香港取引所(HKEX)の悩み

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1. 香港・上海の株式市場の相互乗り入れ

4月初めのボアオ・アジア・フォーラムで中国の李克強首相は「上海と香港の株式市場の相互乗り入れを確立する」と演説した。一般には中国の資本市場の開放が更に進むと歓迎されているが、香港証券取引所では別の悩みがある。実施までには準備期間として最低6ヶ月は必要としている。現実問題として香港と上海両取引所に上場している中国本土国営企業の株価は常識的には為替の差程度のずれは有ってもほぼ同一価格の筈だが実際には大幅にかい離しているものもある。また、国営企業の中身については依然不透明なものが多く,このために香港でIPOが認められないケースも多い。更に、上海市場が下げの場面では政府の直接、間接介入で上げに転じるなど自由世界では考えられないことが起こる。目下話題となっているのは世界の4大会計事務所が米証券取引委員会(SEC)から米国で上場する中国企業の監査報告提出を求められていたが、中国の法律ではState Secret Lawによって監査報告書を他国に提供することを禁じている。ここ数年Ernst & Young(以下E&Y),PwC, KPMG,等大手会計事務所と米国SECで係争しているが、香港でも5月末には裁判所がE&Yに対し中国での監査報告書を提出するよう命じて、E&Yも両政府の間で葛藤を続けている。中国側が国際的慣行に従う意思がない限り、情報開示の透明性の向上は期待できないだろうし株式市場改革も掛け声だけとなろう。一方メリットとしては本土の投資家が人民元建てで香港市場に投資できるようになるので人民元建ての海外投資のルートが拡大する。香港側としても従来から問題となっていたオフショア人民元の本土への還流ルートが拡大する。更に、中国人にのみ認められていた上海株への投資が可能となる。香港側もリョン行政長官、ツアン財政長官も歓迎の表明はしたが、準備期間が必要とコメントしている。共産党方式ではまず方針を大々的に打ちだし細目はよきに計らえとなるが、細目の決定には色々まだもめるであろう。

2. 香港市場はIPO調達額で世界第3位

現在のところ香港はIPO調達額では世界第3位だが、本土市場が肉薄している。米会計事務所デロイト・トーマツによれば今年第一四半期のHKEXの新規株式公開(IPO)による資金調達額は460億HKドルでまずまずの数字だが、中国本土の電子商取引最大手のアリババグループの上場をNYに取られるという悪材料もあった。そのNY証券取引所がIPOでは660億HKドルで1位、2位が英ロンドン証券取引所で595億HKドル、3位が香港、4位が東京証券取引所で386億HKドルとなる。驚くべきことに5位は深セン証券取引所が276億HKドル(中国本土全体の80%)となっている。深セン・上海両市場の合計調達額は香港に迫っていると見てよいであろう。中国の金融市場が開放されず国営銀行は国営企業にのみ融資するので本土のIPOは民間中小企業にとって最大の資金調達先となっている。いずれにしてもコンテナの港別の積み出し競争と似てきた。一般的には本土のIPOは中小企業案件が多く、国営企業など大型案件は香港でのIPOを狙っている。

3. 国際商品市況に振り回される香港取引所

香港取引所(HKEX)は証券取引の他、ロンドン金属取引所(London Metal Exchange=LME、LME側では今後も事業の本拠をロンドンに置き、アジアに移す予定はない、欧米にはロンドンから、アジアには香港から対応する二つの拠点体制とするとしている――4月8日のSouth China Morning Postによる、以下SCMP)を傘下に入れた巨大な組織だ。2013年12月期決算では売上87億2,300万HKドル、利益45億5,200万HKドルと大幅な増収増益となった。これはLMEの取引増によるものだがニッケルが27%、銅11%、アルミニウム8%とそれぞれ取引量が増大したことによる。但しこれも激変が予想され上海との相互乗り入れだけでも頭の痛い所に商品取引では目下中国発の暴風にさらされている。4月10日のSCMPによれば現金決済型となったので地場の先物ブローカーはLMEに会員申請をしなくとも取引ができるようになると報じている。(LME会員になるには従来資格審査が厳しく会員資格はstatus symbolのようなもので、それがためLMEの市場での尊厳が保たれていた。このような事情から上述どおり本拠はロンドンとしていると思われる)。一方、香港の投資家は商品取引には余り熱心ではないと言われていたがHKEXもようやくcommodity tradingの促進に向け動き出したと市場では評価された。HKEXのチャールズ・リーCEOは2020年には人民元の自由な交換が実現している可能性があり、本土と経済面で一国一制度になる可能性が高いと極めて楽観的な予測をしている。ところが実際の商品取引はこのところ大荒れで運用には今後いろいろ問題が出てくると見られている。

4. 大荒れの商品市況

4月末となるとプラチナ、コーヒー、原油等国際商品価格が上昇しだした。ウクライナ情勢の悪化によって原油やプラチナが上昇、昨年まで低迷していたニッケルも大幅に上昇、銅も少しずつ買い戻されている。中国の金融不安を背景に投資マネーが商品市場から逃げていたが再び商品市場に流入していると見る向きが多い。それにしても年初からの大幅な下げとその後の上げと目下相場の乱高下に翻弄されている。この動きを銅で見ると、3月初め銅の3ヶ月先物価格はトン当たり7,200米ドルであったものが3月中旬には6,500ドル、6,300ドルと4年ぶりの安値となった。2011年の高値10,000ドルから見ると40%の暴落となる。(2000年以降2007年までに銅価格は4倍となった、その理由を簡単に言えば中国の爆食によるもので、その後リーマンショックで一時落ち込んだものの=トン2,800ドル、4兆元の経済刺激策で回復し=2011年2月10,190ドル、その後は後述の金融取引にシフトし高値圏で推移していた。)中国の銅の年間需要は900万トンと言われている(世界の40%消費)。銅の在庫はLMEの指定倉庫に収納されているが在庫は過去半年で半減したと言われている。(大半は上海の保税倉庫にあり、年間需要の10%に近い80万トンと見られているがLMEの指定在庫は今年の2月に30万トンを割り2013年6月の最高在庫から50%減と言われている。但しこれは上海指定倉庫での話で実際にはこの数倍の在庫があるとも言われている、いずれにしても数字が不透明なので噂が噂を呼ぶケースも多い)銅価格の急落は懸念される中国バブルの崩壊との説が有力であったが、電線、エアコンの配管等銅加工品の生産量は2013年後半に大きく伸び前年比20%upとみられているが鉄鋼業などと同様、内需を大幅に上回る生産が続き、国内の状況は全て推測なので国際市場では神経質とならざるを得ない状況だ。更に、中国特有の投機目的もあって今年1月の中国の銅輸入量は53万6千トンと史上最高となった。
問題は銅が実需と無関係に金融取引に使われていることにある。鉄鉱石など港湾在庫が膨れ上がっているが、これらと同じく銅も金融取引に使われている。輸入の際にドル建てL/Cを発行してもらい銅を輸入すると同時に銅の現物を売って人民元を調達し融資とか預金など高金利で運用益を稼ぐと言う方法だ。一般には国際商品市場では実需の動向が重要で、消費地の情報に相場は左右されるが世界最大の需要国中国発の情報に市場は振り回されている。最近では銅の相場と中国の株式市場は連動しているとの見方もあり、この意味では銅のLME相場は中国経済を映しているともいえる。この意味から銅の相場は2015・16年まで下げ相場と見る専門家も多い。銅と同じ動きがニッケルとかアルミにも現れているようだが何れも中国の生産設備の過剰と製品のだぶつきによるものと思う。中国経済の失速懸念は非鉄・鉄鉱石市況の軟化に、原油は産出国の政情不安定による上げ相場と当分不安定な状態は避けられまい。
最近は本土の新聞も政府の方針の宣伝に努めて経済リスクとして改革が実行されないリスク 過剰な生産能力と企業債務 不動産市場の調整局面 を謳いだした。金融システムの4大リスクとして1.Shadow Bankingの存在 2.地方政府の巨大な債務 3.過剰生産能力を抱えた業界における大規模な買収・合併・破産 4.不動産市場で始まった調整などを解説しだした。
中国当局が「影の銀行」封じに動き始めたが預金金利の自由化ですらままならず、金融の自由化は程遠い現状では国際商品も金融取引に旨く使われてゆくのだろうか。動くに動けない金融の自由化等稿を改めて考えてみたい。
以上

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