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イスラエルの強さはハイテク?M&Aでの外国への技術流出恐れず、新技術に挑戦

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イスラエルの強さはハイテク?M&Aでの外国への技術流出恐れず、新技術に挑戦

国の周囲を敵対するアラブ諸国に囲まれているため、片時も気のゆるみが許されず、常に軍事的な緊張を続ける国、というのが、誰もが描く中東イスラエルのイメージだろう。ところがそのイスラエルは今やハイテク、とくに車の自動運転やサイバーセキュリティ―、医療機器分野などでの先端技術に強みを持ち、世界で存在感を示しているから驚きだ。

 

興味深いのは、欧米諸国のみならず中国やインドなどの新興国企業がこれら技術に異常な関心を示しイスラエルのハイテクベンチャー企業のM&A(合併・買収)、あるいは資本提携によって、それら技術を手中に収めようと躍起なことだ。そこへ最近、日本も加わった。アラブ諸国からの原油確保が最優先課題だった日本は「アラブ・ボイコット」を恐れ、イスラエルとの交流を極力、回避していたが、最近は北朝鮮がらみのサイバーテロ対策のみならずさまざまな分野で、民間企業などがイスラエルへ急接近している、という。

 

ベンチャー支える独自エコシステム、政府の支援が中核、若者たちは起業に意欲的

それにしてもイスラエルが対アラブ諸国との一触即発を開けるため軍事技術で突出しているのは容易に想像できる。しかし民生用分野でも世界中の関心を引く数多くの先端技術を持っているのが信じがたい。その秘密は何か、好奇心をそそられ取材したところ、イスラエルベンチャー・エコシステムという、ユニークなシステムにカギがある。

 

詳しくはあとで申し上げるが、要はヒト、企業R&D(研究開発)などのインフラ、そして政府の財政支援やベンチャーキャピタル・マネーの3つがうまくリンクしシステム化していることだ。これら支援システムで、イスラエルの若者たちが積極起業し、そして技術開発力をもとに市場開拓を進め収益力をつけ米国の株式市場に本格上場、それを経て大半のベンチャー企業が外国企業のM&Aのターゲットになり、技術ごと企業の売却となる。

 

イスラエル政府は外国企業のM&Aをリスクと考えずに容認、日本とは対照的

問題はそのあとだ。重要な先端技術が仮にライバル国やライバル企業に移転した場合、イスラエルにとっては、技術の流出は経済安全保障のリスクにつながる。ところがイスラエル政府はそれをリスクとは捉えない。それどころかイスラエルの技術力がグローバル評価を得たと受け止め、外国企業のM&Aを容認する。そしてベンチャー企業は売却で得た巨額資金をもとに新ハイテクベンチャーを立ち上げ、売却技術を越える新技術の開発に取り組む。これが1社、2社レベルではないからすごい。まさにハイテク立国と言っていい。

 

このイスラエルの発想は、日本ではまず考えられない。経済産業省を中心に政府、それに企業も技術流出には極度に神経質になる。だから、産業や企業の国際競争力を妨げる技術の移転や流出につながる外国企業のM&A案件があれば、即座にNOだろう。

これに対してイスラエルの発想は大きく異なる。ブラックボックス化して流出を防御しても、今のようなインターネットを背景にしたデジタル社会ではいずれ模倣され技術の陳腐化が進む。むしろ模倣リスクを抱え込むよりも、技術力の強みを誇示、そして外国に高く売却して、その資金で先端技術開発に取り組むべきだと。周囲を敵対国に囲まれる逆境にあっても、戦略さえしっかり持てば強みになる、という発想なのかもしれない。

 

「知立国家イスラエル」著者米山さんらも戦略性指摘、オランダ含め小国は強み発揮

そんな矢先、「知立国家イスラエル」(文春新書刊)という、タイトルからして刺激的な本が出版されたので読んでみた。私の関心事のイスラエルベンチャー・エコシステムに関しても言及があり、その仕組みがすべてのカギを握っているという。著者は三井物産OBで、世界の政治や経済の潮流を探るワシントン事務所長を経験された米山伸郎さんという方だった。経済ジャーナリストの好奇心で連絡とってお会いしたら話が大いに弾んだ。

同時に、毎日新聞時代の先輩の紹介でイスラエルの先端技術動向に精通されている日立製作所副社長OBの武田健二さんにもお会いした。同時にコンサルティング企業が主宰するイスラエル企業と日本企業の交流セミナーにも積極参加した。それを機に新任の駐日イスラエル大使の就任記者会見出席など、好奇心に拍車がかかりイスラエル研究を進めた。

 

その結果、面積が日本の四国の大きさしかない小国イスラエルの戦略的な強み、弱みが見えてきた。イスラエルはオランダやシンガポールとともに小国で、ハンディキャップを抱えながらも、戦略的行動で特異な強みを発揮していることが理解できた。中でもオランダは独特の産官学連携の新品種開発システムで米国に次ぐ世界第2位の農業輸出大国だが、どの国も日本のような停滞気味の成熟社会とは違う。山椒は小粒でもピリリと辛い。

 

イスラエル人は「生存」意識から発明やイノベーションに積極的、ゼロから1を産む

ここで、米山さんの著書「知立国家」表現がぴったり当てはまるハイテク国家イスラエルの力の源泉、イスラエルベンチャー・エコシステムとはどんなものか、レポートしよう。冒頭部分で少し触れたように、ヒト、企業R&D(研究開発)などのインフラ、そして政府の財政支援やベンチャーキャピタルの支援マネーの3つのファクターがうまくリンクしシステム化していることに尽きる。

 

この3ファクターがリンクしたシステムという分析は以前、ジェトロ・テルアビブ事務所の高木啓さんが日本に一時帰国時、聞いたことがある。米山さんも同じ問題指摘だ。このうち、イスラエルのヒトに関しては、彼らはアイディアが抜群、自分がやらねば誰がやるといった行動力の強さ、失敗を恐れないチャレンジ精神がある、という。

米山さんによると、友人のイスラエル政府元高官O氏が「ユダヤ人の迫害の歴史における『生存』意識から出てきたもので、イスラエルは発明、イノベーション、そしてソリューションを見出す点に優れている。みんながみんな、ゼロから1を産むソリューションばかり探している。しかし、1を10に増やすような組織マネージメントは日本に比べると、かなり弱い」と述べている、という。民族性なのだろうか。

 

軍事技術の民生転用を活発化、ベンチャー企業活用につなげるエコシステム支援

興味深いのは残る2つだ。インフラに関しては、まず軍事技術の民生転用がベンチャー支援に結び付いている。ジェトロの高木さんによると、ミサイル迎撃システム「アイアンドーム」が何とバイアグラの模倣品検出チェックにも活用されている、さらに軍のコンピューター外部侵入防止システムがITセキュリティソフト、小腸の内視鏡カメラに応用されている。また、イスラエル経済産業省がシード・ベンチャー独り立ち支援プログラム、とくに支援用のインキュベーション施設を全国17か所に整備したほか、企業経営の指導はじめ市場アクセス、投資家とのコネクションづくりの仕方も指導しているという。

 

3つめの資金支援システムに関しては、政府の財政支援が中核だ。1993年にイスラエル政府は今後、ハイテク時代になるとみて政府主導のハイテク産業活性化のための情報開発投資、とくにベンチャー企業のプロジェクトへの財政支援を中心に据えた、という。先見性がある。その中には外国政府や外国企業とのR&D共同開発事業への支援も含まれている。またイスラエル内外のベンチャーキャピタルの投資を引き出すため、税制などの優遇措置も講じたというから、政府主導で戦略的に手を打っているのは間違いない。

 

毎年1000社のベンチャー企業が誕生、インテルのモービルアイ巨額M&Aはすごい

米山さんらによると、こういった支援を受けて起業するベンチャー企業は毎年1000社に及ぶ。外国企業などのM&Aによって一時的に閉業するが、また新たに立ち上げるので、当然ながら数が減らない。新陳代謝も活発だという。また興味深いのは、イスラエルのベンチャー企業のかなりが、国内市場が相対的に小さいため、自らの活動舞台を広く海外、とくに米国市場に求めビジネスチャンスを探る。

 

ご存じだろうか。2017年3月、米半導体メーカーのインテルがイスラエルのモービルアイという先進自動運転支援システム開発のベンチャー企業を153億ドル、円換算1.7兆円で買収した。1社単独での巨額買収は驚きだったが、インテルがイスラエルのベンチャー企業にかけた期待のすごさはもっと驚きだった。インテルは買収発表時に、モービルアイ創業者で会長のアムノン・シャシュア氏をインテルの自動運転事業の総責任者に任命し、その事業本部の拠点を米国からイスラエルに移す方針を表明したのだ。モービルアイは動く目という企業名どおり自動運転支援システム開発がメイン。自動車走行ビッグデータ保有が強みだ。この分野にビジネスチャンスありと踏んだインテルの意図が見える。

 

メディア調査によると、2017年1-6月のイスラエル企業対象のM&A総額は前年同期比90%増の160億ドル。インテルの買収が中心だが、中国や日本など世界各国から引き合いが多い。中でも中国は2011年に世界最大のジェネリック農薬企業を巨額買収したのをはじめ、ハイテクベンチャー企業の買収に強い関心を持っている、という。

 

イスラエルは米国にサポート依存せず、中国やインドなど新興大国と独自に連携

しかし中国とイスラエル関係に詳しい専門家の話では、中国はイスラエルの兵器と軍事技術の入手に関心が高い。米国やロシアからは先端技術を装備した兵器の購入を警戒されるため、中国はホコ先をイスラエルに向けている、というのだ。十分にあり得る話だ。

興味深いのはイスラエルも対中国関心が強いことだ。とくに中国の一帯一路という陸路と海路の双方でインフラ事業を進めながらユーラシア経済圏づくりを志向するプロジェクトに対し、イスラエルはビジネスチャンスを意識したのか、中国主導で組織したアジアインフラ投資銀行にいち早く加盟して米国などを驚かせた。

 

こういったイスラエルと中国の動きは、サポーター?とも言える米国をいら立たせる。しかし中国を意識するインドもモディ首相がすでにイスラエルとの首脳外交に踏み出し関係強化を図っている。「イスラエルは、今や米国やEUに偏るリスクを考え、中国やインドなど新興大国との関係強化で独自外交に切り替えつつある。それが敵対するアラブのイスラム諸国に対するニラミともなる」という、ある国際政治専門家の見方が説得力を持つ。

 

日本は失敗恐れないチャレンジ精神を学べ、ただし原則なき技術流出には歯止めを

さて最後に、日本はイスラエルから何を学び取るかを指摘する必要がある。結論は、はっきりしている。ハイテクを軸にしたベンチャー企業を支援するイスラエルのエコシステムがうまく機能していることもあり、日本は研究して、取り入れ可能なものはどんどん導入すべきだ。とくに失敗は成功のもと、という立場で失敗を恐れず積極挑戦するヒトづくり、組織風土づくり、ゼロから1を産みだすチャレンジ精神は大いに学ぶべきだ。

 

ただ、イスラエルが外国企業のM&Aによる技術流出を容認する点は、モノづくりを大事にしてきた日本にとっては、なかなか承服しがたい。時代はオープンイノベーションの流れだが、産業企業が長年培った根幹の技術は知的財産権などで守るべきだ。そして原則なき技術の流出については何らか歯止めをかける必要がある、と思う。いかがだろうか。

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