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中国経済の向かう先(進退窮まった人民元)

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中国経済については各方面からその問題点が指摘されている。楽観的な見方から、すでに時限爆弾を抱えた経済と見る悲観論まである。目下の所、核心・習近平政権が秋の党大会迄なんとか現状を維持しようとしているので、高級官僚もこれに従って現状維持を進めている。一方習近平政権側も地方幹部に自らの子分を抜擢するなど着々と手を打っている。一般には共産党員幹部に対する締め付け、反腐敗運動などで習近平政権がすでに権力を手中に収めたとの見方もあるが、中国人特有の権力に対する粘り強い欲求はまだまだ決着とは行かないであろう。(それにしても核心・習近平は中国の夢から一帯一路、とまだ実績が挙がっていないこともあるが、次々と一般受けする夢を打ち上げたものだ)
米国におけるトランプ大統領との会談でも秋迄、何とか持たせようと必死に現状維持のため平静を装っていたが、いずれにしてもこの膠着状態は続くであろう。
今回は中国経済に対する楽観・悲観論の紹介と中国経済の問題点について触れてみたい。

#楽観論
新聞・TV・講演会などで活躍している高名な評論家の中には完全に中国政府の代弁をしているのではないかと思われる人もいる。ドイツが第2時世界大戦で欧州大陸を短時間で制圧したのは第5列(情報機関)の活動によるものだが、中国共産党も情報戦略は最重要視している。無防備な日本の評論家を抱き込むのは簡単だが、日本側も実務経験のない金融界(日銀なども含め)出身者が計画経済担当高級官僚と知り合い色々情報を得ている間に、いつの間にか中国側の宣伝をしているというケースが多い。楽観論者は中国の統計(GDPなど)をすべて信じ、北京、上海から西部の奥地の都会を訪ね、日本企業の中でも金融関係者の話を聞いて記事または講演などで使っている。
金融関係者の場合、実務経験は無いが主に成功企業との付き合いが多いので楽観的判断が生まれる。過剰設備の廃棄は北京政府主導で必ず実現できるとか、主要都市・地域の不動産価格も昨春以降上昇傾向は頭打ち、2020年代後半には中国のGDPが米国に追いつき、日本の4~5倍となる等々。金融関係の日本からの駐在員は現地のstatusが上がることを(出張所、駐在員事務所から支店などへ)念じており、当然日本からの成功企業の宣伝を行う。楽観論者の中でも中国政府の情報の高度な分析をおこなっている人がいるが、筆者が講演会で聞いたある高名な評論家は講演の最後に必ず「中国の発展は日本の発展、日本の発展は中国の発展」と謳う。最近では日本の有名な雑誌で「中国経済失速論にだまされるな」とまで言っている。

#悲観論
中国経済の問題点として従来成長を支えてきた工業化がここに来て終焉したとの見方がある。第2次産業のGDPに占める比率が毎年低下しており50%近くあったものが40%となり第3次産業の比率が50%近くなっている。輸出が減退し工業生産の伸びが鈍化すると経済全体の生産性が大幅に落ちる。中国の場合少子高齢化が問題で雇用の伸びは0.2%迄落ち込んできた。成長の急減速に対して、資本流出、人民元安と言った形で市場が動いているが、米国トランプ政権の通商政策と真正面から対決せざるを得ないのではないかとの見方だ。
一方、香港紙によると以前から問題となっていた米金融機関と中国高官との癒着についてトランプ政権がどのような政策をとるのかも問題となっている。JPMorganが共産党高官の子弟を100人以上縁故採用し1億ドル以上の営業収入を挙げたとか、温家宝の娘の会社と同社がconsultant契約を結んだとか更には2013年まで金融担当副首相であった王岐山と同社との関係など米新政権の政策の行方によっては中国経済にマイナスに作用するとみる人も多い
何れにしてもすでに経験した株式市場の崩壊、理財商品など地方政府、企業の過剰な負債、不動産バブル・過剰な生産設備など悲観的とする要因はいくつもある。

#中国経済の本当の問題点
中国の軍事費は公表数字では今年度1兆元に達するとされている。実際にはこの倍は必要とされるとみられている。習近平にしても軍事費を減らすわけには行かない。このまま行けば旧ソ連と同じ崩壊の道を進むであろう。そこで財政の健全化を目指し中国と香港の株式市場の相互乗り入れを北京政府は推進した。目下の所、中国の巨大国営企業に対し株式配当を最大化するよう指示しているがこのような背景がある。
この記事を書いているとき今年1~3月期のGDP成長率は6.9%との統計局の発表があった。(2020年までにGDPと所得を2010年比倍増させる縛りはあるが)数字の信憑性はともかく(ドル建てと人民元建てでは当然異なるがドル建てでは1.3%程度の成長との見方もある)、世間の予想より楽観的な数字だが投資と不動産市況が成長を支えていると言う数字だ。投資は道路、空港、高速鉄道などインフラ投資だがこれの中身も問題だが不動産などの資産バブルは最も危険な段階だ。価格が急落すれば金融システムが崩壊する。軟着陸を目指し人民銀行は適度の金融緩和を改め市場金利を緩やかに引き上げつつある。
(中国官制不動産バブルの行くえ)
土地に対する所有権は共産党のものなので、地方政府は土地の使用権譲渡が重要な財源となっている。そのため地方の都市化を目指しあちこちにghost townが出現している。北京政府も不動産バブルに十分警戒してはいるのだろうが国全体で経済運営を行っているのでバブル収束の動きは遅い。最近の例では河北省雄安新区に深セン、上海より遙かに大きな特区を作るという構想がぶち上げられた。これに飛びついたのが中国の投資家だ。すでにインフラ関連の特需が起きている。上海市場ではセメントメーカーなどのインフラ関連株が急上昇し、自動車など河北省を地盤とするメーカーや天津港株など急騰しているが香港市場ではこの動きをかなり冷静に見ている。
何れにしてもバブルはいつかは弾ける。中央政府は不動産所有の一般庶民を犠牲にしても大きな問題とはならず国営企業などの所有分は国営大銀行にその尻ぬぐいをさせようとしているのだろう。
(地方政府、国営企業、民間企業の過剰債務)
中国の企業などの債務の規模は巨大化しているとの認識はあるが正確な数字はない。英Financial Timesが以前GDPの250%を超えていると報じたことがあるが。このときは金利上昇により企業活動が圧迫されデフォルトが発生した時期だ。13/5 計画(2016~2020年の5ヶ年計画)では一帯一路(新シルクロード)戦略、内政面では国有企業改革、法治主義の徹底、都市化の推進を謳っているが国営企業は過剰債務と過剰生産能力に苦しめられている。融資返済に窮した国営企業は追加資金を銀行から借りる「追い貸し」が常態となり国営・民営の商業銀行の不良債権の増大につながっている。習近平も今年の初めに生産能力の削減など構造改革の推進を公約した。ところが過剰生産能力の代表とも言える鉄鋼などは生産量が増えている。
不動産市場では実需と無関係な投機資金が流れ込んでいる。3月には主要70都市新築住宅価格動向によると前月比で62都市が上昇し,地方政府の住宅購入制限策も無視され資産バブルとなっている。
過剰投資、過剰生産の調整には日本での経験でも数十年かかった。金融緩和マネーが鉄鉱石や石炭の価格を上昇させ在庫が記録的な高さにまで積み上がるようなことが続くはずもない。
(問題は人民元)
不動産バブルにしても過剰債務にしても巨大国営銀行とかCITIC(中信グループ)などの巨大国営金融機関に清算させようと中央政府は考えているようだ。問題は人民元だ。昨秋にはIMF専務理事ラガルド女史が人民元のSDR採用で「歴史的転換点」などと騒いでいたが(おそらく中国系に洗脳されたのであろうが)、その後も元安が続き、最近になって少し持ち直した。(4月22日、6.8792元)
中国全体で元に対する不信感があり競ってドルなどに換金しようとの動きが続いている。香港紙によると香港の元建て預金は2014年末の1兆35億元が今年1月には5224億元に半減した。政府は元安防止策として地下銀行の摘発とか海外送金の抑制に動いている。中国は為替介入で現安に誘導するどころかドルを売って元の急落を食い止めていたのが先月までの実態だ。元の対ドル相場は昨年7%近く下落した。中国政府は元安が中国本体の信任崩壊につながることを恐れているのだろう。
米トランプ政権は中国を為替操作国としていたものを北朝鮮問題もあり為替操作国の認定を見送っている。これによって元を高めに誘導も、安値に誘導も不可能となっているのが現状だ。何れにしてもここで進退窮まった感がある。政府筋は元の変動相場制への移行は秋の党大会の後などと宣伝しているが変動相場制への移行はそんなに簡単なものではない.今のところ人民元は八方塞がりで袋小路から抜け出せない。今秋までの現状維持がどうなるか注意深く見守りたい。

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