Home»連 載»世界の目»いま顕在化する欧米の相克、そしてトランプ政治の行方

いま顕在化する欧米の相克、そしてトランプ政治の行方

0
Shares
Pinterest Google+

はじめに: われわれは ‘6対1’ の状況だった’

― タオルミナ・サミットのリアル

5月26・27日、イタリア、タオルミナで行われたG7サミットは初参加のトランプ氏を巡る事前の懸念を実に鮮明とするものでした。タオルミナはヨーロッパ最大の活火山エトナの麓にある町ですが、その活火山エトナの動きを反映したとでもいう事なのでしょうか。

今次タオルミナ・サミットでの主たる討議テーマは3つ、世界経済と貿易、北朝鮮問題を含む安全保障問題、そしてパリ協定を核としたクリーンエネルギーと気候変動問題でしたが、メディアが伝える通り討議の主要部分で‘米と欧日加’の間で意見の対立が鮮明となるなど異例の展開を呈し、結局先進7か国の結束を示す事のないままに終えたのです。
因みに、ドイツは、ドイツの対米貿易黒字問題でトランプ氏の不合理なアーギュメントに遭い、温暖化対策について取り纏め役に廻ったフランスは「パリ協定への残留」をトランプ氏に説得に回ったが徒労におわってメンツを失ったこと、更にイタリアは難民支援への協調を求めたが不問にされるなどで、EU3カ国と米国との亀裂を鮮明とする処となっています。

そうした状況を語るのが首脳共同宣言のあり姿でした。共同声明はこれまで全会一致を建前として纏められてきています。然し今回、温暖化対策の国際的枠組みとなるパリ協定の取り組みについて、トランプ大統領が目下検討中で合意不可としたため、米国をはずし他6カ国首脳が同意する、つまり両論併記の異例の措置を余儀なくされ、極めて不満の残る結果となるものでした。
因みに首脳宣言の分量をみても、前回「伊勢志摩サミット」では、A4英文で32ページでしたが、今次サミットのそれは6ページと大幅減となっているのです。 各国が自国優先、多国間より2国間での取引といった傾向を強めていけばG7の政策協調はどんどん後退していく事ともなり、それは世界経済の縮みすら齎すものと危惧されるというものです。

会議直後、メルケル首相が「我々は6対1の状況だった」と、不満を漏らしたことに象徴されるように、今次サミットでの議論は詰まる処、トランプ氏がAmerica firstの下、あらゆる事案について、アメリカ主義を貫くことに拘ったため、日欧加6か国が米国と対峙する形になったというもので、要は、独善的な行動をとったトランプ氏一人にサミット会議はかき回されて終わったというものです。それは、先進国としての結束に向けたベクトルの希薄化を感じさせる、まさに‘欧米の相克’を露わにするものだったのです。そもそも何のためのG7サミットだったのか、と質したくなる処です。そして、その文脈は消えることなく、深まる形で今日に至っている処です。

・「危機の二十年」
序でながら、‘欧米の相克’の言葉に関連して、友人からの勧めもあり、E.H.カーの「危機の二十年」(原彬久訳、岩波文庫、2011)を読み直して見ました。このテーマの20年は、第一次大戦が終結してヴエルサイユ条約が結ばれて(1919年)から、ナチスのポーランド侵攻が始まり、第2次大戦開始(1939年)までのいわゆる‘危機の時代’と云われた戦間期の20年間です。

(注)「危機の二十年」:戦間期の国際環境とは、まず、ウイルソン米大統領が発表した「14条の平和原則」に即し、1920年には国際連盟が成立し、ただし米国自身、米議会のモンロー主義に遭い加盟せぬままにありました。そして1929年の大恐慌で各国が孤立主義に向かうなか、その解決のため1933年、ロンドンで国際連盟の主催で開いた世界経済会議では英米仏など利害が対立し、連盟が機能しえなくなっていった、まさに‘危機の時代’とされる期間です。
尚、本書オリジナルは1939年に上梓され、更に1981年に改訂版が出ていますが、日本語訳は1952年に出版され、更に第2版をベースに、2011年に再出版されています。

そうした危機の時代をE.H.カーは政治的に丹念に解剖することで、現在の国際政治学という学問体系が生まれてきたと言われていますが、確かにそこに示される国際政治、戦争と平和学の主要な基礎概念、分析手法を駆使すると現代国際政治危機の諸要素が見えてくるというものです。

そして、そうした作業を通じて彼は、政治とは結局、ユートピアニズム(理想)と、リアリズム(現実)との永遠の相克だと喝破するものですが、実はそうした状況が戦後70年たった今も続いているのです。因みに、先進国に広がるポピュリズム、北朝鮮問題を巡る関係国の相克、等々、国際危機蔓延を承知する処です。元より、今次パリ協定からの離脱を決めたトランプ政権の存在もその線上に位置づけられる処、Rogueとも言われているトランプ政権の独自性や揺れ動くヨーロッパの姿などがよく理解できるということで、今なお示唆深いものです。

さて、かつてG7は世界のGDPの7割を占めていました。然し中国やインドの新興国の台頭でその比率は今や5割を下回る状況です。その点では自由貿易や温暖化対策も先進国だけで仕切れる時代は終わったという事でしょうし、上述サミットの新しい状況に照らすとき、実効性のある政策協調には中国やインドも含むG20首脳会議の役割は一層重要と思料される処です。そのG20サミットは7月、ドイツ、ハンブルグで 開催予定で、メルケル氏が議長を務めることになっています。さて、米国も中国も、そしてロシアも加わる会合で、どのような成果を出せるかですが、要はトランプ氏次第と云えそうです。

そこで、G7タオルミナ・サミット後について、つまり、更なる‘欧米の相克’を演出する背景として、とりわけメルケル氏の言動を通して見る欧州の状況と、米国政治の現状、つまりパリ協定からの離脱表明で内外の批判に晒される米トランプ政権、更にロシアゲート問題で行政の行き詰まり等、混乱にあるトランプ政治の ‘今’ にフォーカスし、併せて世界の生業の今後について考察していきたいと思います。 (2017/6/25)
目  次

1.タオルミナ・サミット後の欧州       ・・・・(P.4)

(1)メルケル氏のミューヘン発言
(2)Professor Joseph E. Stiglitz のエールと欧州の実状
・欧州の実状

2.内外の亀裂を深めるトランプ政治の実状   ・・・・ (P.6)
-パリ協定離脱、そして大型減税と予算教書

(1)パリ協定離脱とAmerica Only
・気候変動問題はhoax?
・トランプ氏は、明日ではなく、昨日の為に行動する
(2)中間層を裏切るトランプ2018年度予算教
―Trump’s epic betrayal of the middle class
・アメリカの現状を象徴する予算案
・トランプ大統領は何時まで?

おわりに: 国際協調秩序再生と日本への期待  ・・・・(P.10)
―米Princeton 大学. Professor Ikenberryの提言

・安倍首相とメルケル首相への期待
・問題は政治家の資質
hayashikawa20170626のサムネイル

Previous post

新産業構造ビジョン(案)でのリアルデータ・プラットフォーム戦略実現のために追加する「戦略その3」

Next post

中国経済の回復を盛んに宣伝する中国共産党