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アメリカは北朝鮮を攻撃するか?

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情報メモ32

2018.1.29

はじめに――ポンペオ米CIA長官の警告:「中間選挙までに北朝鮮を攻撃!」

ポンペオ米CIA長官は、22日のCBSテレビとのインタビューで、北朝鮮がICBMで米本土を核攻撃する能力を獲得するまでに「数カ月しかない」と述べ、強い危機感を示した。トランプ政権高官が、北朝鮮によるICBMの完成時期について公言するのは異例である。

ポンペオ長官の発言は、「アメリカは、北朝鮮の核ミサイルを米中間選挙(11月6日)前に攻撃した方が良い」とトランプ政権に意見具申した、解釈することも可能ではなかろうか。

またポンペオ長官は、金正恩・朝鮮労働党委員長が合理的な判断をできる人物であるとのCIAによる分析を披露した上で、側近の高官が金氏に対して「正確な情報を報告していないと心配している」とも語った。

このことは、金氏が「アメリカによる北朝鮮攻撃」に関する、トランプ政権の「本気度」について、読み違えている可能性があることを、CIA長官としてのポンペオ氏が示唆・危惧しているようである。ポンペオ氏が示唆・危惧が事実であれば、アメリカと北朝鮮がそれぞれの真意を読み違えれば、戦争に発展するリスクが高まることになる。

アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、甚大な被害が及ぶ立場の日本としては、トランプ政権の北朝鮮攻撃についての「本気度」について分析することは重要である。

 

○ アメリカは戦争の申し子――トランプ政権が北朝鮮攻撃する背景

本稿では、主として「影のCIA」と異名をとる米情報機関ストラトフォーの創始者であるジョージ・フリードマンの著書100年予測」を引用して、「アメリカが戦争の申し子」であることを説明したいと思う。

 

  • アメリカは何故北朝鮮のICBM(核弾頭搭載)を恐れるのか――根源は恐怖心

アメリカは、中国・ロシアに比べれば、「些末」とも言える程度の北朝鮮のICBM開発を何故恐れるのだろうか。

フリードマンは、「アメリカの戦略目標および基本戦略の根源をなしているのは、恐怖心である」と述べている。フリードマンは、アメリカ同様パクス・ロマーナ(Pax Romana)出現の経緯について「ローマ帝国は世界征服を目指していたわけではない。国の防衛を目指し、その目標に取り組むうちに帝国になった。恐怖は和らぐたびに、別の弱さと別の恐怖を生み出す。国家は持っているものを失う恐怖に突き動かされている」と書いている。

このローマの恐怖心についての分析は、今日のアメリカが小国・北朝鮮のICBMに対する恐怖心を理解するのに役立つのではなかろうか。

 

  • 戦争はアメリカ歴史の中核――アメリカは好戦的な国

日本の場合、戦後70以上も平和であり、この間戦争は皆無である。一方のアメリカは絶え間ない戦争に明け暮れている。フリードマンは、その有り様を次のように述べている。

 

「アメリカは、その全歴史のおよそ10の期間を戦争に費やしている。この場合の戦争とは、米英戦争(1812年)、アメリカ・メキシコ戦争(米墨戦争)、第一次・第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争という大規模な戦争を指し、米西戦争や湾岸戦争(1991年)などの小規模戦争は含まない。20世紀だけ取ってみても、アメリカが戦争を戦っていた期間は15にあたる。29世紀後半に限れば、その割合は22%にも上る。そして21世紀が始まった2001年以来ずっと、アメリカは戦い続けている。」

 

フリードマンはその上で、「歴史的に見てもアメリカは好戦的な国なのだ」と結論付けている。

 

  • アメリカが戦争を厭わない理由

アメリカが戦争を厭わない理由について、フリードマンは次のように述べている。

 

「アメリカは戦争はしたが、本土を戦禍にさらしたことは一度もない。アメリカの軍事力(筆者注:世界のスーパーパワー)と地理的現実(筆者注:太平洋と大西洋の広大なバッファーゾーンがあること)が、経済的現実(筆者注:第一次・二次世界大戦でアメリカのみ焼け太り)を生み出したのである。他の国々は戦争からの復興に時間を取られたが、アメリカは違った。むしろ戦争のおかげで成長してきたのだ」

 

このように、本土の外で戦う限り、アメリカにとって戦争は経済的・技術的な成長を促すものであり、日本の公共投資のように、景気刺激策のような効果が期待できるのだ。

 

  • 戦争はアメリカ文化に組み込まれている

 アメリカ以外の国にとっては、戦争は一大事である。このことについて孫子は、「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道、察せざるべからず(原文:兵者國之大事、死生之地、存亡之道、不可不察也)」と戒めている。その意味は、「軍事行動を起こし、戦争をしかけるのは、国家存亡に関わる重要な決断である。その決断が、国家滅亡につながる可能性があることを、よくよく思慮分別しなければならない。戦争に勝っても負けても、多くの人命が失われ、経済は疲弊し、限りない怨恨を残す」ということだろう。戦争をするには、そのリスクを考え、国家を挙げて戦争をできる態勢を完成させる必要がある。

一方、「アメリカの基本戦略は、実際に戦争や、戦争と経済生活の相互作用に、他国より大きな比重を置いており経済と社会を挙げて戦略目標達成に注力する態勢が完成している。戦争はアメリカの中核をなしており、アメリカが戦争を行う頻度は高まる一方だ。戦争はアメリカ文化に組み込まれている」と、フリードマンは述べている。

 

○ むすび

上記のような、アメリカの地政学や歴史に根差す「本姓」に従えば、本稿のテーマの「アメリカは北朝鮮を攻撃するか?」という問いに対しては、「イエス、アメリカは中間選挙までに北朝鮮を攻撃する可能性が高い」と言うのが、筆者の解答だ。

さらに言えば、もう少しディテールな攻撃時期は、平昌五輪のために延期された米韓合同演習(フォールイーグルとキー・リゾルブ)が実施される「直前・最中・直後」であろう。アメリカは、本件合同演習を口実・名目に兵力を集中・展開して北朝鮮を先制攻撃する可能性が高い。

因みに、2017年は、米韓合同野外機動訓練フォールイーグル(3 月 1 日から 4 月 30 日)には、米兵約一万人を含め、米韓合わせて約三十万人が参加し、米海軍の原子力空母カール・ビンソンを始め空軍の戦略爆撃機B1Bやステルス戦闘機F35Bが投入された。

また、キー・リゾルブ(3 月 13 日から 24 日、有事の際のシナリオ別シミュレーションを中心とする指揮所演習)には、米軍1万3千人(2016年は約1万人)が参加した。なお、本演習の前半は北朝鮮の攻撃を想定した防衛訓練、後半は韓米連合軍の反撃を想定した攻撃訓練を実施した。有事の際に核・ミサイル基地をはじめとする北朝鮮の主要ターゲットを精密攻撃する内容の「作戦計画5015」が適用されたという。

いずれにせよ、平昌オリンピック・パラリンピック終了後は、危機が高まる可能性が強いと思われる。

 

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