蜜月時代が進みだしたと、したのです。

[ 中国の対英‘経済協力’]
・金融:ロンドンで人民元建て国際発行、英国内で人民元決済サービスの導入拡大
・原発:英南西部、ヒンクリーポイントで計画中の原発への資本参加、原子炉輸出協議
・高速鉄道:高速鉄道建設に中国企業の参加、中国制車両の採用
・エネルギー:中国石油天然気集団とBPによる海外(イラク)油田権益の共同開発
・通信:中国の高速通信規格「4G」の普及協力     (日経、2015・10・21)

2.キャメロン政権と、新たな英中関係

処で、その習近平に対する英国の接遇の姿は中国流のkowtow(叩頭する)、つまり中国に対し臣下の礼を以ってする卑屈な姿と、揶揄されるほどに、今回の習主席の訪英は地政学的には、一つの大きな節目となった出来事と言えるものでした。

言うまでもなく、民主国家英国と、その対極にある共産主義、そして人権抑圧国家とされる中国と、その関係を深めることの危うさ、言うなれば国家運営に係るリスクへの懸念を呼ぶ処と言うものです。因みに、今回、国家安全保障に係るような原発プロジェクトへ中国の資金参加を受け入れたとなどは、そのシンボリックな事案というものです。 それは現在の世界の覇権国に最も近い同盟国が、台頭する超大国に対し膝を屈した瞬間だったと言われていますが、いうまでもなくこの英国の中国傾斜は同盟国、米国の苛立ちを買う処となっているのです。(Atlantic allies diverge over approach to China relation. Financial Times, 2015/10/21)

・米国 vs 英・中

つまり、米国にしてみれば、英国の中国傾斜の動きは、西側の同盟関係を分断し、弱体化させようとする中国の長期戦略に利するものと懸念する処と言うものです。因みに、中国が、米主導の世銀やアジ銀に対抗する組織として作ったAIIBに英国は3月12日、参加を表明したことで、米国などからは「G7としてAIIB への参加は見送りと確認した、その直後に事前の通告もなく参加を表明した」と、英国への非難が集中したのです。もっとも、そう非難していた欧州諸国も結局は、英国に続きAIIBへの参加を表明したのです。
もう一つは、同盟国が英国に対し懸念を抱く問題点として、キャメロン政権がダライ・ラマ14世とは二度と会わないという事実上の約束をし、中国のチベット政策に対する批判を止めてしまったこと、又香港での民主化運動への支援をしていないこと、が指摘される処ですが、それでもオズボーン財務相は、今でも英国の戦略は正しく、中国とのかかわり方としては米国の方が間違っていると確信していると伝えられているのです。

かくして、内外からの批判の波に晒されるキャメロン政権ですが、これに弁解する気配はありません。因みにキャメロン首相は10月21日、鉄鋼業界の失業問題など、論争になっている事柄について中国へ問題提示する事を拒否している点について、こう回答しています。「人権や鉄鋼輸出について中国を批判するか、あるいは中国との強力な関係を築くかの二者択一とする考え方を受け入れることはできない。両立させる事は可能だし、実際に両立させなければならない」と。
極めて実利的判断を映す処と言え、これこそが今の英国政府の姿勢と思料される処です。

・ニクソン大統領の訪中ショックを想起させたキャメロン首相の行動

1971年、ニクソン米大統領の訪中計画が発表され、翌72年2月、毛沢東主席との会談が行われ、西側との雪解け時代の先駆けとなり、その後の中国の経済的対等の基盤を築くことになった事は周知の処ですが、今回のキャメロン政権の中国対応も、ニクソン訪中ショックにも擬せられると、一部では噂されている処です。更に、英政府の今の対中政策に批判的なグループの間でさえ、従来の対中政策が、あまりにも長く外務省と安全保障当局の官僚に牛耳られてきた為、結果として中国の台頭から得られたはずの機会を逸してきた事を認める声がある処です。

その点、今回、英国は中国より大型の資金協力を得たことは前述の通りですが、より重要な事は、中国が成長モデルをインフラ投資や工業から、様々なサービスや消費にシフトしていく中で、英国にとって新たな機会が生じてくる可能性が考えられると、指摘されていることです。そして、
オズボーン財務相の立場からは、習主席の訪英で最も重要な意味を持った瞬間は、習主席が英国議会での演説で ` the UK is the leading offshore trading center outside Hong Kong’(英国は香港を除いた中国以外での第1の取引センター)と発言した時だったと伝えられています。
と言うのも、人民元の国際化を進める中、中国向け市場としてフランクフルト、シンガポール、或いはルクセンブルグでさえロンドンと争う可能性がある処、この習発言でロンドンはこれら主要競合市場より一歩先んじた形となったと言う事です。

その点、英国にとって、何よりも重要である金融部門から見ればそう言える処です。 が、中国経済に詳しい専門家から見ると、過去20年で最も中国の経済成長が危うく見えるこのタイミングで英国が中国との関係を深めるというのは、奇妙なことに思えると言うのです。その点、ロンドン大学のK・ブラウン教授は「オズボーン氏は、この危険な賭けに出てよかったと思えるには、早急に目に見える成果を上げる必要がある」と指摘しています。頷ける処です。

・習近平の訪英を総括すると

今回の習主席の訪英は、キャメロン政権に超大国中国への急接近を促し、中国の対英投資が新たな両国の黄金時代の支柱と目される処となってきましたが、同時に、同盟国間での地政学的なシフトが懸念されることにもなってきた、と総括できる処です。
それは中国の対欧州戦略そのものであり、それに沿った英国の対応は、対米路線と対中・欧路線の相克といった新たな構図を鮮明とすることになったと言うものです。 とりわけ中国は対外戦略として「一帯一路」を展開中です。その「一帯一路」の始点は福州、終点がロンドンと言われていますが、今回の習近平の英国訪問で、ロンドンでの人民元の国際センター計画もお墨付きが得られたと云う事もあり、中国はこれで早くも終点を確保した、との観を強める処です。

習近平主席の訪英台風一過、中国との蜜月を背景にキャメロン首相は11月10日、ロンドンの英王立国際研究所で演説し、EUの改革に向け、移民に対する福祉制限等4つの要求を明らかにし、同時に、今後の英国とEUとの交渉結果は英国のEU残留の可否に大きく影響すると強調したのです。(日経11月11日)これは、今後のEU統合の求心力を問うものとも言え、英国を起点とした、欧州危機の新たな種がまかれたと言う事です。
おわりに  来年G20の議長を務めるのは習近平主席

さて11月13日の金曜日、まさに13日の金曜日、パリで同時テロが発生、死者129名の惨事となりました。2001年の米国同時テロ以来の大規模な事件で、フランスはもとより全世界に大きな衝撃と、恐怖を与える処です。フランス政府は14日、IS(イスラム国)によるテロと断定。ISの拠点とされるシリア、ラッカへの報復爆撃を開始、米国、ロシアもこれにフォロー、17日には英国もシリア空爆に参加すると発表、これで仏、米、露、英の揃い踏みとなっています。勿論、報復爆撃は致し方ない事と思料しますが、ただ、これが報復サイクルを招く事のないようにと、念ずるばかりです。

偶々11月16日(月)、トルコ、アンタルヤで行われたG20首脳会議では、首脳たちの強い危機感を映して、テロ対策が中心の会議となり、テロと戦う強い決意を示した特別声明が出されました。が、事態があまりにも複雑な様相にあり、具体的なテロ撲滅対策は出せないままにはあります。 ただ、今回のテロなどで世界経済の不確実性が高まっていることに照らし、各国に成長戦略の実施を最優先にと、首脳宣言が出されました。とりわけ今回の事件で、一般市民が内向きになることが懸念される処ですが、その克服のためにも、日本も世界経済への貢献を主旨として、この際は積極的な成長戦略を以って経済の回復に努めるべき時と思料するのです。

処で、そのG20に出席した中国習近平主席は、上述した自国経済の安定を目指す5か年計画を手土産に、中国の世界経済への貢献を印象付けようと狙っていたと言われていました。然し、今回の会議はテロ問題一色となったことで、まさに肩すかしと言う処ですが、来年のG20開催国は中国です。G20を国際社会に威信を示す場と捉える中国、習主席は難しいかじ取りを求められる処と思料しますが、まさに‘計画’で語られた‘制度的な発言権を高める’場として、自らの威信を如何に示していくか、いまからその関心を呼ぶ処です。
末尾ながら、パリのテロで犠牲となったフランス市民の方々に対し、衷心からの哀悼を捧げ、ご冥福をお祈りする次第です。
以上

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