MMT(現代貨幣理論)を前提とした特許制度の試案
現在の特許制度は、特許法第1条において「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」としています。
そして、発明の保護の方策として、特許権者に対して特許発明の実施をする権利を専有させる(特許法68条)とともに、特許権侵害罪(特許法196条、196条の2)を非親告罪として厳罰に処すという制度を設けています。
発明の利用を図る方策として、発明を出願日から1年6カ月経過後に公開公報で公開するという出願公開制度(特許法64条)と、特許権の有効期間を出願から20年間という一定期間に限定する(特許法67条)という方策を採用しています。
これらの制度を実行し維持するための費用は、出願人および特許権者などからの収入である出願料、審査請求料、特許料などであり、特許特別会計で管理されています。
上図の出典: https://www.mof.go.jp/budget/topics/special_account/fy2018/11tokkyotokubetukaikei.pdf
平成29年度決算では特許特別会計の歳入は2889億円、歳出は1375億円、剰余金は1514億円であり剰余金は翌年度に繰り延べられています。
すなわち、現在の特許制度では日本政府の一般会計予算は使われていないのです。
MMT(現代貨幣理論)は、「変動相場制を採用していて自国通貨建ての通貨を発行する政府を持つ国においては、政府の支出には財源の制約は無い。」という事を明らかにしました。
したがって、MMT(現代貨幣理論)を特許制度の前提としたならば、特許制度は予算制約を取り外して、次のような施策を実施することが可能となり、産業を大きく発展させることが可能となります。
● 「死の谷」越えのための補助金提供(発明の利用促進策)
A1. 日本国での特許発明の実施による日本国内売上額に補助率を掛け算した金額の実施補助金を政府が特許発明の正当な実施権を有する日本国籍の実施者(特許権者、実施権者)に毎年、支給する。
A2. 上記の補助率は特許発明の出願日からの経過年数が少ないほど大きくなるように設定する。
A3. 上記の補助率は新技術を用いた新事業の立ちげ時には、研究開発費や販路開発費の負担が大きい割に売り上げが伸びにくいために赤字に陥って倒産をしやすいという「死の谷」を乗り越えることを容易化できる率とする。
上図の出典: https://note.com/natsuki_hanakun/n/n2bcd97f73978
● 特許警察(パテントポリス)と発明者生涯年金制度(発明の保護策)
B1. 新産業を創造したような極めて優れた発明の発明者の功績に報いるための発明者生涯年金制度と発明者の殿堂制度を設ける。
B2. 経済安全保障および軍事的安全保障などの国家安全保障上の重要発明の国内外での特許権侵害の摘発と阻止を国家事業として行なうための特許警察(パテントポリス)を発足させるとともに、特許警察の下部機関として特許侵害分析研究所を設けて、侵害製品の入手と、分解分析と動作分析と侵害活動の特定などの高度な分析・調査を実施する。
B3. 上記の特許警察(パテントポリス)の活動のために、国家安全保障上の重要発明の特許出願について、その特許出願の出願人の同意の範囲内の当該国について、パリ条約による優先権および特許を受ける権利を、日本政府が所定の金額で買い取ることができることとする。
● 発明能力検定と発明者ネットワークによる発明流通システム(発明奨励策)
C1. 大学入学共通テストの科目に「発明創造」を導入して、発明創造能力の試験をする。
C2. 社会人向けには、発明能力検定を国家試験として発足させて、企業や大学における人材採用の参考とできる国家資格を設ける。
C3. 発明創造支援と発明能力評価をするためのシステムや、多数の発明能力者が発明者ネットワークを形成してアイデアを流通させつつ各種アイデアを結合して発明創造をするための発明流通システムを実現する。
MMT(現代貨幣理論)を適用して特許制度を大きく進化させるならば、特許発明の実施が資金源をもたらしますので、特許発明を実施する新産業がどんどんと勃興して、需要を刺激して実体経済を成長させます。すなわち、実体経済に多額の資金が投下されやすくなります。なぜならば、特許発明は自然法則を利用していることが必須条件ですので、金融の世界とは親和性が小さく、実体経済と親和性が高いためです。
その結果、特許発明の実施に資金が回り、技術と産業が発展し、実体のある物やサービスの消費が拡大して、社会における現実の価値創造活動が活発化します。
「MMT(現代貨幣理論)を前提とした特許制度」は、金融の世界が膨張して「ディープステート」となって、政治や経済を歪めて支配しているという現在の経済と社会の欠点を大幅に是正する事にもなります。