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アメリカの医療システム~オバマケアを中心に

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2013年6月18日に医療経済研究機構にて行ないました講演の要旨です。

講演に使用しましたスライドは次のボタンをクリックしてご覧ください。

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<第581回医療経済研究会講演要旨>

アメリカの医療システム~オバマケアを中心に

12年間務めた医療経済研究機構を今月で辞めるに当って「最終講義」をお願いした。機構で最初に話をさせて頂いたのが、ちょうど13年前にやはりアメリカの医療についてであった。その時には、大学での教科書として私が監訳出版したレジナ・ヘルツリンガー・ハーバード大学大学院教授著「医療サービス市場の勝者」の内容をご紹介した。一昨年には同じ著者による3冊目の「米国医療崩壊の構図」を翻訳出版した。これらの本の翻訳を試みたのは、アメリカの医療について客観的に評価した書物が、日本には一冊もなかったからである。

米国の総医療費は日・英・独など先進10ヵ国の医療費総額よりも大きい。それにもかかわらず、米国の医療経済全般にわたってカバーしている専門の学者・研究者がほとんど見当たらないのは寂しい。オバマ改革についての詳細な解説は私がMonthly IHEPに2009年8月から2010年5月に掛けて連載したものがもっとも詳しい、というのもおかしい。これは、米国の医療システムがあまりにも巨大、複雑で、広範多岐にわたり、制度と実体との乖離も大きいので、トレースできないからであろう。それにしても、研究者でもない私が米国医療の話をするのはおこがましい限りであり、皆様の中から真のアメリカ研究の第一人者が出てこられるよう期待している。

 まず、アメリカの医療の優れた面としては、次のような点が指摘できる。
①米国の力強い経済成長、雇用増に大きく貢献
②世界最高の医療技術、多様で高い水準の薬剤・医療機器と高い技術の正当な評価
③プロの経営者による効率的な医療機関経営による高い労働生産性
④優れた臨床医の教育システム、MHAの資格制度の確立と事務職の充実
⑤営利・非営利の混在ながら、同じ土俵での公平な競争
⑥治療成績公表の徹底により透明性が高く、消費者の選択肢が豊富
⑦水平・垂直統合の進展、IHN・GPOなどによる経営効率化
⑧規制は学会・業界団体などによる自主運営が主
⑨医師の開業免許など州政府の権限が大きく、地域特性に即したサービスの提供が可能

 これらの中でも、アメリカの強いところは、「マネジメント力」にあると見ている。保険や病院の経営・財務管理だけではなく、人事・情報・施設ファシリティーの管理など、医療全体の総合管理システムができ上がっている。学会による専門医の自主規制、医師と病院のマッチング・システムや州ごとの医師開業免許制など優れた面が多い。近藤克則教授は英国の医療の優れた点は「見える化」と「マネジメント力」にあると結論づけておられるが、医療の体制は異なっても、この点は英米共通している。

供給主体が民間中心の保健医療にかかる資源配分を政府や市町村が行なうのは、きわめて非効率であるが、アメリカでは政府の関与が限られているので、競争原理が働くとともに、医師やプロとしてのマネジメント力を身に付けた経営職が自主規制を行ない、秩序が保たれている。民間で育ったアメリカの「プロフェショナリズム」に学ぶべき点が多い。

 一方、アメリカ医療の問題点は、①医療費が高い、②無保険者が多い、の2点に集約される。②はオバマ改革で改められ、①の点についても医療費の伸びをGDPの伸び程度に抑えることを目標としている。

医療費の高騰は、そこに需要があるからである。TIME誌3月号の特集が高コストの主因として、①医師はもとより、州立大学の付属病院CEOの給与がその大学の学長の給与の3倍も高い点、院内処方の薬剤価格が市価の3~4倍も高い点などを指摘しているが、そのような病院に患者が全国から集まるのは何故か。どうしてメイヨ・クリニックに世界中から患者が集まるのか。医療がサービス産業として拡大することが、成熟社会での成長力の原動力となっているのは、紛れもない事実である。

 オバマ医療改革(オバマケア)の全容は膨大なものであるが、皆保険実現へ向けてのポイントは次の通り、兵役や納税の義務と同様に、個人に保険加入、企業に保険提供の義務を課した点にある。いくら金持ちであっても、保険に加入しない自由は認められない。
①個人の保険加入義務;個人に保険加入を義務付け、2014年以降、加入しない者にペナルティーとして課税、税額は漸増、2016年以降は年$695または課税所得の2.5%の何れか高い額
②個人の保険料負担への援助; 低所得者に対する保険料補助制度を新設
③雇用主の保険提供義務;従業員数200人以上の企業には保険提供を義務づけ、提供しない場合には、従業員一人について$2,000~$3,000の罰金を賦課
④雇用主に対する補助; 従業員数25名以下の小規模雇用主に補助金を支給
⑤公的制度の対象拡大; メディケイドの対象となる貧困認定水準を引上げ、子供・妊婦等も含める
⑥国民皆保険化に要する費用; 増税、関連業界からの拠出、既存制度からの捻出で賄い、財政赤字は10セントたりとも増やさない

オバマの医療改革は、リンカーンによる奴隷解放以来の歴史に残る議会操縦の妙といえる。この改革が成就し得たタイミングは2009年と2010年に2年間しかなかった。中間選挙後も第二期でも下院で民主党は多数を失い、上下院での捻じれ状況となったからである。

しかも、2010年3月21日に行なわれた8時間以上にわたる討議の後の下院での法案可決は、賛成219対反対212の7票差というきわどい僅差であった。共和党議員は全員が反対、民主党からも34名の反対票が投じられた。当初の票読みでは、反対票が前年12月24日投票時の39人を上回る状況であったため、オバマ大統領は予定されていたアジア歴訪を再度延期して民主党内の国民負担増に反対する穏健派や人工中絶への保険適用に抵抗する反対派の説得に乗り出した。その甲斐があって、民主党からの反対議員数を34人にまで抑え込むことに成功したものである。この説得努力が最終段階での法案通過の鍵となった。まさに奇跡に近いオバマ大統領の巧みな議会操縦の勝利と高く評価される。

これは、南北戦争が終結しても、奴隷制の可否が州法に委ねられているのは不都合と判断したリンカーンが全州で奴隷制を違法とさせるよう憲法改正を決意した際の議会との闘いと軌を一にする。映画「リンカーン」は1865年1月13日に下院で議決されるまで3ヶ月間の議会対策の史実を描いている。憲法改正には下院での2/3の多数決が必要であっため、野党民主党から10名を寝返らせる必要があった。リンカーンは数名の同士とともに権謀術策を駆使して10名の懐柔に成功、僅か2票差で憲法修正が可決された劇的な物語である。リンカーンはその直後の4月14日に暗殺された。

(2013年8月10日、医療経済研究機構発行「医療経済研究機構レター(Monthly IHEP)」No.222号 p56~57所収)

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(岡部陽二のホームページより)

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