Home»連 載»法考古学と税考古学の広場»第110回 第2版国際法務シリーズ:第2版国際法務その4:租税法その3:いわゆる出国税制度(=国外転出時課税制度)その2:設例その1

第110回 第2版国際法務シリーズ:第2版国際法務その4:租税法その3:いわゆる出国税制度(=国外転出時課税制度)その2:設例その1

0
Shares
Pinterest Google+

前々回(第108回)で「次回(第109回)では、このような出国税制度(=国外転出時課税制度)が立法された背景などについて述べたいと思います。」と書きましたが、第109回は、「サムの息子法」に関する「号外版」となりましたので、改めて今回(第110回)から出国税制度(=国外転出時課税制度)を取り上げたいと思います。

設例その1は、太郎さんが、日本を離れてシンガポールの居住者になると、つまり、日本からシンガポールに国外転出(出国)すると、太郎さんは、X会社の株式を日本において3億円で売却し、同じX会社の株式をシンガポールにおいて3億円で購入した、と見なされる場合です。太郎さんは、⒉億円の見なし利益について所得税の確定申告しなければなりません。この見なし譲渡所得2億円の確定申告書の提出期限および約3,100萬円の所得税の納付期限は、太郎さんが「納税管理人の届出」をした場合は、「出国日」の翌年の3月15日です。「納税管理人の届出」をしない場合には、出国日までに、「準確定申告書」を提出し、かつ、「納税」をする必要があります。なお、個人納税者の納税管理人については、国税通則法第117条が、次のように規定しています。「個人である納税者が【日本】に住所及び居所・・・を有せず、若しくは有しないこととなる場合・・・において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、【日本】に住所又は居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有するもののうちから納税管理人を定めなければならない。」
ところが、もし太郎さんが、国外転出の日から5年以内に再び日本の居住者になれば、つまり、太郎さんが「5年以内に帰国」すると、国外転出課税の適用がなかったものとして、当初の課税の取消しをすることができます。というのは、所得税法第60条の2第6項が、次のように規定しているからです。「当該個人が、当該国外転出の日から5年を経過するまでに帰国(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有することとなることをいう。・・・)をした場合、・・・第1項・・・の規定により行われたものとみなされた有価証券・・・の譲渡・・・がなかったものとすることができる。・・・」つまり、太郎さんは、2億円の利益がなかったものとして、約3,100萬円の所得税の還付を受けることになります。ただし、この課税の取消しをするためには、帰国をした日から4か月以内に更正の請求をする必要があります。所得税法第153条の2第1項が、次のように規定しているからです。「・・・所得税法60条の2第6項・・・の規定の適用がある・・・有価証券・・・に係る譲渡所得・・・税額・・・過大であるときは、・・・【帰国の】日から4月以内に、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。」納税者の「更正の請求」を税務署長が認めれば、税務署長は「減額更正」をして、所得税を還付することになります。

Previous post

人民元の国際化は可能なのか

Next post

マハンの「海上権力史論」の概要