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第23回 粉飾決算その1:粉飾決算の3つの基本的な類型

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粉飾決算を巡る論議が最近盛んになっています。一般に粉飾決算と言われるものには、以下の3つの基本的な類型があります。第1類型は、事実そのものを偽るもの。例えば、売上げが100しかないのに300あった(架空売上げ)とするもの。第2類型は、子会社を使うもの。例えば、返品された商品(不良品)を子会社の在庫とするもの。第3類型は、複数ある会計処理方法の中で都合の良い方法をワザと選択するもの。例えば、同じ種類の商品を2個仕入れ、1個だけを150で売却し、1個は在庫となっているとします。最初の1個の仕入価格は100で次の1個の仕入価格は150であったとすれば、売上利益は、在庫となっている1個の価格をいくらと評価するかによって変わってきます。先入先出法、つまり、先に仕入れた商品を先に売却したとする方法、を選択すれば、在庫の評価価額は150、売上原価は100となり、売上利益は50となります。後入先出法、つまり、後に仕入れた商品を先に売却したとする方法、を選択すれば、在庫の評価価額は100、売上原価は150となり、売上利益は0となります。売上利益を出したいとなれば、従前は後入先出法を選択していたのに、これを変更してワザと先入先出法を選択することになります。
以上は、見かけを良くしようとする粉飾決算で、これが通常の粉飾決算ですが、逆に見かけを悪くしようとする粉飾決算もあります。これを逆粉飾決算と言います。例えば、第1類型の場合であれば、経費が100しか掛かっていないのに300掛かった(架空経費)とするもの。第2類型の場合であれば、商品をワザと子会社を経由して顧客に売上げ、中間マージンを子会社に落とすもの。第3類型の場合であれば、上記の例とは逆に、従前は先入先出法を選択していたのに、これを変更してワザと後入先出法を選択して、売上利益を0とすることになります。逆粉飾決算は、税金を少なくしようとか、儲け過ぎとの社会的批判をかわそうとかの目的で行われます。
勿論、実際の粉飾決算(あるいは逆粉飾決算)はもっと複雑ですが、究極的にはこれら3つの基本的な類型に分類することができます。第1類型の場合であれば、このような粉飾決算は公認会計士による監査によって防止できる建前となっていますが、現実にはこのような粉飾決算は跡を絶たないようです(注1) 。第2類型の場合であれば、連結決算を採用することによって粉飾決算は防止できる建前となっていますが、これまた現実にはいわゆる連結はずし(注2)が多く行われているようです。第3類型の場合は、そもそも複数の会計処理方法が認められている以上、どれを選択するかによって結果は異なるのが当然であって、都合の良い方法を選択するのは粉飾決算とは言えない、とする見解もあります (注3)。
次回からは、これらの基本的な類型ごとに粉飾決算(あるいは逆粉飾決算)の歴史および実例を見てゆくことにしましょう。

脚注

注1 柴田英樹、粉飾の監査風土 なぜ粉飾決算はなくならないのか、プログレス(2007年7月)

注2 細野祐二、法廷会計学vs粉飾決算、日経BP社(2008年6月)。

注3 いわゆる長銀配当損害賠償事件の第1審判決である東京地裁平成17年5月19日判決(判例時報1900号3頁以下)。

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