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中国の海洋戦略(その1)――接近阻止・領域拒否戦略(下)

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前回は、接近阻止・領域拒否戦略の概要、同戦略を採用した経緯・動機、同戦略の目的などについて説明した。引き続き、同戦略についての説明を継続する。

 非対称戦争の追求
接近阻止・領域拒否戦略の最大の特色は、人民解放軍が米軍に対し、非対称戦争を追及している点にある。人民解放軍が、米軍と対称・類似な戦力や戦法を採用すれば、米軍に対抗できるようになるには膨大な時間とコストを必要とする。中国海軍を例に取れば、米国海軍と「四つ相撲」を取れるようになるに空母(艦載航空機を含む)だけでも10隻近くも装備しなければならず、恐らく、それは不可能だろう。
従って、人民解放軍は、圧倒的に戦力が勝る米軍と対等に戦おうとは考えてはいない。接近阻止・領域拒否戦略の狙いは、通常戦力のみならず、弾道ミサイル、衛星破壊兵器やサイバー戦、さらにはゲリラ戦等を組み合わせ、あらゆる次元において米軍の脆弱性(アキレス腱)をつくことである。

 米軍のアキレス腱の封殺
人民解放軍が米軍のアキレス腱として捉えているのは、米軍の兵力展開の基盤となる①前方展開基地(在日米軍基地など)及び②航空母艦、そしてRMA(軍事における革命)によってもたらされた米軍の戦闘基盤である③C4ISR機能(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察)である。
人民解放軍は、これらに対する封殺能力を達成するために、空・海・海中・宇宙・対宇宙・情報といったさまざまな戦闘システムの開発と作戦要領の構築を追求している。人民解放軍は、これらアキレス腱を封殺することによって米軍の戦力展開基盤を喪失させるとともに、三戦(世論戦、心理戦、法律戦)を駆使してし、米軍の接近阻止・領域拒否を狙っている。米軍のアキレス腱を封殺する要領は以下のとおり。

☆ C4ISR能力の封殺
接近阻止・領域拒否戦略で最も重要なことは、近代的戦闘空間の全次元で情報をコントロールし支配する能力である。有事に米軍を中国本土に接近させないためには、西太平洋上の努めて遠方で、航空優勢と海上優勢を獲得する必要である。このためには作戦の早期段階で米軍のC4ISR能力を封殺し情報的優位を獲得する必要がある。
C4ISR能力とは、軍隊における情報処理システムのことで、指揮官の意思決定を支援し、作戦を計画・指揮・統制するための情報資料を提供し、またこれによって決定された命令を隷下の部隊に伝達する能力。例えていえば、このシステムは動物における頭脳・目・耳や脊椎など、神経系等に相当するものであり、部隊の作戦行動統制や火力の効率的な戦力発揮などに必要不可欠である。
米軍のC4ISR能力を封殺するため能力としては、対宇宙兵器(対衛星攻撃など)およびサイバー戦力などである。

☆ 前方展開基地の封殺
中国軍は、短期戦での勝利を企図して、米軍が行動を開始する前に、大規模な空爆や短・中距離弾道ミサイル攻撃などにより、日本やグアムの米軍基地等への直接的な先制攻撃を行い、米軍の作戦能力を殺ぐ方針だと考えられる。この際、ミサイルや空爆のみならず陸軍の特殊作戦部隊の活用も想定される。

☆ 空母など米海軍海上兵力の封殺
接近阻止・領域拒否戦略に基づき、人民解放軍は、対艦弾道ミサイルや外洋に展開した潜水艦、水上艦の対艦巡航ミサイル及び機雷等によって空母を始めとする米海軍の海上兵力の近接と自由な行動を拒否し、第2列島線以遠(中国沿岸から1500Nm(1850㎞)以遠)に排除することを企図している。
このための手段としては、以下が含まれる。

〇 対艦弾道ミサイル
対艦弾道ミサイル(DF-21D)は、第二砲兵の装備武器である。対艦弾道ミサイルとは命中精度の高い通常弾頭の準中距離弾道ミサイル(MRBM)DF-21(東風-21)を基礎として、空母などの水上艦艇を攻撃することを目的に開発が進められている兵器だ。通常、弾道ミサイルは発射地点から米空母などの目標上空まで弧の弾道を描いて飛翔し、弾頭部分が高高度から高速で落下し、目標を目指す。一方、対艦弾道ミサイルの場合は、落下する弾頭部分を最終段階で誘導することで、移動中の水上艦艇への直接的な攻撃を狙った兵器。対艦弾道ミサイルの弾頭は高高度より極めて高速で落下してくるため、従来の対艦巡航ミサイル(ASCM)に対してよりも防御が困難だ。対艦弾道ミサイルは対艦巡航ミサイルよりも射程が長く、水上艦艇や潜水艦から発射される対艦巡航ミサイルよりも安全な陸上からの発射が可能である。
これが実用化されれば、第一列島線以東の西太平洋上の米軍艦船を攻撃することが可能となり、接近阻止・領域拒否戦略の重要な手段になる。但し、現段階ではいまだ技術的な課題が残っている。とりわけ攻撃目標となる水上艦艇の位置をリアルタイムに把握する情報能力、その情報・データを処理して高速で落下中の弾頭に送信するという極めて高度な情報・監視・偵察能力の開発が鍵となる。
人民解放軍では、これらの課題解決の一環として、地上配備の超水平(OTH)レーダーの開発、中国版の全地球測位システム(GPS)である「北斗」ナビゲーション・システムに代表される宇宙開発及び空中からの情報収集力の強化を目指した無人偵察機の開発などを進めている。

〇 攻撃型潜水艦、水上戦闘艦艇および海軍攻撃機
もう一つの空母など米海軍海上兵力の封殺手段としては、通常動力および原子力の攻撃型潜水艦(キロ級・宋級・元級・商級攻撃型潜水艦)、水上戦闘艦艇(旅洲級・旅洋I/II級・ソブレメンヌイII級誘導ミサイル駆逐艦)および海軍攻撃機(FB-7、FB-7A、B-6G、SU-30MK2を保有)がある。

(おやばと連載記事)

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