情報メモ3 日経新聞情報散歩
〇 米中交渉激しい応酬 米、赤字22兆円減要求(1面)
- 貿易摩擦を巡る米国と中国の初の公式交渉が4日終わった。米国は2020年までに対中赤字を2千億ドル(約22兆円)削減するよう要求し、従来の1千億ドルから上積みした。中国は対中輸出制限の緩和などを求めた。ハイテク分野での主張も溝は深い。米中は協議継続で一致したが、貿易戦争の回避は綱渡りで交渉は長期化の様相を呈してきた。
- 情報メモ1「米中経済戦争」で述べたように、米中は目下本格的な経済戦争を展開中なのである。戦争とは、複数の集団の間での物理的暴力の行使を伴う紛争であるが、米中は主として「経済的な様々な手段を用いて」戦争をしている。だから、この経済戦争は、簡単に決着がつくはずもなく、長期戦になるのは当然だ。ここで譲歩した方が、「経済」で負けるのみならず、「軍事」でも負けることになるのだ。
- 今日米中の経済は深く結びついている。特に中国の経済発展は、巨大な米国市場に依存している。このことは、中国の「弱点」である。もしも、中国がかつてのソ連のように社会主義ブロック経済圏を持っていて、アメリカに依存する必要がなければ「弱点」にはならないのだが。
- 国家のパワーの源泉は「経済、すなわちお金」である。中国の台頭も鄧小平が改革開放政策で経済発展をさせたからだ。将来中国が、米国に勝てるパワーを獲得するためには、経済的にアメリカを凌ぐことが不可欠。人口オーナスという時限爆弾を抱える中国は、米国に負けない経済力――ひいてはトータルとしてのパワー(経済・軍事力)――を獲得するために「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」という経済戦略を採用している。この戦略は、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている。有体に言えば、「アメリカを打ち負かし、世界一の経済大国にひいては軍事大国を目指す」戦略に他ならない。
- 米国は、中国の狙いを完全に理解し、アメリカの基本戦略――ユーラシア大陸にアメリカに対抗できる国を出現させない――に基づき、すでに「中国の台頭を抑える」ための戦略を発動しているのだと思う。米国が採用している対中国戦略は「間接アプローチ戦略(英: Indirect approach strategy)」であろう。間接アプローチ戦略とは敵の強い正面を攻撃するのではなく、敵の弱点――アキレス腱――を間接的に衝いて、相手を無力化・減衰させる戦略をいう。間接的な手段として同盟国への支援や、シーパワーを駆使した経済封鎖・通商破壊などの間接的な手段を用いて弱体化させ、政治目的を達成しようとする戦略である。軍事戦略レベルにおいては、単に敵の戦力を撃滅するのではなく、後方連絡線や指揮系統の破壊によって敵を無力化する戦略を指す。第一次世界大戦後、英国の戦略家のリデル・ハートによって提唱された。
この点に関し、ある友人(I様)から指摘をいただいたことがある。「福山さんの論は分かった。加えて言えば、『間接戦略はアメリカが中国に対して活用しているだけではなく、反対に中国もアメリカの巨大な軍事力に対抗する戦略として間接戦略を応用しているのではないですか。』」、と。
全くそのとおりである。米中は物理的破壊力による戦争――熱戦――を行えば、双方はもとより、地球規模で壊滅的な被害が生ずることにかんがみ、経済戦争を行っているのであろう。
- アメリカは、経済的優位性――中国経済はアメリカの巨大なマーケットに依存――を切り札として、「経済戦争」を仕掛け、中国の今後の経済発展を抑制しようと考えているのだろう。アメリカの対中経済戦争の眼目が「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」――中国の経済戦略の中核――を妨害することなのだろう。留意すべきは、「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」がリストアップするハイテク技術こそが、今後軍事面においても米中の死命を決するウエポンの開発・出現に繋がるのだ。まさに、米中の経済戦争は軍事戦争と表裏一体なのだ。平和ボケの日本はこのようなリアリティを深く認識すべきだろう。
- 北朝鮮の核廃棄問題は、「米朝の問題」というよりも「米中の覇権争いの一局面」なのである。従って、北朝鮮問題は米中経済戦争と緊密にリンクしているのだ。
〇 日中首脳初の電話会議 首相「対北朝鮮連携示す」(1面)
- 米朝は6月初旬の首脳会談に向け、水面下で熾烈な交渉をしているはず。
- 米朝交渉と並行して、本件問題関係6ヵ国も自国が「仲間はずれ」にならないよう、懸命の外交を行っている。因みに、6ヵ国の組み合わせによる「2国間関係」は15通り(6×(6−5)÷2=15)。日中首脳による電話会談もその一つ。合意内容は、「当たり障りのないこと」ばかりで、事務当局の振り付け通りだろう。両国は、米朝などに対して、電話会談したという事実が重要なのだ。
〇 トランプ氏 中間選挙まで半年 通商「米国第一」貫く(3面)
- 「民主党が勝てば、トランプ氏は弾劾も」という見方もあり、トランプ氏にとって、中間選挙は「天国と地獄を分ける分水嶺」。
- トランプ氏は、米中経済戦争も北朝鮮の非核化もその思考の原点は「中間選挙」である。すなわち、米国の政策は、トランプ氏の私益・エゴが原点で、純然たる「米国の国益」ではない。
- 一方の金正恩氏も、自身・体制の生存――私益・エゴ――が、状況判断の原点である。
- 第二次世界大戦開戦に至る主要なキャストはヒットラーとスターリンであろう。神がしつらえた今日の国際舞台に登場するメインキャストはトランプ、習近平、プーチン、金正恩などいずれ劣らぬ名優ではないか。第三次世界大戦が起こらなければよいが。
〇 「在韓米軍削減 検討を」 米報道トランプ氏が指示
- トランプ氏得意の外交のやり方――相手の弱点を突いて、意図する交渉案件をアメリカの思い通りに誘導する――か?すなわち、在韓米軍駐留経費の韓国負担の増加を飲ませるための作戦か。いかにもトランプ氏らしい、低次元の発想。米朝首脳会談が迫るこの機にかかる指示――意図的にリーク?――を出すのは、非常識(北をその気にさせる)。
- いずれにせよ、米朝による北朝鮮の完全非核化――米国の思惑――という問題は、関係六ヵ国の様々な問題と深くリンクしており、この問題を「一刀両断」で片付けるのは余りにも軽率であろう。とはいえ、時間をかければ「北の核保有」を許すことになる。北は、この点を見越して「今更、北の核ミサイルを破棄させることはできない」と踏んでいるのでは。実は、トランプ氏も、驚くような「落としどころ」を想定しているのかも。
- 「落としどころ」について、「影のCIA」の創設者ジョージ・フリードマンは、「ヨーロッパ炎上 新・100年予測」で「落としどころ」について次のように述べている。
「必要なのは、微妙な駆け引きで双方がなんとか受け入れられる『落としどころ』をみつけること。決して問題を解決しようなどと思ってはいけない。」
そうなのだ、米朝交渉は、シンガポールで山下奉文大将がパーシバル将軍に「イエスかノーか?」と「ゼロサム」で問うようなものではなく、双方妥協できる「落としどころ」を模索するのが基本スタンスなのだ。こう考えると、北が保有する核ミサイルを全廃するなど、あり得ない話ではないか。