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終わりの始まり(7):EU移民問題の行方

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日本人に理解しがたかった乱闘騒ぎ
ハロウインのなにか虚しい渋谷駅前での大騒ぎに先だって、同じ東京、渋谷(渋谷区神宮前)でほとんど関心を集めることなく終わった、もうひとつの騒動について少し記したい。
先月10月25日の東京、渋谷のトルコ大使館前での大乱闘について、11月1日ようやくその全容が明らかになってきた。メディアが伝えるところによると、当日は4回にわたり、日本に在住するトルコ人とクルド人の間で乱闘があったようだ。彼らが集まったのは、トルコ本国での総選挙にかかわる在外投票が動機だった。集まった者の数はおよそ600人と伝えられているが、その正確な数字はもとより明らかではない。大多数がトルコ人であることは判明している。

在日のトルコ人、クルド人の間にはそれぞれコミュニティができており、かなり以前から同国人の間では投票への参加 を促す勧誘と、ネット上などではトルコ人、クルド人の間で激烈な論戦も行われていたことが明らかにされた。乱闘の現場も一部放映されたが、かなりすさまじい殴り合いだった。警官2人を含む10人近くが負傷するほどの激しいものだった。クルド人ひとりは鼻の骨を折る重症と伝えられている。
双方とも、参加者は小型のバスなどを動員して、大使館にやってきたらしい。警備に当たる警察などには当然事前の情報があったと思われるが、外国人が多くなった東京で、雑踏にまぎれてしまえば、トルコ人とクルド人とを見分けることなどとてもできない。一時はかなり緊迫した激しいい対決状況だったようだ。

トルコ人とクルド人との間にある対立の背景などを知る日本人はきわめて少ない。この突如として起きた乱闘に対してどう対処すべきか、まったくお手上げ、ただ傍観していただけであった。こうした状況は本国トルコでも近年頻発している。今回の選挙後も、クルド人が多い南東部ディヤルバクルでは、選挙結果に抗議するクルド系政党HDP支持者らと警官隊が衝突した。

過半数は事態を悪化させる?
11月2日(日本時間)には、前日11月1日にトルコで行われた総選挙の結果が日本でも報道された。結果は各国のメディアも伝える通りだが、一院制、定数550議席のうち、与党であった公正発展党(AKP)が317議席を獲得し、選挙結果は以前の258議席より59議席増加し、過半数を取り戻した。前回6月の総選挙で、2002年の政権発足時以来初めて過半数を割ったAKPが、窮余の策としてとった選挙だった。ヨーロッパの有力メディアの中には、トルコ国民はAKPには投票するなとあからさまに論じたものもあったほどだ*。そのため、今回の選挙結果を想定とは異なったと感じたヨーロッパの人たちは多かったようだ。

他方、クルド系の人民民主主義党は前回の80議席から59議席へ、大幅に議席を失った。世俗派の共和人民党(CHP)は131から134議席とほぼ議席を維持した。残りは極右の民族主義社会行動党(MHP)で79から40議席へと減少した。

この数字だけを見ると、与党が目指した通り、過半数を獲得し、表向きは安定政権の基盤が確立されたかに見える。メディアはトルコの有権者は「自由」より「安定」を選択したと述べている。この場合、「自由」は、議論は活発だが、騒乱の多い、不安な社会情勢を暗示している。しかし、「安定」の象徴として国民が考えた議席数は問題を解決しないようだ。

「少数派」が今後を定める
特に、トルコの将来を左右するのは、少数派をいかに処遇するかにかかっているとみられる。なかでも、人口の約18%を占める少数民族クルド系住民にいかに対するかが死命を制する。現政権のエルドアン大統領は、今夏クルド系の非合法武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の拠点への空爆を再開し、PKKも報復攻撃を繰り返してきた。2013年から模索されてきた和平交渉も破綻している。今回の選挙前にも、過激テロの爆発事件がメディアでも生々しく報道された。

トルコのダウトオール首相は10月26日、シリアのクルド系軍事組織「人民防衛隊」(YKG)を初めて越境攻撃したことを明らかにした。この意味はきわめて大きい。難民を受け入れる段階から進んで、トルコがシリアへ積極介入したのだ。トルコはYPGをPKKから軍事支援を受けるテロ組織とみなしている。他方、トルコの同盟国である米国は、シリア北部の過激派組織「イスラム国」IS 掃討作戦で、地上部隊の役割をYPGに委ねている。当事者でないと、きわめて判別しがたい難しい問題だ。選挙で失地回復したAKP政権が、国内のクルド系勢力への攻撃を強めるなどの動きに出れば、当然アメリカとの関係は緊張を強め、難しい事態となることは必至だ。

折しも、ロシアの航空機がシナイ半島で爆発、墜落するという事故が発生した。関係筋の中には、これには「イスラム国」ISが関与したとの推測が生まれ、ISの関連組織が犯行声明を出しているともいわれている。フライト・レコーダーは回収されたようだが、破損しているらしい。真相の確認は、かなり難しいと思われる。乗客の大半がロシア人であることもあって、ロシアとISの関係は一段と厳しくなることが推定しうる。今日の段階では、ロシアは慎重な対応を見せている。

トルコはおおかたの日本人が考える以上に、重要な役割を背負った国である。一般にヨーロッパというと、東はギリシャまでと考えられている。ボスポラス海峡を境に、トルコは宗教の点でもイスラムの国であり、文化の点でも東西を分かつ重みのある地域に位置している。そのトルコはEUの安眠問題の渦中で、大きな注目を集めている。

ヨーロッパが直面している難民・移民の大奔流の中で、200万人以上のシリア難民を国内に抱え込んでいるのがトルコであり、その今後のありようは、ヨーロッパの将来を大きく定める。そのトルコはかねてからEU加盟を望んできた。この小さなブログを開店したころ、トルコのEU加盟問題について、記したことがあった。その時、トルコの加盟は早くとも9年先とされていた。すでに10年近い年月が経過した。10年一昔である。分裂、崩壊の危機をはらんで大きな転機にあるヨーロッパ、そして破壊と発展が同時に進む中東イスラム社会の最前線に位置するトルコ。歴史の舞台は大きく転換しようとしている。

References

”Heightening the contradictions” The Economist October 17th 2015

”Sultan at bay” The Economist October 31st

”Voting to the sound of explosinons” The Economist October 31st 2015
続く

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